9-6 おっさん、祝福される
「フォレストハイムの集団暴走の解決と、我が国の危機を救ったクヌギ様の功績なら、充分Aランクへの昇格に値するでしょう。誰にも文句は言わせません」
きっぱりと断言するアリシア陛下の言葉に、俺の胸が熱くなる。
(…ここまできたか)
――ランク不足で、後手に回った事もあった。
正体を明かして表立った以上、もはや冒険者である必要はないのかもしれないが、それでも嬉しいものは嬉しいものだ。
「ところで、ゼノビア支部のマスターに確認しなくていいのか?」
「大丈夫ですよ、クヌギ様」
そこで、いたずらっぽく笑うアリシア陛下――
「妾こそが、そのマスターですから」
――にっこりしながらそう言われて、今度は俺がため息を吐く番だった。
「どうしてそうなる?」
「これには、ちゃんと理由がありましてね。ほら、ゼノビアは多種族国家でしょう?」
「そうだな」
「なので、どうしても数も少なく力の弱い人間は、下に見られがちなのです」
「…ああ。そういう事か」
「ええ。人族を保護するためには、わかりやすい構図が必要でした」
「それで、女王自ら買って出たという事か」
「はい。先代のギルドマスター時代には、そういった問題が多発していたので」
「だが、いいのか?」
「何がでしょう?」
「本来、国とギルドは別機関な筈では?」
「大丈夫ですよ。表向きは、ガドがマスターとなっておりますから」
アリシア陛下は頬に手を当てて再びふぅ、とため息を吐いた。その仕草は様になっているが、さっきから見ていると、どうにも俺をからかっているように思えてならない。
「流石に、実務までは手が回りませんからね。そこはガドにお任せしております」
「片手間に女王がやれるとは思わないさ」
「そうですね。伴侶に先立たれてしまい、女手ひとつで苦労しております」
ちらちらと俺に視線を送りながらのアリシア陛下のその芝居がかった口調に、呆れて頭に手を当てる。
(絶対に確信犯だな)
やはり、俺をからかって楽しんでいるようだ。
だが、先程まで国の一大危機だった状況を思えば、多少羽目を外しても文句は言えない。
「家庭みたいに言うな」
「ですから、妾を少しくらいは労わってくれてもいいのではないかと?」
「はぁ――。分かったよ、アリシア。これでいいか?」
「気持ちが籠もっていません!」
「いい加減にしろ」
そこで、ぷっとアリシアが吹き出すと、何処か遠いところを見るような目をした。
「ああ。こういう気のないやり取りはいいですね」
「ガルムたちとも仲はいいように見えるが」
「ええ。それでも彼らにとって、私は”王”ですから」
一瞬だけアリシアは寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。
「いけませんね。どうにも今日は口が軽いようです」
「ま、そんな日もあるさ」
「そう言ってもらえると助かります」
「そろそろ話しを戻さないか?」
――俺が堅い口調でそう問いかけると、アリシアもまた”王”の顔に戻った。
「そうですね。アルカディアとフォレストハイムの協力が期待できるのなら、勝算はありますね。それに――」
アリシアが、ぎゅっと固く両手を組んで握りしめる。
「――毒や呪いを当たり前のように使う”あの国”の横暴を、これ以上許す訳には行きません」
「そうだな」
「それに何より、クヌギ様。貴方がいる」
真剣な眼差しで、何かを期待するようにアリシアが俺を見つめた。
「当てにしていいのですよね?」
「ああ。十倍にして返してやるさ」
俺の言葉に、アリシアは目の笑っていない笑顔を浮かべる。
「期待しています。勇者様」
――そして、優雅に頭を下げた。
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「もう! すぐに一人で飛び出して!!」
「いや、非常事態だったからな」
「あらあら。新婚さんはいいわねー」
「だから、そんなんじゃないって!!」
「はいはい」
アリシアとの会話を終えた俺は、こちらも報告の為にマリア達と合流を果たした。
そして、開口一番にマリアが言ったのがそれだったのだ。
「それはさておき、無事だったか?」
「ええ。今回はさすがにお城で待機していたわ」
「クヌートの身内だからって、ね」
「うん。ぼくおとなしくしてたよー」
「偉いな、トーマス」
「わーい」
トーマスの頭を撫でてやると、彼は嬉しそうに笑みを浮かべた。
マリアたちが俺たちの様子を微笑ましくみていると、そこにフーゴが戻ってきた。
「お、戻ったか」
「任せっぱなしですまないな」
「いいってことよ。で、上手くいったのか?」
「ああ。勇者二人も無事保護出来たよ」
なんでも、フーゴは戦闘中、馬と魔導馬車の様子を見に行ってくれたらしい。魔車は何の問題もなく停められていたままだったが、馬が渓谷が壊れた衝撃で怯えていたらしく、空き時間があると馬房に足を運んでいる内に、すっかり懐かれたという。
「それでだ。色々あってA級になる事が内定した」
「「ええ!?」」「おぉ!?」
さらっとそう付け加えると、マリアたちが驚きの声を上げた。
すぐさまエラが非難するような目で俺を睨む。
「バカ! そういうのは最初に言いなさい!」
「…本当に、直ぐ自分のことは後回しにするんだから」
「だな。まぁ、それはさておき――」
「おじさん! おめでとー!!」
無邪気なトーマスの言葉が部屋に響くと、マリアたちも笑顔になった。
「「おめでとう!!」」
仲間たちの祝福の声に、頬が緩んだ。胸の奥が温かくなり、やっと昇級が事実なのだと実感出来た。
(あぁ、そういう事か)
心の底から喜んでくれる身近な人たちがいる事で、人は頑張る事が出来る。そんな当たり前な事をやっと思い出した気がする。
(ですよね、師匠…)
師匠の元で、共に学んで苦楽と共にした先輩や後輩――仲間たちの顔が、頭を過っていった。
「ありがとう」
俺が礼を告げると、何故かマリアたちの表情が固まった。そして徐々に驚愕の表情を浮かべ始める。
「…そんな顔もできるのね」
「初めて見たわー。アンタのそんな穏やかな顔」
「ああ。トーマスと遊んでる時とは、また違うな」
「そうか?」
「???」
トーマスが頭にハテナを浮かべているが、マリアたちはお互いの顔を見合わせながら、ウンウンと唸っている。
(…そんなに違うのか?)
なんとなく腑に落ちない俺は、思わず首を傾げてしまう。だが、ずっと”一人”で動いてきたので、何処か気を張り続けていたのだろうと、すぐに思い返した。
すると、エラが俺を見ながらマリアの頬をツンツンとし始める。
「おやおや。何をじっと見ているのかなー」
「べ、別にクヌートの顔なんか見てないわよ!」
「えー? そんなこと一言も言ってないけど?」
「…もう! エラ!!」
「あはは」
「ったく、お前らは飽きねぇな」
「ふたりはなかよしだねー」
マリアとエラのいつものやり取りに、フーゴは呆れ、トーマスは楽しそうに笑っていた。
(守れて、良かった)
ゼノビアに生きる全ての住人の、こんなありふれた日常を守れたんだという実感が、じわじわと沸いてきたのだった。
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(…まだ、起きないか)
マリアたちと別れて、俺は神崎くんと早乙女さんの様子を見にきていた。二人は武装解除されて、それぞれベッドに寝かされている。
「あれあれ、クヌギのおじちゃん?」
俺が二人の顔色を見ていると、医務室にセラフィナが入ってきた。ゆったりとした白い服に着替えていて、手には水差しを持っている。
「セラフィナが、看病してくれてたのか?」
「うんうん。わたしまりょくが見れるからね」
「そうか。ありがとな」
「えへえへ」
セラフィナの頭を撫でてほしそうに見てきたので、リクエストに応えると彼女は目を細めた。
「それで、二人の様子は?」
「えとえと。クスリものませたし、そろそろおきてもいいんだけど」
「時間がかかりそう、か?」
「そうそう。でも、そんなにかからないと思うよー」
「そうか。ありがとう」
俺が頭を下げると同時に、セラフィナのお腹がぐーっと鳴ってしまい、顔が赤くなった。俺は苦笑しながら頭を撫でて口を開く。
「俺が見ているから、何かおやつでも食べてきたらどうだ?」
「んとんと。いいの?」
「ああ。セラフィナも少し休んでこい」
「わーいわーい!」
満面の笑みを浮かべたセラフィナがぴょんぴょんと跳ねると、彼女は大きく手を振った。
「じゃあじゃあ、いってくる」
「ああ。看病してくれてありがとな」
「えへえへ。おじちゃんだいすき!」
そして、セラフィナが元気よく部屋を出ていくと、室内は一気に静まり返る。俺はドアからベッドに寝ている二人に視線を移すと、集中させる。
(見てみるか)
俺が二人の『ステータス』を見てみると、やはり状態は『魔力枯渇』となっていた。だが、二人ともスキルの欄に『魔力回復』が増えていたので、目覚めるまでそれ程時間はかからない筈だ。
(ついでだ)
勇者たちとの闘いで、途中から明らかに色んなものの感覚が違っていた。せっかく一人になったので、いい機会だと俺は自分のステータスも確認する。
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タケシ・クヌギ
42歳 男
ジョブ:侍
レベル:48 ↑
力:420+480 ↑
技:420+480 ↑
速:420+480 ↑
体:420+480 ↑
魔:420+480 ↑
抗:420+480 ↑
運:420+480 ↑
スキル
剣術★、抜刀術★、忍術★、投擲術6、格闘術8 ↑、偽装10、隠密8、”心眼” ↑、危機察知★、毒耐性7、精神耐性★、”功刀流活人剣” ↑、魔力回復9 ↑ 、限界突破8 ↑
称号
『侍マスター』『忍者マスター』『巻き込まれし者』『諸行無常』
(忍術)
[火遁][水遁][土遁][雷遁][風塵][風遁][空蝉][縄抜け][開錠][息吹][身体操作][物見][暗目付][影縛り][影渡り]
(功刀流活人剣)
[いノ型][ろノ型][はノ型][にノ型][ほノ型][へノ型]
[暗器]:皎刀・酸毒牙
[空蝉]貨幣、保存食、魔物素材、重要書類
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(色々変わってるな…)
各種スキルのレベルが上がっていて『慧眼』が”心眼”に、『剣舞』が”功刀流活人剣”に変化していた。しかも、スキル名に””がついて、レベル表記も無くなっている。更に剣術など、レベルが数字だったものが”★”になっていた――
(どういう意味なんだ?)
――俺は疑問を解消するために、新しくなった”心眼”で『剣術★』を調べてみる。
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『剣術★』
剣技から進化した剣術というスキルをマスターした証。剣での戦闘時、ステータスに2倍の補正がつく。
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(説明が具体的になったな)
『看破』から『慧眼』に進化した時もそうであったように、これが”心眼”の効果なのだろう。俺は次に”心眼”を”調べてみた。
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”心眼”
鑑定系スキルである看破から派生した最上位であり、またユニークスキルに進化したもの。真眼とも言い認識阻害の効果を受けず、あらゆるモノを見通す事が出来る。
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(破格の性能だな)
間違いなく、神崎くんと早乙女さんの『ステータス』が見れたのは”心眼”に進化したおかげだろう。イチかバチかの賭けだったが、必死になってよかったと思う。
――そんな事を考えながら、俺は医務室の窓の外を見た。
「それで。用があるならさっさと出てくるんだな」




