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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第六章 アルカディア連邦共和国編

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6-3 おっさん、”友人”と会う

 銀髪の女性とぶつかってから急いで歩いた俺は、ここ冒険者ギルドのアルカス支部まで辿り着いた。

 外観はリベルタ支部と似た雰囲気で、石造りの黒い三階建てのを建物だ。規模はリベルタと同じか、ややアルカスの方が広いかもしれない。屋上にはためく紋章入りのギルド旗も、入口の看板も、どこかリベルタを思い起こさせられて、懐かしい感じがした。


(…っと、いかんな)


 感慨にふける時間はないのだと、さっき反省したばかりなのだが、どうやら余程気が抜けているらしい。俺は深呼吸をして、軽く自分の頬をパチンと叩くと、ギルドの重い扉を開く。


「いらっしゃいませ! アルカス支部へようこそ! 本日はどのような御用でしょうか?」


 入口に立っていた若い受付嬢が、中に入って来た俺に向かってそう尋ねてくる。


 各国の支部を見てきて思ったのは、その性質上ギルドの造りはそんなに変わらないという事だ。多少の配置は違えど利便性を考えれば、同じような造りに行き着くのだろう。


「リベルタ支部から来た。ギルドマスターにこれを渡してほしい」


 俺は懐からロレンツォとトルビョルン、二つの支部のマスターからの書簡と自分のギルドカードを、受付嬢に手渡すと、彼女はとても驚いたようで目をまん丸に見開いていた。


「え! マスターに用ですか!? し、少々お待ちを!」


 動揺のあまり大きな声になってしまった彼女の声が、受付のロビー中に響き渡ってしまい、その場に居た冒険者たちの注目を集めてしまう、そんな彼女に対して、受付のカウンターにいた先輩と思しき別の女性が、やんわりと彼女を窘めた。


「ちょっとメリッタ、落ち着きなさい」

「はうぅぅ…コローネ先輩、すみません」

「いいから。ちょっとこっちにいらっしゃい。…えっと貴方も」

「分かった」


 俺が頷くのを見て、コローネと呼ばれた受付嬢はパンパンと手を叩いて声を上げた。


「はいはい! またメリッタがお騒がせしてごめんネ。気にしないで」


 コローネがニコリと笑いながらそう言うと、周りの冒険者たちも笑いながら、自分たちの用事に意識を戻していった。きっとメリッタとコローネのこんなやりとりは、アルカス支部では日常茶飯事なんだろう。


「ううぅ…またってヒドイですぅ」

「事実でしょ」

「そうですけどぉ…」


 そう不貞腐れるメリッタの頭をよしよしと撫でているコローネが、メリッタに俺が預けたモノを受け取ってまじまじと見ると、ふいに真面目な顔になって俺に正対する。


「お手数ですが、もう一度要件をお伺いしてよろしいでしょうか?」 

「リベルタ支部のクヌートだ。マスターにそれらを渡してほしい」

「かしこまりました。さぁ、メリッタは仕事に戻って」

「はいっ! あとはお願いします!」


 コローネに頭を下げたメリッタが、通常業務に戻っていった。そんな彼女を見送ってから、コローネは俺に視線を戻すと、少し考えてから口を開く。


「それでは、私に着いて来てください」

「ここで待たなくていいのか?」

「どうせ、マスターはあなたと会うと言うでしょうから」

「…理由を聞いていいか?」

「すぐにわかりますよ」

「そうか」


 俺はすたすたと受付の奥に入っていくコローネの後に続いていった。彼女は階段を上がる事なく、廊下を奥の方に歩いていく。他のギルドとは違って、一階にギルドマスターの部屋があるのは意外で、ある意味新鮮だった。


「へぇ…アルカス支部では、マスターの部屋は一階なのか」

「ええ。マスター曰く上まで上がるのは面倒くさいと」

「なるほど。合理的な人なんだな」

「…物は言いようですね」 


 俺のマスターへの評価を聞いて、くすっと笑ったコローネが、一番奥の部屋のドアをノックする。すると、すぐに野太い返事が返ってきた。


「誰だ?」

「コローネです。マスターの”ご友人”の紹介状を持った方をお連れしました」

「そうか! 入ってもらえ!」


 ドタドタと部屋の中から音が聞こえる中、俺はコローネに疑問を口にする。


「友人?」

「ええ。本人曰く、”北の友人”だそうですよ」

「そうか、トルビョルンが」


 その名前を聞いたコローネは頷くと、部屋の中が落ち着いたのを見計らってドアを開けた。彼女に促されて部屋に入ると、壁一面の本棚が目に入った。だが、そこには書物の他にも、巻き物から謎の魔道具のような物まで雑多に詰め込まれている。

 その手前、執務机の正面にある応接用のソファーには、短い白髪のがっしりとした体格の老人が座っていた。如何にも好々爺然としているが、仮にも冒険者ギルドのマスターが、そんな分かりやすい人物ではないことを、俺は身を持って知っている。

 


「マスター。こちらは、リベルタ支部のクヌートさんです。彼から、こちらをマスターに渡すようにと」

「おお、そうか。儂がアルカス支部のマスターをやっとるティグリスじゃ。よろしくな」

「リベルタ支部所属、C(ランク)冒険者のクヌートだ」

「ほう、Cランクか」


 挨拶の最中、コローネはティグリスに俺のギルドカードと二通の紹介状を渡すと、そのまま部屋から立ち去った。それらを見ながら楽しそうに笑うティグリスは、読み終わったそれらを俺に返してきた。


「それで、トルの奴は元気にやっとるか?」

「トル? …ああ、トルビョルンか。元気も元気だったよ。色々世話になった」

「そうか。それは何よりじゃ。元気が一番じゃからのう」


 ――ここで俺を見るティグリスの目が、すっと細くなる。


(来たか)


 そんなティグリスの様子に、俺は気を引き締めた。最も嘘を吐く必要は無いので、俺は有りの儘を説明することにする。


「それで、クヌート。お前さんが、アルカディアまで来た理由はなんじゃ?」

「トルビョルンの勧めでヴェスタリアに向かう事になったんだが――」


 俺は、改めてノルドヴァルに着いてから、アルカディアまで来るまでにあった出来事を一から順に説明していった。反乱の調査から始まり、ヴェスタリア人を先に逃がした俺が、アルカスで合流するまでを簡潔に纏めて話す。

 それを、黙って頷きながら聞いていたティグリスだったが、話が終わると目を瞑って何やら考え込む。やがて考えが纏まったのか、ティグリスが目を開くと、先程までの剣呑さは無くなっていて、元の好々爺とした老人に戻っていた。


「なるほどのう。ヴェスタリアからの難民の件は儂も聞いておるが…お前さんがのう」

「信じるのか?」

「伊達に歳はとっとらんよ。それで、お前さんは、これからどうするつもりじゃ?」

「しばらくは魔物退治の依頼を受けていくつもりだ」

「なるほどのぅ。レベル上げか」

「ああ」


 ティグリスの洞察力に関心しながら俺が頷くと、難しい顔になったティグリスが口を開いた。


「実はのぅ、クヌート。ルーンベルグの本部から、お前さんを見つけたら報告するように通達が来ているんじゃよ」

「…そうか」

「ノルドヴァル王家から、本部に直接苦情が入ったそうじゃ。”我が国で無法を働いたクヌートという冒険者を引き渡してほしい”とな」


 それを聞いて、俺は思わず苦笑してしまった。仮にも冒険者ギルドの本部が、モーリッツやラースと言った官吏たちの甘言にでも踊らされたのだろうか、と考えてしまう。すると態度に出ていたのか、そんな俺の様子を見たティグリスが真面目な顔になったので、俺も襟を正す。


「まぁ、言いたいことは分かるがの。じゃが、いくら冒険者ギルドに独立権があろうと、国の組織であることには変わらん。上の立場から正式に苦情が入ったのなら、動かない訳にはいかんのじゃよ」

「…諸々の立場の問題ってやつか」

「まぁ、そうじゃな。それはギルドの中でも同じことよの。故に本部からの指示はこちらも無視は出来んのじゃ」

「…そうか」

 

 だが、笑えるのはここまでだった。この様子だと、表立ってギルドで活動するのは無理そうだ。さて、どうしたものかと、俺は途方に暮れそうになる。

 だが、そんな俺の心境を察したのか、ティグリスが優しく笑いかけてきた。


「ヴェスタリア人たちを逃がしてきた功績もある。匿ってやりたのは山々じゃが、現状ではそれも厳しい。お前さんにアルカディアに対する功績があれば別じゃがのう」

「いや、構わないさ。こうして事情を説明してくれただけでも感謝する」


 俺は立ち上がって頭を下げた。このままアルカス支部に居続ければ、ティグリスたちに迷惑をかけることになる。それは承服出来ないと思い、そのまま部屋から出ていこうとするが、ティグリスに呼び止められた。

 

「話は最後まで聞くものじゃよ。確かにギルドでは無理じゃ、儂が黙っておってもいずれバレるじゃろう。じゃが、大図書館なら違う」

「大図書館?」

「そうじゃ。大図書館はアルカディア連邦直轄でのう。その館長であるセレスティアは、連邦評議会の会長でもある、迂闊に手は出せん」

「目に目を、か」

「そうじゃよ。政治には政治じゃ。彼女の庇護下に入れば、多少は動けるじゃろう」


 そう提案するティグリスの優しい目は、俺を心から心配しているように思えた。なので、俺は再度感謝の意を示して頭を下げた。


「すまないな」

「いいんじゃよ。トルの信頼を得てるなら、お前さんも儂の友みたいなものじゃ。セレス宛の紹介状を書いてやるから、待っておれ」

「助かる」


 そうして執務机に戻ったティグリスが、急いで紹介状を認めると俺に渡してくれた。俺はそれを受け取って懐に仕舞うと、改めてティグリスに向き合って礼を言う。


「ありがとう」

「礼には及ばんよ。トル坊の代わりの、詫びみたいなもんじゃ」

「…ヴェスタリアの件のか」

「そうじゃ。それに多くの命を救った。誰が何と言おうと、その偉業は称えられねばならん」


 その言葉を聞いて、俺の胸が詰まった。ヴェスタリアでは辛酸を舐めさせられ、自分の甘さに辟易していたので、こう真っ直ぐに褒められるとは思っていなかったからだ。


「ふっ、まだまだ若いの」

「もう、おっさんだがな」

「儂に比べれば、まだまだひよっこじゃよ」


 そんな感極まっていた俺をティグリスが揶揄う。


 そして、少し胸が軽くなった俺は、ティグリスと握手を交わす。「何かあったら顔を出すんじゃよ」というティグリスの言葉を胸に、俺はアルカス支部を後にした。


 ギルドの外に出ると、既に空は朱く染まっている。もう時刻は五の刻になっていた。


(…急ごう)


 日が完全に落ちる前に宿を見つけたかったところだが、ギルドでの話を聞く限り、少し慎重に動かざるを得ない。まずは大図書館の館長と話をした方がよさそうだ。


 ――そう思った俺が小走りで大図書館の入口まで戻ると、背後から声が掛けられる。


「あ! さっきはありがとうございました!」



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