9-1 おっさん、ステータスを確認させる
「我が”同胞”の不始末をつける為に、私の参戦を正式にお許しください、陛下」
――俺が恭しく頭を下げると、その場にいた全員がどよめいた。
「クヌギ様、よいのですか?」
「はい。”勇者”たちを止めるには、それしかないかと」
「――ワシより貴様の方が強いというのか?」
「なっ…ガルム殿!」
ここで、俺とアリシア陛下の会話に、獅子の獣人が興味深そうに口を挟んできた。
それを見たザインがすぐさま抗議の声を上げる。
「自分の目が信じられないと?」
「ワシが勇者とやらを直接見たワケじゃないからな」
「ふむ、確かに一理あるが…リュメルよ、どう思う?」
「そうね、ガド…わたしもそう思うわね」
「ふむ、お主もそう思うか」
獅子の獣人――ガルムに、リュメルと呼ばれたエルフの女性が同意を示すと、ガドと呼ばれた竜人も一つ頷いた。
「だがな、そこのニンゲンがいうのは本当じゃよ、ガルム。主よりもそこなニンゲンの方が強い」
「「なっ」」
――ガドの言葉を受けて、今度はガルムが黙る番となった。
(…視えてるのか?)
まだ『ステータス』は『偽装』したままだった筈だと疑問に思った俺は、ついガドに向かって尋ねてしまった。
「分かるのか?」
「うむ。儂の”目”は誤魔化せんよ。ところで…お主のステータスは随分と珍しいのう。初めて見たぞ」
「どういうことですの?」
「ふむ。しばし待て。お主も構わぬか?」
「構わないさ。その方が話が早そうだ」
「うむ。助かるのう」
ガドが腰につけている布袋から、見覚えのある手のひらくらいの水晶を取り出した。
それを見て、ガドが何をしようとしたのかを俺は完全に察することが出来た俺は、ステータスの『偽装』を解除する。
「”鑑定の水晶”か」
「さよう。論より証拠というじゃろ」
――俺が水晶に手を触れると、水晶玉から灰色の光が部屋中に溢れた。
光が収まると、空中に俺のステータスが浮かび上がっている。
(懐かしいな)
=====
タケシ・クヌギ
42歳 男
ジョブ:侍
レベル:42
力:420+420
技:420+420
速:420+420
体:420+420
魔:420+420
抗:420+420
運:420+420
スキル
剣術、抜刀術、忍術、投擲術、格闘術、偽装、隠密、慧眼、危機察知、毒耐性、精神耐性、剣舞、魔力回復、限界突破
称号
『侍マスター』『忍者マスター』『巻き込まれし者』『諸行無常』
=====
「なんだと!?」「なんですって!?」
「こ、これは…」
ガルムとリュメルが驚きの声を上げる中、ザインは俺のステータスを見てうんうんと頷いていた。アリシア陛下もまた、驚きのあまり目を見開いている。
――ちなみに、俺の頭の中に浮かぶステータスは、こうなっていた。
=====
タケシ・クヌギ
42歳 男
ジョブ:侍
レベル:42
力:420+420
技:420+420
速:420+420
体:420+420
魔:420+420
抗:420+420
運:420+420
スキル
剣術10 、抜刀術9 ↑ 、忍術10 ↑、投擲術6、格闘術8 ↑、偽装10 ↑、隠密8、慧眼9 ↑、危機察知9、毒耐性7、精神耐性9、剣舞9、魔力回復7 、限界突破6
称号
『侍マスター』『忍者マスター』『巻き込まれし者』『諸行無常』
(忍術)
[火遁][水遁][土遁][雷遁][風塵][風遁][空蝉][縄抜け][開錠][息吹][身体操作][物見][暗目付][影縛り][影渡り]
(剣舞)
[いノ型][ろノ型][はノ型][にノ型][ほノ型][へノ型]
[暗器]:皎刀・酸毒牙
[空蝉]貨幣、保存食、衣類、魔物素材、重要書類
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(強敵、だったからな)
やはり相当レベルが上がっていたのだろう。天童と氷室との連戦で、忍術など戦いに使用したスキルが上がっていた。
先代の時の戦いでも思っていたが、ステータスが半分くらいしかないのに彼と戦えたのは『剣技』と『剣術』の違いだと思う。
どうやら、この補正の差は俺が思っている以上に大きいらしい。それを[身体操作]で強化して何とか互角に持っていったのが先代戦だったが、果たして『限界突破』を使えばどうなるのだろうか。
――などと俺が考えていると、気を取り直したゼノビアの重鎮一同が口を開いた。
「ガッハッハッ! たしかにワシより強いな!」
「こ、これほどまでとは…」
「何よ。それよりも、このスキルの数は何よ」
ガルムは豪快に笑い飛ばしている。ザインは”勇者”との力を思い出したのか愕然としてしまい、リュメルはスキルの数の多さに反応していた。
(他に反応すべきところがあるんじゃないか)
各々の違う反応に内心苦笑していると、ややあってアリシア陛下が俺に話しかけてきた。
「確かに『巻き込まれし者』ですね」
「ええ。”勇者”の称号がないとは、こういうことです」
「妾もそう思いますわ。そして、クヌギ様のステータスが特別なのも、恐らくそのせいでしょう」
――アリシア陛下の言葉に、今度は俺が驚く番だった。
「どういう事ですか?」
「それ以外の要因は考えられないからですね。我が国には”大侵攻”の勇者トールのステータスの記録がありますが、彼には勇者の称号はあり、ステータス表記も我々と同じ形でしたから」
「それに異常よ。異世界人がスキルが多いのは知ってけど、これは異常よ」
アリシア陛下の補足をするように、リュメルも呆れたように口を挟んでくる。
(そうかもしれないが)
召喚時はもっと少なかったが、必要に応じて次から次へと増えていった。だが『慧眼』によれば、スキルには取得条件があるとあった。例えば『魔力回復』は何度も魔力枯渇を起こせば手に入る筈だ。
それをリュメルに伝えてみると――
「バカでしょ!? 魔力枯渇を繰り返したら普通の人間なら死ぬわよ! バカでしょ!?」
「そもそも、その『慧眼』というスキルも初めて聞きます。鑑定系のスキルなのかと思いますが」
「ああ。元々は『看破』というスキルだった。レベルが上がったら進化した」
「『看破』というスキルも初めて聞きますね。やはり”勇者”のスキルは特別なのでしょう」
「嘘でしょ!? スキルが進化するなんて知らないわ。嘘でしょ!?」
リュメルが口を挟んだ事により、すっかりアリシア陛下に対する口調も通常通りになってしまった事に気づいた俺は、慌てて頭を下げた。
「陛下。言葉が乱れてしまい、申し訳ありません」
「よいのですよ、クヌギ様。お楽になさってと申したでしょう」
アリシア陛下は本当に気にしていないようで、俺とリュメルのやり取りを楽しそうに見ていた。
「ま、ウチのボスは、そんなことは気にしないさ」
「ええ。我が主は寛容なお方ですから」
「そういうことじゃな。お主も気にせぬことじゃ」
――うんうんと頷く一同に、俺は別の意味で感動する。
(…ここは、温かいな)
初めてゼノビアに足を踏み入れた時と同じような感動が、ここにはあった。他民族が一丸となって、人間の女王を盛り立てている光景に胸が熱くなる。
異種族との生活は、文化や風習など当然色んな問題で衝突が起きている筈だ。だが、それぞれの種族の長であろう、このゼノビアの重鎮たちが率先して、互いを理解しようとしている。
アルカディアは亜人が住んでいるがまだ人間が中心の街だった。フォレストハイムは人間に迫害された亜人たちの住処で、人間への風当たりは強い。
なのに、ここゼノビアでは人間すらその輪の中に受け入れている。それが素直に凄いと思った。
(なんとしても、守らなければ)
勇者を止める材料になりそうな送還の術は、創世神にしか分からないそうで、その線は使えなくなった。だが、グレンツヴァハト要塞での様子から考えて、やはり天童と氷室は実力行使でしか止まらないだろう。
神崎くんと早乙女さんが二人を止めてくれればいいのだが、あの調子なら恐らくは無理だろう。むしろ嬉々として俺を殺しにきそうな勢いだった。
(…なら方法は一つしかない)
単身で迎撃に向かうしか、ここゼノビアがグレンツヴァハト要塞の二の舞になる事は防ぎようがない。
俺より弱いという事は、ゼノビア連合最強の戦士であるガルムのステータスを持ってしても、トールにすら遠く及ばないだろう。なら、天童と氷室という二人の勇者を前にしたら、足止めすら難しい筈だ。
(あの二人なら人質として使いそうだしな)
どう作戦で来るかは分からないが、俺が勇者たちを足止めしている間は、ゼノビアの防衛に専念してもらう方がよさそうだ。
「ねえねえ。お話おわった?」
――俺が今後の方針を考えていると、突然ドアが開いて小さな女の子が入ってきた。赤毛のショートカットの間から、ガドと同じ角が生えている。くりくりした大きな赤い瞳が爛々と輝いていた。
「こら、セラフィナ。待っているように言ったじゃろ」
「でもでも。ひとりでつまらないんだもん」
ガドが優しく少女――セラフィナの頭を撫でると、部屋の中がほんわかした空気になった。アリシアを始め、全員が彼女を優しく見守っている。
「ねぇねぇ。おじちゃん、だれ?」
「この人はクヌギ様よ。大事なお客様なのよ。セラフィナ、挨拶なさい」
「うんうん。わたしはセラフィナ! クヌギのおじちゃん、よろしくね!」
「ああ。タケシ・クヌギだ。宜しくな」
「えへえへ。わーい」
俺がガドに視線を送ると、やりたい事を察したガドが一つ頷く。それを見た俺がセラフィナの頭を撫でてやると、セラフィナは目を細めて笑った。
「珍しいな。セラフィナが簡単に懐くとは」
「ガルム殿は散々泣かれておりましたな」
「うるさい」
「不思議だわー。わたしも初めて見るくらい不思議だわー」
「うむ。まぁ、問題はなかろうて」
『ステータス』の一件での衝撃は、セラフィナの登場で一気に無くなっていた。
(自分でも不思議なんだがな)
この世界に来てから、ルカやトーマスといった子供と接する機会が増えたからだろうか、それかこの見た目が珍しいのか、子供に懐かれることが多いように思える。
(…トーマスと気が合いそうだ)
そんな風に、別室で待つマリアたちに意識が向いた、その時だった。
―――ドゴゴゴゴ!!!
”何か”が爆発するような轟音と、城全体が揺れるような衝撃が、俺たちを襲う。
「きゃーーー!」
「おおぅ!」
「うわっ!」
「むぅ…」
その衝撃は立っていられないほど凄まじく、全員が床に転がった。咄嗟にガドがセラフィナを、ガルムがアリシアを庇っている。
「一体…何が」
アリシアがそう呟きながら立ち上がると、窓の向こうに視線を送った。次の瞬間、その表情が固まってしまう。
「そんな…ゼノビア渓谷が……」
――俺がアリシアの視線の先を見ると、そこにある筈のものが無くなっていた。
更新が遅れて申し訳ありませんでした!
クライマックスに向けて色々と練っておりますので、ここから更新は月、水、金の17時頃とさせてください!
完走しますので、斬られ役のおっさんをよろしくお願いします!




