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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第九章 断裂する隆起、噴出する水蒸気
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第111話「観念しろ」

 俺に続け

 旗を掲げ


 すべての道を切り開こう

 果てしない地平の向こう


 共に歩み出そう





北斗ほくと星環群、遊架あすか(廃棄星環)】


 『轟焔騎ごうえんき』操縦室内。


 俺の話を聞け、と炎城志朗は大地に向けて語りかける。


「沖、確かに強い。

 200余年という長きに渡る星環騎士戦に

 平穏に緩み切ったまがい物を選別し、

 喝を入れてくれたことは……ありがとう。

 礼を言う。

 だが、お前はユニークすぎる」


 炎城はそこで一拍の間を置いた。


「個性的、

 斬新、

 創意工夫。

 面白い。

 確かに面白い。

 だが、それだけだ」


 星環騎士戦の、まだ最中である。

 演説に走るべきではないのだろう。


「『考えるな、感じろ。』

 それは思考放棄を勧める言い訳ではない。

 戦意、敵意、殺意に頼らず動くために、

 繰り返し繰り返し

 反射になるまで鍛錬しろという金言なのだ。

 壊し合う騎士が、

 自分の心を壊さないための……」


 だが、炎城は語りかけるのを止められない。

 これまで30余年に渡って星環騎士戦に関わってきた。

 炎城にも、想うところはあるのだ。


「個人主義、

 唯我独尊、

 星環を背負いもしないお前には、

 徒花あだばなのままでは、

 騎士の王には、なれんのだ」


 しかし情念を込めた炎城の熱弁に対して、大地の返事は冷たいもの。


『余計なお世話だ。

 引っ込め、爺ぃ』


 無情にも、追撃する大地。


『やる気があるなら、

 その口を閉じて、

 さっさと手を動かせ。

 この横着ものが!』


 熱弁を『その口を閉じろ』であっさり流された炎城の中で、先ほどまでの情熱がそのまま怒りに転化される。


「……口八丁のくせに、言葉はいらないと抜かしたか。

 さっきの技、二度は通じんぞ」


 大地を口八丁と知りながら、口で威嚇いかくしてしまうのは悪手である。


『足蹴はあんたに二回、通じたぞ?

 一の次は、たくさんですか?

 あんた、にわとりですか?』


 『にわとり』を勝手に脳内で読み替え、『臆病者チキン』と嘲られたと早合点した炎城は、引き続き溝に身を潜めている『赤銅鏡しゃくどうき・よう』を弾き飛ばさんと再び漸近線の軌道をなぞり始める。





北斗ほくと星環群、瑞穂みずほ(居住星環)】


 沖アリーナ。


 炎城と大地の舌戦の最中。

 もう一押しされたら、沖が負けてしまいそうだ、と観客たちは祈る想いで互いに手を繋ぐ。


 何て寂しい、俺たちの王者。


 炎城に吠え返す沖の言葉が、強がりに映ってなお哀しい。


 こんなにも俺たちに夢を。

 こんな俺たちにも希望をたくさんくれたのに。


 『轟焔騎ごうえんき』の軌道がトドメの吶喊を描き始めた。

 そして、沖への最後通告のように炎城の声が響いた。


《沖、お前は、強い。

 才能がある。

 間違いなく、あるんだ。

 お前なら、俺を継げる。

 俺の、王道を選べ!

 もっと、高く飛べ!》


 観客の中にはもう見ていられないと目を塞ぐ者もいる。


 そこに被せられた大地の叫び。


《夜に飛ぶしかない鳥に……

 昼間の空を飛べと説教するのか!》


 経済的に厳しい北斗星環群。

 その中でも貧しい瑞穂では、生き方を選べない。

 夜にしか、飛べない鳥。


《俺は、これしかできねえんだ!》


 沖大地は、まるで『よだかの星』。

 居合わせた観客の胸の奥まで染み入る叫び。


 ――蔑まれてなお、気高くあれ。


 皆が一斉に、互いに繋いだ手を高く掲げた。

 口々に、大地の名を唱える。





北斗ほくと星環群、遊架あすか(廃棄星環)】


 『赤銅鏡しゃくどうき・よう』操縦室内。


 さっきより低く沈んだ軌道で、正面から迫る『轟焔騎ごうえんき』を大地はメインモニターで捉えた。


 ――巴投げの警戒かな。

 すぐ修正したか。

 さすがに莫迦じゃねえよな。


 しかし、冷静沈着な伝説の騎士という評判に反して、私生活では相当な横着もので癇癪もち。

 大地の挑発で興奮してくれているなら、まだ隙間はある。

 ようやく、新兵装の出番だ。

 先ほどの巴投げから起き上がったとき、大地はすでに外壁のある場所が目的にかなうことに気付いていた。


 ――あとは、仕上げを五郎次郎……ってな。


 『赤銅鏡しゃくどうき・よう』の前腕背側ぜんわんはいそく、いわゆる手甲部分には、先ほど壊されてしまったナックルガードとパンチングナイフが仕込まれていた。

 その裏側にあたる前腕屈側ぜんわんくっそくには、炎城戦に間に合わせた新型兵装が仕込まれている。


 大地は『赤銅鏡しゃくどうき・よう』の右腕を突っ込んでくる『轟焔騎ごうえんき』に向ける。


 シミュレーターでは散々訓練してきたし、試験場に出向いて試作機単独の操作では成功させたものの、実機同士ではぶっつけ本番だ。


 ――ここでジャムでも起こしたら……おジャンだな。

 その場合は、たけちゃんのせいにでもするか。


 整備班長の滋野の責任じゃないのかと怒る幼馴染・竹島の姿が大地の脳裏に浮かんだ。





北斗ほくと星環群、瑞穂みずほ(居住星環)】


 沖アリーナ。


 『轟焔騎ごうえんき』の攻撃がぶつかるより先に、『赤銅鏡しゃくどうき・よう』の右腕から何かが飛び出した。


「腕から何か出た」


「チェーン?」


「先に何か、付いてた?」


 吶喊を受け止める直前に『赤銅鏡しゃくどうき・よう』は跳び上がり、『轟焔騎ごうえんき』の背中を踏んで溝の外へと飛び出した。


「跳んだ?」


「踏んだ?」


 中央の立体モニターの端に、先ほどのすれ違いがスローモーションで再生される。


 『赤銅鏡しゃくどうき・よう』の右腕からチェーンを引き連れながら輪っかが飛び出している。

 輪っかは『轟焔騎ごうえんき』の腕に当たると不思議な挙動で部品が一回転してロックした。


 あの仕掛けって、どこかでよく見かけたような?


 ドラマで。

 道端の捕り物で。

 あるいは、自分の腕にかけられて。


「手錠だ」


 誰かが指をさす。


 梯子ほどではないにせよ、観客に見慣れた道具が、大地によって星環騎士戦に持ち込まれた。


 呆気にとられた観客の中で目端の利く誰かが気付いた。


「あれ? ひょっとして……

 これは、沖のペースなのでは?」




 逃げ場のない路地

 手錠の閉じる音を残し

 煙のように夜空へ消え去ったのは

 あにはからんや

 手錠の主

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