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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第八章 震源の鳴動、露出する断層
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第85話「白浪夜船」

 星天を裂く白波の


 星月夜


 勝利を盗む赤き星なり




蒼都あおと星環群、馳衒はせでら(居住星環)】


 観戦施設アリーナ


 2万人の観衆。

 ほとんどが地元の星環騎士の応援。


 ――それはそうだ。

 冠試合であることだし。


 大地の関係者席には、白石美月しらいし・みづき佐祐倫さゆりの二人。

 白石が大地の試合に立ち会うのはずいぶん久しぶりの気がする。

 少なくとも佐祐倫さゆりが大地の秘書になってからは初めてのことである。

 アドバイザーの鋼谷は、前々回の杉原戦での佐祐倫さゆりの意見を聞き入れて、前回からセコンド役としてオペレーターエリアに詰めている。


 瑞穂の属する北斗星環群は、星環群連合の中でも、物資採掘の鉱山地帯である小惑星帯に近い、端も端にある。

 この蒼都あおと星環群は、北斗星環群から最も遠く、地球の太陽公転軌道真反対にあり、地球から窒素化合物などの資源を採掘する際の中継地点である。

 ある意味、北斗星環群や瑞穂の兄弟分と呼べる存在だ。

 ただし、星環文明に必須である窒素の流通生命線を握っていることや、汚染地区である地球の監視役でもあることから、連合内での位置づけはいやがうえにも高い。

 そして、心ない者たちからは『故郷を鉱山扱いする痴れ者』と後ろ指をさされ続けている。


 誇り高き汚れ役――


 どこに行っても、ただ蔑まれる瑞穂とは、ある意味対極の存在である。


 やがて、観戦施設アリーナの照明が落とされ、ひときわ強いスポットライトが中央ステージに立つMCに当てられる。


 ようやく、今日の主役登場メインイベントだ。


太衛門だえもん物流、プレゼンツ》


《衣は赤銅、心は金剛……》


《北斗は冥府より顕れし、魂の救済者……》


《赤銅騎士団、『赤銅鏡しゃくどうき・よう』、

 沖大地を迎え撃つは――》


蒼都あおとの絶対防衛線、

 我らの薄命を退ける、

 いつきなる義賊……》


 ここでパンチの利いたBGMが鳴り始める。

 勇ましい曲調に、しょうの笛とつつみが載せられている。


 ――この感じ、既視感が……


 MCもBGMのリズムと五七調に乗って、見得を切るように全身を何度も何度も揺らしている。


《こなたに名をば

 つらねしは

 生まれは蒼都あおと

 馳衒はせでら育ち……》


 ――この大仰さは、

 まるで張風はるかぜ星環群の鯉幟こいのぼりよね……


《赤き光芒こうぼう

 星天せいてん裂いて

 灯り遠のく

 宇宙働よばたらきの》


 相手は赤星騎士団の白波十三郎。

 乗る騎士艇の名は『星突誉ほしづきよ』という。

 つまり……


勝利つみを盗んで

 人命ひとを盗まず》


 ――赤星十三郎あかほしじゅうざぶろう気取りか。


《知らざあ言って、聞かせやしょう

 白波十三郎しらなみ・とみおたぁ……

 俺の、こったぁ!》


 その名乗りも白浪五人男リスペクトを散りばめられている。

 そして、名乗り口上の終わりとともに、複数の鼓が嵐のように打ち鳴らされる。


 物音がしたので佐祐倫さゆりが横を見ると、隣の美月みづきがたたらも踏みながら大見得を切っていた。


 ――この人もこういうの好きだったんだった。





蒼都あおと星環群、鯔背いなせ(廃棄星環)】


 『赤銅鏡しゃくどうき・よう』操縦室内。


 大地はBGM代わりに観戦施設アリーナの様子を流していたが、対戦相手の白波の名乗り口上がうるさく感じてきたので早々に切ってしまった。


 何というか、力を入れるところ、おかしくないか?


 2戦前の杉原戦こそ冷や汗ものだったが、大地はこの2年は負けなしである。


 トップリーグの総合優勝の結果に、本当に大統領選出権が掛かってるものか、怪しくなってきたな。

 真剣に勝ちにこだわっている騎士というか騎士団というか。

 片手で数えるほどしかいないんじゃないかな。


 『星突誉ほしづきよ』から通信が入ったようだ。

 まだ試合開始前であることだし、と大地は通信を受けることにした。


 画面に白波の姿が映し出された。


 俺よりも、若い?


 いや、情報では大野間と同じ年齢のはず。

 しかし見た目は中性的な顔立ちの紅顔美少年風。


 美少年いうかさ……

 街中で見かけたら、女の子にしか見えないな。

 希倫ほどじゃないけど、こいつ相当な美少女だぞ。


『……一つ、確認したいのだが』


 どうして、こちらを睨みつけているのかしらね。


 白波の声は見た目の通りに玉を転がすような可愛らしい声だった。

 若干、上ずっているように感じるのは、大地の気のせいか。


貴方あなたが担いでいるのは、一体、何なんだ?』


 えーと……

 見たままというか、訊ねるようなことかな?


 画面の向こうで白波が操縦盤を叩いた音が聞こえた。


 あのさ、余計なことかもだけど、無茶して故障しても知らないぞ。


 大地の助言もどこ吹く風、白波は俯いて体を震わせているようだ。


『……外道と罵られていようが、

 僕は、貴方あなたを尊敬してきた』


 ……それは、どうもありがとう。


 顔を上げた白波の瞳には、うっすら涙が浮かんでいた。


 わかっていても胸が痛くなってくる大地。


 ……こいつは、人の道を踏み外させる悪魔だな。

 しかも、自覚なしのド天然ものだ。


『僕は……確かに二桁順位だ。

 だからといって、こんな扱いは、酷いじゃないですか!』


 大地が抗弁する間もなく、唐突に通信が切られた。


 何か、気に入らないことがあったのだろうか。


 そして、試合開始のブザーが鳴った。


 白波くん、情緒不安定なのは同情するけど、仕事だからね。

 きっちり仕留めるよ。


 大地は『赤銅鏡しゃくどうき・よう』の肩に担いだ二連梯子にれんばしごをスライドして伸ばし、側板と踏みざんを握って、相手の吶喊に備えた。


 梯子は高所または低所へ移動するための道具である。

 しかし、古くは刺股さすまたに並ぶ即興の暴徒制圧用具でもある。

 側板や踏みざん、端具、持つ場所を変えることで間合いも自在に変えられる。

 しかも、この梯子は特注品で、端具には漁具の鯨鉤くじらかぎのように返しの棘が仕込んである。


 大地の脳裏にプロレスの特殊ルール、梯子戦ラダーマッチが浮かんだ。


 槍でも鉄棒でも持ってこいってところだね。


 仕上げを五郎次郎ごろうじろう……



 荒ぶるを


 しずむるための架け橋ぞ


 雲居くもいに立てて


 組み伏せにける

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