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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第四章 ノルドヴァル王国編

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4-6 おっさん、”稽古”をする

 エンリコからの手紙を読み終わった俺は、刀を抜きたい衝動に駆られた。今すぐ刀身を見てみたかったのだ。

 だが、受付前で武器を抜くのはギルドのルールでも禁止になっているので、人が居ないからといって流石に憚られる。


(許可を取ってみるか)


 抜くだけなら許可が出るかもしれないと思い、俺は仕事をしているグレーテに近づいて声をかけた。


「グレーテ、一つ聞きたいんだが」

「はい。なんでしょうか?」

「荷物の中身はこれだったんだが、ここで抜くのは問題だよな?」


 俺はグレーテに”カタナ”を見せた。

 急に珍しい形の武器を見せられて、彼女は戸惑っているようにも見える。


「見た事がない形ですね。それでしたら、今は誰も使っていないはずなので、地下の訓練場が使えますよ」

「分かった。案内してくれるか?」

「はい」


 グレーテに連れられて、今まで行った事のない受付の右側にある通路の方へと向かう。

 フロストヘイム支部は、一階正面に受付があり左側が依頼掲示板、受付カウンターの奥が事務室と二階へ続く階段がある。右側が食堂などがある区画になっていて、地下への階段もここにあった。

 少し長い階段を降り切ると、だいたい30メートル四方の空間が広がっていて、槍などの長物を振り回す余裕がある。天井はだいたい5メートルくらいの高さだろうか、その中央にはめ込まれた1メートルほどの平たい石――恐らく魔道具なのだろう。それがぼんやりと訓練場全体を照らしていた。床は木では無く石畳になっているので、足元にはそこまで気を遣う必要もなさそうだ。


「ここです。奥には仮眠室もあるので、休憩も出来ます」

「初耳だな。自由に使えるのか?」

「はい。ここではDランク以上の方なら、空いていれば使えます」

「それは助かるな」


 結局、俺にはまだ拠点となる宿が無かった。今は久しぶりに刀を振りたい気分だし、これから探すのは少し面倒だ。とりあえずの寝床が確保出来たのは有り難かった。


「鍵は内側からかけられます。ただ暖は取れないので、使う時は寒さには注意してくださいね」

「分かった。ありがとう」

「いえ。それではごゆっくり」


 グレーテが踵を返して階段を上るのを見送った後、俺は荷物を降ろしてベルトに刀を差して久しぶりに帯刀をする。


(やはり落ち着くな…)


 西洋の剣が嫌いな訳では無いが、やはり刀の方が身体に馴染んだ。

 俺は左足を後ろに引いて抜刀し正眼の構えをとる。中段の構え――胸前で構えて相手の眉間に真っ直ぐに付けるように意識をする、最も基本的な構え。構え自体は同じ刃物である以上どちらでも使えるが、西洋剣はその重量を生かして”叩き斬る”ように基本設計されている。それに反して刀は純粋に刃の切れ味だけで”斬る”ように創られている。

 用途が違えば用法も変わるので、下段に構えて切り上げるより、上段から振り下ろした方が武器の特性を生かせる、といったように使える事と有効である事は別で、どう使うかが重要なのだ。

 俺は正眼から左足を踏み込んで刀を振り上げ上段に構えを変えた。そのまま更に右足で踏み込んで刀を振り下ろすと、ビュンと鋭い風斬り音を立てて、ビタっと下段の構えの高さで刀は止まった。

 

(刀の重心が鍔元に寄っているな)


 様々な流派や刀鍛冶によって変わるが、基本的には刀の重心は切っ先三寸と謂われる切っ先、つまり先端から三寸、約9センチの位置に置かれる事が多い。物打ち、と呼ばれるこの場所にあるのが刀捌きのバランスがよく、俺はこの位置に置くのが一番慣れていた。

 当然、殺陣に置いて普段は竹光を使っているのだから、正確には物打ちに重心があるように見せる為に身体を捌くというべきなのかもしれないが。

 今、俺の目の前にある刀身の反りの内側、ちゃんと峰側には刃がついておらず斬れないようになっていた。若干白身がかった銀色の刃で制作工程が違うから流石に刃紋は無いが、見た感じでは充分な斬れ味を持っていそうだった。

 

(…贅沢は言わん)


 西洋剣とは、やはり使い勝手が全然違う。試作品とはいえ、この出来映えなら今の俺には充分だ。これでようやく型の稽古が出来るようになるのだから。この身体に馴染ませた「米」の字は、剣術としては基本的な型というか、言わば素振りだ。

 大小様々な流派にはそれぞれの型があるように、大竹流剣術には七つの型がある。何故か一番目から順に「いろはにほへと」と「いろは歌」で名付けられているが、大竹師匠の師匠が「その方がお洒落だろ」と言っていたのを真似したそうだ。

 一つ目、"い"の型は様々な抜刀術。全ての動作は抜刀から始まるからだ。

 二つ目、"ろ"の型は袈裟斬りから、三つ目の"は"の型は胴斬りから始まる連撃になっている。

 四つ目の"に"の型は受けや摺り流し、柳などで相手の攻撃を捌き続ける防御の型だ。

 そして攻撃の型に戻り五つ目、"ほ"の型は斬り上げから始まる連撃で、"へ"の型は、突きのみで構成されている。

 そして最後の"と"の型だが、実は俺はこの型を知らない、というかまだ無い。

 師匠が言うには大竹流では独立する時、つまり自分の流派を立ち上げる際に「自分なりの独自の型を作れ」と言われていて、その巣立ちの際に餞別として初めて師匠が弟子に見せるのが、"と"の型なのだと。


 故に、俺は"と"の型を知らないのだ。


(今後も知る機会があるかは分からないが…)


 地球に戻れるかどうかも分からない現在、それに囚われていても意味がない。ならば今はやれる事を地道に積み重ねていくしか無い。


 幸い今、俺の手元には待ち望んでいた刀がある。

 ある意味、ノルドヴァル王国に喧嘩を売った以上は、最低限身を守るだけの力は必要だった。


(よし、やるか)

 

 それから俺は一心不乱に、六つの型稽古をひたすら繰り返していた。


---


「おはようございます、クヌートさん」

「…ん? もう朝か」


 俺はあれからずっと時間も忘れて、型稽古を繰り返していた。型と型との間には、深く呼吸をして全身に酸素を巡らせる。そして次の型をやり、また深呼吸をして――時には連続で型を繋げてみたりと色々と試していた。

 そして、次の型に行く前に息を整えていたら、突然グレーテに声をかけられたのだ。


「もう朝って、もしかしてあれからずっと訓練していたんですか?」

「ああ、そうみたいだな」

「ええっ! 一晩中!?」


 何気なく返した俺の言葉に、グレーテが驚き目が大きく見開かれた。どうやら久しぶりに刀を手にした興奮のあまり、稽古にのめり込み過ぎたようだ。だが、不思議と身体に疲れや不調は一切ない。


「それより、どうしてここに?」

「今、階段の前を歩いていたら、何か物音が聞こえてきたものですから」

「確認の為に来た、と」

「はい。珍しく誰か来たのかなと思ったら、まさか…」


 グレーテが俺を見る目は、呆れているような、それでも何か尊敬の念があるような、何とも言えない色が浮かんでいる。

 まあ、丁度いい機会だったので、一先ずこれで型稽古を止める事にした俺は、グレーテに声をかけた。折角だから試し切りを兼ねて、型の実践をしたかったからだ。


「今日は少し仮眠をしてから、魔物退治をしようと思っているのだが、何か依頼はあったか?」

「……そうですか。確か何件かあったはずですので、確認しておきますね」


 一瞬言葉が詰まったグレーテが、今度は解りやすいほど呆れながら俺を見ている。

 

「ありがとう。頼んだ」

「はい。少しは身体を休めて下さいね」

「ああ」


 そう言い残したグレーテは一礼した後、昨夜と同じように階段を登っていった。

 それを見送った俺は、奥にある仮眠室の中へと入る。 『水遁』で布を湿らせて身体を拭いてから、仮眠室にあったベッドに横になった。

 少し埃っぽいが、あまり気にならず俺の意識は落ちていった。


---


(今日はそこそこあるな)


 二刻――二時間ほど仮眠をとった俺は今、掲示板の前に居た。今日も受付前には俺以外の冒険者の姿は見られなかった。最も今日はもう昼前と言っていい時間なので、他の冒険者はとっくに依頼の最中だとは思うのだが。

 目の前の掲示板は。いつも貼られている依頼書の数が少ない印象があったが、今日は今まで見た中では一番多い。とは言え、まだ三回しか掲示板を見ていないが。

 その中で目に付いたのが、雪山での灰色狼(グレイウルフ)の群れ退治の依頼だった。


(集団戦か…)


 官吏に手を出した今の俺は、下手をしたらノルドヴァル王宮から騎士団を派遣されても無理はない。この世界に来てからは集団戦を経験していない俺には、この依頼は丁度良かった。

 俺が依頼書を持って受付の前に行くと、それに気付いたグレーテが奥から受付についた。


「クヌートさん、決まりましたか?」

「ああ、これにする」


 依頼書を渡すと、グレーテはサッと内容を確認して手続きを進めた。何処か淡々とした雰囲気に、俺は思わず首を傾げる。


「はい、手続き完了です。…どうしましたか?」

「いや、今日は依頼内容について何も言わないんだなと」

「だいたい、クヌートさんがどういう方なのかわかりましたから」

「そ、そうか」


 この世界に来てから、そこそこの付き合いになるとある瞬間からこのような態度をとられる事が多くなった。呆れているというより諦められている感じ、と言えばいいのだろうか。


(…変わり者か)


 今思えば、リベルタ支部でも途中からこんな雰囲気になっていたように思える。なんと言っていいのか、受付嬢のレイラや指導員のグイド、それにマスターのロレンツォも最終的には「クヌートだから」みたいな雰囲気を出していたと、ふと気付いた。

 ここのマスターのトルビョルンにも納得されているし、今朝の件で今度はグレーテがそうなっても可笑しくは無いか。


「では、行ってくる」

「はい。お気をつけて」


 半分逃げるように受付を後にして、俺はギルドを出た。

 そのまま城壁の入り口に向かい、門番に通行料を払ってフロストヘイムの街から外に出る。

 灰色狼の目撃情報のある雪山は、依頼書に寄ればフロストヘイムからそう離れていない。歩いて三時間程の場所にあるらしい。狩りをしていたハンターが、遠くに灰色狼の群れを見つけたから退治をして欲しいという内容の依頼だった。

 この世界の人間が三時間なら、俺が全力で走れば一時間も掛からないだろう。普通に歩いても二時間弱くらいで到着出来るとは思う。

 

 だが、一刻も早く試し斬りをしたくなっていた俺は、そこそこの速さで走り出したのだった。



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