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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第五章 旧ヴェスタリア公国編
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5-5 おっさん、総督府に乗り込む

「いい? くれぐれも命までは奪わないように!」

「わかってる!」

「努力はするさ」

 

 俺たちは今、総督府の近くまで下水道を移動していた。歩きながら、マリアが突入班に最後の注意を飛ばしている。だが、フーゴはその指示に不服そうだった。


「けどよ、あいつらはこっちを殺しにくるんだぜ?」

「それでもよ。そんな事をしたら、私たちの大義名分は無くなるわ。殺してしまえばルーンベルグと同じになる。それでもいいの?」

「ちっ…わかったよ」


 ルーンベルグと同じになる、という言葉が余程嫌だったのだろう。それまで息を巻いていたフーゴだったが、しぶしぶ納得したようだ。


 そう、俺はマリアに極力ルーンベルグの兵士を殺さないよう、事前に解放軍に伝えてもらうように説得をしていたのだった。勿論大義名分というのも嘘ではない。

 だがそれよりも、ルーンベルグにヴェスタリアの民が虐殺される様を見たオズワルドの気持ちを考えれば、極力命を奪うやり方は避けたかった。ルーンベルグと同じ手段をとれば、いくらヴェスタリアを解放する為とはいえ、オズワルドは心を痛めるだろう。これ以上彼には辛い思いをして欲しくは無かったのだ。

 なので、今回はそれに掛かる不可は極力俺が受けようと覚悟を決めていた。必要ならば手札は全て切るつもりでいる。


 やがて俺は下水道の先から、新鮮な空気が流れてくるのを感じた。視線の先には下水道の出入口がある。誰も好き好んで下水道の近くに住みたいとは思わないだろう。特にここは壁の内側の”高貴な人間”が住む貴族街だ。当然のように人の気配はなく、下水道の入口は古びた倉庫の一角にあった。

 まもなく、壁の外側でボヤ騒ぎを起こして見回りの兵士の注目を集める手筈になっている。勿論燃やすのはわざわざその為に雑に作ったオンボロ小屋で、その周りには燃え移るような物は何もない。完全に陽動の為だけに作られたダミー小屋だった。ただ、傲慢なルーンベルグの兵士が壁の外で起きた事に対応するとは思えなかったので、内側でも同時に騒ぎを起こすように作戦を修正していた。


「なら、作戦通りに先に行っていてくれ。すぐに追いつく。エラ、任せた」

「了解よ。みんなこっち」

「クヌート、気をつけてね」


 俺は小さく頷くと、マリアたちをエラに任せて逆方向へ走っていく。ここで騒ぎを起こして、下水道の入口に意識が向かうのを避ける為だった。そうして、前に偵察をしていた時に見つけた小さい広場に辿り着くと、身を潜めて合図を待つ。

 するとすぐに、壁の外から煙が立ち上るのが見えたので、俺は[火遁]の術で小さな火を起こして、枯れ木を燃やした。焚き火が出来る程度の規模で建物に燃え移る事はない。だが、遠目から見れば、何かが燃えているという事は充分にわかるものだった。

 

 俺はすぐに闇に紛れて、総督府の方へと急いで向かう。

 

 ――その後ろでは「火事だ!」と叫ぶ声が、周囲に響いていた。


---


「待たせた」

「いいえ。いいタイミングよ」


 恐らく火事の報告が入ったのだろう。普段なら寝静まっているはずの総督府が慌ただしくしているのが、遠目からでも見えた。丘の上にある白亜の宮殿は、これまた白い石壁で囲まれており、正面には貴族が使う正門が、裏手には使用人が使う通用門があった。今は非常時という事で正門から兵士が出入りしている。この隙に裏の通用門から強襲をかけるのが、今回の作戦だった。


「見張りは…居ないな」

「でしょ? この時間は交代時間の隙間なのよ」


 総督府に潜入していたエラが得意げに、しかし小さく胸を張った。驚いた事に進入経路やタイミングまで、エラの調べてきた情報はかなり精度が高かったのだ。


(そんな凄腕の彼女が、何故レジスタンスにいるのだろう)


 事情は分からないが、味方であればこれほど心強いものは無かった。俺たちは見張りが来る前に総督府の敷地内への進入を試みる。


([開錠])


 通用門には鍵が掛かっていたが『忍術』であっさりと鍵を外した。


「え? 鍵は?」

「鍵を掛け忘れていたみたいだな。いいから急ぐぞ」

「う、うん」


 戸惑うマリアやエラを余所に、俺は先頭を切って通用口の中にそっと入る。特に裏手に気配は感じなかったので、そのままマリアたちも敷地内に入ってくるように促した。


「エラ、次は?」

「こっち。着いてきて」


 ぞろぞろと身を低くして裏庭を進む俺たち。建物の内部からは気配を感じるが、こっちの様子を探る余裕はなさそうだ。ここまでは誰にも見つからずに、俺たちは総督府の勝手口に辿り着いた。


「ここまでね。後はもう見つからずにいくのは無理だと思う」

「わかったわ。ここからは正面突破ね」

「任せろ。行くぞ?」


 俺はそれだけ言い残して、マリアたちの答えを待つ前に、勝手口を蹴り上げる。ドカッという派手な音をたてて、勝手口が開くと中は厨房だった。そのまま厨房を抜けて廊下へと出ると、そこにはちょうど慌ただしくしている兵士が二人居た。


「誰だ!?」


 急な侵入者に戸惑っている兵士たち。

 その質問に答える前に間合いをすっと詰めて、両手で掌底をそれぞれの顎に叩き込んだ。


「「ガッ!」」


 鈍い悲鳴を上げて床に倒れこむ二人。ここでようやくマリアたちも廊下に出てきていた。


「相変わらず見事ね」

「いいから急ごう。ここは狭い」

「もう!」

「エラ!」

「はいはい」


 俺はエラに声をかけて、すぐ後ろで道案内をしてもらった。エラの三歩先を歩き、指示通りに廊下を進んでいく。正門側に近づくにつれて廊下は広くなっていったが、兵士との遭遇も増えていく。だが、俺は構わず、次々と兵士を気絶させていった。


「…強えぇ」

「化け物だ…」

 

 解放軍の誰かがそう呟く声が聞こえてくるが、気にしている場合ではなかった。エラによれば、二階に上がる階段だけは正門側の正面階段を使うしかないそうで、そこには兵士が集まっているだろう事は予想出来たからだ。なので俺は、振り返らずにマリアたちに声をかける。


「まもなく正面に出る、そこからは手筈通りだ。いいな?」

「やっと暴れられるぜ!」

「任せたぞ」

「おうよ!」


 俺とマリア、エラの三人を中心に、正面階段にいる相手の人数次第で、上の階に上がる人数を絞る。そしてヴォルフガングが騒ぎに気付く前に、速やかに奴の部屋まで行き制圧するのが、今回の作戦の肝だった。

 勿論俺がある程度は露払いしてから上に上がるつもりではあるが、あまり時間をかける訳にはいかない。不安ではあるが、ここが解放軍の踏ん張りどころでもある。


(一般兵相手なら大丈夫な筈だ)


 準備期間中に、突入班と軽く手合わせしたところ、ルーンベルグ王宮にいた兵士たちよりは腕が立つのは確認済だった。だからこそ、この場を任せる事にしたのだった。


「行くぞ」


 俺が先頭を切って正面階段の前の広間に乗り込むと、既に騒ぎを聞きつけていたのか、そこには三十人ほどの兵士が集まっていた。


(動きが早いな)


「侵入者め! おとなし――」

「邪魔だ」


 俺は兵士の群れの中に突っ込んでいくと同時に、手で、足で、あたり構わず薙ぎ倒していく。

 マリアたちが広間に駆け込んできた時は、大半の兵士が床に転がっていた。


「マリア! エラ!」

「ええ!」「はーい」

「後は任せた!」

「「おう!」」


 起き上がろうとする者、気絶している者、縺れている者、そんな兵士たちをフーゴたちに任せて、俺は階段を駆け上る。再びエラの案内で、なるべく人気の少ないルートで進み、三階まで走り抜けた。

 だが、三階に上がると同時に強い殺気を感じた俺は、咄嗟に足を止める。

 すると、通路の角から、一人の騎士が姿を現した。


「なかなか勘が鋭いで――え?」


 そこに居たのは見覚えのある顔の一人の騎士だった。ルーンベルグ騎士団の一人で、酸毒蛇(アシッド・ヴァイパー)と遭遇した時にいた"中立騎士"。


「グレゴールか」

「…! 生きていたのですか、クヌ――」

「クヌートだ。リベルタ支部Cランク冒険者クヌート。義によって依頼を受けて、ここにいる」

「リベルタの冒険者……そうですか」


 何か思うところがあったのだろう。グレゴールは上を見てしばし逡巡すると、改めて俺と向き合った。 

 その隙にマリアとエラが俺に追いついたので、指示を出す。


「手練れだ。足止めするから先に行ってくれ」

「ええ! エラ」

「はいはい」


 俺とグレゴールが睨みあっている横を、マリアたちがすり抜けていく。

 グレゴールはマリアたちを無視して、俺を正面から見据えると、やがて重い口を開いた。


「あなたを置いてアシッドヴァイパーから逃げた時、自分は後悔しました。異世界からの客人を置いて何をしているのだと」

「あれは俺が指示しただけだ」

「それでもです。結局あの日は森には戻れず、後日一個中隊に率いられてあの場に戻った時、全てが終わった後でした」


 これはグレゴールの懺悔なのだろう。俺は黙って聞く事にした。


「自分の無力さに打ちひしがれた自分は、周りが止めるのも聞かずにひたすら自分を追い込みました。そして、メキメキとレベルが上がり、こうしてヴェスタリアを任せられるようにまでなったのです」

「そうか」

「投降して下さい。あなたでは自分には勝てませ――」


 グレゴールは、そこで一度言葉が詰まった。その顔色は急激に真っ白になっていく。


「――どうやってここまで来たのですか?」

「正面突破に決まっているだろう?」

「ここには五十人を越える兵がいたはずですが、まさか…」

「ここにいるという事実の他に何かいるのか」 


 俺の言葉に、今度こそグレゴールは絶句していた。恐らく色々と気がついたのだろう。


「さて、そろそろ行かせてもらうぞ」

「…こうなったら仕方ありません。怪我をしても恨まないでくださいっ!」


 グレゴールから殺気が膨らんで、それと共に俺に襲いかかってくる。抜刀からの斬り上げ、と見せかけて手首を返して逆胴に薙いできたが、俺は持ち手に拳を当てて、その力を削いだ。

 拳に受けた衝撃で、グレゴールは剣を床に落とす。


「そんな…」

「グレゴール。ヴェスタリアの街を見て、何か感じなかったか?」

「…は?」

「騎士とは、誰が為に戦うのか、考えてみるんだな」


 俺はグレゴールの首筋に手刀を入れて、その意識を奪った。



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