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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第八章 勇者出陣編

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閑話 勇者たちの出陣

「オレたちもついに出陣かー」

「…緊張するね」

「ふっ…いよいよ、この俺、天童様の華麗なる伝説が始まるな」

「そうネ。まぁ、随分と前準備に時間がかかったけど、選ばれし私たちなら問題ないでショ。ドラゴンゾンビも楽勝(ラクショー)だったシ」

「まぁな。だが、獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすという。これだけ強くなったのだから、もはや魔王など俺の敵ではない!」

「その通りですわ! テンドウ様!!」

「ふっ…クララもそう思うか」

「はい! 必ずテンドウ様なら成し遂げてくれると、信じておりますわ!!」

「全く、罪な男だな。俺は」


 そう言いながら、天童がそのプラチナブロンドの髪をかきあげると、周りから黄色い悲鳴が上がる。

 

 ここはルーンベルグ王国の王宮にある大広間。かつて勇者の歓迎会が行われ、功刀が”付き人”扱いされた、あの広間だ。そこで今日は、王国中の貴族を集めて勇者たちの出陣式が行われている。豪華な料理と酒が振る舞われて、勇者たちは貴族たちに囲まれていた。


「楽しんでおりますか? 勇者様方」

「お姉様!」


 その声が響き渡ると同時に、勇者四人を囲んでいた貴族たちは、さっと道を開けた。そこに立っていたのは、第一王女エリザベートである。その美しく、優雅な姿は相も変わらず健在であり、人々を惹きつける”何か”があった。

 クララは、そんな姉の姿を目の上のたん瘤のように感じていた。この場では自分と天童が主役だった筈なのに、それを邪魔されたと思っていたからだ。

 天童麗司との仲は随分と深まっており、クララを名前で呼ぶようになっている。その上で”私の”勇者が魔王を倒せば”完璧”な姉の上に立てると、彼女は思うようになっていたのだ。


 ――だが、そんなクララの様子を気にもせず、エリザベートは言葉を続ける。 


「いよいよこの時が参りましたね。テンドウ様、カンザキ様、ヒムロ様、そして、サオトメ様。きっと、今はこの場にいないクヌギ様も、皆様のことを応援しているでしょう」


 その言葉にいち早く反応したのは、天童麗司だった。彼は一瞬眉をピクリと上げたが、苦虫を噛み潰したような表情になりそうになるのを堪えて、余裕ぶって口を開く。


「ふん! 今さらあんな”役立たず”のことなぞ、どうでもいい!!」

「そうヨ! せっかく忘れかけていたのに!」


 逆に氷室鏡華は、イライラを隠そうともせずに吐き捨てる。彼女もまた、映画撮影中ずっと功刀の事が気に入らなかった一人だ。あんな冴えないおっさんが、自分の出演する映画に関わるなんて許せなかったのだ。しかもスタッフの評判はよく、誰も彼もがあのおっさんを褒め称えるのも見て、ずっと気分が悪かった。


(どう考えても、褒めなきゃイケナイのは、あんなおっさんよりもアタシでしょう?)


 生理的嫌悪、というものかもしれないが、とにかく氷室鏡華は功刀の事が気に入らなかった。だからこそ、この異世界に来てから立場が逆転して、彼女はずっと気分が良かったのだ。なのに、その不愉快な存在の話をまた蒸し返されて、氷室鏡華は気分を害していた。


「そうだな…おっさんの分まで、やってやるさ!」

「…はい。彼の分まで、私たちが頑張ります!」


 対照的に、神崎隼人と早乙女蓮は功刀に対して好意的だ。それに、ヴェスタリアの件には、功刀が関わっている可能性が高いと二人とも考えている。

 特に、グレゴールから話を聞いた早乙女蓮に至っては、もはや確信に近い。ただ、そのことを二人で話した訳ではなかった。誰が聞いているか分からないからだ。


 だが、別に四人の仲が悪いという事もない。それぞれの思惑は違うが、ちゃんとパーティとしては機能しているのだ。そして、魔王を倒すという目的が一致している以上、下手に仲を拗れさせるのは悪手であると、全員理解はしている。

 日本にいた頃、四人はそれぞれ違う事務所に所属していて、あの現場で初めて共演したのだ。それなりに芸能界で結果を残している彼らは、何だかんだ言っても仕事は仕事として向き合う事には慣れている。その為、このパーティはお互いの”役割り”を理解しているので、成立はしているのだった。

 

「ええ。この世界を、宜しくお願いいたします」


 エリザベートは優雅にカーテシーをして、この場を去っていく。その耳にある青いイヤリングが、シャンデリアの光を受けて輝いていた。そう、エリザベートは『真実の雫』で、勇者たちがどこまで成長したのかを見る為に、わざわざ挨拶をしにきたのだった。


=====


レイジ・テンドウ

22歳 男性

ジョブ:勇者


レベル:71


力:2240

技:2000

速:2080

体:1920

魔:1760

抗:1840

運:1440


スキル

剣技、統率、挑発、威光、斬撃強化、連撃強化、光魔法、覇気


称号

『召喚されし勇者』『選ばれし者』『魔物殺し』

=====


=====


ハヤト・カンザキ

24歳 男性

ジョブ:重戦士


レベル:71


力:2400

技:1440

速:1280

体:2560

魔:1120

抗:2080

運:1600


スキル

盾技、挑発、鉄壁、リベンジャー、不屈、打撃強化、魔法障壁、身体強化


称号

『召喚されし勇者』『守護者』『鉄壁の盾』

=====


=====


キョウカ・ヒムロ

23歳 女性

ジョブ:魔法使い


レベル:71


力:960

技:1600

速:1440

体:1200

魔:2560

抗:1920

運:1760


スキル

火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、魔法制御、詠唱短縮、魔力増幅、魔力回復、合体魔法


称号

『召喚されし勇者』『魔導の才』『魔物殺し』

=====


=====


レン・サオトメ

21歳 女性

ジョブ:聖騎士


レベル:71


力:1440

技:1760

速:1680

体:1600

魔:2080

抗:2240

運:1920


スキル

剣技、回復魔法、治癒魔法、補助魔法、魔法障壁、浄化、祈り、身体強化


称号

『召喚されし勇者』『癒しの使徒』『浄化の光』

=====


(やはり、勇者たちの成長は目覚ましいものがありますね…)


 エリザベートは彼らの『ステータス』を見て、内心ほくそ笑む。大量に魔物を狩りにいかせた結果、ルーンベルグに棲む強力な魔物の巣は、ほとんど勇者たち手によって消された。また貴重な魔物の素材も手に入り、国庫は潤っている。

 その為に、今までは魔物に対抗するための戦力を、惜しみなくゼノビアとの戦争に注ぎ込む事が出来そうだった。とはいえ、今の勇者たちと比べれば、例えルーンベルグ最強の騎士であろうとも足手纏いになり兼ねない。


 この国、ルーンベルグ最強の騎士であるアルフレッド・フォン・アーデルハードでさえ、ステータスはこうだ。


=====


アルフレッド・フォン・アーデルハード

42歳 男性

ジョブ:黒騎士


レベル:78


力:820

技:820

速:770

体:800

魔:780

抗:780

運:390


スキル

剣術、槍技、統率、馬術、気配感知、身体強化、剛力、威圧


称号

『騎士団長』『魔物殺し』『悪運に魅入られし者』

=====


 いざという時に勇者たちを御する為、”彼”にもレベルを上げてもらったが、やはりステータス補正のある勇者たちには及ばなかった。それでも、恐らくこの世界の住人では最強に近いだろう。


(…いえ、どうせならフォレストハイムに向けてもいいかもしれませんね)


 エリザベートが望むのは、一刻も早くこの世界をひとつに纏める事だった。ルーンベルグの旗の元、この地に住まう”人類”全てが手を取り合う必要があるのだと、彼女は思っている。ある日を境に、エリザベートは何故かそう考えるようになっていた。


(そのための、勇者召喚ですもの…)


 かつて、世界を救った”勇者”の力を借りてでも、再びこの世界に平和をもたらす。それこそが、彼女の望みであり、その為には手段を選んでいられなかった。


(多少の犠牲は、目を瞑るしかないわ)


 現国王である父親エドヴァルト七世は、魔族の全てを滅ぼそうとしているが、エリザベートはそうは思っていない。魔族の長である魔王さえ倒せばいいというのが、彼女の考えだった。そうなれば、生き残った魔族は烏合の衆となる。なので、条件次第では亜人と共に、ヴェスタリア人のように受け入れてもいいと考えている。


(わたくしならやれるはずよ)


 ――誰にも見られないように、広げた扇に隠した手をきゅっと握る。


 そう、全ては自分の思惑通りにいっているはずだった。

 ヴェスタリア人の反乱は想定外だったが、問題なく鎮圧できた。勇者たちも想像以上の成長を遂げている。

 なのに、エリザベートにはずっと心の奥で何かが引っかかっている。何か重大なことを見落としているような気がしてならないのだ。それは、果たしていつからだっただろうか――


(そう。クヌギ様が行方不明になった時…)


 勇者召喚に”巻き込まれてしまった”一人の冴えない中年男性。

 物腰は柔らかく好感は持てたが、あまりにも低いステータスから、教会のいいように使われ見せしめにされてしまった不運な男。

 騎士団の演習に同行して、若手騎士を逃がす為にアシッド・ヴァイパーの囮となった無能者。


(…アシッド・ヴァイパーの、囮?)


 こうして事実を整理していくと、あの時は気にも留めなかったことに、エリザベートは初めて引っ掛かった。


(騎士団を動かして退治するような魔物相手に、あのステータスで囮が務まるとは…)


 そう言えばあの時、報告をしに来たグスタフの様子も少しおかしかったと、エリザベートは思い返す。グスタフとは長年の付き合いなので、彼女は彼の心の機微を多少は掴めている。あの時――行方不明扱いにすると言った時、自分の決定に何か不服があったかのような態度をしてはいなかったか。


(気になりだすとキリがないですわね)


 エリザベートは、グスタフに直接問いただそうと決意する。功刀に関しての報告を受けてはいたが、彼がどう評価をしていたのかを訪ねた事は無かった。いや、あのステータスの低さから、功刀の事を注視するのは意味がないと判断したからだ。

 エリザベートには、第一王女としてやるべきことは山ほどある。余計なことに思考を割くくらいなら、他のことを考えるべきである。そう当時の彼女は思っていた。

 だが、そもそもそれが間違いだったとすれば――


(急ぎましょう)


 エリザベートは、グスタフを呼び出すように侍女に告げると、自室へと戻っていった。

 

 ――そこで、彼女はふと気づく。

 

(そういえば、ハインリヒの姿は見かけませんでしたね…)



 大広間では、まだまだ宴の終わる気配は無く、遠く喧騒が夜の廊下に響き渡っている。


 


 ――今宵の空に、月は無かった。



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