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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第八章 震源の鳴動、露出する断層
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幕間「急がば回せ」

 閃きし

 心の空ぞ

 晴れ渡り


 この楽しさを

 君にぞ分かたむ




北斗ほくと星環群、山津やまつ(研究星環)】


 風鈴寺博士の研究施設。


 赤銅鏡しゃくどうき・ようの装甲軽量化についてのアイデア着想は得た。

 しかし、そこで止まらないのが風鈴寺博士。

 風雲児どころではない。

 理学の世界に渦巻く超巨大台風。


 大地くんの数式に、ニトロ機構は合わないねえ。


 ニトロ……響きが格好いいのにな。


 少年心を大変くすぐるのだ。


 大地くんはチェーンとかウィップウェポンを、まだ主兵装にしてるんだよね。

 引っ掛けて、包んで、巻き付け……

 うーん、どうにも、ニトロとは相性悪いかなあ。


 もともと大地の乗騎は際立って大出力ではないし、そこに依存した戦法を取ることができなかったこともある。


 大出力自体は、選択肢にあってもいいとは思うのだが、移動にせよ、馬力にせよ、出力を上げるのに燃料が必要になってトレードオフ……


 装甲の素材が燃料になれば……


 いや、燃料では被弾したら自分が火だるまになるねえ。


 燃料タンクがダメなら、蓄電池?

 外装をバッテリーケースに見立てる?

 シェル構造の中に電解質?

 電力を取り出すのが手間過ぎるね。


 ん?


 つい最近、都合のいい何かがあったような……

 中間層、セル化ダイラタント・ゲルカートリッジの中身……

 もちろん、耐ダメージ効率が悪くなるから、全ての装甲の中間層でなくてもいい。

 騎士艇だと被ダメージが少ないのは脚部、戦闘スタイルによっては背面かな。

 もちろん、出力を上げる分、電磁モーターに過剰な負荷はかかるから、緊急用として。

 あるいはこれで決まるというトドメのときかな。


 予備バッテリーだと、ニトロは……


 開発コードとしてはいいけれど、実際に運用するときに関係のないニトロをつけるのはどうにも座りが悪い。

 でも、こじつけでいいから、使いたいなあ。


 ニトロ……NITRO。


 腕を組んでひとしきり思案する風鈴寺博士。


 瞬間ピーク電力を追加供給する予備出力ユニット。


 バッテリー管理システム(BMS)や電力変換装置インバータの連携、Networked。


 瞬間、Instantaneous。


 あれ……いけそうか?


 ピーク、追加供給……緊急時の切り替えをスムースに……過渡応答、Transient response。


 予備は、Reserveで決まりだね。


 出力ユニット……Output unit。


 繋げて、Networked Instantaneous Transient response Output unit すなわち、NITRO。


 イヤッホーーーー。





「また、風鈴寺博士が脱走する気配を感じたっす」


 研究員Aが壁に掛けてあった投げ縄を引っ掴み、押っ取り刀で博士の部屋へ急行した。


 すでにもぬけの殻だった。





北斗ほくと星環群、和刻わこく(工業星環)】


 承知工業 工房。


 承福鉄平は頭を掻いた。

 またも突然現れた風鈴寺博士に呆れたのではない。

 今さらである。


 風鈴寺博士の持ち込んだ『緊急時に電磁モーターの出力ピークを引き上げる装甲蓄電池』のアイデアに呆れかえったのだ。

 こちらに向かう道中で、材料検討は済ませたらしい。

 同時並行で研究員何人かに実証実験をするよう指示を済ませたとのこと。

 実現できそうなのが、また腹立たしい。

 だが、実際に乗るのは自分でも風鈴寺博士でもなく、沖大地である。


「おっしゃりたいことは、わかりました。

 しかし、実際にリスクを抱える沖くんに、まず確認するべきです」


 先に製品を作って押しつけるのはフェアではありません、そう鉄平はたしなめた。

 不服そうに唇を尖らせる風鈴寺博士。

 これは釘を刺しておいた方がいいと鉄平は判断した。


「博士……

 より優れた騎士艇を沖くんに扱ってほしい、それが自分のアイデアなら最高!

 それは技術者としてよくわかります」


 それがわかるならどうして、と食い下がる風鈴寺博士を鉄平は手で制する。

 この暴れん坊を抑えようと思えるようになるとは、自分も歳を重ねたものだと鉄平は思う。


「沖くんは、何より人間です。

 実験用ラットでもダミー人形でもありません。

 我が社にとっては顧客である赤銅騎士団の、エース騎士なんです」


 滅多なことがあってはいけませんし、沖くんの意志をまず尊重するのが筋です、と鉄平は譲らなかった。

 かつての教え子にそこまで言われた風鈴寺博士は、腕組みをして天を仰いだ。


「よし、では瑞穂に行く」


「ま、ま……待っ……」


 風鈴寺博士は研究に没頭してはいるが、神出鬼没を支えているのは卓越した運動能力である。

 トラック400m走であれば、55秒を切ることができる脚力を持っている。

 きびすを返した風鈴寺博士を、鉄平はとっさに捕まえることができず、承知工業の門まで追いかけたときにはその姿はもう見えなかった。





北斗ほくと星環群、瑞穂みずほ(居住星環)】


 魔法のパン屋。


 今日も盛況。

 営業時間の切れ目、お客の波も切れて、ほっと一息つける時間。

 店員たちは賄いの有りあわせフライをコッペパンに挟んでつかの間の食事タイム。


「ねえ、全力はるよしくん。

 そういえば、チョコレート研究、進んでるの?」


 希倫が何気なく訊ねると、元気のない全力はるよし

 張り切って『賁星ぶんしでも気軽に再現できる新しいチョコレート』を開発すると言い切った手前、現状で手がかりも掴めないのだと憧れの希倫には白状し辛い。


 まだ男の子なのである。


賁星ぶんしでチョコがないってことは、

 誰も成功させてないんだから、気長に行こう」


 希倫が全力はるよしの頭に手をポンと置いた。


 ――早くこの距離も縮めたい……


 二兎を追うものは一兎も得ず。

 もっとも、できる人は全部できるんですけどね……





 赤銅騎士団 格納庫。


 えーと……何しに来たんです?


 大地は目の前の変人を眺めた。


「さっき説明した通りじゃが……

 大地くん、君の乗る『赤銅鏡しゃくどうき・よう』に、

 短時間ではあるが電磁モーターの出力をブーストできるアイデアがあるのじゃ。

 その説明をまず、君にしておきたい」


 えーと……改造の発注って風鈴寺博士に出しましたっけ?


 大地は変人を無視して周りを見回した。

 すぐ傍にいた滋野は肩をすくめた。

 その横にいた附子島ぶすしまは、『新入りの俺がそんな出過ぎたことしないよ』と顔で訴えてきた。

 竹島はじめ他の整備員も滋野を介さずにそんな発注をするはずもなく。


 そりゃ、そうだ。


 ほんわかしてそうで、滋野さんはガバナンスをめちゃめちゃ大事にしているからな。

 整備の場で報連相をきちんとしないなんて事故の元でしかないし。


 鋼谷さんは……白石さんと打ち合わせって言ってたな。

 それにしても、こと騎士艇に関わることで滋野さんを無視することはない。


 じゃあ、俺?


 ……な、わけはない。


 とすると……


「そう、勝手に来た。もちろん、勝手に開発中じゃ」


 大地は天を仰いだ。


 何て自由な変人なんだ。


 ただ、全星環群で最高の頭脳でもある。


 どうしたものか。


 大地一人だけで話を聞くと、アイデアの良し悪しに関係なく勢いで押し切られそうだ。


 ……一人じゃなければいいんじゃないか?


 えーと、滋野さん、附子島ぶすしまさん、時間、取れます?


 滋野は下を向いて大きなため息をついた。

 附子島ぶすしまは露骨に嫌な顔をした。


 忙しい二人。

 相手は風鈴寺博士。

 でも二人とも付き合うと言ってくれた。


 これで百人力だね。

 あ、鋼谷さんも声をかけておくか。


 ――用事が済んだら、急いで来てください




 悲しみは

 分け合いながら


 楽しみは

 広げてぞ思う


 友の嬉しさ

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