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4-8 おっさん、鉱山に向かう

 フロストヘイム支部に試し斬り――もとい、依頼を終えた俺が戻って来たのは、夕方前だった。だが、ギルドの外にまで何やら騒がしい声が響いている事から、緊急事態が起きたのは間違いないだろう。

 俺が軋む扉を開けて中に入ると、珍しく十人以上の冒険者が受付前に居て、何やら口々に話をしている。

周りを見れば、俺がフロストヘイムに着いた時に”忠告”をしてくれたあの男がいたので話かけた。


「何があった?」

「おお! あんたまだこっちに居たのか?」

「まぁな。それで?」

「わからん。ただ緊急依頼が出るかもしれないから待機ってさっき言われたところだ」

「そうか。ありがとな」

「一杯おごりでいいぜ?」

「終わったらな」


 お互いにやりと笑って、俺は依頼終了の手続きをする為に受付へと向かう。珍しくグレーテ以外のギルド員も受付に立っているところから、余程立て込んでいるらしい。


「グレーテ、今大丈夫か?」

「クヌートさん! お帰りなさい。討伐依頼は終わりましたか?」

「あぁ。群れの退治で良かったんだよな?」

「はい」

「目的地で一つの群れは潰したが、他に群れが居るかは調査はしていない」

「それなら完了で大丈夫ですよ」

「なら、手続きを頼む」

「はい、ただいま」


 俺が背負い袋を床に置いて、まず討伐の証である尻尾を取り出した。そして、それらと共に依頼書をグレーテに渡すと、彼女はおずおずと書類を受け取りながら俺の顔を見た。

 その何処か申し訳なさそうなグレーテの様子に、俺は助け船を出す事にした。


「それでですね、実は――」

「緊急依頼の件か?」

「知っていたんですか?」

「ああ。あいつから聞いた」


 あの男の方に指を刺すと、それを視線で追ったグレーテが納得したように声を上げた。


「あぁ、オラフさんと知り合いでしたか」

「初日に少しな。あいつは長いのか?」

「はい。フロストヘイムの最古株です」

「なるほどな」


 道理で面倒見がいいものだと、俺は関心した。一か所に留まり後輩の面倒を見るなんて、今の俺の事情からすれば、オラフの真似は当面出来そうにない。ある意味尊敬の念まで持っている。


「それで、待機だったか」

「はい。すぐに結論が出ると思いますので、ギルド内にいてもらえれば大丈夫です」

「因みに緊急依頼を受ける人選は指名制か? それとも立候補制か?」

「どちらもありますので、マスターの判断待ちです」

「分かった。訓練場にいる」

「わかりました。では終了手続きをしておきますね」

「頼んだ」


 受付中、後ろから俺の出した灰色狼の尻尾の数を見て何やら騒いでいたような気がしたが、気のせいだと思う事にして、気を取り直して朝振りに地下の訓練場に行こうとすると、周囲にいた冒険者たちが何やら聞きたそうに遠巻きにして見ているような気がした。


(仕方ないか)


 彼らも掲示板を見ている訳で、あの依頼内容は知っている筈だ。見知らぬおっさんが、ソロで灰色狼の群れを退治したと聞けば、色々と確認したくなるのも理解出来るので、俺は特に気にせずに訓練場に向かおうとした。だが――


「クヌート! ちょっと来てくれ!」


 ――受付の奥から出てきたトルビョルンに、それは遮られた。


---


 俺は何度目か分からないが、トルビョルンの部屋のソファーで彼と向かいあって座っている。今日のトルビョルンには何処か余裕がなさそうだった。


「それで、クヌート。お前は何処まで聞いた?」

「まもなく緊急依頼が出そうだ、とまで」

「まぁ、そうなるか。イェルングルーバは知っているか?」

「名前だけはな。鉱山都市だったか?」

「ああ。この国最大の鉱山で、様々な鉱石を産出している国の要だ」

「要?」

「ここから採れた鉱石を輸出するのがノルドヴァル最大の産業だ。故に国の直轄地となっている」

「なるほど、監視が厳しいのか」

「そうだ」


 そしてトルビョルンが話し始めた内容はというと、イェルングルーバの鉱山町で大規模な崩落事故が起こった。救助の為の人手が足りないと現場は騒然としていたが、現場監督官であるラースは救助隊を呼ぼうともせず、内部の人間だけで後処理をさせた。その崩落の混乱の隙をついて、内部告発のような形で救助要請が来たそうだ。

 国の直轄地であるこの鉱山に、フロストヘイム支部としては表立って介入は難しい。そこで俺に白羽の矢が立ったという訳だった。


「内部告発、か」

「そうだ。この国の人間では、どうしようもない状況になっていてな。お前に頼るしかないのが現状だ」

「依頼内容は、事故に遭った被害者の救出でいいんだな?」

「ああ。出来れば事故原因も調べてほしい」

「きな臭い、か?」

「そうだ。表向きは救助隊が派遣されているそうだが、ならば俺にこんな話が来るはずがない」

「何かを隠していると」

「俺はそう見ている。それに―」


 そこで言葉を切ると、トルビョルンは一枚の封筒を取り出した。


「―告発状と共に、炭鉱夫の紹介状まで届いている」


 俺はその内部告発者の手際の良さに驚いた。正規のルートでは無理と裏で手を回してギルドに救助要請を出す手腕といい、只者ではない。


「……用意がいいな」

「全くだ。来るかどうかも分からない相手に、だ」


 トルビョルンと視線が合った。そこには、どうにかしてやりたいが、何も出来ないという無力感で揺れているように思える。彼もまた、自らの立場で揺れている人間なのだろう。


(…気持ちは分かる)


 だからこそ、放ってはおけなかった。リベルタで同じような事態に遭遇した俺には、トルビョルンの切実な頼みを無下には出来ない。


「分かった、受けよう」

「そうか。これは正式な依頼というより、俺個人の頼みになるが」

「ギルドの評価には繋がらない、と言いたいんだろう? 構わないさ」

「…そう簡単に言ってくれるな。全くお前という奴は」


 トルビョルンは頭をがしがしと書きながら、しかし何処か眩しいものを見るようにして、俺に頭を下げた。


「恩に着る。万が一の時には俺が動く。好きにやってくれ」

「分かった」

「鉱山内部にミハイルという男がいる筈だ。接触してみてくれ」

「情報提供者か?」

「ああ。元ギルド員で、俺の知り合いでもある。優秀な男だったよ」


---


 その日はギルドに泊まらせてもらい、明けて翌日の朝になった。俺は朝一番でフロストヘイムを出て、イェルングルーバに向かって”全力”で走っている。

 地球では災害救助のゴールデンタイム、つまり人命救助のタイムリミットは七十二時間とされている。崩落事故が起きてから、トルビョルンの元に情報が来るまでも時間がかかった筈だ。フロストヘイムからイェルングルーバまでは馬で片道約二日との事だから、早くても今日で三日目になる。

 この世界のゴールデンタイムがどうなのかは知らないが、要救助者の事を考えれば、少しでも早く現地についた方がいいのは間違いない。

 だから、俺はステータス全開で丘陵地帯を走り抜けていく。時間が無いから最短距離で突き進み、どうしても避けられない魔物は『忍術』で始末して突き進む。走っていく内に身体が温まってきたのか、更に速度が上がったような気がした。これなら夜通し走れば翌朝までには到着出来そうだ。

 

 そして何度か小休憩を挟みながら、イェルングルーバの鉱山町に辿り着いたのは、夜もかなり更けていた頃だった。俺は冷えないように[土遁]の術で地面の中にかまくらのような物を作ると『隠密』で気配を消して仮眠をとる事にした。こんな時間では町の中には入れないし、流石に全力の移動で疲れていたからだ。

 明日はきっと忙しくなると確信していた俺は、焦る心を抑えながらも、ここでしっかりと身体を休ませる選択をしたのだった。

 何だか撮影の前乗りみたいだなと思い、そういえば撮影の際、現場に入る前は必ず集中力を高める為に瞑想をしていた事を思い出した。

 寝る前に瞑想をして心身共にリラックスさせようと、深呼吸を繰り返す。全身に酸素を巡らせて、ゆっくりと吐き出して循環させる。何度か繰り返していく内に、呼吸をする度に身体の疲れが抜けていくような感覚が生まれた。一度意識したその感覚は、深呼吸を繰り返す度にどんどんはっきりと実感出来るようになった。その感覚が心地よく、瞑想をずっと続けていたら三十分もすれば身体は忽ち元気を取り戻していた。


(まさか…)


=====


クヌート(タケシ・クヌギ)

42歳 男

ジョブ:剣士(侍)


レベル:16(1)↑


力:160 (420+150) ↑

技:170 (420+150) ↑

速:170 (420+150) ↑

体:160 (420+150) ↑

魔:150 (420+150) ↑

抗:150 (420+150) ↑

運:150 (420+150) ↑


スキル

剣技5、危険感知5

(剣術6、抜刀術5、忍術6↑、投擲術3、格闘術4、偽装8、隠密6、慧眼1、危機察知4、毒耐性7、精神耐性9、剣舞8)


称号

なし

(『侍マスター』『忍者マスター』『巻き込まれし者』)



(忍術)

[火遁][水遁][土遁][雷遁][風塵][風遁][空蝉][縄抜け][開錠][息吹]↑[身体操作]↑


(剣舞)

[いノ型][ろノ型][はノ型][にノ型][ほノ型][へノ型]


[暗器]:試作刀


[空蝉]貨幣、保存食、衣類、魔物素材、重要書類

 

=====


 まさかと思いステータスを確認していると[身体操作]と[息吹]という新しい忍術を習得していた。更に『忍術』で魔物を倒していたからか、自分のレベルと共に忍術のレベルも上がっている。一先ず俺は新しく習得した忍術について『慧眼』で調べてみた。


=====

[身体操作]

魔力を身体に纏わせる事により、身体能力を強化出来る。強化幅は魔力の消費量により増え、どう身体を動かすかを具体的に想像すればするほど効率が上がる。

=====


=====

[息吹]

呼吸と共に全身に魔力を循環させ、体力を回復させる。この呼吸法に慣れれば傷を癒す事も可能である。

=====


 [息吹]は何となく分かる。先程の瞑想中の呼吸が原因だろう。リラックスする為の瞑想が、まさかの結果を生み出してしまった。だが[身体操作]を覚えた原因は何だろうか。『忍術』の仕様として、具体的なイメージ且つ、心から望まなければ発動はしないのだが――と、ここで俺は一つの結論に至った。


(”全力”の移動か)


 ステータス全開での長時間の移動。それは要救助者のタイムリミットが迫っているからだった。必要に応じてこの忍術を習得出来たからこそ、この時間に到着出来たのでは無いかと思ったのだ。そして、恐らくそれは正解なのだろう。


(相変わらずよく分からない仕様だが、感謝する)


 この世界に来て振り回されてばかりではあるが、何だかんだで自分で決めた事である。自分にやれる事をやると決めたのは俺自身だ。その手助けをしてくれる”誰か”に感謝しても罰は当たるまい。

 

 ――やがて夜明けが来て、勝負の一日が始まろうとしていた。



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