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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第五章 旧ヴェスタリア公国編
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閑話 ヴェスタリアの視察

「それでは、特に問題はないということですわね?」

「はい! それは当然でございます!」

「反乱の噂も無いと?」

「勿論です! このヴォルフガング・クラインの目が黒い内には、そんな事はさせません!!」


(この男、使えませんわね)


 ルーンベルグ王国の第二王女クララ・フォン・ルーンベルグは、宰相アルフレッド・フォン・ブランシュタインの命により、親書を運びにわざわざヴェスタリア占領区まで足を運んでいた。同じくフォンの名を持つアルフレッドは、クララの叔父にあたる。ノルドヴァルでのルーンベルグ反乱の噂を聞きつけた冒険者ギルド本部からの情報提供に基づき、クララはアルフレッドに再度現地の様子を見てくるように言われたのだ。


(噂すら把握していないなんて、こんなのに任せておいて大丈夫なのかしら)


 だが、すぐにどうなろうと自分の知ったことではないとクララは思う。今は与えられた任務を終わらせて、早くルーンベルグに帰ることしか考えていなかった。

 そんな退屈な任務だったので途中”わがまま”を言って、護衛に今話題の勇者たちを選んだのは単なる暇つぶしでしかない。勿論、優秀な者を自分の”もの”にしようという下心も満載で、その成果としてレイジ・テンドウが自分に靡く姿を見て内心満足していたのだ。


(性格には若干難有りですが、他の貴族に比べればマシですわ)


 異世界人であるレイジ・テンドウは容姿は整っているし、何より”強い”。現在のルーンベルグ王国においては、まさしく最強の一角だろう。魔物を倒してレベルを上げ続けている今、第一騎士団団長のレオンハルトですら、もはや敵わないのではないかと専らの噂である。


(まあ、英雄色を好むといいますしね)


 クララは多少の火遊びは許すつもりだった。

 煩わしい貴族同士の腹の探り合いに比べれば、レイジ・テンドウは付き合い易く、また操り易かったからだ。少し煽てれば、調子に乗って自分のお願いを聞いてくれるし、何よりルーンベルグ最強の駒である。

 自分が手綱を握れば、いっそエリザベートの立場でさえ奪えるのではないかと思う程、テンドウは自分にのめり込み始めていた。


(勇者といっても、所詮は男ですし)


 ハヤト・カンザキは、気安く接してくれるものの何処か一線を引いている事に、クララは気づいていた。あの一見軽薄な態度とは裏腹に、思っている以上に冷静に物事を見ているのだと、クララはこの視察の旅の中で、カンザキの評価を一変していたのだ。

 だが、それでもいいとクララは思っていた。手懐けるならば、最強の駒であるテンドウがあればいいと。


 ――それが、間違っていたとクララが理解した時、最早手遅れだったと実感するのは、もう少し先の話である。


---


「も、申し訳ありませんっ!」

「ふん! せいぜい以後気をつけるんだな」


 ヴェスタリア占領区の"スラム街"。


 総督府でヴォルフガング・クラインとの面会を終えた後、クララたち一行はルーンベルグに戻ろうと馬車を走らせていた。そして貴族街から城門を出た後、馬車の進路にスラム街の奴隷が飛び出してきたのだった。

 頬を布で押さえたままの奴隷の女は、ただひたすら頭を下げ続けて、勇者であるテンドウが大いなる慈悲の心で、奴隷の無礼な振る舞いを許したのである。


(悪いのは一体どっちなのかしら)


 早乙女蓮は、冷静にその光景を見て、そして悩んでいた。


 今回の視察には、グスタフは来ていない。エリザベート寄りであるグスタフのことはクララは苦手としているから、彼女が敢えて外したのだ。

 なのでクララの護衛騎士、側仕えの侍女数名と、選ばれし勇者四人という少数でヴェスタリアまで来ていた。

 ヴェスタリアに向かう道中、早乙女蓮がクララの側仕えたちから聞いた話によると、流れ着いたヴェスタリアの難民が、城壁の外側に勝手にスラム街を作り出した。だが慈悲深いルーンベルグ王国はそれを容認して、そのスラム街の外側にまで防壁を築いて庇護を与えた、という事らしい。


 だが、早乙女蓮の目には、全く違う光景に見えたのだ。


 ルーンベルグ軍の関係者というだけで、ヴェスタリアの住民は怯えているように早乙女蓮には見えた。ルーンベルグの紋章をつけているだけで、"スラム街"の住民が慌てて逃げるように離れていく光景を、護衛としてクララの馬車の周りで馬に乗っている早乙女蓮は何度も見ていたのだ。

 一度、クララの側仕えに尋ねてみたら「第二王女が来ると聞いていたのに、外を出歩く奴隷が悪いのです」と言われてしまい、会話が成立していないと思った早乙女蓮は、クララの関係者に話を聞くことを諦めていた。

 なので、絶好の機会であると思った早乙女蓮は、彼女の怪我を口実に、"スラム街"の現地住民である彼女に話を聞こうと、敢えて行動したのである。


「すみません。彼女は怪我をしているようなので、治してあげてもいいですか?」

「…まぁ、いいだろう。奴隷とはいえ、勇者である我々が慈悲を与えてやるのも努めだからな」

「アタシはパス。勝手にやったら〜」

「そうだね…早乙女ちゃん」

「すぐに、済みますから。殿下、しばしお時間を」

「はい、いいですよ。…サオトメ様はお優しいですね」


 何故かはわからないが、そうしなければならないと思った早乙女蓮は、半ば強引に馬車に轢かれそうになって尻餅をついている"奴隷"である妙齢の女性に近付いて、笑顔で話しかけた。


「申し訳ありませんでした。大丈夫ですか?」

「え、ええ。慣れていますから」


 彼女の言葉を聞いて、早乙女蓮はふと疑問に思う。

 理不尽な扱いに慣れているというのは、奴隷である彼女の"主人"の振る舞いが、横暴であるという事なのだろうか。


「慣れている?」

「ええ。見回りの兵士たちに難癖つけられるのは当たり前ですから」

「…え?」

「だから、むしろこれくらいは優しい方ですよ」


 目の前の"奴隷"の言葉に、早乙女蓮は思わず絶句してしまった。この世界に来て、王宮にて地球との違いは教えてもらったが、奴隷に対して主人以外の一般兵が難癖をつけるなんて、聞いていなかったからだ。

 奴隷制度事態は仕方がないと、早乙女蓮は理解している。犯罪を犯した者や、借金を払えなかったものが奴隷落ちするというのは、理論としては正しいと思っているからだ。

 だが、あくまで奴隷はその主人の所有物であり、垢の他人が横柄に振舞っていいとは聞いていない早乙女蓮は、奴隷の女性の言葉を受けて混乱していた。


「え、貴女のご主人は、それを容認するのですか?」

「ご主人? …なんの事でしょう?」

「だって、貴女は、その、奴隷なのでしょう?」


 その時、早乙女蓮は自らの失言に気がついた。何故なら目の前の"女性"の顔色から、すーっと血の気が引いていったからだ。


「…そう、そうですね。ええ、ワタシたちは奴隷でしたね」

「あ、あの?」

「申し訳ありませんでした。一奴隷であるワタシ如きに気を使わせてしまいまして。奴隷のワタシにこれ以上お構いになる必要はありません。それこそ"ご主人様"に叱られてしまいます。どうか、これ以上は…」


 早乙女蓮の目の前の女性は震える声でそう言うと、土下座をするように地面に額を擦りつけるようにした。早乙女蓮は、その光景が受け入れられずに混乱していたが、ただ一つだけ理解したのは自分がとんでもない事を言ってしまったのだという事だった。

 それでも気を取り直した早乙女蓮は、目の前の傷ついた女性に対して、癒しの奇跡を行使する。


「『光の精霊よ 命を繋ぐ者よ 彼の者の傷を癒し給え』

 癒し(ヒール)

「…え」


 頬にある痣がみるみる内に消えていく光景に、今度は彼女が戸惑っていた。それを見て早乙女蓮は、罪悪感と達成感と、色々な感情がごちゃ混ぜになっているが、自分の"立場"を思い出し、敢えてその振る舞いをとった。


「これで大丈夫です。ご迷惑をおかけしましたね」

「あ、あの…」

「それでは。くれぐれも気をつけてくださいね」


 それだけを言い残し、早乙女蓮は彼女の前から踵を返した。

 早乙女蓮の心には小さな、それでも抜けない棘が刺さっていたように、彼女は感じていた。


「気が済んだか?」

「…ええ」

「フンっ、お優しいことで」

「私たちが迷惑をかけたのだから、当たり前の事でしょ」

「「…」」


 早乙女蓮がそう言うと、天堂麗司と氷室鏡華は黙ってしまった。その二人の様子を見て、早乙女蓮は疑問に思う。


(この二人、こんなに子供っぽかったっけ)


 撮影時の二人は、態度はともかくもう少し自分の振る舞いに気を使っているように思っていたが、この世界に来て時間が過ぎていけばいく程、振る舞いが子供のように変わっていったように早乙女蓮は感じていた。


「早乙女ちゃん…」

「神崎くん、私なら大丈夫よ」


 面白くなさそうに早乙女蓮を見る天堂と氷室の様子を見て、神崎隼人が心配そうに声をかけて来たが、早乙女蓮は敢えて明るい調子で応えた。何故なら、功刀ならそうすると思っていたからだ。

 どんなに心無い言葉をぶつけられても、紳士的な対応をしていた功刀の姿に、早乙女蓮は尊敬の念を抱いていた。功刀が居ない以上、自分がそう振る舞おうと密かに頑張っていたのだった。


(それでも、一時凌ぎにしかならないのだけど)


 自分が無理をしているのは、早乙女蓮本人もちゃんと自覚をしている。だが、それでもそう振る舞わないと、彼女自身の心が折れてしまいそうだから、彼女は無理をしてまでも功刀のスタンスを真似しようとしていた。むしろ、それが今の早乙女蓮を支えていると言っても過言では無かったのだ。


 神崎隼人は、そんな早乙女蓮をずっと心配していた。功刀が王宮から去った後から、ずっと彼女が思い詰めていたのを見ていたからだ。


(おっさん、今どこで何してんだよ…)


 思わず功刀に悪態をついてしまう程には、神崎隼人は早乙女蓮を気にかけている。それと同時に、何か事情があるならそれを相談してくれなかった功刀に対して憤りを感じていたのだ。


(…いや、オレなんかに言ってもしょうがないと思うけどさ)


 それでも、話して欲しかったのだと、神崎隼人は思ってしまうのだった。


 ――そんな二人の様子を渦中の人物が見ていた事を知らないまま、クララ一行はヴェスタリアを後にしたのだった。



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