9-4 おっさん、”切る”
氷室の放った膨大な魔力が暴風を生み出した――
「チッ!」
「ぐっ!」
――俺と天童は吹き飛ばされたが、それぞれ受け身ととって着地する。
その魔力の嵐の中心にいる氷室が、激しい怒声を上げた。
「オッサン! 絶対にコロしてやるッ!! アンタは時間を稼いでッッ!!」
「この俺様に命令するなっ! まぁ、いいだろう!! 『雷光剣ッ!』」
剣を構えた天童が、俺に向かって突進してきたので、俺は納刀して迎撃態勢をとる。
「いノ型”稲妻”」
俺の抜刀術と天童の瞬足の一撃がぶつかり合い、激しい火花を散らした。
そこから激しい剣戟の音が鳴り響く。
「『火よ! 水よ! 風よ! 土よ! 全てを司る者たちよ!! 我らが敵を消し去り給え!!』」
氷室の詠唱が進むにつれて、『危機察知』が全力でこの場から離れるように告げてくる。
奴の全身から噴き出していた魔力が、杖の先端の魔石に収束していき、杖自体が眩い光を放つ。
「ふん! 終わりだッ!」
踏み込むと見せかけた天童が大きく横に飛ぶと、氷室が俺に杖を突き付けた――
「消エロォォォォォォォッッツ!!!
究極合体魔法ッ! 極魔光ッッ!!!」
――カッ! と一瞬杖の先端が輝き、光が一直線に俺に伸びる。
(何!)
先程と同じように魔法を斬ろうと構えた次の瞬間には、光は目前に迫っていた。
(早い)
慌てて身を捻ってなんとか直撃は避けたが、魔力の余波が俺の肌を焼く。
「ち、だが――」
「フン! まだよ! 『目標固定ッ!!』」
氷室が俺を指差すと、後ろに通過していった膨大な魔力が、向きを変える気配がした。
(追尾か!)
俺が振り返ると”光”がこちらに戻ってきたので、今度は余裕を持って回避する。
「逃ガサナイ!! 『回転ッ!』」
だが氷室がそう宣言すると、”光”は俺の周囲をぐるぐると回転しはじめた――
「『防壁ッ!』」
――”光”が拡散してドーム状になり、俺を閉じ込める。
「アハハハハ! シャクだけど、このマエのお返しヨ!!! どう!? 天才であるワタシの華麗な魔法は!!!」
その”光”のドームは徐々に縮み始めて、俺の身体にじわじわと迫り始めた。よく見れば地面も削れている事から、足元にも"光"の影響が及んでいるのだろう。
「さァ! 泣き喚きなサイッ!! ブザマな悲鳴を上げながら、キエるがいいワッッ!!!」
四方八方から迫る"光"の壁のせいで影は消えてしまい、[影渡り]は使えない。ならばと『慧眼』で魔法の核を探すが見つける事が出来なかった。少しずつ"光"から放たれる熱が、俺を焼き尽くそうと迫りくるのを横目に、打開策を必死で練る。
(…影、か)
四方八方から"光"が照らすのなら、一方だけでも"何か"で塞げば――
「アハハハハハハ! 恐怖のあまり、声も出ないようネ――」
――氷室の高笑いがそこで止まる。
「ツマラナイ。シネ! 『照射』」
氷室が冷たくそう口にすると、一気に光が縮まった。
――ジュウウウッ!!
激しく何かが蒸発する音だけが響き渡り、光が消えた後にはクレーターが残っているだけだった。
「アハ! アハハ!! アハハハ!! キエた! キエたワ!!」
「ふん! これで――危ないッ!!」
隣に立っていた天童が、背後からの一撃に気づいて、氷室を突き飛ばす。
「ギャアアアアッ!」
「ちっ!」
俺の刀は、氷室の持っていた杖を両断したが、腕を浅く切るところまでしか届かなかった。俺はゴロゴロと地面に転がる氷室に追撃をしようとしたが、すぐに天童が邪魔に入る。
「イタイイタイイタイィィ!」
「ナゼ生きている!?」
「さあな!」
(無いなら、作ればいい)
――あの時、俺は咄嗟に[空蝉]で仕舞っていた”衣装”を頭の上に放り投げて、一瞬だけ影を作った。そして、氷室の背後に”転移”しただけだ。
(ギリギリだったがな)
完全に”仕留める”つもりで斬りかかったのだが、その殺気がいけなかったのか、天童に気付かれてしまったのは失敗だった。
「終わらせてもらうぞ」
「黙れ! いつまでも俺様の邪魔をしやがって」
勝利を確信したからか、天童のオーラのようなものは既に消えていた。対して俺は頭痛が酷くなってきているが、もう少しだけなら魔力は保つ。
(今しかない)
氷室の援護がない今が絶好のチャンスだった。ここで決めなければ、また同じ事の繰り返しになる。
「『重刺突ッ!!!』」
焦れた天童がスキルを繰り出す――
(今だ!)
――その刹那、生まれる隙を俺は見逃さなかった。
「いノ型――」
タイミングを重ねるように俺は前に踏み出しながら瞬時に納刀して、天童が突きを繰り出す踏み込みに合わせて抜刀した。
「――”稲妻”」
「クソッ!」
それに気付いた天童が、強引に突きの軌道を変えて、俺から離れるように進路を変える。そのせいで俺の刀は、天童の脇腹を浅く斬るだけに留まった。
「グワアァァァァッ!!」
天童が喚き声を上げながら、左手で脇腹を抑えている。その目には確かな殺意が浮かんでいて、俺をギロッと睨みつけていた。
「これで――ちっ!!」
「『土よ!』
大地槍ッ!!」
――嫌な気配がした俺は、足元から生まれる錐を飛び退いて避ける。
声のした方を見れば、氷室が半分になった杖を構えていた。いつの間にか腕の怪我は応急処置されていて、すぐに天童に駆け寄っていく。そして天童の傍には、いつの間にか黒ずくめの人物が立っていた。
「何者だ?」
「テンドウ様、ここは退きますよ」
「バカな! 俺様はまだやれ――」
――黒づくめが”何か”を地面に叩きつけると、カッ! と一瞬眩しく青く輝く。
(させるか!)
「雷遁!」
突き出した俺の指から紫電が迸るが、青い光が収まると、そこには三人の姿はなかった。
「逃がした、か…」
思わずそう溢すと、俺は『限界突破』を解除する。すぐに『魔力回復』のスキルで大気の魔力を吸収しようとした、その時――
「ガアアアアアアアッ!」
「アアアアアアアアッ!」
――遠く叫び声が、聞こえてくる。
(あっちは…まさか!)
声が聞こえてきたのは、神崎くんと早乙女さんが居た方角からだった。
---
「ガド! 何があった!」
「ふむ、わからん」
「ねえねえ。急にくるしみだしたの!?」
「ああ。それからはずっとあの様子だ」
俺が急いで駆け付けると、そこでは、血走った眼を見開きながら、狂ったように暴れる二人の姿があった。
それをガルムが武器を構えたまま見ていて、セラフィナはガドの袖をきゅっと掴みながら心配そうにしている。
(何が起きてる?)
この暴れようは、ノルドヴァルの時以上だった。喉が潰れるんじゃないかというぐらいに、大声を上げながら武器を振るう姿は、あの炭鉱夫の暴走より激しい。
「くそっ」
『慧眼』で二人の様子を探るが、やはりノイズのようなものが邪魔をして『ステータス』を見られない。認識阻害の魔道具は、この二人も持たされているようだ。
(魔道具さえ見つかれば…)
だが、破壊しようにも氷室のしていた”腕輪”のように、それらしい物は見当たらなかった。服の下に着けているとしたら、今の状況じゃどうしようもない。それに、一刻も早く止めなければならないと、嫌な予感がどんどん膨らんでいる。
「動きは止められるか?」
「無理だな。理由はわからんが、力が増している」
「うむ。魔法で拘束しても、すぐに破られてしまうのじゃ」
すると、心配そうに見ていたセラフィナが、何かに気付いたように呟いた。
「あれあれ…まりょくが、おかしい?」
「どういう意味だ」
「なんかね。ぐるぐるってあばれてる感じ」
「暴れてる?」
「うんうん。あぶないかも」
セラフィナの言葉が、俺の嫌な予感を後押しする。やはり、直ぐに止めないと取り返しのつかない事になりそうだった。
(状態さえ分かれば…)
俺は、魔法の”核”を発見した時のように、『慧眼』と[物見]を併用して、二人の状態を探ろうとする。更には[身体操作]で目に魔力を集中して、必死にノイズまみれの『ステータス』を睨みつけた。
(邪魔だ!)
「おい! クヌギ!」
「むぅ。あまり無茶は――」
――ガルムたちが声をかけてくるが、段々と声が遠くなっていく。
俺はただひたすら集中して『ステータス』を睨み続ける。ずっと魔力を使い続けているせいで、魔力枯渇の頭痛が激しくなっているが構わずに魔力を集める。
(退けッ!)
――ザァァアッ、と頭の中で音が聞こえたような気がした。
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ハヤト・カンザキ
24歳 男性
ジョブ:重戦士
状態:縛魂、魔力暴走
レベル:71
力:2400
技:1440
速:1280
体:2560
魔:1120
抗:2080
運:1600
スキル
盾技9、挑発8、鉄壁9、リベンジャー7、不屈8、打撃強化8、魔法障壁7、身体強化7
称号
『召喚されし勇者』『守護者』『鉄壁の盾』
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レン・サオトメ
21歳 女性
ジョブ:聖騎士
状態:縛魂、魔力暴走
レベル:71
力:1440
技:1760
速:1680
体:1600
魔:2080
抗:2240
運:1920
スキル
剣技9、回復魔法7、治癒魔法7、補助魔法8、魔法障壁9、浄化8、祈り7、身体強化7
称号
『召喚されし勇者』『癒しの使徒』『浄化の光』
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頭の中がすっきりしたような感覚がして、神崎くんたちの『ステータス』からノイズが消える。すると、二人の状況が確認できた。
(…これは!?)
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『縛魂』
術者の命令を聞くように魂を縛られた状態。身体に縛魂の呪印が刻まれていて、解除するにはそれを取り除く必要がある。この呪印は操魂呪印を元に生み出されたもので、術者よりレベルが高くなければ解呪は出来ない。
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『魔力暴走』
瘴気が体内に入ることによって、魔力と混ざり合った状態。時間が経てば魔物と化してしまう。
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(不味いな…)
思っていた通り、どうやらこのふざけた騒ぎはあの呪印と同じ”術者”の仕業らしい。更に、あのフォレストハイムの集団暴走も同一犯のようだ。
となれば、狂枯木の時のように呪印を取り除けばいいのだろうが、身体の何処にあるのか分からない。それに、暴れてる状態の二人の身体から切除するというのは難易度が高かった。
(…いや、何だ?)
そんな事を考えていると、神崎くんと早乙女さんの眼が紫色に光っているように見えた。そこに意識を集中すると、瞳の中に何か禍々しい印が刻まれているのが分かる――
(あれか)
――視界には『縛魂呪印』とはっきり浮かんでいた。
(時間がない)
『ステータス』の『魔力暴走』の表記が血のように赤く染まってきている。”何故か”あれが黒くなったら二人が魔物と化すと分かっていた。もはや一刻の猶予もなかった。
(斬るしかない)
このままでは二人が魔物となってしまう。回復魔法で治せるか分からないが、術者を探す時間がない以上、今すぐに斬るしか手段がなかった。
(今、助ける!)
俺が納刀して抜刀術の構えを取ったその時、頭の中に師匠の顔が浮かんだ――
『タケちゃん。ボクらの剣はね、人を生かすためにあるんだよ』
――その言葉が聞こえてきた時、迷いが消えた。




