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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第七章 フォレストハイム森林国編

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7-8 おっさん、"先代"と会う

 乱枯木(エント)の邪神の呪縛が解け、魔力の放出が終わると、その幹はみるみる萎んでいく。


「なっ!?」


 誰かが上げた焦りの声が森に響き渡った。


「駄目、だったのか…」


 そんな失意の声が続々と耳に入る。

 

 だが、若木程の大きさまで縮んだエントは、魔法陣のあった中心に根を生やして歩いていくと、腰を降ろすように大地に根を埋め込んでいった。


「なんと…エントがこの地に」


 エルヴァンはその光景を見て、涙を浮かべながら驚嘆の声を上げる。

 その高さは3メートルくらいで、規模は随分と小さくなってしまったが、瑞々しい生命力に溢れていた。


=====

エント

危険度:F


邪神の魔力が浄化され、若返ったエント。世界樹の新芽から若木に成長したフォレストハイムの森の主。この森にますますの恵みをもたらすであろう。


=====


(一件落着だな)


 『慧眼』の結果を視た俺は、一息吐いてその場に座り込んだ。結果、ヴェスタリア撤退戦以上の厳しい戦いとなり、流石に心身ともに限界だったからだ。


「クヌート殿!?」

「大丈夫だ」


 そんな俺の様子に、エルヴァンが慌てて駆け寄ろうとするが、俺は手を挙げてそれを阻止する。ただ疲れているだけで、別に怪我をしている訳ではないからだ。


 すると、若木(エント)が突然光を放ち、それが小さな人影を形作っていく。やがて光が収まると、そこに居たのは、髪の毛の部分に緑の葉っぱの生えた、小さな女の子だった。


 あまりの光景に、驚きのあまり周囲の者たちは固唾を飲んで見守っている。


 髪と同じ緑の葉のワンピースを着ているその娘は、座り込んでいる俺に向かってきて、頭の上に手を置いた。


(これは…)


 まるで大地から生命力そのものを身体の中に注入されたように身体全体に活力が漲り、先程まで感じていた疲労感は全く残っていない。


「ありがとう」


 葉の娘がそのままの体勢で居るので、俺が座ったまま礼を言うと、彼女はニコリと笑った。


『こちらこそ。貴方のお陰で助かりました』


 その声は、俺の頭の中に響いているようで、周囲の反応を見る限り、聞こえてはいなさそうだ。


(もしかして…)


『そうです。念話といって、貴方だけに言葉を届けています。この姿はまだ幼く、人間の言葉が話せないので』


 どうやら、俺が思った事が彼女にそのまま伝わるようだ。なので、俺はふと思った疑問をぶつけてみた。


(貴女は、世界樹の精霊なのか?)


『ええ。またの名を木人(トレント)とも言います』


 彼女の説明に寄れば、木人とは世界樹の分け身であり、成長した世界樹が、各地に散らばる為の存在だという。

 俺が魔法陣を切除した事により、体内の邪悪な魔力が浄化されて、成長に繋がったという事だ。


『ですから、貴方が居なければ私は魔界樹と成り果て、瘴気を撒き散らすだけの存在と化していた事でしょう』


(瘴気?)


『魔力と邪神の気が混ざったもので、生きとし生けるものを滅びに導く邪悪な魔力。魔物を産む根源です』


(なんだと…魔力によって変化したものじゃないのか?)


『魔力に瘴気が交わった時、その存在を魔物と化すのです。その瘴気の量が多ければ多いほど、強力な魔物となります』


 木人から聞かされた事実は、おそらくセレスティアでも知らない事だろう。彼女に伝えるべきか俺は迷ったが、


『貴方に全てをお任せします』


 俺の思考を読んだ彼女は、そう言って微笑んだ。


『今はこれが限界です…しばらく眠りにつきます。どうかこの世界を、ルミナス様を……』


 彼女はそこまで伝えると、再び光に包まれて、粒子となって消えていった。

 

 そこまでを見届けたエルヴァンが、今度こそ彼らしくない高揚した様子で駆け寄ってくるので、俺は立ち上がって彼を迎えた。


「今のは…いや、今の御方は」

「世界樹の精霊だと言っていた。そして、木人であるとも」

「おお、おお…何ということだ」


 俺の言葉を聞いたエルフは皆、歓喜の涙を流していた。長寿であるエルフであっても、世界樹の精霊が生まれる瞬間を見られるのは稀だそうで、とても光栄なことだそうだ。あの気の強いリーファですら、涙を隠そうともしなかった。


「トレントだって!?」

「本当にいたのか!」


 また、ドワーフや他の獣人たちもまた、木人の姿を見るのは初めてで、別の意味で興奮している。彼らの中では、お伽話に出てくるような存在らしい。


 そんな周囲の興奮の渦に入れず、俺が一人取り残されていると、突然バンっ、と背中をを叩かれた。


「がっはっは! やっぱとんでもねぇな、客人!」

「グランか」

「オレの目に狂いはなかったな! ところで客人?」

「なんだ?」

「改めて名前を教えてくれねぇか?」

「言ってなかったか? クヌートだ」


 俺が名乗ると、それまで豪快に笑っていたグランがその表情を引き締める。そして、かばっと頭を下げた。


「クヌート、アンタのお陰でスタンピードの被害は最小限に収まった。この街の警備隊の責任者として礼を言う」

「頭を上げてくれ。俺は、俺の仕事をしただけだ」

「いや! 人間だからと蔑まれていたのは感じていたはずだ! なのに、アンタは率先して死地へと乗り込んでいった! そんなことオレだったらできねぇ」


 だから頭を下げさせてくれ、とグランは言う。


「いいかお前ら! これ以上クヌートを人間だからと蔑みやがったら、このオレが許さねぇぞ!!」


 グランが高らかにそう叫ぶと、彼の部族である熊獣人たちが「そうだ、そうだ」と同意する中、気まずそうにしている者たちも見受けられた。そして――


「当然だろう。クヌート殿は、このフォレストハイムの恩人であり、勇者なのだからな」


 ――エルヴァンのその言葉に、その場が一瞬だけ沈黙する。

 だが、次の瞬間、先程以上の歓喜の渦が巻き起こったのだった。


---


「すまない。年甲斐もなく興奮してな」

「いいさ。それで、この先に?」

「ああ。"彼"はこの先の小屋に、一人住んでいる」


 あの後、オルダ・オーバの全住民を巻き込んで、勝利の宴が開かれる事になった。

 当然、防衛に出た者の中には、少なくはない犠牲者が出ている。しかし、本来なら全滅していてもおかしくはなかったそうで、その関係者は名誉ある死だと受け入れた。彼らを誇りに思っているといい、むしろ率先して宴の準備を手伝っているそうだ。


 急遽開かれた宴では、エルヴァンの最後の一言のお陰で、俺に人が群がり大変なことになった。

 

 特にリーファやシェディアなど、エルフの中で魔法を使える者たちは、俺が無詠唱で雷を放ったことから、薄々勘付いていたらしく質問攻めにあったのだ。

 何とかそれを捌いていると、エルヴァンが「大事な話がある」と言って、俺を連れ出してくれた。


 ――そうして今、オルダ・オーハ郊外の森を俺たちは歩いている。


「ここだ」


 そう言ってエルヴァンが立ち止まったのは、粗末な木製の掘っ立て小屋の手前だった。だが――


「来たか」


 ――その入口の前には、待ち構えていたのか剣のように鋭い目をした、でも何処かくたびれた空気を纏う一人の老人が立っていた。


---


 小屋の中に案内されると、そこにはキッチンとテーブル、そして本棚とベッドが置いてあるだけだった。使い古されたそれらを見れば、長年に渡り質素な生活を送ってきた事が想像できる。

 椅子に座るように促された俺とエルヴァンが席に着くと、老人はそのままベッドの方へと向かう。


「椅子が二つしかなくてすまないな」

「いいや、こちらこそ急に押しかけてすまない」

「構わない。来ることはわかっていたからな」

「何故だ?」

「スタンピード…あれの魔力乱れを感じて、様子を見ていた」


 そうしてベッドに辿り着いた老人――先代勇者トールは腰を下ろした後、改めて俺の顔をじっと見つめる。


 そして()()()で俺に話しかけてきた――


『この言葉がわかるか?』


 ――なので、俺も日本語で返すことにした。


 エルヴァンは一瞬だけ怪訝な顔をしたが、俺たちを静観する事に決めたようだ。


『ああ。俺は功刀武士。こちらではクヌートと名乗っている』

『そうか。聞いてるとは思うが、私はルーンベルグの元勇者でトール・ジュライ。本名は文月透(ふみづきとおる)だ』


 ――そこからトールが話したのは、アルカディアにあったアントラスの手記の内容に準ずるものだった。

 

 ルーンベルグに召喚された時、トールはまだ15歳の高校一年生だった。漫画やアニメ、ライトノベルが大好きで、召喚された時は、思わずテンションが上がってしまったという。


「――あの時の私は何もわかっていなかったんだ。勇者だと煽てられ、いい気になっていた。当時の王に言われるがまま、勇者としての力を磨き、そしてとんでもない事をしてしまった」

「大侵攻、か」

「…そうか、セレスティアに会ったんだな」

「ああ。アルカディアで、アントラスの手記も読んだ。それで、貴方に会いにきたんだ」

「その手記のことは、セレスティアから聞いているよ。初めは恨んだものだが、彼もまた私と同様騙されていただけだった…」


 そこで、トールは何かを懐かしむように視線を上に向けて、目を閉じる。


 しばらくして、彼は再び重く口を開いた。


「なら、何を聞きにきた?」

「貴方が召喚された時の状況だったが、先に聞きたい事ができた」

「何だ?」

「確認するが、貴方が召喚されたのは百年前じゃないのか」

「そうだが、お前はいつからきた?」

「2026年だ」

「なんだと…私は1996年だぞ」

「つまり、地球とエルディラントには時差がある」

「そういう事だな」

「そこで、最初の質問に戻るんだが、俺の場合は足元に魔法陣が現れて、光が収まったら召喚の間に倒れていた」

「私も同じだ」

「その間、創世神ルミナスに会ったか?」

「いや…何故そんな事を聞く」

「初代皇帝も勇者召喚の被害者だった。彼はルミナスの導きで、邪神と戦ったという」

「それは初耳だぞ」

「帰還の方法は聞いたのか?」

「ああ。だが、魔王を倒せばの一点張りで、当時の私はそれを信じていた。今思えば、まるで洗脳されていたかのようだよ」

「その初代皇帝の手記も日本語で書かれていてな。勇者召喚は一方通行。帰還するには、創世神を目覚めさせるしか手段はないと」

「そんなことがあったのか…」


 トールは俯いて、再び何やら考え込む。その顔が再び上がった時、その表情には何かの覚悟を秘めた瞳があった。


「私は、ルーンベルグを信じて、虐殺を行った悪人だ」

「当時の事だ。悪い大人に騙されていた被害者でもあるだろう」

「だが、自分の意思で戦ったんだ。命令とはいえ、女、子供、老人など非戦闘員すら殺した罪は重い」

「それは…」


 そう懺悔をするトールの手は震えていた。言葉では何とでも言えるが、それでは彼には何も届かない。俺はただ黙るしかなかった。


「だが、お前は俺とは違う。単身でスタンピードと向き合い、守る為に命懸けで戦った。しかも、人間嫌いのエルフに対してだ」

「貴方だって、守る為に戦っていた筈だ」

「結果の話をしているのだよ。私は…オレは、オレを騙したルーンベルグが憎い。だが、真実を知っても、何もせずに引き篭もった臆病者でもある」

「そんなことはない。そうして、自らの罪と向き合える者は少なくとも臆病なんかじゃないだろう」

「功刀…お前は優しい男だな」


 そこで、トールはふっと笑った。それは何処か儚げで、まるで今にも消えてしまいそうな笑みだった。


「そんなお前だからこそ、私の全てを託そう。そして、ルーンベルグの蛮行を止めてくれ」



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