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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第九章 ゼノビア連合編

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9-5 おっさん、”生かす”

『タケちゃん。ボクらの剣はね、人を生かすためにあるんだよ』


 そして浮かぶのは、初めて見た師匠の姿。主役を生かす為に自ら身体を張るあの背中を目指して、ずっと剣を振ってきた。


(…人を生かす剣)


 目の前では、苦しみながら暴れる神崎くんと、早乙女さんがいる。身体中の血管が浮き出ていて、いつ血が噴き出してもおかしくはないくらいに膨張していた。


『――タケちゃん。刃筋さえ通れば、刀は何でも斬れるんだよ』


「おい! まさか!?」

「むぅ…」

「おじちゃん?」


 構えを取る俺を見て、三人が慌てた声を出す。


(救ってみせる)


 俺の思い描く人を”生かす”剣とは―― 


「功刀流活人剣――」


 ――そう思った時、自然と口から言葉が零れた。


「――”い”ノ型”一閃”」


 俺はただ、呪印を”斬る”ことだけをイメージして、抜刀して横一文字に振り切った。刀は二人の瞳の前を通過してピタリと止まり、頭の中に何か乾いた音が響いたような感覚があった。


 神崎くんと早乙女さんの身体がビクンッ! と一瞬震えて、そのまま地面に崩れ落ちる。その身体から、赤い靄のようなものが霧散していく。

 それが完全に消えた時、二人の表情は穏やかなものになっていた。出血はどこからも見られず、身体中に浮き出ていた血管もすっかり消えていた。


 ――そして、視界に浮かんでいた”縛魂呪印”の文字も消えている。


(上手くいったか…)


「ふぅ…」

「お前、何を――」

「斬った」

「むぅ?」

「二人が暴れるようになった原因を斬った。それだけだ」

「…そんな事ができるのか?」

「出来たようだな」

「うんうん。もうだいじょうぶ」


 ガルムとガドが、信じられないような顔をして俺を凝視している。倒れた二人の魔力を調べたセラフィナが、安堵の息を漏らしていた。


「ねえねえ、クヌギのおじちゃん?」

「何だ?」

「えとえと。今のすごかったねぇ!」

「今の?」

「そうそう。なんか剣からまりょくがドバーって出てた!」 

「そうなのか?」

「うんうん。わたしはじめて見たよー」


 キャッキャッと笑うセラフィナに毒気を抜かれたのか、ガルムとガドがお互いの顔を見合わせていた。


「全く…お前、とんでもないな」

「むぅ。儂も同意するぞ」

「何にせよ、三人が来てくれたおかげだ。感謝する」


 俺は、危険を犯してまで助太刀に来てくれた三人に対して、頭を下げた。


「構わん。さっき言った通り、祖国の為だからな」

「うむ。儂らの問題でもある」

「ねえねえ? わたしえらい?」

「ああ。偉かったぞ」

「やったー!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶセラフィナを見て、場の空気が一気に和んだ。

 それで気が抜けたのか俺は尻餅をついてしまい、三人が慌てて傍に寄ってくる。


「おいおい。大丈夫か?」

「ああ。少し魔力を使い過ぎただけだ」

「うーむ。その様子だと少しとは思えぬが…無茶をしたようじゃな」

「多少はな。何せ相手は勇者四人だったからな」

「えらいえらい! クヌギのおじちゃん!!」


 ニコニコしながら、セラフィナが俺の頭を撫でてくる。何だか気恥ずかしさを感じるが、止めようとは思えなかった。


(一件落着だな)


 しばらくはされるがままにしていたが、俺はふと疑問を口にする。


「そういえば、ゼノビアはどうなった?」

「ああ。人間の兵士が攻めてきていたが、ザインたちが上手くやった」

「うむ。それで、儂らが援護に来たわけじゃ」

「そうそう。みんなすごかったよー」

「そうか。なら――」


 俺は倒れた二人に視線を送った。


(本当に、無事でよかった)


 胸の中には、やりきったという達成感が沸いてくる。


「――完全勝利だな」

「おう!」

「うむ」

「うんうん!」


 四人の拳が突き出されて、一つになった。


---


「戻ったか!」

「ああ。首尾は?」

「我らの敵ではなかったな」 


 俺たちがゼノビアに戻ると、戦後処理をしていたザインが気づいて声をかけてきた。城門の前の地面には戦闘の痕が見られたが、特に死体は見当たらなかった。


「敵の数は?」

「五百といったところか。半壊したところで逃げていったぞ」

「捕虜は?」

「いない。奴らは毒を使おうとしていたから全員殺した」

「そうか」


 何処までも卑劣なやり方だが、どうも第一王女(エリザベート)の指示とは思えなかった。彼女はそういうやり方は好まないような気がする。


「ところで、その二人は?」

「ああ。例の”勇者””たちだ」

「こいつらが…」


 ザインが、何とも言えない目で神崎くんと早乙女さんを交互に見た。グレンツヴァハト要塞での天童の所業を思い出しているのだろう。どこか複雑そうな表情をしている。

 

 あの後、少しだけ休んで回復した俺たちは、神崎くんと早乙女さんをどう運ぶかを話し合った。改めて

『ステータス』を見てみたら、”魔力枯渇”状態になっていたからだ。


(仕方ないことだ)


 当初は俺が二人とも肩に担いでいくつもりだったのだが、セラフィナが反対した。女性に対して、それは酷いと言われたのだ。

 結果「わたしがはこぶー」とセラフィナが言い切って、早乙女さんをお姫様だっこの形で持ち上げ、俺は神崎くんを背負ってきたのだ。


「ねえねえ。わたしがんばったんだよー」

「そうか。偉いな」

「えへえへ」


 ザインにも褒められて得意げに笑うセラフィナに、ゼノビア軍の兵士たちの表情が和んだ。全員の、まるで孫娘を見るような眼差しから、彼女はとても大事にされていることが分かる。


(守れてよかった)


 ――そんな様子を見て、俺の胸が温かくなるのを感じた。

 

 正直言って、勇者たちとの闘いはかなり厳しかった。本当に薄皮一枚の差での勝利であり、ガルムたちが二人を足止めしてくれなかったら俺は殺されていただろう。


「む? どうした」

「いや。勝利を噛みしめていただけだ」

「わっはっは。ワシらのおかげだな!」

「その通りだ」


 バシバシと俺の背中を叩くガルムだったが、俺の返しが意外だったのか、その手を止めた。


「本当に助かった。改めて礼を言う」

「いや。お互い様だ。ザインが言った以上だったからな」

「うむ。お主がいなければ、勇者たちに蹂躙されていたじゃろう」

「それほどでしたか」

「ああ、疑ってすまなかった。ザイン」

「いえ! ガルム殿、頭を上げて下さい!!」


 真面目な顔でザインに頭を下げるガルムに、彼は恐縮していた。


「結果、クヌギ殿が止めてくれたのでしょう? 自分は奴らに手も足も出なかった未熟者です」

「それを言うなら、ワシも未熟者よ。この二人は途中から何処か動きがぎこちなかったから戦えただけだ」

「うむ。おそらくは、呪いの影響じゃろうな。本来の力を出せなくなっていたようじゃ」

「そうだったのか?」

「ああ。時間が経つにつれ、動きが単純になっていったぞ」

「うんうん。なんか苦しそうにしてた」


 俺は三人の報告を受けて、やはり訝しげに思って首を傾げる。


(何がしたかったのか…)


 呪いで操ったまでは分かるが、これではまるで使い捨てじゃないかと疑問に思ったからだ。わざわざ百年振りに行った勇者召喚の貴重な駒を、そんな雑に扱うなんて割が合わないはずだ。

 なのに勇者を暴走させた揚げ句、魔物化までさせようとしたのは、何か理由があるに違いない。


(…いや、逆なのか)


 神崎くんと早乙女さんを”始末”する為に、敢えて暴走させたのだとしたら辻褄が合う。その場合、ルーンベルグがそうせざるを得ない”何か”が二人の身に起きたという事になる。


(本当に、何があった?)


 こればかりは、二人が目覚めてみなければ分からないだろう。大人しく待つことしか、今の俺には出来なさそうだった。


「ねえねえ。早くいこうよ」

「そうだな。時間を取らせて悪かった」


 俺がザインに頭を下げると、彼も俺に向かって頭を下げる。


「いえ! ゼノビアの危機を救って頂き、感謝します!! 勇者クヌギ殿ッ!」

「「ありがとうございましたッ!!」」


 ザインの声に、その場に居たゼノビア軍の兵士全員が、一斉に頭を下げた。


---


「勇者様のお帰りですね」

「やめてくれ」

「ふふふ。それだけの偉業をなされたのですよ、クヌギ様」


 神崎くんと早乙女さんを軍部の医務室に寝かせた後、俺は報告の為にアリシア陛下の元を訪れた。ガルムたちはそれぞれの仕事に戻っていったので、今アリシア陛下の前にいるのは俺だけだ。

 セラフィナもまたやるべき事があるそうで、俺をアリシア陛下の執務室に案内すると、名残惜しそうに去っていった。


「それで、どうでしたか?」

「ああ。勇者二人は撃退して、残りの二人は確保出来た」

「確保?」

「ああ。話せば長くなるのだが――」


 俺は”呪印”の件をノルドヴァルでの出来事も含めてアリシア陛下に説明する。俺の話を聞くにつれ、アリシア陛下の眉間に皺が寄っていく。


「――という訳で、ルーンベルグは呪いで人を操り続けている」

「それは…由々しき事態ですね」

「それにザインから聞いているかもしれないが――」

「――ええ。毒の件なら聞いておりますわ」

「なら、話が早い。向こうの最大戦力の半分はこちらの手にある」

「つまり、こちらから討って出よと?」

「そうだ。少なくとも、アルカディアとフォレストハイムはこっちに着く」


 そこで俺は懐から、指輪と手紙を取り出して、アリシア陛下に差し出した。


「これは?」

「セレスティアとエルヴァンからの預かりものだ」

「あのお二人の――」


 アリシア陛下はおずおずと二つを受け取ると、まずは指輪をじっと見る。


「確かに、フォレストハイムの国章ですね」


 次に指輪を執務机に置いてから、セレスティアからの手紙を開封して、読み始めた。流れるように読み進めていき、二通目の手紙も読み終えたアリシア陛下は、ふぅっとため息を吐いた。


「ところで、クヌギ様? 妾のことは、呼び捨てにして下さらないのですか?」

「いきなりどうした?」

「いえ。アルカス支部のティグリス様との連名のお手紙がべた褒め過ぎて、お二人の仲がとても良いことが羨ましく思いまして」

「…部下に示しがつかないのでは?」

「救国の英雄であるクヌギ様が、妾をなんと呼ぼうと誰も文句は言いませんよ」


 にこやかな笑顔で手紙を差し出しながら、アリシア陛下がとんでもない事を口走る。


「……別の問題が生まれそうだが」

「あらあら、うふふ」

「笑って誤魔化すな」

「まぁ、この件は後にするとして――」


 ここでアリシアが真面目な顔に戻り――


「フォレストハイムの集団暴走(スタンピード)の解決と、我が国の危機を救ったクヌギ様の功績なら、充分Aランクへの昇格に値するでしょう。誰にも文句は言わせません」


 ――そう、きっぱりと断言した。

 


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