7-4 おっさん、救援要請を受ける
「面白れぇ! 次はオレがやらせてもらおうか!」
リーファとの一戦が終わった直後、グランと呼ばれている熊の獣人とも手合わせをすることになった。
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グラン・ファーガス
56歳 男性
ジョブ:斧戦士
種族:熊獣人
レベル:65
力:680
技:560
速:560
体:650
魔:330
抗:330
運:560
スキル
斧技9、格闘技5、気配感知6、身体強化8、統率6、獣化5
称号
『熊獣人の族長』
熊獣人の族長の証。同族に対して、統率の効果が上がる。
『一斧多砕』
その一撃は全てを破壊する。斧技スキルに補正がかかる。
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『獣化』
自らの身を獣の変化させて戦う、獣人だけが持つユニークスキル。
能力は倍化するが、スキルが使えなくなり知性が落ち、未熟な者の場合、暴走する恐れがある。
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向かい合った時に『慧眼』を使ってグランを調べると、リーファより更にレベルが高く、見た目の通りのパワータイプの戦士だった。
手始めとして振り下ろされた一撃を俺は”柳”で受け流したが、その一撃はステータスが示す通りに凄まじい。力を流されて態勢を崩しかけたグランは、敢えて床に斧をめり込ませてそれを防いた。その直後に牽制として拳を思いっきり振ってきたので、俺は飛び退いて距離をとる。
すると、彼は斧を手放して格闘戦を望んできたので俺が応じると、周囲からが騒めきの声が聞こえてくる。
(これも試練の内だろうしな)
この世界では格闘技を扱う者は少ないようで、せっかくの機会だからと受けてたった。それに、いま俺は色々と”試されている”のだろうし、相手の土俵に合わせるのも大事なのではないかと判断をしたのだ。
――だが、お互いに盛り上がってきた矢先に、事態は急展開を迎えた。
「ぞ、族長方! 緊急事態です!!」
狼の獣人が、闘技場に駆け込んできたのをきっかけに、当然ながら”試しの試練”は突然の幕切れとなったのだ。
「ちっ…せっかく盛り上がってきたところだったのによ!」
構えを解くグランだったが、その目の色は既に一族の長としてのものに変わっていた。
直ちに族長の合図で戦うのを止めた俺たちは、観客としていた他の族長たちと合流を果たす。
「それで、リフ。何があった」
そして、同じ狐の獣人が駆け込んできた彼に話しかけると、リフと呼ばれた狐獣人は、呼吸を整えながら報告を続けた。
「トーレン様、実は昨日ニール・カバー要塞の近くで怪しい人影を見たと報告があり、こちらでも周囲を巡回していたのですが、西から大規模な”魔力乱れ”を感知したのです」
「”魔力乱れ”ですって!?」
その報告に、今度はエルフの司祭が驚きの声を上げた。
族長であるエルヴァンは黙って報告を聞いている。
「はい、シェディアさま。それで、その方角を調べてみたところ、オルダ・オーハに向かって魔物の群れが向かってきている事が発覚しました!」
「まさか…」
「はい。スタンピードの可能性が高いと思われます!」
顔を青くするリーファの言葉に応えるかの如く、リフは悲痛な叫びが響き渡った。
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――魔物の集団暴走
その原因は主に二つで、一つは縄張り争い。
より強い魔物がその場所に流れてきて、縄張りを奪われた魔物たちが一斉に移動をすることだ。この場合は、比較的弱い魔物の移動となるために被害は少ないとされている。
もう一つが、魔力酔いだ。
こちらの方は、何が原因か分かっていないことがほとんどだ。ただ、何かに導かれるように該当地域の魔物が移動を開始するそうで、凶暴性も増しているらしい。その際に検知されるのが、”魔力の乱れ”である。
――魔物は動物が大量の魔力を浴びて、変化したものだとされている。
なので、大量の魔物が一斉に移動する際には、その魔力に影響されて、”魔力乱れ”が検知される。それが今回のパターンの集団暴走で、原因は”魔力酔い”と称されていると、エルヴァンから説明を受けた。
「規模はどのくらいだ?」
「只今確認中ですが、少なくとも千は超えるかと」
「かなりの規模だな。いつ来る?」
「魔力の流れから判断して、早ければ夜には防衛線上に到達するとの報告が」
「そうか。皆、聞いたか!」
「おう!」「はい!」
「各自、迎撃準備を始めよ」
族長たちは返事をすると、慌ただしく闘技場から出ていった。
おそらく緊急時の取り決めがあるのだろう、ここに残っているのは、エルフだけになった。迷いなく行動する彼らを見送る俺に、エルヴァンが声をかけてくる。
「クヌート殿、どうか力を貸して下さらないか?」
「族長!?」
――その声は重く、表情も硬い。
それを聞いたリーファが驚きの声をあげ、ウィロスやシェディアと呼ばれた司祭は複雑な表情をしていた。それだけで余所者の、しかも人間に頼まなければならない程の緊急事態なのだと分かる。
昨日の内に、俺が今までしてきたことをエルヴァンとウィロスにだけは話してあった。それを含めての救援要請なのだろう。それに、俺には元勇者であるトールに会うという目的もある、ここで何もしないという選択肢は、最初から無かった。
「わかった。手伝おう」
「助かる」
俺が了承の意を示すと、エルヴァンが頭を下げる。
今度はそれを見たシェディアが驚きの声を上げる番だった。
「族長! いくら何でも人間に頭を下げるのは――」
「こちらから助太刀をお願いしているのだ。礼を尽くすのは当然だろう」
だが、言い終える前に、エルヴァンが彼女の言葉を否定する。
そんなシェディアの隣にいたリーファは、何も言えずに二人の間をおろおろとしながら見ていた。
「速やかに準備を開始せよ」
エルヴァンが威厳のある声でそう宣言すると、それぞれが複雑な表情をしながらも、役目を果たすために散っていった。
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エルヴァンに連れられて闘技場から出た俺は、彼の屋敷へと戻ってきていた。俺が周辺の地図を見せて欲しいと頼んだからだ。
「さて、クヌート殿はどう動く?」
「元々、俺は防衛計画に含まれていないだろう? なら、俺の役目はひとつだろう」
「遊撃、か」
「そうだ。その方が邪魔にならないだろう」
「危険だぞ?」
「それは、何処に居ても同じ事だ」
俺が、地図を見ながらそう言うと、エルヴァンはしばらく黙ってしまった。
そうして、無言で地図を見る俺たち二人だったが、やがて小さく「頼む」とエルヴァンは呟く。
「気にするな。まず、俺が先行して数を減らしておく。討ち漏らしの処理は任せた」
「分かった、皆にはそう伝えておく」
「ちなみに、この森にはどんな魔物が棲んでいる?」
「動物系や植物系だな。火に弱いが、エルフは火魔法は得意ではないのだ」
「森の中では危険、か」
「そういうことだ」
俺の問いにエルヴァンはそう答えるが、その目の光は状況次第では、森を燃やすことも厭わないと物語っていた。
(…そうはさせん)
エルヴァンとしては、族長として民の命を失うくらいなら、この街ごと集団暴走を焼き尽くすつもりなのだろう。だが、森が復活するのには多大な年月がかかってしまうし、何より弱ったフォレストハイムを、ローランド帝国復活を企てるルーンベルグが放っておくとは思えなかった。
(やってみせるさ)
そう密かに決意した俺は、エルヴァンから森について聞き出していく。
「集団暴走の原因だが、もし他の理由だったら心当たりはあるか?」
「他の原因、か」
「そうだ。もし”縄張り争い”だとしたら、原因となる魔物がいる筈だろう? そいつの情報が知りたい」
「とは言われてもな、心当たりが多すぎるのだ――」
エルヴァンが言うには、”縄張り争い”の場合は他所から移動してくる事が多いそうで、その地にいる魔物とは限らないらしい。なので、皆目見当がつかないということだった。
それでも候補を挙げるとしたら、竜や巨大虫、魔狼といった巨大な魔物になるだろうとエルヴァンはいう。
「この規模のスタンピードを起こすのなら、それ相応の個体で無ければ無理だろうな」
「そうか、ありがとう」
「いや、これが何かの助けになるのなら幸いだ。他に何かあるか?」
そうエルヴァンに問われて、俺はふとヴェスタリアの撤退戦の事を思い出した。一人で大群を相手にするという状況は、あの時と同じだ。だとすれば――
「魔力を回復する薬はないか? 余裕があれば貰いたい」
「マジックポーションか、あるにはあるが、クヌート殿は魔法も使えるのか?」
「まぁ、そんなところだ。少しでいい」
「わかった。用意させよう」
あの時は、遅延させる為に必死だったが、今思えばもっとやりようもあったのではないかと思う。とはいえ過ぎた事を言っても仕方がない。
それよりも問題は、万が一に魔力枯渇に陥ってしまった場合だ。暴走する魔物相手には、魔力枯渇における隙は命取りになるだろう。その経験がこうやって役に立つのだから皮肉なものではあるが。
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そうしてエルヴァンに案内されて、”結界の間”という一室に案内された。
古木の頂上にあるこの部屋は、名前の通りオルダ・オーハに結界を貼る為の”結界石”という魔道具が設置してあり、交代でエルフの魔術師たちが魔力を注いでいるという。
これは、エルフの魔術と、アルカディアの魔導技術が合わさったもので、まだアルカディアの代表になる前の、セレスティアが開発したものでもあるらしい。
(どれだけ優秀なんだか)
俺をここに送り出したあの優雅な笑顔を思い出して、思わず苦笑する。だが、それと同時に、常に先を見ているセレスティアらしいとも納得できた。きっと、アルカディアの国境上にある結界は、これを元にしたものに違いない。
「それで、具体的には、どの辺りからだと予測できる?」
俺がここに連れてきてもらったのは、集団暴走の来る方角を教えてもらう為だった。エルヴァンが、詳細の報告を受けると言っていたので、それに便乗してついてきたのだ。遊撃として動く為には、だいたいでいいから相手の居場所を知っておかなければ、万が一すれ違っては大変なことになる。この緊急事態で時間を無駄にするのは手痛いので、それは避けたい。
「西の、こちらの辺りですね」
「魔樹の生息地か…」
魔樹とは、魔力によって魔物となった植物の一種で、簡単にいうなら動く木である。樹齢を重ねたものは、知性を持つこともあるそうで、木人と呼ばれて、亜人の一部となるそうだ。
「クヌート殿、魔樹は不思議な能力を持っていることが多い。充分に気をつけられよ」
「分かった。それでは行ってくる」
「頼んだぞ」
準備が全て済んだ俺は、一人先行してオルダ・オーハを後にして、森の奥へと向かう――
――鬱蒼と茂る森の木々たちが、俺の視界を暗く染めていた。




