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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第五章 旧ヴェスタリア公国編
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5-4 おっさん、偵察に行く

(…あれは、早乙女さんか)


 マリアに連れられてヴェスタリア解放軍に協力する事になった俺は翌日、総督府の様子を見て回ろうと偵察に来ていた。そこで、ルーンベルグ王家の紋章をつけた馬車が、昨日会ったヘレナを轢きそうになったところに遭遇したのだ。


 幸いヘレナは無事だったのだが、驚いたのはその馬車の周りに勇者四人が居たという事だった。


 何を話しているかは分からないが、途中でヘレナの顔色が悪くなった。そうして俯くヘレナに、早乙女さんが癒しの奇跡を与えて、昨日兵士に殴られた頬の痕を消したのが今だった。


(王家の人間が何をしにヴェスタリアへ…まさか?)


 ノルドヴァルの反乱に対する疑惑が上がった以上、他の属国での調査をしにきてもおかしくはないだろう。そうなると、反乱軍が早急に動く訳には行かなくなる。


(…調べる必要があるな)


 昨夜の様子だと、すぐにでも総督府へ襲撃をかけそうな勢いだったが、さすがに勇者四人がいる状況ではまずい。ただでさえ戦力差がある上に、あの四人が出てくれば俺が足止めをするしかない。そうなれば、数で劣る解放軍に勝ち目は無いだろう。作戦実行は彼らがヴェスタリアから離れるまでは待つ必要がある。

 俺は屋根の上に登ると『隠密』で気配を最大限まで薄めた。勇者たちが気配察知系のスキルを持っていないとは限らないからだ。そうして、極力気配を消しながら目視して馬車の行方を追いかける。幸い街中で速度を上げる事は無かったので、何とか行く末を見守る事が出来た。どうやら彼らは真っ直ぐに城門に向かっているようだ。


(そのまま出て行ってくれよ)


 内心で冷や汗を掻きながら、俺は静かに馬車の様子を探り続けた。神崎くんがにこやかに門番に何やら告げると、しばらくしてから外門は開かれて、馬車はヴェステリア市の外に出ていった。


(これで、一安心か)


 門が閉じていく様子を最後まで見送ると、俺は『隠密』を解いて一息吐いた。

 だが、そこでふと疑問が沸く。


(…今、門の様子が見えて無かったか?)


 ここから外門まで、それなりの距離がある。馬車の進行方向を見定めるのは可能だが、神崎くんが門番に話す様子まで見えるのはおかしい。だが、実際にその様子が目に映っていたのもまた事実だ。

 

 ――となれば、”答え”は一つしかない。


=====


クヌート(タケシ・クヌギ)

42歳 男

ジョブ:剣士(侍)


レベル:16


力:160 (420+150)

技:170 (420+150)

速:170 (420+150)

体:160 (420+150)

魔:150 (420+150)

抗:150 (420+150)

運:150 (420+150)


スキル

剣技5、危険感知5

(剣術7 ↑、抜刀術5、忍術6、投擲術3、格闘術4、偽装8、隠密7 ↑、慧眼2 ↑、危機察知4、毒耐性7、精神耐性9、剣舞8)


称号

なし

(『侍マスター』『忍者マスター』『巻き込まれし者』)



(忍術)

[火遁][水遁][土遁][雷遁][風塵][風遁][空蝉][縄抜け][開錠][息吹][身体操作][物見]↑


(剣舞)

[いノ型][ろノ型][はノ型][にノ型][ほノ型][へノ型]


[暗器]:試作刀


[空蝉]貨幣、保存食、衣類、魔物素材、重要書類

 

=====


 ステータスを見てみると、やはり[物見]と言う『忍術』が増えていた。剣術が上がっているのは、ヴィクトールと戦ったせいだろう。慧眼は鉱山での出来事や、やはりヴィクトールを調べたあたりか。となると隠密が上がっているのは、たった今勇者四人から隠れたからだろう。今までの経験からすれば、強敵相手にスキルを使うと成長しやすい。ならば、それだけ勇者たちも成長をしているに違いない。


=====

[物見]

魔力を目に集めて視力を強化し、遠くを見通す事が出来るようになる。何処まで見えるかは本人の集中度と魔力量によって変わるが、あくまで視認出来る範囲でしか見る事は出来ない。

=====


 怪我の功名というべきか、これで総督府の偵察がやり易くなったのは事実だ。

 折角なので俺はそのまま屋根の上を移動し、総督府を囲む内壁に飛び移る。そして気配を消して、総督府の様子を[物見]でしばらく観察した。


---


「マリア、襲撃は遅らせた方がいい」

「どういうこと?」


 それから日が暮れてからも総督府の警備体制をしばらく観察していた俺は、キリのいいところで切り上げて、解放軍のアジトへと戻ってきた。そして明日の襲撃計画の会議の直前に、マリアを捕まえて昼間見た王家の馬車の件を告げる。ここでは勇者の話はせずに、強そうな護衛がいたとだけに留めておく。


(…俺が勇者を知っているのもおかしいからな)


 今の俺はあくまでリベルタのCランク冒険者だ。それなのに公表されていない勇者の話を知っているのはおかしいだろう。今のこの大事な時に、余計な情報を与えて、変に解放軍を警戒させる訳にはいかなかった。


「誰が乗っていたかまでは分からないが、馬車がヴェスタリアを離れるまでは待つべきだろう」

「…そうね」

「な! 明日の夜に仕掛けるんじゃねえのかよ!」


 だが、話が聞こえていたのだろう。フーゴがマリアに喰ってかかってきたので、俺はフーゴを止める為に二人の間に入った。


「落ち着け。もし王家の馬車が戻ってきたら、敵が増えるぞ」

「だったら、そいつらも倒せばいいじゃねぇか!」

「その場合、俺はそっちの護衛相手で手一杯になるだろう。お前たちだけで百人相手に出来るのか?」

「うっ…」


 俺が少しだけ視線に圧を籠めると、フーゴは押し黙ってしまった。やる気があるのはいいが、勇気と蛮勇は違う、作戦を成功させるためにも彼にはもう少しだけ落ち着いて欲しかった。


「別に、計画を止める訳じゃない。少し遅らせた方がいいと言っているんだ」

「…ちっ、わかったよ」


 計画が中止になる訳ではないと聞いて、どうにか自分の中で折り合いをつけたのだろう、フーゴはすごすごと下がっていった。

 そんな彼の様子をマリアは黙って見送っていたが、やがて俺に向き直って笑顔になった。


「ありがとう。クヌート」

「構わないさ」

「それで、何時まで延期にするの?」

「三日後だな。そうすれば早馬も早々届くまい」

「わかったわ」 


 そうして会議の時間となり、マリアから襲撃は三日後になると解放軍のメンバーに発表された。若い何人かは、フーゴと同じように一瞬騒いだが、マリアが冷静に事情を説明すれば納得して引き下がった。

 後は三日後に向けて、誰が何を担当するのか等、詳細を詰めていく。


(却って、延期になって良かったのかもしれないな)


 昨日の様子だと、勢いのままに襲撃をしてしまいそうで、どこか危うかった。だが一旦クールダウンする時間が取れたことで、冷静に作戦を遂行出来そうだ。

 会議の結果、突入班、陽動班、後方支援班の三組に別れることになった。俺やマリア、フーゴなど戦闘員は当然突入班になる。

 トーマスは子供なら警戒もされないだろうと後方支援班として、ヘレナみたいな協力者との繋ぎをとる重要な役目を担う事になった。ちなみに俺が合流する前は「僕も戦う」と言っていたそうなので、そうならずにほっとしたのも事実だった。


 また、昨日は居なかったメンバーも合流して、マリアは俺を次々と紹介していく。


 マリアの右腕のデヴィットは弓使いで、フーゴとは真逆の性格をしていた。斥候のエラは総督府に潜り込んでいたそうで、総督の部屋までの潜入ルートを調べていたらしい。また、解放軍唯一の医師であるソフィアはトーマスがとても懐いているそうで、昨日はスラム街の病人の世話に行っていたそうだ。 

 他にもフーゴと同じような血気盛んな若い突入班や、エラを始めとする陽動班との紹介を済ませた。皆の想いは一つなようで、その士気は高かった。

 

 それから連携の確認をしたり、物資を秘密裏に調達したりと、あっという間に時間は過ぎていく。


 ――そして、決行の日を迎えた。


 アジトの会議室に解放軍の全員が、各々の支度を済ませて集結している。解放軍全員の目にはそれぞれ覚悟の色が浮かんでいて、皆一様に緊張の面持ちをしていた。

 彼らの視線はマリアに集中していて、彼女の言葉を待っている。そして、マリアもまたその表情から緊張しているのが見てとれた。俺はそんなマリアの後ろに立って、ただその様子を見守っていた。

 

 -――誰かが、ごくっと唾を呑む音が聞こえてくる。


 そして、場の緊張がピークに達しそうなその時、マリアが口を開いた。


「みんな、これが最後になるかもしれない」


 その言葉に無言で頷く解放軍のメンバー達。だが、その表情に、恐怖や怯えの色は無かった。


「今まで、ずっと耐えてきた! けど、それは今日終わる! 終わらせるわ!」

「「おおっ!!」」

「私たちはヴォルフガング総督を倒す! そして皆で生き残るのよ!」

「「おおーっ!!」」


 アジトのボルテージは最高潮となっていた。

 解放軍の皆のその表情が、拳をぶつけ合う姿が、これからの未来に希望を馳せているように見えた。


(やるしかない)


 賽は投げられたのだ、もう後戻りは出来ない。最も後戻りするつもりもないが。

 そんな周りの喧騒を他所に、俺は昨夜のことを思い出していた。


(オズワルド…)


 昨日の夜、アジトを抜け出した俺は、一人でオズワルドに今回の襲撃の件を報告しに行っていた。

 初めて会った時と同じように、オズワルドは大聖堂の跡地で月の光を浴びて立っていた。そんなオズワルドは、俺の話を聞いて「そうか」とただ一言だけ言ったのだ。

 だが、その一言には万感の思いが籠められているのが伝わってきたので、俺はそれ以上は何も言えなかった。そうして別れ際に小さく「頼む」と言われたのだった。


「クヌート、準備はいい?」

「勿論だ」 


 黙っていた俺を心配したのだろうか、マリアが声を掛けてくると、今度は解放軍の視線が俺に集まってきたので、俺はみんなを安心させようとわざと軽い口調で答える。


「よし、行くわよ!」


 マリアの号令の元、ヴェスタリア解放軍の総督府襲撃作戦はいよいよ幕を開ける。


 ――今宵のヴェスタリアの夜空は厚い雲で覆われ、月は隠されていた。



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