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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第七章 フォレストハイム森林国編

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7-2 おっさん、洗礼を受ける

「あの建物が?」

「ええ。正確には、あの森全てがフォレストハイムの国土なので国境とは少し違うのですが」

「そうなのか」

「はい。フォレストハイムでは人間はあまり好まれないので、敢えて国境門を少しだけ森から距離を離しています。アルカディア側だからの処置ですね。ルーンベルグ側は更に警戒が強く、森の際に要塞が作られているんですよ」

「それは物騒だな」

「過去にルーンベルグといざこざがあったみたいで、そうなったと聞いています。なので、許可証は無くさないでください。大変なことになりますよ」

「わかった。恩に着る」

「いえ。セレスティア様から、くれぐれもと頼まれていますから」


 そこまで言うと騎手は「降下します」と言って、飛竜の首を少し押す。すると、飛竜は首の角度を少しずつを下げて、降下を始めた。まるでジェットコースターのような急角度で地面に向かって降りていく。

 ある程度まで地面に近づいたところで、騎手が飛竜に鞭で合図を出して、速度を落とした。そして、そっと荷物の鉄の篭を先に地面に降ろしてから、飛竜自身も地に足をつく。


「お疲れ様でした」

「ありがとう。随分かしこいんだな」

「ええ。よく調教されているいい子ですよ」


 俺が鞍から降りて礼を言うと、再び騎手が鞭を入れて、飛竜は空へと浮かびあがる。荷物篭を掴んで空高く飛び上がる姿を見届けてから、俺は改めて国境門の方に向き直す。


 深い森の手前にある、アルカディアとフォレストハイムの国境門は特殊な造りをしていた。

 

 まず建物の中心が大きな木製の門扉となっている。その両脇には三階建ての兵士の詰所と思しき建物があり、どちらかと言えば門の両脇に詰所を建てたような感じであった。

 その向こうには、ルーンベルグの”暗き森”とは比べ物にならないくらい、広大な森が目の前に広がっていて、森林王国の名は伊達ではないのだと、否が応にも実感させられる。


 当然のように、門の前には門番が二人立っていたが、俺が近づいていっても、特に警戒の色は感じなかった。


「フォレストハイムへの入国手続きはどうすればいい?」

「人間が入国するには紹介状が必要だが、持っているか?」

「ああ。これだ」


 懐からセレスティアからの紹介状を渡すと、それを見た門番の目が大きく開く。


「これは、セレスティア様の…おい!」

「ああ。少し待っててくれ」


 門番の一人が慌てて兵舎の中へと駆け込んでいった。そして、直ぐに何か腕章のような物を手に持って戻ってくる。そこには、アルカディアの国章が金色の刺繍で描かれていた。


「これが、フォレストハイムの滞在許可証だ。これが無い人間は、亜人の攻撃対象となるから、必ず見えるところに着けておくんだ」

「分かった」

「セレスティア様からの指示で、それを与える者にはずっと渡しておいて構わないと言われている。アルカディアが出せる最高ランクの許可証なので、決して他人の手には渡らないように気をつけてくれ」


(随分な好待遇だな…)


 大盤振る舞い過ぎるセレスティアに、内心動揺しつつも、俺は門番の言葉に頷いて返す。

 それを見た門番は、真剣な表情になって俺に警告してきた。


「ルーンベルグ側の国境門にはくれぐれも近づくなよ。あの辺りは人間にとっては危険だからな」

「要塞とやらのせいか?」

「そうだ。許可証があっても人間というだけで攻撃される可能性が高い」

「了解だ。肝に銘じておく」

「セレスティア様からの紹介だから、目的も身分も問わない。ただ充分に気をつけてくれよ」

 

 国境門が開かれて、俺は門の向こう側へと出た。

 アルカディアの国境線には結界が貼られているので、一見ここ以外からでも通れそうだが、実際に越えられるのは国境門だけだ。それはフォレストハイム側でも一緒だと、門番は教えてくれた。


(鬼が出るか、蛇が出るか)


 警戒度を上げて周囲の気配を探りながら、俺は森へと歩みを進めた。


---


(…居るな)


 正面には鬱蒼と茂る森の入り口ともいえる、少し広めの獣道が見える。その左右から俺を警戒する気配を複数感じながら、俺はそこに向かって歩いていく。近づくにつれて、薄く殺気までも感じられるようになったその時、

 

 ――シュッ。


 ストン、と俺の足元に一本の矢が突き刺さった。あと一歩でも踏み込んでいたら、当たっていただろう。


「それ以上動くな、人間!」


 森の中から、女性の警告が聞こえてくるが、姿は見えていない。俺は”許可証”を着けている右腕を挙げて、声のした方向へと叫ぶ。


「入国許可は得ているが?」


 それを視認したのであろう、森の中から俺を囲むように出てきたのは、十人のエルフだった。しかし、女性のエルフが一人だけ、俺に向けて弓を構えたままではあるが。


「ふん、そんなもの偽物に決まってる。それはお前如きが――」

「リーファ、待て」


 先程の警告も、このリーファと呼ばれた女性のものだったのだろう。発せられる声は、警告のものと同じだった。しかし、これが最上級の許可証であることを認識しておきながら、偽物と判断して矢を撃ってきたのか。


 だが、そんな彼女を一際背の高いエルフの男性が止めて、俺の”腕章”をまじまじと見やる。


「…本物だ。間違いなく、彼は客人である」

「バカな! こんなヤツが我らの客人だと!?」


 そう叫ぶ彼女が俺を見る視線には、明らかな殺気が籠められている。どうやら、さっきから感じていた殺気は、彼女のものだったようだ。そんな彼女を、背の高いエルフが腕で制する。


「落ち着け。これ以上は、部族の掟を破ることになるぞ」

「くっ…私は認めない!」


 しぶしぶ弓を降ろすと、彼女はそのまま森の奥へと立ち去っていってしまった。

 それを見送りながら、深い息を吐く背の高いエルフに俺は声を掛ける。


「いいのか?」

「構わん。それより客人、すまなかったな」

「いや、怪我はないし問題ない」

「そう言ってもらえると助かる。私はウィロス。この森の番人だ」

「番人?」

「人間の言葉だと…たしか警備隊というのだろう?」


 ウィロスの言葉を聞いて、俺は頷いて返した。

 おそらくはアルカディアとの国境門を守る、フォレストハイム側の警備隊なのだろう。そう判断して、少し友好的な雰囲気のある今なら色々と聞けるかもしれないと思い、改まって口を開く。


「ところで聞きたいことがあるのだが」

「何だ? 客人」

「それだ。その”客人”というのは何なんだ?」

「ああ、知らないのか。お前の持つ”金色の証”は、この国では最上級の賓客であることを示すのだ。我らが族長とセレスティア様との取り決めで、そうなっている」

「…過去にフォレストハイムとアルカディアの間で何かあったのか?」

「ルーンベルグに干渉されないように、我々を陰で支援してくれている。故に友好の証を結んだのだ」

「そんなことがあったのか」

「そうだ。元勇者も、アルカディアの手助けで、この森まで落ち延びてきた」 


(元勇者、か)


 オズワルドと戦ったという先代の”勇者”。彼もまた俺と同じように、ルーンベルグの”真実”を知り、そして逃げ出したという。いまの俺の考えを百年近く前に実行した男は、何を思っているのだろうか。


「会えるのか?」

「それは…族長次第だな。望むのなら、案内はするが」

「頼む」

「わかった。ついてこい」


 そう言って、ウィロスが足早に歩きだしたので、俺は彼に合わせて歩き出す。俺のまわりには、残りのエルフが囲むようにして歩いていた。


「悪いが、族長の許可が出るまでは監視をさせてもらう」

「許可証があるのにか?」

「…先程、リーファがしでかしただろう?」


 苦笑しながらのウィロスの言葉に、俺は頷くことしか出来なかった。


 ルーンベルグの蛮行のせいで、人間と亜人には大きな溝が出来ていると話には聞いていたが、こうして目の当たりにすると、また何とも言えなくなってしまったのだ。彼女には、彼女なりに人間を憎む理由があるのだろうが、それを本人以外に聞くのは憚られる。


 なので、ウィロスに案内されるがまま、俺は黙って後をついていくのだった。


---


 フォレストハイム森林王国の首都オルダ・オーハは、まさに樹上都市という名に相応しかった――


 鬱蒼とした森を抜けると、いきなり視界が開けた。森の中心部だというのに、そこには広大な空間が広がっている。その中心にはとても巨大な枯木がそびえ立っていて、その幹はざっと三十メートル以上はあるように見えた。

 根の一本一本がとても太く、枝は複雑に絡み合いながら、空に向かって伸びている。その節々に木製の簡素な家が建てられていた。


 巨木の周囲には様々な素材で造られた建物が並んでいて、エルフ以外の亜人の住居は、地面の上にあるらしい。その他にも、露店のようなものも多数並んでいた。


 人間の姿はほとんど見かけず、亜人と呼ばれているエルフやドワーフの他、至るところに様々な獣姿の獣人の姿があった。そのほとんどが、俺を見ると最初怪訝な顔をしているが、”腕章”が視界に入った途端に、興味を無くしたかのように視線を外す。中には、それでも鋭い視線をぶつけてくる者もいるが、それはほんの一握りだ。


 ――人間嫌いな亜人たちが隠れ住む、巨木を囲うようにして造られた都市。それが、フォレストハイムの首都オルダ・オーハだった。


「…これは凄いな」

「気に入ったか」

「ああ。ここに来られて光栄だよ」

「そうか」


 俺がこの街の光景に圧倒されてると、何処か嬉しそうにウィロスが声をかけてきたので、称賛で答えた。やはり、生まれ故郷を褒められて自慢気になるのは、どの人種でも変わらないようで、ウィロスたちエルフの警備隊の纏う空気が、少し柔らかくなったのを感じる。


 だが、いつまでも観光気分では要らなれなかった。


 生憎と、俺にはアルカディアでやるべき事が残っている。それに、ルーンベルグの動きがいつ激化するか分からない。その前にゼノビアの様子も一度は見ておきたかったので、あまり時間の余裕はなかった。


「それで、さっそくで悪いが、元勇者に会いたいのだが」

「わかった。族長のところへ向かおう」


 俺が要望を伝えると、ウィロスは真っ直ぐ中心にある古木に向かって歩き出した。

 集団で歩みを進める俺たち――正確には俺に、周囲に居る者たちの視線が集まるが、気にせずに進んでいく。


(気にしたら負けだ)


 ”門番”の許可も得ている以上、こちらが卑屈になる必要はないし、逆に変な刺激を与える可能性もある。やましい事が何もない以上、ここは堂々としているべきだろう。


 そうして、十人の集団が巨木の根元に辿り着くと、そこには巨大なうろがあった。洞の前には、エルフの見張りが一人立っていて、先行したウィロスと話をしながら、時折俺に視線を送っている。

 

 ウィロスは見張りと話を終えると、手招きをしてしてきたので、俺は小走りで駆け寄っていく。

 その後ろで気配が散っていったので、一瞬だけ振り返ると、俺を囲んでいたエルフたちがバラバラに歩いていくのが見えた。


「話はついたのか?」

「ああ。これから、族長の元へと飛ぶ」

「飛ぶ?」

「そうだ。行けばわかる」


 ウィロスが洞の中に入っていったので、俺もその後を追っていくと、洞の中に光り輝く魔法陣が描かれていた。ウィロスは躊躇することなく、魔法陣へ足を踏み入れていく。


「早く入れ。ここから、族長の家へと転移する」


(…だから、”飛ぶ”か)


 ウィロスの指示に頷いて、俺が魔法陣の中に入ると、彼が小声で何かを呟く。


 ――次の瞬間、視界が真っ白に染まった。



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