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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第七章 フォレストハイム森林国編

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7-1 おっさん、森の国へ向かう

 ――兵舎には、活気が満ちていた。


 訓練をする大人たちの姿に、洗濯物を干しながら、話に花を咲かせる女性たち。

 鍋をかき混ぜる音。走り回る子供たちの笑い声と、それを見守る老人たち。


 ヴェスタリアにいた頃の、何処か暗い雰囲気を纏っていたものとは、まるで違っている。


(…変わったな)


 魔導学院と大図書館への襲撃が、外部に漏れる事なく処理出来た次の日。

 セレスティアから、フォレストハイムで先代勇者トールと会うように促された俺は、ヴェスタリア難民の居る兵舎まで足を運んでいた。そして今、マリアたちがいる兵舎を訪れている。


「しばらく、依頼でアルカスを離れる事になった」

「どれくらい?」

「分からないが、一ヶ月くらいだと思う」

「……そう。気をつけてね」


 しばらくアルカスから離れる旨を、マリアたちにそう告げる。すると、案の定俺の発言を聞いたマリアやトーマスが、少し寂しそうな表情をしていた。


(すまない…)


 だが、先代勇者に会わないという選択肢はなかった。当事者であるトールに話を聞くのは、ルーンベルグの蛮行を知る為にも、更には、同じ召喚された者の行く末を知る為にも、避けては通れない道だった。例えどんな残酷な真実が待っていようとも、話を聞くしかないのだと、俺は確信している。


 そんな雰囲気を察したのか、エラがニヤニヤしながら、マリアの頬を突っつき始めた。


「あらあら、マリアったら、クヌートと別れるのが寂しいって顔に書いてあるわよ」

「そ、そんなことないもんっ!」

「もう、ムキになっちゃって」

「そ、そ、そんなことないもんっ!」


 そんな二人のやりとりを見て、ヴェスタリア解放軍のメンバーから、どっと笑いが起きる。それを見て、俺がエラに視線を送ると、エラはウィンクをして俺に返事を返す。

 別に、今生の別れという訳じゃないんだ。お互いにやるべき事の為に別行動をするという、当初の予定と一切変わっていない。必要以上にしんみりする必要はない筈だった。


「エラ。どんな感じだ?」

「そうねー。成果は順調って感じよ?」

「そうか、引き続き頼んだ」

「はいはーい」

「マリアも無茶はしないようにな」

「え、ええ」

 

 いつもの調子のエラと、ヴェスタリアの皆が見ているからだろうか、なんとか取り繕ったマリアが、平静を装って答えるのを見て、また笑いが起こる。

 「もう!」と腰に手を当てているマリアの影から、とことこと近づいてくる小さな人影があった。


「おじさん!」

「トーマス。元気だったか?」

「うん! あのね――」


 トーマスはソフィアに洗礼を受けて、寄りによって"暗殺者"というレアなジョブを選択したという。だが、その力を皆を守る為に使えるように頑張っていると、俺に教えてくれた。


「そうか、頑張ってるんだな」

「うん! おじさんの言ったように、守るためにがんばるんだ!」

「そうか。マリアたちを守ってやってくれ」

「わかった!」


 何処か誇らしげなトーマスの頭を撫でてやると、彼は嬉しそうに目を細める。俺の言葉をちゃんと受け止めてくれたトーマスは、真っ直ぐに育っているようで、俺の胸も熱くなった。


(…そうだ、それでいい)


 小さい子供か復讐だけを考えるより、余程健全だと俺は思ってしまう。そんな俺の勝手な思いを受け止めてくれたトーマスには、頭が上がらない。何歳(いくつ)になっても子供の純粋さから学ぶ事は、山程あるのだと気付かされた。


「じゃあ、またな」


 皆に一時の別れを告げて、俺は兵舎を後にした。


---


「こちらが、ヴァレンティ商会からのお届けものです」

「ありがとう」

「いえ。お陰様で、やっと飛竜(ワイバーン)便が機能し始めましたよ」


 恐らくスキアーの一件が、セレスティアから連絡が入ったのだろう。受付嬢は「ありがとうございます」といたずらっぽくウィンクをしてきたので、俺は苦笑しながらも、手を挙げて応えた。

 商業ギルドから連絡があった俺は、荷物を受け取りにアルカス支部まで来ていた。その足で、フォレストハイムの国境まで運んでもらう手筈になっていたのだ。だが――


「出発は、今日と明日のどちらがいいですか?」

「…明日でもいいのか?」

「ええ。その場合、こちらから運ぶ荷が少し増えますが」

「構わない。急ぎの荷も溜まっているだろうしな」

「恐れ入ります」


(少し慣らしておきたいしな)


 俺は一瞬悩んだが、出発を明日にする事にした。フォレストハイムで何があるか分からないので、せっかくの'届け物'を試しておきたかったからだ。俺は受付嬢と話をつけて、明日の八の刻に出発であると確認すると、冒険者ギルドに戻ろうとしたが、折角近場に来ているので、ジョンのクランハウスに顔を出す事にした。


「…そうか。でも、用が済んだら一度戻ってくるんだろう?」

「ああ。そのつもりだ」

「なら、いいか。ウチの訓練場でよければ使っていいぞ」

「本当か?」

「ああ。冒険者ギルドまで行くのは時間がかかるし、そのカタナってヤツを見せてくれたら、好きなだけ使ってくれ」

「助かる」


 そうして、ジョンとクランメンバーによる衆人環視の中、俺はエンリコからの受け取った'届け物'を包む布を外した。中から出てきたのは、外見は試作刀と殆ど変わらず、黒革の柄巻きの刀が、黒い鞘に納まっている。

 だが、納刀されたままの鞘を手にとってみると、明らかに違うのが分かった。


(これは…凄いな)


 エンリコに刀の重心などを細かく指示したものを渡した甲斐があったというものだ。まだ、抜刀をしてもいないのに、自分好みに調整されているのが、手に取るように分かる。


 ――そして、俺は鞘から刀身を抜き放った。


 その刀身は白い金属のような、もしくは別の何かのような、不思議な物質で出来ていた。おそらく、これが酸毒蛇(アシッド・ヴァイパー)の牙の影響なのだろう。だが、きちんと刀身には刃がついていて、見事なまでに研ぎ澄まされている。


「初めて見る武器だが、こいつはすごいな…」

「そう見えるか」

「ああ。よくわからないが業物ってことだけはわかる」


 見れば、初めてみる'刀'にジョンを始めとするクランメンバー全員が釘付けになっていた。

 俺は納刀して腰に鞘を納めると、訓練場へと向かう。気を利かせてくれたのだろう、ここから先はクランメンバーたちは着いて来なかったが、ジョンだけは別だった。無言で俺についてきている。


「見ていくのか?」

「ああ、お前が剣を振るのを見たことないからな。ダメか?」

「いや、ここを使わせてもらう身だからな。構わないさ」


 俺は訓練場の中心に立つと、深呼吸をして心を落ち着けた。そして抜刀と同時に切り上げて、そのまま真っ向に振り下ろして、血振りをする。今まで何回やってきたか分からない基礎中の基礎だが、この新しい”相棒”は、まるで何年も使ってきたかのように手に馴染む。


 ――視界の端では、そんな俺の様子を黙って見ているジョンの姿があった。


 だが、俺は気にせずに、次々と型を試していく。

 訓練場にはしばらく俺の刀を振る音だけが響いていた。


(いい出来だ)


 今まで振ってきた”刀”の中で、最高といってもいいくらいだった。個人用に調整してもらった刀が、こんなにもすぐ馴染むとは思っていなかったのだ。

 やがて、一時間ほど経って刀を振るのを止めた俺が納刀して深呼吸すると、ジョンが俺に近づいてきた。


「何て言うか、すごすぎてわからなかったよ」

「…そうか」

「ああ。お前をウチに入れようとした俺がバカだったわ」


 ぽりぽりと頭を掻きながら、真面目な顔でそんなことを言うジョンに、俺は苦笑を返す。


「なんか、すまんな」

「謝るな。その方が辛いわ」


 そうやって二人で笑いあった後、俺たちは訓練場を後にした。


---


「それでは、しっかりと捕まっていてくださいね」

「ああ、分かっている」 


 翌朝、俺は飛竜の背に括られた鞍に座って、目の前の騎手の腰に手を回している。


 稽古をした後、結局ジョンに引き留められてクランハウスで一晩お世話になった俺は、時間通りに商業ギルドへとやってきた。そして、中庭まで案内されるとすぐに、既に準備の整っていた飛竜便に乗ることになったのだ。

 これから俺はフォレストハイムとの国境まで運んでもらい、国境門で入国手続きをしてからは徒歩での移動となる予定だ。


「では、出発します!」


 騎手の男はそう高らかに宣言すると、飛竜に向かって鞭を入れた。飛竜も馬と操り方は変わらないようで、鞭を入れられた飛竜が翼を動かすと少しずつ浮かび上がっていく。

 そして、その足についた鉤爪で牢屋のような箱を上部を掴むと、ぐんぐんと空高く昇っていった。まるで、ドローンの俯瞰映像のように、眼下には碁盤の目のアルカスの街並みが広がっていく。

 だが、その速度とは裏腹に風圧などは感じられない。事前に説明を受けていたが、今座っているこの鞍自体が風圧を防ぐ魔道具だそうで、これが開発されたからこそ、飛竜便が実現したそうだ。


「フォレストハイムの国境ですが、昼過ぎには辿り着けます。退屈でしょうが、我慢してくださいね」

「いや、人生初の空の旅だ。退屈なんて事はないさ」


 そう嘯きながら、流れていく空からの美しい景色を眺める。それはまるでファンタジー映画のように果てしなく広がる地平線の中に、セットみたいに配置された山や湖などの、広大な自然が広がっていた。

 地球では飛行機に乗った事はあるが、生身で空を飛ぶ機会は流石に無かったから、その時とは全然違う臨場感を堪能しながら、俺は『ステータス』のチェックをしていた。


=====


クヌート(タケシ・クヌギ)

42歳 男

ジョブ:剣士(侍)


レベル:24 ↑


力:240 (420+240)

技:250 (420+240)

速:250 (420+240)

体:240 (420+240)

魔:230 (420+240)

抗:230 (420+240)

運:230 (420+240)


スキル

剣技5、危険感知5

(剣術8 ↑、抜刀術6 ↑、忍術9、投擲術6、格闘術6、偽装9、隠密7 、慧眼4 ↑、危機察知6、毒耐性7、精神耐性9、剣舞9 ↑、魔力回復6)


称号

なし

(『侍マスター』『忍者マスター』『巻き込まれし者』)



(忍術)

[火遁][水遁][土遁][雷遁][風塵][風遁][空蝉][縄抜け][開錠][息吹][身体操作][物見][暗目付][影縛り] ↑


(剣舞)

[いノ型][ろノ型][はノ型][にノ型][ほノ型][へノ型]


[暗器]:皎刀(こうとう)・酸毒牙


[空蝉]貨幣、保存食、衣類、魔物素材、重要書類

 

=====

=====

[影縛り]

魔力で影を操り、目標の影をその空間に縛りつける事より、目標の動きを止める。ただし魔力の無い物には通用しない。

=====


(随分と上がったな)


 数えきれない程の不死者(アンデッド)の群れに加えて、更に侵入者たちを倒した事でレベルが八つも上がっていた。この世界に来てから、あれ程の数の魔物を倒したのは初めてだったので、ある意味納得の結果だった。それに刀を中心に戦っていたので、剣術系のスキルも成長している。

 改めて意識をしてみれば、体内を巡る魔力量が増えていることも実感出来た。ヴェスタリアで限界を超えた時と比べて、明らかに違う感覚がある。それでも――


(…まだ足りない)


 ――あの撤退戦を思い起こせば、レベルはまだまだ全然足りないだろう。


 次は、勇者たちが出てくるかもしれない。あれから、かなりの月日が経っているし、彼らのレベルも相当が上がっている筈だ。最悪の事態を考えれば、もっと実力をつける必要がある。


(だが、あの二人なら…)


 早乙女さんと神崎くんなら”真実”を知れば、こちらの味方になってくれるかもしれないが、あくまで可能性であり楽観視は出来ない。


(…もっと、力が要るな)


 最悪、四人を相手に戦えるくらいにならなければ、ルーンベルグを止める事は出来ないだろう。その為には、力も知識もまだまだ身につけなければならず、足を止めている暇はないようだ。

 俺がぼんやりとそんな事を考えていると、騎手が片手で前方を指して声を上げた。

 

「見えました! まもなく、フォレストハイムとの国境門です!」


 騎手の声を受けて視線を向ければ、眼下には草原の中に木製の建物がポツンと一つだけ建てられている。

 

 ――その向こうには、深い緑の森が、どこまでも広がっていた。



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