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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第六章 アルカディア連邦共和国編

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6-7 おっさん、飛び出す

 ――ドン! という遠い爆発音で目が覚めた。


(襲撃か、いや違う)


 大図書館で起きた爆発なら、音も衝撃もこんなものでは済まない筈だ。俺は状況を把握しようと、窓の外を見ると、視線の先では魔導学院の一画が赤く燃えていた。窓を開ければ遠く悲鳴のような声も聞こえてくる。


(…どうする?)


 ――この爆発が陽動である可能性は極めて高い。


 学院にはリリアがいるし、学院の警備体制がどういうものなのかは知らないが、魔法のエキスパートが集まる魔導学院なら、俺が心配する事もなく問題に対処出来るだろう。だが、そんな冷静な判断とは裏腹に、さっきからずっと胸騒ぎが止まらない。


 俺が逡巡している間に、先程までとは違う、はっきりとした悲鳴が魔導学院の方から重なって響く。


 [暗目付(やみめつけ)]と[物見]の術で、魔導学院の様子を探ると、そこは阿鼻叫喚の図と化していた。逃げ惑う生徒と思しき人影を、異形の怪物が追い掛け回している。

 

 それは、腐った死体(ゾンビ)剣を持った白骨(スケルトン)などの不死者(アンデット)の集団だった。


 逃げ惑う者、追い詰められて結界を張って耐えている者、攻撃魔法で応戦する者、魔導学院の敷地内の至るところで、そんな光景が見て取れた。


(放ってはおけない)


 俺は窓から飛び降りて、通用門へと急ぐ。すると、騒ぎを聞きつけた職員や警備員たちが、正門前に集まっていた。騒然とする彼らに向かって、俺は大声を張り上げる。


「俺が救助に向かうので、万が一の場合は受け入れの準備を!」

「は、はい!」

「ここも襲撃される可能性がある! 警戒を怠るな!」

「わかった!!」


 職員や警備員たちの返事を背に、通用門から飛び出した俺は、そのまま魔導学院の敷地内へと駆け込んだ。目の前にいる白骨を『慧眼』で調べながら、[暗器]から取り出した試作刀で、抜刀一閃する。


=====

スケルトン

危険度:D


儀式魔法で呼び出された特別な個体。魔法陣を破壊すれば崩れる。

=====


(…魔法陣だと?)


 リベルタ、ノルドヴァルに続いて、また魔法陣が関係してくるとは思わなかった。つまりこれは事故などではなく、何者かの明確な意思によって引き起こされた事態であるという事だ。

 さっきから『危機察知』のスキルが警鐘を鳴らす方向から、かなりの数の不死者の気配を感じる。つまり、その向こうにこれらの群れを生み出す魔法陣があるのだろう。


(速攻で仕留める)


 これはスキアーの協力者が、陽動として騒ぎを起こしたとみて間違いない。しかも、敢えてトップであるセレスティアが不在の時を狙うという、用意周到な計画だ。他にも策を練っている可能性がある以上、速やかにこちらの事態を収拾させて、大図書館に戻る必要がある。


 最短で気配の多い方向に進みながら、次々と目の前の白骨や動く死体を、一刀の元に斬り捨てていく。


 魔物相手なので、今の俺は力を抑えていない。[身体操作]こそ使っていないが、試作刀の斬れ味と相まって、凄まじい事になっていた。全力で刀を振る度に、白骨は砕け、動く死体は飛び散り、そのどちらも原型を留めていない。ただ目の前の障害を打ち払い、先へ先へと突き進んでいく。


 ――やがて俺が辿り着いた先には、大きな講堂があった。


 その入口の近くの広場では、見覚えのある銀髪の後ろ姿が、結界の中の生徒たちを庇うように戦っていた。


「『火の精霊よ! 風の精霊よ! 手を取り合い舞い踊れ!』

 炎の嵐(フラム・テュフォン)!」


 高らかに謳うリリアが手をかざすと、彼女の周りを炎の嵐が巻き起こり、結界の群がる不死者の群れを焼き尽くした。だが、よく見ればリリアは肩で息をしている。そうこうする間にも、講堂の入り口からは次々と不死者が出てきていた。


「リリア先生!」

「はぁ、はぁ……まだよ! まだ大丈夫!」


 生徒たちの心配する声にリリアが笑顔で答えているが、強がっているのは明らかだった。恐らく魔力枯渇を起こしかけているのだろう、その証拠に膝が笑っていて、表情も強張っている。

 

 ――俺はそんなリリアを庇うように、その前に飛び出しながら、魔力を練り上げた。


「土遁」


 リリアと講堂の入口の間を遮るように、巨大な土壁が生み出された。


「え! 何これ!」


 急に現れた土壁を見て驚きの声を上げるリリアと生徒たち。そんな土壁の向こうに居る、姿の見えないリリアに対して、俺は声をかけた。


「リリア! 学院の入口までは掃除してある。限界なら逃げろ!」

「その声は、クーノさん?」

「そうだ! 行けるか?」

「は、はい! 行こうみんな」

「はい!」「ええ!」


 リリアと同じく、結界を張り続けていた生徒たちも、もう限界だったのだろう。詳細を確かめる余裕もなく、リリアに促されるままに避難を始めた。ある意味退路を断った俺は、不死者の集団に向かって突っ込んでいく。


(試させてもらおう)

 

「にノ型”仁王”」


 灰色狼を試し切りをした時に感じた違和感。受けるだけではなく、反撃の一太刀を入れる感覚を自分のものにしようと、敢えて集団の中へと身を躍らせた。


 ――白骨の剣が、動く死体の腕が、噛み付きが、全てが”仁王”によって弾かれ、流され、また返す刀で斬り捨ててられていく。


(分かってきたぞ)


 身体が型に慣れていくにつれて、反撃をするもしないも自らの意思で選べるようになっていく。そうして不死者の群れの中を躍るように、講堂へと突き進む。

 そうして、ある白骨の剣を柳で受け流した時、今までとは違う感覚があった。俺は感覚に任せるがままに、上段から真っ向に振り降ろす――


 ――すると、まるで斬撃が翔んだかのように、前方に居た数体の不死者の躯を斬り裂いた。


(今のは、”雷”)


 間違いない、今のは"いノ型"の変型である、上に抜刀して真っ向斬りをする”雷”だった。その威力も必殺技のように増幅された最初の一太刀の感覚のままだった。


(もしかして繋がるのか)


 もっと型を身体に馴染ませていれば、別の連携も出来るのかもしれないと、自分の可能性に思わず高揚する。その一瞬の気の緩みで集中が切れて、"仁王"が解除された。


(いかんな)


 迫りくる白骨の振る剣を飛び上がって避けながら、魔力を練り上げて下に居る不死者の群れに掌を向ける。


「風遁」


 充分に魔力の籠められた風が、破裂するように真下に居る不死者に叩きつけられ、その群れを吹き飛ばした。その空いた空間に着地した俺は試作刀を脇に構えると、前に踏み込みながら気合を籠めて真横に振るう。


「はノ型"刃紋"」


 目の前の不死者を横薙ぎにしながら、そのまま俺は講堂の中へと突入していった。講堂の中も不死者の群れで溢れていて、俺はひたすらに"刃紋"で薙ぎ払っていく。

 入口から見た正面奥にある壇上か仄かに光っており、そこから不死者は生み出されている。壇上から次々と不死者が講堂に押し出されるように降り立ってきていた。


(見つけたぞ)


 あそこにある魔法陣を破壊すれば、この不死者どもは動かなくなる筈だ。目標が見つかった以上、出し惜しみをする意味はない。

 俺は[身体操作]を使い、魔力で全身を強化すると、目の前の不死者を斬り捨てながら、前へ前へと突き進む。まるで、俺が台風の中心になったみたいに、刀を振るう度に不死者の躰が吹き飛ばされていった。


「な、なんなんだお前は! たった一人に私の軍勢が負けるはずが…」


 壇上から男の悲鳴のような声が講堂内に響く。壇上の間近まで来て、始めてフード姿の男が壇上にいるのが見えた。恐らく、奴がこの不死者を召喚した男なのだろう。杖を壇上の床に突き立てている様子から、あそこに魔法陣があるのは確定のようだ。

 焦ったフードの男の持つ杖が一際輝きを増すと、講堂の不死者の動きが止まる。次に動き出した不死者の群れは、壇上の前に集まっていくと、お互いの躰を押し付けていく。


(何だ?)


 目の前で不死者の壁、というか不死者の塊が出来ていくと、やがてそれは一つの塊へと変化していった。俺がそれを阻止しようとするが、その前を立ち塞がる不死者の群れに阻まれてしまい、間に合いそうにない。ようやく壇上の近くまで辿り着いた時には、一体の不死者の巨人が完成していた。


=====

ジャイアント・ゾンビ

危険度:B


儀式魔法で呼び出された個体が合体したもの。核を壊す、または召喚された魔法陣を破壊すれば崩れる。

===== 


 『慧眼』で調べた結果がこれだった。壇上から、フードの男の笑い声が聞こえてくる。


「ふははははっ! 我が秘術が破れるわけがないのだ」


 狂ったように笑うフードの男を無視して、不死の巨人を見ると、壇上から生まれた不死者の躰も次々と吸収されていく。どうやら、まずは俺を始末する事を最優先としたようだ。


(だが、問題はない)


 俺は刀を納めると、魔力を全身に巡らせて[身体操作]を最大限まで高める。そんな動きの止まった俺に、不死の巨人の拳か振り降ろされた。


「はっはっは! 死ねぇぇぇぃ!」


 壇上のフードの男の歓喜の声を余所に、俺は巨人の拳を飛び上がって避けると、真上に抜刀してそのまま振り降ろす。


「いノ型"雷"」


 まさに文字通り大地に落ちる雷のような一撃で、不死の巨人は縦に真っ二つに斬り裂かれる。心臓に当たる部分で少しだけ硬い感触があったが、それが核だったのだろう。恐らくは、合体した時に凝縮された躰が核となり、巨人と化したのだと思うが、倒せた以上はどうでもよかった。


「そ、そんな…」


 それより、逃げようとするフードの男をどうにかする方が先決だ。壇上の男が杖を床から離して逃げようとしたので、まずは足止めをしなければならない。


「逃がすか!」


 そのフードの男の動きを止めようとして、無意識に空いている左腕を突き出すと、男の動きが止まった。


(何だ?)


 見れば、俺の影が伸びて、フードの男の影に突き刺さっている。フードの男が焦って動かない身体を必死にどうにかしようと藻掻いていた。


「何だ! 何故動かない!?」

「…寝てろ」


 そんなフードの男に近づいて、首筋に手刀を入れて気絶させる。そして、壇上の床にある魔法陣に向かって、試作刀を振り降ろすが、何が障壁のようなものに弾かれた。


(…結界か?)

 

 床を見れば描かれた魔法陣を守るように、ぼんやりと薄い光に覆われていた。

 俺は息を整えて[身体操作]の魔力を腕に集中して、刀を右腰に構える。


「へノ型"変幻"!」


 俺は構えたまま飛び上がり、魔法陣の中心に向かって三段突きを放った。寸分違わず同じ箇所に放たれた突きは、試作刀の切っ先の破片が飛び散るのと同時に、結界を突き破り、魔法陣の中心を穿つ。床ごと中心を削られた魔法陣は、その仄かな光を放つのを止めた。


(流石に保たなかったか…)


 欠けた試作刀の切っ先を見てため息を吐きつつ、俺はフードの男を縛り上げる。色々と話を聞きたいところだが、今は一刻も早く、大図書館に戻らなければならない。


 ――俺はフードの男を抱き上げて、大図書館へと向かった。



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