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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第十一章 ルーンベルグ王国編

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11-12 おっさん、”野暮用”を済ます

「そこまでやるか! ハインリヒッ!!」

 

 俺の滅多に聞かない怒号を受けて、アリシアと蓮が驚きのあまり目を大きく見開いていた。そんな二人の様子を見て俺の頭が一瞬、冷静さを取り戻す。


(しまった。…二人に当たっても意味がない)


 俺はすぐに深呼吸をして心を落ち着かせると、きょとんとする二人に急ぎ頭を下げて謝罪した。


「…すまない」

「大丈夫です。ちょっと驚いただけですから」

「そうですわね。事情が事情ですし、無理はないかと」


 アリシアと蓮はお互いの顔を見ると頷きあって、俺の方へと向き直った。明らかに心配そうな目で俺を見ているので、俺は少し気まずさを感じてしまう。


(だが、実際問題としてどうする…)


 グスタフを追えば、ルーンベルグ軍の野営地までは行けるだろう。さすがに向こうの事情を聞いた以上、戦いを止める事は出来なそうにない。

 だが、最悪”薬”だけはどうにかしておきたい。このままでは、グスタフを始めとするルーンベルグ軍全体が呪われるか、眷属化される最悪の事態へと一直線だ。それだけは何としても避けたかった。


(…忍び込むしかないか)


 となれば、ここは俺一人で行くしかないだろう。俺の『忍術』を使った隠密行動に、誰もついてこられるとは思えない。

 何より相手は一万の規模の軍隊だ。最悪、見つかってしまい強行突破することも充分に考えられる。ならば、出来るだけ身軽な方がいいし、俺一人なら[影渡り]で逃げることも出来る。それ以外の選択肢はないだろう。


 ――意を決した俺は、二人に向かって自分の”計画”を話した。


 すると、俺の案を聞いたアリシアと蓮は困ったような表情になった。するとすぐに、若干気落ちしている蓮が、俺を見ながら悲しげに口を開く。


「また功刀さんにばかりそんな役目をさせてしまって…」

「適材適所だ、気にするな。それに”答え”は出たのか?」


 俺がそう問いかけると、蓮はきちんと目に覚悟を宿して俺に答える。


「…はい。私は私の役目を果たします。だから、明日もちゃんと戦えます」

「そうか。自分で決めたのなら、俺はもう何も言わない。アリシア」

「はい。あなた」

「行ってくる。朝までには戻る」

「あらあら。妻の前で堂々と浮気宣言ですか」

「誰が”妻”だ」

「うふふ…いってらっしゃいませ」

「…ああ。戦支度は頼んだ」


 俺はそう言い残しテントから飛び出した。するとそこには、ちょうど隼人が戻ってきたところで鉢合わせをする。


「おっさん! 聞いたか!?」

「ああ。グスタフには”薬”の事は話したのか」

「いや、話そうとしたら、なんかエラそうな神官っぽいヤツが迎えにきて、さっさと連れていっちまった」

「そうか…」

「で、おっさんは?」

「ちょっと”野暮用”だ」


 俺の答えを聞いて、話の流れから何をするのか察したのだろう。隼人は納得した表情で俺の背中を叩いた。


「おっさん。頼んだ」

「任せておけ」


 俺は隼人と拳を合わせると、グスタフの後を追うために走り出した。色々と”進化”した今の俺なら、先ほどまで話をしていたグスタフなら、その魔力を追うことも容易となっていたのだ。

 [隠密]を使い、気配を消しながら一定の距離を保って、グスタフが乗せられている馬車を追いかける。[物見]で馬車の様子を探ると、そこには信じられない光景があった。


(足が…八本だと!?)


 馬車を引いているのは、足が八本ある馬二頭だった。”心眼”で視てみると「瘴気に侵された馬」という事で、やはり魔物と化している。

 御者台にいる人物は、そんな”馬”を気にすることもなく、手綱を平気で操って走らせていた。フードを被っているのでその顔を見ることは出来ないが、構うことなく”グレゴール”の時のように”心眼”で相手の正体を探る。だが――


(何も”視”えないとは…)


 ――確かに「ステータス」は開いたのだが、そこは全て空白になっていた。


=====



=====


(また”心眼”でもわからない”存在(もの)”か…)


 『諸行無常』の時といい、どうも俺は正体不明な存在との縁があるらしい。フードの人物は思った以上に厄介な相手のようだ。もしくは、あのフード自体が強力な魔道具の可能性もある。

 

 ――俺は警戒度を上げて、今まで以上に慎重に追跡しようと心に決めた。


 魔物に引かれた馬車は、通常の馬車では出せないような速度で平原を駆け抜けていく――


(…大丈夫だ、魔力は追えてる。多少離されても問題ない)


 ――俺は[身体操作]で脚力を強化しながら、なんとか離されないように追いかけた。


---


(ここか…)


 俺は夕闇に紛れながら、ルーンベルグ軍の野営地のすぐ傍まで辿り着いていた。グスタフを乗せた”馬車”は昼過ぎにはここに到着したが、グスタフを降ろした後に別の誰かを乗せてさっさと立ち去っていってしまった。


(結局、正体は分からずじまいだったな)


 流石に明るい内から潜入する訳にもいかず、俺は少し離れた森から[物見]で野営地の様子を探っていくと、明日決戦というだけあって、兵士たちが慌ただしく動き回っているのが見えた。


(さて、どこにある?)


 これだけの兵士全員に”薬”を配るというのだから、保管場所は相当広い場所に違いない。そう思って野営地を隅々まで見回していくと、幾つかそれらしい天幕を見つける事が出来た。きっとあの中のどれかに”薬”はあるのだろう。

 ついでに”食料庫”を襲ってもいいかとも考えたが、無理やり戦わされている兵士を相手にそこまでする気は起きなかった。そもそも、先ずは”薬”を処分するのが先決であり、そこまで余裕があるとは思えない。


 ――そうこうしているうちに、すっかりと日が暮れてきたのだった。


 [物見]の視界の先では、ルーンベルグ軍が夕食の支度をしている。だが、目の前の光景に思わず俺は目を見張った。そこには野営地で食べるには贅沢だと思わせるような内容だったのだ。

 寸胴鍋で大量の温かいスープを作っている者や、大量の魔物の肉を焼いている者、中には樽から飲み物を配っている者もいた。その小麦色の液体は、おそらくエールか何かだろう。それらをいかにも美味そうに兵士たちが口に運んでいる。

 

 その中にはちらほらと、どこか悲痛な表情を浮かべている者も見受けられた。だが、仲間に話しかけられると、皆と一緒に笑顔で騒ぎ出す。それはまるで、待ち受ける”何か”を誤魔化しているように思える。


(そういう事か…)


 あっちの世界でも、戦の前に必勝祈願として宴を開くことはあった。だが、この雰囲気はどちらかと言えば、明日死にに行く者たちの最後の晩餐のように思えて仕方なかった。愛する家族を人質にとられた彼らは、悲痛な覚悟を持ってこの場にいるのだと、改めて思い知らされる。


(すまない…だが、こちらも負ける訳にはいかないんだ)


 やはり多少は無茶をしてでも、今からでもハインリヒを探しにいくべきかと一瞬迷う。だがすぐに”薬”さえなければどうにかなる筈だと自分に言い聞かせた。家族の命がかかっているのは、ゼノビア連合軍も同じだからだ。

 これまでのハインリヒのやり方を思えば、エドヴァルドの意向の元にゼノビアの、いや亜人と呼ばれる全ての民は、”魔族”として滅ぼされるだろう。


 とどのつまり、これはもはやお互いの存続をかけた生存戦争となってしまったのだ――


(ハインリヒ…いずれ必ず”お礼”をさせてもらうぞ)


 ――逸る心を抑えながら、俺は静かにその時を待った。


--- 


 やがて、夜は深けていき、動く兵士たちの数が疎らになっていく。見回りの兵士たちのルートや、倉庫と思しき場所の見張りの動きを確認し終えた俺は、ついに動き出す決心をする。


(…さて、どこを攻める) 


 ”晩餐”の様子を見ていたおかげで食料庫の場所が確認できた為、最終的な候補は三つまで絞る事が出来た。だが問題は、それらの場所が離れている事だった。

 狙いを外した上でもし見つかってしまえば、相当な騒ぎになってしまう。そうすれば、他の倉庫を探すことは出来ないだろう。それだけは避けたかった。


(やはり、あそこが一番怪しいな…)


 三つの内、ひと際大きい天幕には、かなりの数の見張りがつけられていた。それが大事な”薬”があるからなのか、もしくは別の何かの倉庫なのかは正直分からない。


 だが、少なくとも重要なものがある事には違いないだろう。最悪一つしか調べられないのならば、あの天幕を攻めるべきかもしれない――


(…いや、待てよ)


 ――そこまで考えて、俺の頭に一つの考えが浮かんだ。

 

 それは逆に警戒の薄い天幕から調べるという策だった。今の俺なら”忍術”を駆使すれば、そう簡単に見つかりはしない。ならば、侵入は容易であろう。

 先に他の二つを調べてしまえば、それが空振りだったとしても問題はない。最悪見つかっても天幕ごと[火遁]や[土遁]で潰してしまえばいいだけだ。


(よし、これでいこう)


 方針を決めた俺は[隠密]で気配を隠しながら、ゆっくりと、しかし確実に一つ目の天幕へと迫る。極限まで進化した[隠密]のスキルのおかげで、今の俺はゆっくりと動けば物音も立たなければ視認すら出来なくなっている。

 それでもそこに”居る”という事実は消せないので、人や物にぶつかってしまえば一発でバレてしまう。俺は細心の注意を払って天幕の入り口が見える場所まで辿り着いた。

 

 そして、そのすぐ傍にある篝火(かがりび)の陰に身を潜める――


(……今だ)


 ――見張りの一人が中を確認する為に天幕の入り口を開けた瞬間、俺は彼の背後について中へと入りこんだ。


(よし、うまくいった)


 これは、物陰から見張りの動きを確認している時に覚えたものだ。見張りが交代の時に、必ず一度中に入って確認するところから始まる。それに今回は便乗したのだった。


(さて、ここには何が…)


 見張りの兵士が、積み上げられた箱の蓋を外す。すると、中にあったのは”薬”の瓶ではなく、ただの大量の矢筒だった。見張りはびっしりと詰められたそれらの箱を、一つ一つ蓋を開けては閉めていく。


(ハズレだな)


 ――俺は見張りの兵士の動きに合わせて、バランスを崩すようにそっと彼の足を引っ掛けた。


「うわっ!」


 完全に油断していたのだろう、箱の角に躓いたのかのように仕向けたそれは、見事に見張りの体勢を崩し、彼は思わず声を上げてしまう。


「何だ!」

「どうした!!」


 その声を聞いた別の見張りが慌てて天幕の入り口を開け放つ。そんな彼らとすれ違うように、俺はするりと外へ抜け出した。安堵の息を漏らしながら俺は急ぎこの場を離れる。


(さて、次だ…)


 ――俺は同様の手口で次の天幕の中を調べたが、こちらもただの武器庫で、外れだった。


(…結局、あそこか)


 自分で決めたこととはいえ、さすがに少し気落ちしてしまう。だが、逆にこれで確実に”薬”を始末できるだろうと思い返し、俺は最後の天幕へと向かう。

 問答無用で潰してもいいのだが万が一ハズレだった場合、逃げるのが大変になるし、他の天幕を探すことが出来なくなる。


 人が多いことで厳しくなった隙を見計らって、見張り二人と共に天幕の中へと躍り込む――


(よし、成功だ…)


 ――そこには大量の木箱があったが、俺はそこで見張りたちから衝撃の事実を聞かされる事になる。


「さてと、中は――」

「おい。もう中は全部空だろう?」

「おっと、そうだった。ついクセでな」

「不思議だよな。薬が馴染むまで一晩かかるなんてよ――」


 彼らの言葉が俺の頭の中に虚しく響く――


(…手遅れだったとはな)


 ――俺はすぐさま影に潜り、アリシアの元へと”飛んだ”。 



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