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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第七章 フォレストハイム森林国編

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7-7 おっさん、"森"と戦う

「ちっ!」


 エントが赤黒い光に包まれた瞬間、衝撃波のようなものが放たれて、周囲を薙ぎ払う。俺は後ろに飛ぶようにしてその衝撃を受け流すと、受け身の要領でそのまま空中で一回転して着地をする。


=====

狂乱のブラッディ・エント

危険度:A


膨大な魔力により変異させられたエントが、邪神の魔力に依って狂った状態。その狂わせた根源を排除しなければ、止める事は出来ないだろう。


=====


(危険度が上がった)


 受け身を取りつつ『慧眼』で調べてみたら、更にステータスが変化していた。ついにA(ランク)の魔物との初遭遇となる。

 さっきまでの血枯木(ブラッディ・エント)とは、明らかに雰囲気が違い、まさしく狂乱の名に相応しい禍々しい空気を纏っていた。その重圧は、これまでこの世界で会ったどんな存在よりも凄まじく、気を抜けば一瞬で気圧されてしまいそうだ。


(根源の排除か)


 鑑定結果にあるので、根源の排除とは邪神の魔力を無くせばいい筈なのだが、それをどうすればいいのかは分からない。

 おそらくは、先程のように枝葉を削り、再生による魔力の消費を狙うしかないだろう。


 俺は魔力回復薬(マジックポーション)を取り出して、一気に飲み干す。短期間で飲むと、効果が減ると言われていたが、それを悠長に待っている時間はない。

 今までと違い、常に全力で戦わなければ、逆に殺られるのは俺の方だ。


(…長い、な)


 エルヴァンは儀式魔法の準備に一晩かかると言っていた。つまり、夜明けまでは何としてでも足止めをしなくてはならないのだ。今までとは段違いの強敵相手だが、消耗は抑えつつ戦わなければ、とてもではないが保たない。


(…御託はいい、やるしかない)


 『魔力回復』のスキルと[息吹]による魔力の循環、それで[身体操作]での肉体強化の魔力消費を極力減らす。スキルを併用する分、思考に割ける余裕は無くなる。


 なので、今の俺に打てる手はこれしかなかった――


「にノ型"仁王"」


 ――ただひたすら、本能のままに相手の攻撃を捌く守りの型。

 

 たった一人、夜明けまでの絶望的な戦いが、今始まった。


---

 

 狂った枯木(エント)の攻撃は凄まじく、また今までとはまるで違った。


 集団暴走(スタンピード)の中にいた魔樹の特性を生かしたものや、精霊を狂わせた上での魔法攻撃など、まさに巨大な森そのものと戦っているように感じる。


 唯一の救いは、本能的に自分も燃えるのが嫌なのか、火の攻撃だけは無かったので、消火に意識を取られる事はなかった。

 だが、そんな些細なことはどうでもよくなるくらい、乱枯木(エント)の攻撃は激しく、受け流すのが精一杯だ。

 狂っているせいか、単純に力任せのありとあらゆる攻撃を放ち続けるだけの存在と化しているので、周囲の森は破壊され続けている。


 ――大地は隆起し、あるいはぬかるみ、暴風が木々を薙ぎ倒す。


 乱枯木が、行く先々の森を平地にするかの如く暴れ続け、防戦一方の俺は押されてしまい、徐々にオルダ・オーハの方へと後退せざるを得なかった。


 それでも、俺に注意を引き付け続け、何とか進行方向を乱す事により、その歩みは随分と遅くはなっている。

 もはや集団暴走の最後尾とは離れ、俺と乱枯木の姿しかここにはない。


 ――月は天辺をとう過ぎてはいるが、まだまだ夜は深かった。


(くそ、夜明けが遠い)


 ずっと限界の動きを強いられてきた俺の意識に、少しだけ雑念が入った瞬間、伸びてきた枝葉への対処が少し遅れた。


(しまった!)


 弾き損ねた枝葉を、横に跳んで躱したが、"仁王"の型が解けてしまい、無意識で長時間動き続けていた反動が、刹那の間に脳への負担として襲い掛かる。


(くっ…)


 急激な疲労に一瞬だけふらつくが、『危険感知』の警鐘がそれを許してくれない。迫りくる気配だけを頼りに、俺は後ろに跳びながら刀を振るう。


「はノ型"刃紋"」


 横薙ぎの一閃が、俺を突き刺そうと伸びてきた枝葉を、まとめて斬り裂くと、着地しながら魔力を練り上げた。


「風遁」


 乱枯木が生み出す暴風を、こちらも爆風を起こして打ち消すと、俺は改めて刀を構える。


(仕切り直しだ)


 決して油断をしていた訳ではないが、焦りから雑念が入るとは、やはり俺はまだまだだと自戒した。この世界の理不尽に立ち向かうには、こんな体たらくを晒していたら、先が思いやられる。


「にノ型"仁王"」


 深呼吸を一つして意識を切り替えた俺は、再び時間を稼ぐ為の戦いに挑む。


 ――だが、一度集中が切れたからだろうか。

 

 はたまた場所が開けたせいなのか、もしくは、乱枯木が俺の動きに慣れてきたのか――更に攻撃が激化していき、俺はどんどん後退を迫られていく。


(…不味いな)


 このままだと、まもなく防衛線まで下がってしまう。周囲には魔物の死体が数多く転がっていたが、それも乱枯木の攻撃が吹き飛ばしている。


(勝負処か)


 俺がここが踏ん張り処だと覚悟を決め、攻勢に転じようとしたその時――


「『風の精霊よ! 我が意のままに暴れ狂え!』

風の嵐(ウィンド・ストーム)

「喰らいやがれ! 回転斧撃(ローリング・アクス)!」


 ――強烈な竜巻が乱枯木を襲い、その枝葉の一部を吹き飛ばす。更に上空から縦に回転しつつ、斧で枝葉を斬り裂く影が、俺の前に着地してきた。


「随分と楽しそうな事してるじゃねぇか、客人よぅ!」

「グラン、何故ここに!? 集団暴走は?」

「誰かさんが勝手に動いてくれたおかげで、他の面子だけで何とかなりそうよ」

「んで、じじいから事情を聞いた俺たちが駆けつけたって訳だ!」


 乱枯木の放つ枝を躱し、あるいは断ち切りながら、グランとリーファの二人が防衛線で何が起こっていたか伝えてくる。

 それだけで、だいたいの事情を察した俺は、意を決して二人に問いかけた。


「当てにしていいか?」

「当然よ! むしろ足を引っ張らないで」

「で、どうすればいい」

「とにかく枝葉を払って再生を繰り返させて、魔力を減らす。幹は傷つけるな」

「了解」「応!」


 俺はざっと対処法を説明すると、理由も聞かずに二人は攻撃体勢に入った。


「行くわよ! 矢の雨(アロー・レイン)


 まずは大量の矢が振り注ぎ、枝葉の節々に突き刺さる。だが、それを見たリーファの表情が苦々しく変わった。


「威力は足りないけど…動きは鈍ったわ、グラン!」

「応よ! 飛円斧(トルネード・アクス)ッ!!」


 身体を限界まで捻ったグランが、勢いよく戦斧を投げ飛ばすと、回転した斧が綺麗な放物線を描きながら矢の刺さった枝を切り払い、ブーメランのようにグランの手元に戻ってくる。

 二人の攻撃により生まれた隙に、俺が一撃を加えると、また二人の連携が隙を生む。


(これが集団(パーティ)戦か)


 俺の特殊な事情から、基本的には戦闘は単独て行なってきた。だが、頼れる仲間が居るというのは、こんなにも心強いものなのか――

 

 ――そう思った時、ヴェスタリアでのあの光景が思い出された。


『クヌート。貴殿も一人で抱えようとするな』

『…オズワルド?』

『人が一人で出来る事には限りがある。それを忘れるな』


「…そうだったな」


 あの時と同じ言葉が、思わず俺の口から漏れる。


(やはり、俺は未熟だ…)


 師匠にも、オズワルドにもまだまだ叶わないのだ。偉大なる先人たちの背を追い続けて、心もまた鍛えなければならない。そう決意も新たに、俺は刀を一度納める。


「往くぞ。いノ型"稲妻"」


 そして、今日何度目か分からない「いろは」型の連携を放ち、枝葉を斬り落としていった。


---


「『光の精霊よ! 命を司る者よ! 恵みの光で照らし給え!』

回復陣(ヒーリング・サークル)

「ありがてえ!」

「うおおおっ! 『突撃槍(スパイラル・チャージ)』!」

「『突撃矢(スパイラル・アロー)』! もう少しで夜明けよ!」


 あれから援軍は一人増え、二人増え、気がつけばあの時闘技場にいた全員が、この場に集結していた。

 残りの残党は各部族が、それぞれの特色に合わせて対処をしているらしく、何とか危機を乗り越えられそうだとの事だ。


 エルフの司祭、シェディアが支援回復を飛ばし、狐獣人のトーレンが、突進系の槍のスキルで回転しながら直線上の枝葉を撒き散らしていく。

 同じく貫通特化の弓のスキルを放ちながら、リーファが待ち望んだ時を告げた。


(そろそろの筈だ)


 空は漸く白み始めているが、エルヴァンからの連絡はまだ来ない。だが、どちらにせよ、ここで戦い続けるしかないのだと誰もが理解していた。


「ほノ型"焔"」


 シェディアに迫る枝を、斬り上げながら跳び上がる。そのまま「へノ型"変幻"」の三段突きへと繋げて、更に枝を砕いた。

 見た目は確実に小さくなっていて、赤黒い魔力も薄くなっている。何より魔力を温存する為だろう、再生時に枝しか再生しなくなっていた。葉に回す分の魔力を使っているのか、枝は太くなってはいるが、その数が減った事と、何よりこちらの人数が増えた事で、個々の負担は軽くなっている。


 ――そうして、完全に夜が明けた時に、その知らせはやってきた。


「魔法陣が完成した!」

「分かった、誘導を」

「こっちだ」


 ウィロスが俺たちの元まで、その知らせを持って駆け寄る。それは、皆の士気を上げるのに充分な一言だった。


 俺はヤツの気を引く為に魔力を練り上げて、乱枯木の幹の天辺あたりを指差すと、


「雷遁」


 指先から紫電が迸り、雷撃が放たれる。だが、それは幹に当たったと思いきや、何故か貫くことはなく弾かれた。

 しかし、乱枯木の気を引くという意味では成功だったのだろう。全ての攻撃が俺に集中するようになった。


(やはり、何かあるな)


 あそこはダークエルフが何かをしていた場所だ、何か暴走の要因となる存在があるのかもしれない、と狙ってみたが、どうやら当たりだったようだ。


「今のは…」

「話は後だ!」


 俺の放つ雷撃を見て周囲は騒然としているが、それに構っている時間はない。

 随時[雷遁]を放ち、乱枯木の注意を引きながら、俺はウィロスの誘導に従う。


 攻撃を避けながらしばらく移動すれば、前方にある盆地のような窪んだ広場に、巨大な魔法陣が描かれていた。

 その周囲には、エルヴァンを始めとする術師たちが並んでいて、各部族が護衛としてその前に立っている。


「あそこだ」

「任せろ」


 俺は全力で跳躍して、魔法陣の反対側の縁に立つと、乱枯木は、一目散に俺を目指して魔法陣の中へと入ってくる。


(ここからだ)


「援護を頼む!」


 各族長たちにそれだけを伝え[身体操作]に注ぐ魔力を全開にする。


 その身勝手な言葉を受けて、各々足止めを始めた族長たちに感謝をしながら、俺は全身に魔力を巡らせた。


 ぐんぐんと削られていく魔力が暴れそうになるのを何とか抑え、俺は納刀する――


「いノ型"稲妻"」


 ――その魔力を足に巡らせて、一気に解放した。


 勢いよく俺の身体が飛び上がり、乱枯木の枝を斬り上げながら、俺はその幹の天辺に辿り着く。するとそこにはダークエルフが魔力を注いでいたであろう、赤黒く光る魔法陣があった。


(あれか!)


「喰らえ! ろノ型-――」


 右八相(みぎはっそう)に刀を構えながら、今度は残りの全魔力を腕に集中し――


 「"狼牙"ぁぁあッ!!」


 ――魔法陣の部分を切り取るように、俺は刀を振り降ろす。


 ガツンと一瞬、幹の表面で”何か”に阻まれる感触はあったが、パリンと乾いた音を立てて”何か”は砕け、その勢いのまま天辺を斜めに斬り裂いた。


(やったか)


 着地をして振り返れば、変化はすぐに表れる。


 斬り裂いた部分から、赤黒い魔力が天高く放出されていくのを、誰もが黙って見届けていた。

 そうして、乱枯木の纏う魔力が全て消えた時、どこからか風が吹いて、俺たちの疲弊した身体を優しく撫でた。


「ありがとう」


 ――そう、誰かの声を聞いたような気がした。



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