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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第六章 アルカディア連邦共和国編

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6-5 おっさん、見回りをする

「クーノさん! おはようございます!」

「おはよう、リリア。朝から元気だな」

「はい! それが取り柄ですから!」


 俺が、セレスティアに大図書館の用心棒として雇われてから、三日経っていた。

 あの日、許可証を貰いに受付まで行く間にセレスティアと相談した結果、俺はここにいる間はクヌートではなく、”クーノ”として過ごす事になったのだ。

 大図書館には各国から人が集まるそうで、”クヌギ”だとルーンベルグ王国の関係者に聞かれた場合に厄介な事になりそうだし、かと言って”クヌート”のままでは、冒険者に聞かれてしまえば面倒になる。ならば第三の名前を考えるしかないという結論に達したからだ。


 用心棒の初日は、セレスティアの指示を受けたリリアに大図書館を案内してもらうだけで、日が暮れた。一階は一般的な書架が納められており、閲覧席はもちろん他にも休憩スペースや、食堂などの施設があった。

 中でも中央のドーム部分は吹き抜けになってて、ちょっとした庭園となっていた。その中心には噴水まであり、魔道具の力で水を循環させているのだという。更にはドーム部分は開閉式というから驚きだった。

 二階は専門書のエリアで、主に各研究分野の書類が集められていた。ちょっとした実験室などもあり、魔道具で保護されているから、多少は危険な実験を行っても大丈夫だそうだ。

 そして、セレスティアの館長室がある三階だが、半分が応接室や会議室などになっていて、もう半分は貴重な書物が保管されているらしい。四階から上は職員の部屋や研究室などがあり、内部の人間しか入れなくなっている。

 個室に関しては、階段を挟んで東側が男性用、西側が女性用と明確に区分けされていて、女性側にはちゃんと警備員も立っているので、安心して生活出来るとの事だ。

 そして、地下エリアは完全に職員しか入れない区画になっているという。見向きもされなかった書物や破損が激しいものは、地下一階で保管、修復をされている。世界地図などの機密文章などは、禁書庫である地下二階に保管されている。セレスティアの言う百年前の"勇者召喚"の記憶もこちらにあった。


 ――そこを守るのが、今回の俺の仕事となる。


 今のところ、何が目的で禁書庫を狙うのかは皆目見当がつかないが、強硬手段を臭わせているところからも、まともな理由ではないだろう。

 ルーンベルグが勇者召喚の記録を消したいのか、はたまた別の禁書を求めているのかは分からないが、禄でもない連中が相手なのは間違いなさそうだった。


「じゃあ、今日は講義だったか? 頑張れよ!」

「はい! クーノさんもお仕事がんばってください!」

「ああ。ありがとう」


 初対面の時に助けたからだろうか、リリアは何故か俺に懐いていて、俺の姿を見掛けると、パタパタと駆け寄ってくるようになった。


(悪い子ではないが)


 まぁ、俺みたいなおっさんが動けるのが珍しいのだろう。初日に館内を案内されながら"どうやって身体を鍛えているんですか"と質問攻めにあったものだ。そうして声がつい大きくなってしまい、注意されたリリアが落ち込んだ事もあった。おっちょこちょいな部分のある彼女は、どこか放っておけない印象を抱くのだろう、大図書館では彼女は人気者で職員たちの印象は悪くない。


 そんなリリアと別れた俺は、今日も大図書館の巡回していた。初日から今日までの間は、館内では特に怪しい人物は見かけてはいない。だが、相変わらず夜になると、周囲では怪しい人影を見掛けるそうだ。


(…少し方針を変えるか?)


 さすがに真っ昼間に堂々と襲撃をかけて来る事はないだろう。何なら、俺が巡回をしている事を知った相手が、昼に動くのを止めた可能性もある。


(好きに動け、と言われてるしな)


 この感じだと、昼間は館内に居なくても大丈夫そうだ。それに館内には至るところに警備員もいる。元々は居ない俺が少しの間だけ留守にしても問題はないだろう。それに、敢えて隙を作る事で、何か新しい動きかあるかもしれない。


(行ってみるか)


 エンリコに頼んでいた"アレ"の件もある、商業ギルドに寄るついでに少し街中を見て回ってもいいかもしれない。

 そう判断した俺は、念のために外出許可をとろうとセレスティアの部屋を訪れた。そして、彼女に自分の考えを話すと、彼女は快く許可を出してくれた。


「自由に動いていい、と言ったはずよ」

「分かってはいるが、念のためさ」

「そういう律儀なところは悪くないのだけどね」


 ふと、そこでセレスティアが何かを考えるように黙って俺を見る。だが、すぐに一つ頷いた彼女が、机の引き出しから大きな封筒を取り出して、俺に渡してきた。


「外出するならちょうどいいわ。これを傭兵ギルドに渡してきて頂戴」

「傭兵ギルド?」

「そう。うちの警備員は傭兵ギルドから雇ってるの。その報告書よ」

「そうだったのか」

「ええ。素性のいい者を選定してね」


 確かに、冒険者よりは傭兵の方が数を揃えやすいし、扱いも楽だろう。時には臨機応変な対処を求められる冒険者と違って、傭兵は与えられた仕事を忠実にこなすのが仕事だからだ。その分、素性の悪い者も居るが、報酬さえ弾めば裏切る事は少ない。


「分かった。届けておく」

「頼んだわ」


 セレスティアからのお使いを引き受けた俺は、三日ぶりに館内から外に出た。


---


 大図書館を後にした俺は、まず最初に商業ギルドへと向かった。アルカス支部はリベルタと同じくらいの大きさの建物だったが、外観は宮殿のようなリベルタのものとは違い、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 入口のシックな扉を開けて中に入った俺は、受付嬢にリベルタからの荷物が飛竜(ワイバーン)便で届いていないか確認したが、まだ来ていなかった。


「最近、飛竜便がよく利用されていて、なかなか戻ってこないんですよ」

「そうなのか? あれは一回でそれなりに金がかかるんだろう?」

「ええ。短期間に何度も利用されているので、こちらとしては有り難いのですけど、こうして他の方がなかなか利用できないので、痛し痒しといったところです」

「誰が、と聞いてはいけないのだろうな」

「はい。顧客情報には守秘義務がありますので」


 俺はヴァレンティ商会から荷物が届いたら、大図書館のクーノまで教えてほしいと告げて、商業ギルドを後にする。そして、セレスティアからのお使いを済ませる為に、同じく商業街にある傭兵ギルドに向かった。傭兵ギルドはアルカスの北西の端の方にあって、飲み屋や娼館が多く立ち並ぶ、少々治安の悪い区画らしい。ギルドに近づくにつれて、武器を帯びた傭兵と思しき人間が、ちらほらと見えるようになった。

 

 そして今、俺は傭兵ギルドの目の前に居る。


 ギルドの建物自体は石造りで二階建ての簡素な造りだったが、敷地はそれなりにあるようだ。石壁にぐるっと囲まれて、入口には鉄の格子状の門が取り付けられている。非常時には鉄門は閉じられて、籠城が出来るようになっているのだろう。そんな要塞とも言える入口には赤い金属製の重厚な扉がついていた。

 俺がその扉を開けると、建物内はがらんとしていた。正面にある受付に向かうと、気怠そうにしている受付嬢が座っている。俺が大図書館からの使いだと言うと、彼女は慌てて背を伸ばした。そして、セレスティアから預かった封筒を渡すと、受付嬢は見事な営業スマイルを浮かべて礼を言う。


「今後ともよろしくおねがいします!」

「ああ、伝えておく」


 内心苦笑しながらも社交辞令を告げた俺が踵を返した時、丁度入口の扉が開いて誰かが中に入ってきた。その人物は、俺を見た途端に大きな声を上げる。


「おお! ひさしぶりだな!! 何だ、やっぱりオレの提案を受ける気になったのか!?」

「だから、その気は無いって言ってるだろう? なぁ、ジョン」


 ――そう。そこにいたのは、リベルタで別れた傭兵のジョンだった。嬉しそうに俺に近づいてくるジョンに、俺も笑顔で話しかける。


「じゃあ、何のようでこんなところに?」

「話せば長くなりそうだ。ジョンこそ、何か用事があったんだろう?」

「ああ、そうだった。すぐに済むから待っててくれ」


 俺はどうしようか一瞬迷ったが、ジョンから話を聞いてみるのもいいと思い、頷いて了承の意を示す。


「外で待ってる」

「わかった。ちゃんと待ってろよ!」

「ああ」


 何やら受付嬢に手渡して、手続きをしているジョンを残して、俺が傭兵ギルドから外に出た途端、駆け込んで来た影がぶつかってきた。


「ちっ! 邪魔だ!」


 そう吐き捨てた男が、俺を押しのけて傭兵ギルドの中へと入っていく。男の頬には大きな切り傷の跡があり、髪の毛は金髪で逆立っていた。俺がその男を呆れながら見送っていると、入れ違うようにジョンが何やらぶつぶつ言いながら出てきた。


「何なんだよ、スキアーのヤツ」

「どうした?」

「いや、さっき男とすれ違わなかったか?」

「ああ。急いでたのか、俺にぶつかってきたが謝りもしない奴ならいたが」

「そいつだ。別のクランのリーダーでスキアーって男なんだが――」


 ジョンが話すには、スキアーのクランは実力はあるが、余り評判がよろしくないらしい。今も、まだ受付嬢と話しているジョンに対して、用が済んだならさっさと出ていけと、いきなり押し退けてきたそうだ。

 クランというのは、冒険者でいうパーティのようなものだが、冒険者のパーティが四~五人くらいなものに対して、クランは最低十人以上居ないと組めない大規模な集団だそうだ。それ以下の人数だと傭兵団という扱いになり、個人でも傭兵団扱いになる。

 傭兵ギルドでは、個人では無く団体としての登録となり、冒険者ギルドのようなランクもある。だが、傭兵団では最高でCランクまでしか上がれず、仕事の斡旋も制限されるとの事で、まずはクランを作るというのが第一の目標だという。


「それで、元気にしていたか、クヌギ?」

「ああ。今は訳あってクーノと名乗っている」

「そうか。…ま、無事で何よりだ!」

 

 そう笑いながら、俺の背中をバンバンと叩くジョンだったが、彼と最初に会うきっかけとなった盗賊団の襲撃の時に、九人になってしまったので、慌てて人員を募集したそうだ。今は十五人まで増えてはいるが、新人ばかりで穴埋めする形になったので、大きな仕事を受けるには心許ないという。


「そう言えば、あの時にウチ以外の傭兵も護衛についていただろう?」

「ああ」

「ギルドからの斡旋だったんだが、あの追加人員は今思えば、前にスキアーのところに居たヤツらだったような気がする」

「そうなのか?」

「ま、うろ覚えだがな。ウチもあそことは仲が言い訳じゃないから、絶対とは言えないが。それに、スキアー達のクランが何か急に羽振りが良くなったそうで、ますます態度が悪くなって何処のクランも距離を置き始めているんだ」


(…偶然か?)


 確かに、あの時の襲撃には何かの意図を感じていたのは事実だが、それが何を意味するのかは結局分からず仕舞いだった。だが、評判の悪いスキア―たちのクランが、急に羽振りが良くなったという情報は気になる。


「しばらく、大図書館で用心棒みたいな事をしているから、何かわかったら連絡してくれ」

「おお、それは凄いな。わかったよ」


 それからしばらく話した後、俺は念の為にジョンのクランを場所を聞いてから彼と別れ、大図書館に戻っていった。



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