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4-1 おっさん、北国に行く

――しばらく更新を休むと言ったが…あれは嘘だ。

 ――ノルドヴァル王国。

 ルーンベルグ王国より北にある丘陵地帯にある寒冷地だ。遠く見える山々の頂きには雪が積もっているのが見える。その首都であるフロストヘイムまで俺は来ていた。身体に当たる風はリベルタとは対照的にとても冷たく、じっとしているとどんどん身体が冷えていくのを感じる。

 あの後、俺はロレンツォの頼みを受けて、ここまで調査に来ることになったのだ。確かに少し目立ち始めていたし、色々な意味でほとぼりが冷めるのを待つ方がいいと判断した俺は、二つ返事であの話を引き受けたのだった。


「リベルタからの冒険者か、珍しいな」

「ああ。依頼でな」

「なるほど…通行料が大銅貨一枚だ」

「通行料?」

「ああ、ここではそういう決まりだ」


 訝し気に返す俺にそういうと、門番はぶっきらぼうに手の平を突き出してきた。


「嫌なら帰るんだな」

「…わかった」


 俺は『空蝉』で上着のポケットから大銅貨一枚を取り出したように見せると、門番の手の上にそれを置く。すると、門番はほくほくした顔で懐にそれを仕舞った。


「通っていいぞ」


 そんな門番に見送られて、俺はフロストヘイムの中に足を踏み入れた。

 まず視界に入ってきたのは四つの塔だった。その頂点には兵士が立っている事から、物見の塔なのだろう――それが、こちらの入り口の方をじっと見ていることから、”何”を見張っているのかは分からないが。その中心には立派な灰色の石造りの城が建っているが、その手前には高さ10メートルの壁がそびえていて、街を真っ二つに割っていた。

 俺がいるのは、ルーンベルグで言うところの平民街なのだろう。その立派な城とは裏腹に、粗末な木造の家がひしめき合っている。平屋のようなものも時々見えるが、街を行き交う人々には活気を感じられず、何処か街中が薄汚れていているようにも思える。路地の方からは時折異臭が漂ってきていた。


 俺が街を観察しながら大通りを歩いていると、目の前で子供が転んだので助け起こす。

 だが、俺を見る男の子を見る目は怯えていた。


「あ、ありがとう」

「怪我はないか?」

「すみません! うちの子が」


 母親と思われる女性が慌てて駆け寄って来て頭を下げたので、俺は「気にするな」と軽く返す。

 すると、彼女は何処かほっとしているようにも見えた。


「旅の方ですか?」

「そうだ。分かるか?」

「ええ、他所の方は…珍しいですから」

「そうなのか」

「ええ…気をつけて下さいね」

「気を付ける?」


 街の暗い雰囲気に、母親の態度、それを不審に思った俺がそう聞き返すと――


「この街は…いろいろ厳しいですから」

「そうか。ありがとう」

「いえ。こちらこそありがとうございました」

「ありがとう」


 最後に母親からフロストヘイムのギルドの場所を聞いて、子供に手を振られながら俺はその場を後にした。


---


 冒険者ギルドのフロストヘイム支部は、商業区の一画にあった。リベルタのギルドと比べれば二回りは小さい質素な建物で、入口の看板も煤けている。木製の扉を開けると、ギギギと軋んだ音がした。


「誰だあいつ?」

「知らないな」

「同業者っぽいが」


 ギルド内も人気が少なく、何処か活気を感じない。

 たまたま依頼書を見ていた冒険者たちが、俺を見てなにやらひそひそと話していた。だが、俺はそれに構わずに受付へと向かう。そこにはどこか疲れた顔をした受付嬢が立っていた。リベルタとは違い、ここでは受付は一人しかいないようだ。


「フロストヘイム支部へようこそ。どのような御用でしょうか?」

「リベルタから来た。これが証拠だ」


 俺は懐から、ロレンツォからの手紙と一緒にギルドカードを手渡す。


「リベルタからわざわざ?」

「ああ。この手紙をギルドマスターに届けてほしいと言われてな」

「Dランクの貴方が、お一人でですか?」


 彼女は俺のギルドカードを見ながら、疑うような視線で俺をじっと見てくる。

 

(疑うのも無理はない)


 ロレンツォも”異例”だと言っていた。Dランク冒険者が一人で移動するような距離ではない。だからこうして事情を記した手紙を渡してくれたのだ。


「その辺りの事情も、この手紙に書いてある」


 俺が真顔でそう答えると、彼女は手紙とギルドカードを交互に見比べた。

 だが、すぐに俺を真っ直ぐに見て口を開く。


「かしこまりました。マスターにお話しして参りますので、こちらで少々お待ち下さい」


 そう言って、受付嬢が確認を取りに奥へ入っていったので、俺は依頼書の確認の為に掲示板の方へ歩いていく。すると今のやり取りを黙って見守っていた冒険者たちが話しかけてきた。


「わざわざリベルタから来たのか?」

「ああ」

「あそこは天国だろ?」

「まぁ…ここよりはな」

「そうだろ、ここは地獄さ」


(確かに居心地は良かったが…)


 裏の事情に巻き込まれて、ある意味逃げるようにここまで来る事になった俺は、内心で苦笑いをしていた。


「かーっ! 一度行ってみたいぜ!」


 だが、そんな事を知らない男は何やら上機嫌で俺の肩を叩いてきた。だが――


「気をつけな。ここは色んな意味で冒険者に厳しい」


 不意に小声になって耳元で呟いてきたので、俺も声を落とす。


「さっきも言われたが」

「貴族が冒険者に無茶を言ってくるのさ」

「そういう事か…」

 

 先程の母親の忠告は、おそらくこの事なのだろう。

 これは本当に気を付けないといけないなと、俺は気を引き締める。

 そして彼は何事もなかったように元の調子に戻ると――


「さっさと用事を済ませてリベルタに戻るんだな」

「忠告、感謝する」

「今度一杯おごってくれればいいぜ」

「約束しよう」


 そう言いながら、彼のパーティメンバーであろう者たちと出て行った。

 ――丁度そこに、受付嬢が戻ってくる。


「お待たせしました、クヌートさん。マスターがお会いになるようです」


---


「お前がクヌートか?」

「そうだ」

「…思っていたのと違うな」


 目の前の男はそう言いながら、少し戸惑いながらも俺に座る様に手を出した。彼がここのギルドマスターなのだろう。身長が俺より高く肉体はまだまだ鍛えられているが、左腕が無かった。さらに顔には左目から頬まで鋭い切り傷の痕が残されている。昔が彼も名のある冒険者だったのだろう。残された右目には鋭い光が宿っていた。

 俺は気圧されないように気合を入れてから、言われたように正面のソファーに腰をかける。


「違う? …ああ、こんなおっさんだからか」

「ああ、すまん。悪気はないんだ。将来有望と書かれていたのでな。」


 そう言ってギルドマスターがロレンツォの手紙をひらひらとさせた。彼の態度は軽く見えるが、俺を見るその目は鋭く、油断ならない人物である事は間違いない。


「さて、改めて自己紹介といくか。俺がこのフロストヘイム支部を任されているトルビョルンだ」

「リベルタ支部のクヌートだ」

「ところで、この手紙の内容なんだが、本当か?」

「と言われても、俺には何が書かれているのか知らないのだが」

「そうか。…いや、Dランクなのに凄腕と言われてもな。リベルタのマスターがどうしてそう判断したのか理解出来なくてな」

「ふむ…確かにそうか」

「まぁ、いい。そこは置いておこう。それよりも、お前が来た”目的”の方が遥かに問題だ」

「”反乱”の件か?」


 俺の言葉を聞いて、トルビョルンの目が更に細く鋭く光った。


「それだ。今のところウチにはその情報は特に入って来ていないんだ」

「本部からの指示で、と言われたが?」

「ああ、だとしたら直接こちらに来るのが筋だとは思わないか?」

「それはそうだが…」


(…とは言われてもな)


 活気がなく、さっき受付前に居た冒険者たちは、お世辞にも実力があるようには見えなかった。そこである程度俺の実力を知っているロレンツォが、単独で動く俺に話しを回したのも理解できる。内容が内容だけに、大人数でぞろぞろと調べるような事ではないからだ。

 などと、思わず黙って考えていると――


「ははッ! …そういう事か」


 ――突然、トルビョルンが笑い声を上げた。


「何だ?」

「いや、確かにお前に任せた方がよさそうだと思ってな?」

「まだ何もしていないぞ」

「いやいや、クヌート。お前みたいなヤツは珍しい。二手三手先を読んで行動するタイプだろう?」

「それは否定しないが…」

「確かに”単独行動”が出来て、かつ”思慮深い”冒険者はそうそう居ない。この件はお前に任せた方がよさそうだ」


 今度は、トルビョルンが自嘲的な笑みを浮かべる。


「そもそも、ウチにそんな事が出来そうなヤツは居ないし、何より動き辛い事情がある」

「…”貴族”の件か?」

「耳が早いな」

「たまたまさ」

「まぁ、知っているなら話が早い。フロストヘイムの…いや、ノルドヴァルの冒険者は、貴族との関係が極めて良くない。一応俺たち冒険者も国民と見なされているからな。持ちつ持たれつではあるが、一部の傲慢な貴族のおかげで、優秀なヤツが使い捨てされるのが現状だ」

「…冒険者ギルドはそもそも国とは独立しているんじゃ無かったか?」

「本来ならな。…だが、ここでノルドヴァル王国の事情が絡んでくる」


 そこで一度言葉を切ると、今度は彼の表情が苦々しいものに変わった。眉をひそめて拳を握りしめた事から余程腹が立っているように思える。

 

「…国王が腰抜けで、実質ルーンベルグの言いなりだからな。その辺りを背景に好き勝手やるお偉いさんがいるのさ」

「…なるほどな」

「あぁ。実質このノルドヴァルはルーンベルグの属国みたいなものだ。時折ルーンベルグの管理官が抜き打ちで”命令”をしてくるのさ。それに逆らえば投獄される」

「無茶苦茶だな」

「だから、この国には冒険者が居付かない。優秀なヤツ程、貴族の手駒にされるか、国を脱出するのさ」


 トルビョルンが溜め息を吐くと、改めて俺を真正面から見つめる。彼は少しだけ黙ってから意外な提案をしてきた。


「本来なら、フロストヘイム支部に移籍となるが、特別にお前はリベルタ支部所属のままで動いてくれ」

「いいのか?」

「俺が許す。その方が貴族対策にもなるからな」

「余所の所属の人間だから、という建前か」

「…そういう事だ。流石だな」


 「ちょっと待ってろ」と言ってトルビョルンは立ち上がると、執務机に戻って何やら手紙を書いて、それを俺に渡してきた。


「これは?」

「ロレンツォの手紙と同じようなものだ。お前がこの国で自由に動けるようにな」

「…感謝する」

「いや…この件、かなり闇が深そうだ。くれぐれも気を付けろよ」

「ああ。とりあえず依頼を受けながら探りを入れてみるさ」

「頼んだ」


 俺は立ち上がってトルビョルンと握手を交わすと、彼の部屋を後にした。




ごめんなさい! 前書きで調子に乗ってごめんなさい!


…とは言ってもストックがないのは事実なので、四月からしばらくは週四日、月水金日の不定期更新とさせてください。


完結まで頑張りますので、どうかこれからも「斬られ役のおっさん」を宜しくお願いします!


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