第116話「力強きもの」
聞こえるか
鼓動の音が
届いているか
希望の光が
絶体絶命こそ
怯まない
明日への扉をこじ開けろ
絶望をひっくり返せ
待たせたな
それが僕らのレスキュー・ヒーロー
【北斗星環群、遊架(廃棄星環)】
身動きの取れない『赤銅鏡』と『轟焔騎』に6隻の船が近づいてきた。
曳船である。
その中の一隻だけ強い黄色の燈火を灯した曳船、旗艦から立ち往生の二人に向けて通信が入った。
《こちら、北斗星環群、星環環境維持隊、
遊架支部の救難隊だ。
俺は、隊長の不見だ。
聞こえるか?
よし、いい返事だ。
泣いている暇はないぞ。
今から俺の言うことを、きっちりチェックしろ》
曳航のための固定作業や曳航の最中に、事故が起こらないとも限らない。
まずは乗務員、二人の星環騎士を騎士艇外に脱出させ、その後に確保するとのことだった。
不見が告げたのは次の三点だった。
一、身に着けているものが宇宙仕様なのかを確認すること。
ハッチを開けてから
『なんちゃって装備』だったとかは
ご免被りたい。
二、脱出装置に異常はないか。
騎士運提供のモニターでは異常なしであるが、
現場の情報を最優先したい。
三、脱出装置を手動で作動できるように待機しておくこと。
不測の事態があっても、
シャボンシェルターで脱出したなら何としてでも確保する。
《無事で何よりだ。
ドッキングフックを外殻にぶち込むとか、
余計な仕事を増やしてくれやがった点については、
瑞穂に到着するまでの間、
俺から説教をくれてやるから、
余計な言い訳するんじゃねえぞ?》
今を時めく無敵の超新星も、
三期・十五年もの
長きに渡る栄華を誇った元・絶対王者も、
要救助者となってしまった今、
救難隊長に頭が上がるわけもないのだった。
【北斗星環群、瑞穂(居住星環)】
救難隊が全力を注いだとはいえ、瑞穂への大地の帰還は当初の想定時間よりも大幅に遅れてしまった。
疲れた様子で気圧調整室と検疫ブースを出た大地を、待ち構えていた佐祐倫とメディア関係者が取り囲んだ。
そしてそのまま着替える間もなく、大地は特設のインタビュー用ブースまで案内されていった。
勝利者インタビュー。
『今回も勝利、おめでとうございます』
皆さんの応援で、
今日も勝つことができたと思います。
いつも、ありがとうございます。
『1年ぶりの地元開催となりました。
何か、胸に期するものはありましたか』
特にいつも以上ということは……そうですね。
……絶対勝ちたいという想いで挑むのは、毎度のことですから。
ただ、移動がいつもより少なかったので、
その分だけ準備する間はあったんです。
でも、そうはいっても、今回……
準備していたことだとか、
あの場で思いついた、
これだっていうアイデアだとかが、
ことごとく空回りしてしまって。
なかなか、思い通りにいかないものですね。
『思い通りにいかなかったということですが、
前半から、苦しい展開を強いられたと思います』
そうですね。
……よく、勝てたものだなというのが、本音でしょうか。
試合の方は炎城さんの降参で決着しましたけど、
こちらの騎士艇も、そのすぐ後に故障で動けなくなっちゃって。
もしも10秒ズレていたら、僕が降参していた立場です。
だから、勝ったという実感はまだないですね。
この後、ゆっくり休んで、
明日の朝にこの試合結果をニュースで観て、
ようやく勝ったと実感が湧いてくるのかな、
そう思っています。
『炎城志朗、強敵でしたか』
ご覧のとおりです。
……僕からは、うまく言葉にできない、としか。
僕が身を潜める幅があるのなら、
自分が吶喊するスペースもあるだろうって、
『鵯越の逆落とし』とか、
『SF映画、クライマックスでのトレンチ・ラン』
みたいな真似を自分が現実にやろうって感覚がね……
普通に、怖いですよ。
『さて……
年度優勝・連覇を
すでに決めている沖大地さんですが、
今回の難敵を退けたことで、
もっと大きな目標、
第43期総合優勝が、
目の前に見えてきました。
5年間をかけて争う総合優勝ですが、
沖大地さんは
第43期の3年度からのトップリーグ参戦、
ただし、その3年度に大怪我を負って
長期離脱もありましたので、
実質、2年度間で成し遂げる快挙です。
いかがでしょう。』
気の早い方々から、期待の声を聞いています。
……ですがまだ、1勝差を追いかけている状態です。
この先に相手が負けることを期待するような……
獲らぬ狸の皮算用をするつもりはありません。
明日以降に組まれる試合も、勝つ。
それだけです。
『頼もしいお言葉です。
ありがとうございました。
以上、沖大地さんの勝利者インタビュー。
レポーターは、
マスメディア代表として
北斗配信協会瑞穂支局、
江野英恵が
現場からお送りしました。
スタジオに、お返しします』
大地は耳から小型のイヤホンを外して、脇に控えていた佐祐倫に渡そうとした。
「まだ、ここで個別の取材が3本あるから、耳にはめておいて」
帰れないの?
「ここを出てから、あと2社を回るのよ」
その後、祝勝会もあるんでしょ?
「今日は、救難隊のお世話になった時間もあるから、
先もって取り止めにしたの。
会は明日以降の日程で、調整中よ」
ありがたいことです。
「それから、
『平柱プラネッツ』っていうところからも
取材申し込みが来てるわ。
気になったから話をしてみたけど、
真面目な番組にしたいみたい」
番組?
インタビューだけじゃないの?
「どうもね、大地くんの特集を組みたいらしいのよ。
大地くんが炎城志朗を倒したばかりで、
個人的にはそれはどうなのかとも感じたけど……
あなた、大野間猛くんと仲がいいじゃない?
そこら辺じゃないかな」
あいつと仲がいい?
……まあ、いいか。
そのとき、佐祐倫に聞こえるくらいに大地のお腹が鳴った。
……お腹、空いた。
しょうがないな、と佐祐倫はポシェットを開けて、喉飴を一掴みすると大地の手に渡した。
「とりあえず、当座はこれで乗り切って。
時間が遅くなると思ったから、
『岸えもん』に持ち帰りで、
『松』30人前を注文しておいたの。
希倫さんに寄ってもらうように頼んでおいたから、
家に帰れば、お寿司が待っているわよ」
自宅にお寿司が待っていると知って、大地の機嫌が直った。
ようし、さっさと放送局に出発進行!
回転寿司『岸えもん』、お持ち帰りカウンター。
「あの、お客様。
お一人で、大丈夫ですか」
持ち帰り『松』はその日のお薦めの特上にぎりが10貫、日によっては巻きが数本である。
『岸えもん』での1貫あたりは皆さまお得な40グラム平均であるからして、これが30人前だと、300貫になり、重さでは12キログラムをゆうに超えている。
落として台無しにしないように気を使ってのことではあったが、店員たちは3人がかりでこの『松』30人前を運んできたのだ。
ところが受取りに来たのは、可憐な美少女が一人だけ。
――かの有名な『瑞穂の奇跡』の実妹にして
依然、人気沸騰中の『瑞穂の護符』じゃないか?
いや、だからって『松』30人前が重たいのは変わらないんだよ?
店員たちの心配をよそに、希倫は無言の笑顔でVサインを決めた。
そして、提供された寿司『松』30人前を造作もなく持ち上げた。
――えっ、そんな食パンを運ぶみたいに、
簡単に持ち上がるものだっけ?
そう、希倫は小兵ながら、パン屋では大男に混じって25キログラムの業務用小麦袋をひょいひょい運んでいる熊娘なのだ。
――どん、と来い。
いつ終わるのか
ひとしきりの労働のあと
息を呑む圧倒的な光景
荒々しく並んだ寿司の海
一口ごとに
やり遂げた記憶が蘇る




