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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第八章 勇者出陣編

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86/87

8-7 おっさん、”魔王”と会う

「ザイン様! この者らは?」

「援軍だ」

「援軍?」

「時間が無い。詳細は後続の隊に聞け」

「はっ!」


 ザインのおかげでスムーズに国境門が開かれて、俺たちはゼノビアに入国した。(パトリシア)に頑張ってもらい、ただ首都ゼノビアまでの道を魔車で急ぐ。


 ――途中、野営をして一晩明かすと、再び魔車を走らせた。


「見えたぞ」

 

 深い渓谷を抜けたところで、御者台のザインがぽつりと言う。

 その視線の先、なだらかな山の斜面に、”それ”はあった。


 黒い城壁に囲まれた城塞都市。その斜面の上部には城壁と同じ色の立派な城があり、俺たちが進む平野を睨みつけている。進入経路は、この渓谷を通るしかなく、抜けたとしても城壁から一斉に弓や魔法で狙われそうだ。


 ――渓谷と城壁の二重の壁に囲まれた都市、それがゼノビア連合の首都、ゼノビアだった。


「すごい…」

「ああ。こいつはすげぇや!」

「あれがウワサの”天然要塞”かー」

「本当にゼノビアまで来たのね…」


 目の前の圧倒的な街並みに、マリアたちがキャビンの中から感嘆の声を上げる。それを聞いたザインが誇らしげに胸を張った。


「そうだろう? 我らの祖先が切り拓いた、誇り高き場所だ」


(祖先、か…)


 かつて、ローランド帝国の第一王子だったラインハルト。政争に敗れ、この地に追われた彼と亜人たちは、どのような気持ちでここを切り拓いたのだろうか。


(本当に…頭が下がる)


 ”弟”に負けても、ラインハルトは決して諦めなかった。逃げ切って、自らの理想をここに築いたのだ。亜人たちを、自国の民を守るという強い信念が、この都市からは感じられた。


「ああ。凄いな」


(…そう、守らなくては)


 本来ならば、ローランド帝国の正統な後継者であるゼノビアの王。それが簒奪者であるルーンベルグに再び追い詰められている。しかも、俺たちまで巻き込んだ上で、だ。


(落とし前はつけてもらうぞ)


---


 城門まで来たが、やはりザインが居るおかげで、あっさりと許可が通る。


 実はザインはゼノビアの重鎮の一人で、軍部の副司令官だった。宣戦布告を受けてグレンツヴァハト要塞に詰めていたのは、やはり現場で直接政治的な判断が出来る人員が必要だろうとの事だった。

 だが、想定以上に勇者が強く、ただただ力押しされてしまったと彼は言う。「不甲斐ないものだ」とザインがそう零すのを、俺は聞かないふりをしていた。


 ――城門を潜ると、雰囲気は一変する。


(これは…)


 そこには、リベルタとは違う活気があった。亜人が、獣人が、そして魔族が通りを行き交い、談笑する。驚くべき事に、その中には数は少ないが人間の姿もあった。

 なだらかな一本の坂道が目抜き通りとなっていて、城まで一直線で伸びている。その中央には広場があり、数々の露店が並んでいた。

   

(…そうか、これがラインハルトが守りたかった光景か) 


 全種族が手を取り合い、お互いを認め合う”理想郷”。故に最後まで抗い、この地まで来ても決して諦めなかったのだろう。その結果が、ここにあった。


(警戒しすぎたか…)


 ”魔族の国”と聞いていたので、てっきり人間は目の敵にされていると思っていた。だが、ゼノビアでは共存出来ているようだ。この様子なら、マリアたちが一方的に敵視される事はないだろう。とはいえ、戦場になる可能性がある以上、あまり楽観視する訳にはいかない。


「こんな場所があるなんて…」

「ホントホント、さすがに驚いたわー」

「マジで、すげぇな…」


 キャビンの中からぼそぼそとそんな感想が聞こえてくる。トーマスの声が聞こえてこないのは、彼はすっかり眠っていたからだ。


 魔車はゆっくりと目抜き通りを城を目指して進んでいく。


 御者台のザインに気付いて手を振る者も多かった。彼は民を心配させないように、表向きには新品のマントを身に纏い、傷を隠している。

 聞けば天童にやられた傷は、応急処置で血を止めているだけだそうだ。残念ながら回復魔法を使える人間がいなかったので、着替えだけ済ませて同行してもらっていた。


 そして中央広場を抜けて、しばらく進む事しばし――


「ザイン・ベルトラムだ! 開門せよ!!」


 ――目の前では、ギィィと重い音をたてながら、城門がゆっくりと開いていった。


---


「しばらく、この部屋で待っていてくれ」

「分かった」 


 ザインに連れられて城内に入った俺たちは、ある一室に案内される。そこは会議室のようで、テーブルと椅子しか置いていなかった。


(気配は…ないな)


 俺は天井裏や隣の部屋などの気配を探るが、どうやら見張りはつけられていないらしい。それくらいには信頼されているようで、内心ほっとしていた。


 城内の様子は、まさに質実剛健といったところで、華美な調度品などは一切飾られていなかった。贅を尽くしたルーンベルグの王宮と比べれば、雲泥の差だ。


(落ち着くな…)


 俺にはやたらキラキラしていたルーンベルグより、ゼノビアの城の雰囲気の方がよほど居心地がよかった。今までそういう場所に関わる機会がほとんどなかったので、なんていうか居場所が無いように感じてしまうのだ。

 マリアたちも特に臆する事は無いようで、小声で何やら会話をしている。トーマスは起こすのが可哀そうだったので、寝かせたままフーゴが負ぶって移動してきたのだった。


「待たせたな」


 ザインの声がして、俺はドアに視線を向けた。気配から、複数の人物がいることが分かる。だが、部屋に入ってきたのはザインだけで、他の人物の気配が遠のいていった。


「クヌート、着いてきてくれ」

「俺だけか?」

「ああ。…子供には難しい話になるだろう」

「それもそうね」

「はいはい。アタシたちは留守番してるわ」

「分かった。行ってくる」

「すまん。後でメイドを寄越す」


 マリアたちに油断はするなと視線で合図を送ると、彼女たちも頷いて返す。そして、俺はザインの後をついていった。

 部屋を出て、角を一つ曲がった廊下の突き当りの部屋まで来ると、ザインがノックをしながら中に声をかける。


「連れてきました」

「お入りなさい」


 ――廊下に凛とした声が響く。


 ザインに連れられて中に入ると、円卓の周りには四人の人物が座っていた。その全員の視線が一斉に俺に向けられる。

 そこに居たのは獅子(ライオン)の獣人、エルフの女性、竜の角を生やした初老の男性。そして、その中心にいるのは、一人の人間の女性だった。

 美しい白金髪(プラチナ・ブロンド)の髪を肩で切り揃えていて、白いシンプルなドレスを着ている。それが無駄な装飾品で飾り立てる必要がないくらいに画になっていて、ただ座っているだけで誰もが惹きつけられる空気を纏っている。


「ザイン、ご苦労様でした。席についてください」

「はっ。我が主よ」


(…つまり、この女性が)


 ザインは恭しく一礼すると、竜人の隣の席に着く。

 それを待ってから、ザインに主と呼ばれた女性が話し始めた。


「妾はこのゼノビアを治める、アリシア・フォン・ローランドと申します。異世界の勇者よ」


 ザインから、俺が”勇者”の一人だと聞いているのだろう。彼女は、じぃっと俺の目を覗き込むように見ると、柔らかく微笑む。 

 見た目は若々しいが、その纏う空気はとてもではないが老練のそれに近い。長きに渡り国を治めてこなければ出せない”何か”が秘められている。 


「――そう、ルーンベルグからは”魔王”と呼ばれている者です」


 そう俺に告げる声色からは、感情は読み取れなかった。淡々と事実を事実として言っているだけのように思える。

 魔族ではなく人間なのに、魔族の国の王だから”魔王”などと呼ばれているのは、普通なら屈辱に思うだろう。なのに、それを感じさせないのは、本当に何とも思ってないのか、はたまた人の器の違いなのか。


 周囲の視線から感じるのは、敵意まではいかないが警戒と興味の色だった。諸手を挙げて歓迎されている訳ではなさそうだが、追い返される事はなさそうだ。


(それなら、やりようがある)


 信用してもらう為には、まずこちらが信用するしかない。受け入れてもらう為にも俺は”全て”を話す事にした。


 ――俺は膝をつき、頭を下げる。


「お目に掛かれて光栄です、陛下。私はタケシ・クヌギ。勇者召喚に巻き込まれてこの世界に来た”迷い人”です」

「クヌギ様、これはこれはご丁寧に。けど、お楽にして構いませんよ」

「恐縮です」

「ところで巻き込まれたとは?」

「言葉の通りです。たまたま勇者たちと同じ場に居ただけで、ステータスに勇者の称号はありません――」

 

 勇者の称号がないという俺の発言に、一瞬だけ空気がざわついた。 

 そして、俺は手短にゼノビアに来るまでの経緯を話して聞かせたのだった。


「――そして、グレンツヴァハト要塞で勇者を撃退して、今に至ります」


 ――俺の話が終わると、部屋の中に沈黙が訪れる。

 

(さて、どう捉えられたか)

 

 俺に向けられる視線は特に変わったようには思えない。だが、反応がない事にはどうしようもなかった。俺がそんな風に困惑していると、女王が沈黙を破った。


「それはそれは、大変でしたね。それで、ゼノビアに何を望むのですか?」

「お言葉に甘え、一つだけ聞きたい事があります」

「なんでしょう?」

「勇者を送還させる術を知りませんか?」

「残念ながら、存じません」


 ――ここで、アリシア陛下が俺に向かって頭を下げた。


「陛下!?」「主!?」


 慌てる側近たちを手で制すると、彼女は頭を上げる。


「勇者召喚は、本来ならば創世神様のみが行える奇跡なのです――」


 ローランド帝国に伝わっていた話によれば、勇者召喚の魔法陣は邪神が再び蘇った時に対抗する術として初代皇帝に託したものだそうだ。

 なので、世界を渡る術は創世神ルミナスにしかわからないのだと、アリシア陛下は言う。


「我らの世界の事情に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありません」

「陛下が頭を下げる必要はありませんよ」

「いいえ」


 アリシア陛下はきっぱりとそう言い切って、真剣な眼差しで俺を見つめた。


「我が一族がしでかした罪です。ならば頭を下げるのが道理でしょう」


 ――そのあまりの潔さに、俺は言葉を失ってしまう。


(…器が違う)


 かつて、ルーンベルグで出会った”国王”とは、その在り方がまるで違った。その心まで気高く、美しいその姿こそ、あらゆる種族をまとめる”王”として相応しいものだった。故に、この国は一つに纏まっていられるのだろう。


「…ならば、謝罪は受け入れさせていただきます」

「ありがとう存じます」

「そして、一つ提案をさせていただきたい」

「何でしょう?」


 ――今度は俺が頭を下げる番だった。


「我が”同胞”の不始末をつける為に、私の参戦を正式にお許しください、陛下」


 

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