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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第九章 断裂する隆起、噴出する水蒸気
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第90話「雑魚の細道」

 行く春や


 鳥なき里の


 蝙蝠こうもり


 翼広ぐる


 鷲とこそ知れ





 赤銅騎士団事務所、会議室。


 大地と鋼谷は前回の試合の反省点を洗い出すために早朝から映像やデータとにらめっこしていたのだった。

 一通り議論も出尽くしたので、今は雑談の方に花が咲いていたところだった。


 大地は時折、星環騎士戦の技術論や技術の歴史に目を向けるようになった。


 んー、星環騎士戦の技術が200年近く中距離しか発展してこなかったのは、

 何か原因があるんだろうか。


「近接技術や低重力戦術が未発達ってのは、さすがに言い過ぎかな。

 中距離が偏重されているのは、確かに事実としてあるだろう。

 俺もそこをついていた覚えがある。

 長距離については、そもそも規則で封じられている」


 本当かな?

 今更だけど、何かやりようがないかしら。


「元々が、

 宇宙船でチキンレースとか馬上騎士戦してた連中の

 遊戯ごっこ発祥だからなあ」


 何かしらの格闘技やレースなどの基礎的な技術体系があったとも考えにくい。


 当初の星環騎士戦など、互いに切磋琢磨しようにも、それこそ戦争も終わったばかりで星環群同士が互いに疑心暗鬼であっただろう。

 星環騎士戦のための規則だけが先に作られて、降ってわいたような大統領選出権の副賞付きの大会が開始され、そこに民衆の娯楽的側面まで押しつけられた見切り発車もいいところだったのではないか。


「前に一回だけ使ったマジックハンド。

 初見殺しというか出オチなうえに、

 ほぼ使い捨てになるから幻の装備になってしまったが」


 あれって自立移動できるように簡易だけどスラスターあるからな。

 鎖分銅の回収用って検査をゴリ押ししたけど、

 素直に兵装と言ってしまうと禁止されただろうね。


 騎士運事務局に呼び出された時に

 『使用を控えたようだから、口頭注意に留めておくけどね』って

 釘を刺されちゃってるしな。


「……お前、そういうことはすぐに情報共有しろ。

 コストパフォーマンスが悪すぎるってことで

 今は51番倉庫で眠ってるけどな……」


 調べたら、規則の附則に

 『銃、砲、ミサイル、自立型攻撃端末

 その他これらに類する「遠距離攻撃手段」』ってうたわれているなあ。


 ……じゃあ、無理か。

 このうえに爆発物と光学兵器にビーム兵器に音波兵器まで封じて……

 なんで音波兵器まで封じてあるんだ?


「騎士戦すべてに当てはめるのであれば、

 サードリーグまでは空気がある場所を使うから、

 音波兵器の効果は有効じゃないか?」


 そういえば、そうか。

 セカンドリーグ以降は空気のないところで試合する方が長いから、

 忘れちゃってた。


 ……でもさ、それはそれとして、

 重力の有無で選択する戦法を分けることはやってるじゃん。

 大野間の試合時間中の主兵装持ち替えは極端だったけどさ。


「あの宇宙での長槍から、

 場所を変えて星環内での大斧への持ち替えってのは……

 冷静に考えたら相当にやばいぞ。

 お前と同じ目線で思いついたんじゃないんか?」


 本来は主兵装は一つのみ。

 というより、質量がそのまま威力になるのでいくつも持ち歩けない。

 兵装へのダメージも本体と合わせて、トータルダメージとして換算されるのもあるから、使っていない兵装を奪われたり弾き飛ばされたりでもしたら、それは単なる弱点でしかない。


 大野間の『鬼飛車』は、宇宙を舞台にしていた時点では大斧を手にしていなかった。

 華蝶かちょう(廃棄星環)のどこかに仕込んでおいたということなのだろう。


 ……理屈としては『拾得物』?

 破壊行為をしていない限りは

 星環と『そこにあるものは使っていい』ことになっているから……

 それでも大斧はグレーっぽいけど。


「高瀬戦初戦のお前じゃないが、

 無重力環境下から重力環境下へ戦いのシフトチェンジで

 主導権を握ろうとしてきたわけだな」


 戦闘の前提条件が大きく変わるからね。

 昔にやったことあるからってそうそう簡単に切り替え……

 高瀬には、通じなかったけどな。


「あいつの最高速を封じる手として、

 廃棄星環を選択した騎士が、お前以前にもいたことがあるからだろう。

 第一線にいた期間が、炎城志朗とほぼ同じくらいのベテランだけあって、

 実戦だけでなくシミュレーション訓練時間が相当数……

 桁違いだった。

 戦い方にこだわりさえなければ経験値で圧倒される……

 それも勝てなければ、絵にかいたスコーンだな」


 さすがに訓練のための訓練、とは決めつけないよ。


 高瀬との試合では、大地は危うく命を落としかけたのだ。

 今のところ、大地に勝っているただ一人の星環騎士でもある。


 杉原何某のときも、危なかったな。

 やっぱり相手の土俵に乗せられたら、俺の腕ではどうにもできないね。

 今のところ、星環騎士が超得意にしている中間距離は、

 『ハンマースルー』の幻想で相手が慎重に構えてくれているけど、

 いつまで持つかな。


「規則を脇に置けば、

 結局のところ、無重力環境下では、

 無反動の遠距離射撃か、

 中距離からの吶喊か、

 接近してからの関節技くらいしか安定した戦法がない」


 俺はあれよあれよという間に通り過ぎてしまったけどさ。

 ひよことかサードに特化した戦法を、もっと磨いてもいいんじゃないかな。


 トップリーグに早く上がりたい奴にしても、

 下位のリーグに骨を埋めるつもりの奴にしても。

 宇宙でデブリ作業していただけの俺が勝ち続けていたってことは、

 そこにも商売の種というか『隙間』があるんだろ?


 その『隙間』こそ、まさに鋼谷が大地のいないところで組み上げている『ひよこリーグ必勝技術体系』と『サードリーグ必勝体系』である。


 近い将来に赤銅騎士団が北斗星環群の騎士育成の核となる予定である。

 レアメタルハンターが盛んで資源はあるものの安定しておらず経済的にはまだ貧しい瑞穂は、何よりまず他の星環へ売り出す人材を育成する方針にシフトしようとしている。

 初めは海のものとも山のものとも知れなかった大地本人を商売にできる価値があると評価し、それにとどまらずその再現を図る一大事業だ。


 瑞穂を中心に、いや大地という象徴を核に得た北斗星環群が震源地となり、星環群連合の勢力分布に経済戦争を仕掛けようと準備しているのだ。


 狙っているのは既存の星環騎士戦トップリーグやセカンドリーグの層だけではない。

 むしろ、サードリーグやひよこリーグの層を各星環のレベルで活性化させていき、その主流を掴むことで星環騎士戦のボトムハーフまでを北斗星環群が掌握する――


 大地個人をハブにして、

 今や最強の新参者である赤銅騎士団、

 今や星環群連合すべてに網を広げる資格を備えた黒崎運輸、

 北斗星環群の食糧事情を一手に担う巨大企業となった大網商事、

 不世出の天才である風鈴寺弾博士、

 人脈お化けの白石海月しろいし・くらげ

 ここに北斗星環群総督の鈴来すずきまでが加わった。

 その鈴来すずきは自分の自由になる範囲とは断っていたが、それでも相当な額の私財を注ぎこんでおり、その本気の度合いを物語っている。


 大地は端末に映し出された過去の格闘技の記録映像をスローモーションで何度も再生している。


 ねえ、例えば……このオモプラッタとか、

 ひよこリーグなら充分驚異的な制圧力があると思うんだ。

 相手の打ち込みをかわして、

 自機も前転しながら相手の腕部を巻き込めば、

 重力環境下なら、もう身動きできない。


 もちろん、人間同士の格闘技の技術そのままでは持ち込めないとしても、

 星環騎士艇は、関節単位では人間以上の可動域を確保できても、

 最終的にどうあがいても人間のような柔らかさがない。

 俺のときもそうだけど、

 これって、早い者勝ちの世界だよね。


 星環群連合の他の連中が気付く前に、

 いや手を付けようとする前に押さえておけば、

 先行者優位を保つだけでも美味しい立場を

 ほぼ独占……は無理としても寡占くらいには……


 どうせ寡占になるのなら、

 蒼都あおと星環群とか友好的なところと先に手を組んでおけないかな。

 あそこの星環騎士の白波ってさ、

 8歳で空手13歳未満クラスの星環群連合チャンピオンって強者つわものなんだ。

 トップリーガーだからって、

 その弟子筋でサードリーガーやひよこリーガーを量産しちゃいけないって法は、

 ない……よね、たぶん。

 下手に白波の逆鱗だったりしたら、怖いけどさ。


 大地が『白波十三郎しらなみ・とみお』と『空手』で検索すると、大野間から教わったとおり、まさにその世界大会の記録映像が検索上位にずらりと並んだ。

 記録の中では、今よりも可憐な見た目の白波が、自分より背の高くて横幅もある対戦相手を小気味よい蹴りや華麗な飛び技で翻弄している。

 白波のはかなげでたおやかな風貌もさることながら、そのリズムやスピードが明らかに他と一線を画している。

 同じ競技だというのに、同じ技術体系で戦っているように見えない。

 白波は騎士候補としては遅い時期になってから赤星騎士団にスカウトされているのに、十三代目の十三郎とみおの名跡を継いで、今はトップリーガーだもんね。


 うん、栴檀せんだんは双葉よりかんばし。

 いや、美貌じゃなくて、実力がね?


 鋼谷から美人なら男でもいいのかと呆れられて、大地は慌てて訂正した。


 あと、俺の乗っている『赤銅鏡しゃくどうき・よう』、超汎用・星環騎士艇も……

 サードリーグやひよこリーグに特化した戦法に合わせたアタッチメントとかさ。

 やっぱり、あると思うんだ。

 鉄平さんって、今だからわかるけど、凄いよ。

 風鈴寺博士が、星環騎士艇の歴史を変える傑作だって評価してたのは、

 こういうことだったんだね。


 それにしても……

 拡がるよね、夢がさ。


 俺も。

 俺たちも。

 雑魚には雑魚の……


 惜しいなあ。

 これを直に、自分の目で見られないかもしれないなんて……


 稜線に近い尾根に立つ青年、大地。

 まだ山麓に立っているかのように中腹をきらきらした視線で見つめている――




 見上げるは


 霞む峰より


 若草の


 目指す確かな


 中腹のしるべ

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