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臆病な恋の結末  作者: みなみ ゆうき


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第46話 向き合う勇気(5)

 父と一緒にリビングに戻ると、そこには数日前よりやつれたように見える母の姿があった。

 その顔にはあきらかに疲れの色が浮かんでいるし、心労で痩せたのか、ひと回り小さくなったようにも感じられる。

 血液型のことを知った日からまともに顔を見て話していなかったせいで、母がこんな状態になっていることに気付けていなかったことを激しく後悔した。


「母さん大丈夫なの⁉ ものすごく顔色悪いよ? 俺、全然気付いてなくて、無理させてごめん。とりあえず座ろう」

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」


 慌てて駆け寄り、すぐにソファーに座るように促す。

 こんな状態の母に、俺のことで心配をかけたくはない。


「話はまた今度にしない? 母さんはもう休んだほうがいいと思う」

「本当に大丈夫なのよ。気遣ってくれるのは嬉しいけど、それよりもちゃんと凛音と話がしたいわ。琴音が生まれてからはずっと琴音にかかりきりで、凛音とゆっくり話す機会も減っちゃってたから」


 口調は穏やかなのに絶対に聞き入れてくれない雰囲気の母を見て、思わず助けを求めるように父のほうに視線を向けた。

 しかし父は俺たちのほうに歩み寄ると、当たり前のように母の手を取り、並んでソファーに座ってしまった。


「凛音も座ってくれ。このタイミングで話しとかないと、何かあった時に困るかもしれないからな」

「……縁起でもないこと言わないでよ」


 冗談にしては全く面白味のないことを言う父に、少しイラっとしながらも素直に従う。

 何の話をするつもりかはわからないが、確かにこんな機会でもなければあらたまって両親と膝を突き合わせて話すこともないだろう。

 俺は言いようのない不安に駆られながら、二人の向かい側に座る。

 俺が座るのを待って、父が口を開いた。


「単刀直入に聞くが、ここんとこずっと様子がおかしい理由はなんだ? なにかあったのか?」


 本当に直球過ぎる質問に、俺はどう答えていいのかわからず言葉に詰まる。

 父さんは俺のそんな反応は想定済みだったようで、大して気にした様子もなく話を進めた。


「中学を卒業したあたりから急に雰囲気が変わって塞ぎがちになった時は、心配したけど自分で乗り越えることも経験上必要な時期だからと思って手を貸してやりたいのをぐっと堪えて見守った。そういう時期には、親には言えないことのひとつやふたつ誰にでもあるからな」


 やっぱり心配かけていたのかと思うと、申し訳ないと思うのと同時にいたたまれない気持ちにさせられる。


「でも今回のは黙って見守ってやることはできない。──正直に言ってくれ。凛音、お前は一体何に悩んでる?」


 そんなことを聞かれても、何も知らない可能性がある父さんの前で、俺の悩んでいることを話すわけないはいかない。

 チラリと母のほうに視線を向けると、顔色は悪いながらもしっかりとした意思を感じる目で俺たちのやりとりを見守っていた。


「……質問を変える。あの日、病院で何があったんだ?」

「え?」

「急に帰るって言い出したことがあっただろ。あの直前に何かあったんじゃないのか?」


 気付かれていないと思っていたわけじゃないけれど、最初から知られていたことに驚きを隠せない。

 答えられない質問だけに沈黙を貫いていると、ずっと黙ったままだった母が口を開いた。


「──もしかして、藤島君から何か聞いたの?」


 俺の推測を肯定するかのような問いかけに、胸がズキリと痛み出す。

 この場面で母の口から海里の名前が出たこともそうだが、それ以上に母が口にした言葉が海里のものと同じようなものだったことに、どうしてという気持ちしか湧いてこない。


「……海里は関係ないよ」


 痛みに気付かないふりをしてなんとかなんとかやり過ごそうと思ったものの、今度は別の方向から驚かされることになり、そのおかげで皮肉にも痛みが吹き飛んだ。


「は? ちょっと待った。藤島って、あの藤島か?」

「確証はないけど、たぶんそうだと思うの。前に凛音のことを送ってきてくれた時に会ったことがあるけれど、どことなく面影があったから」


 海里の話から、よく知らない方向に話が展開し始め、俺の頭の中は盛大にハテナマークが浮かぶ。


「ちょっと待ってよ。なんで海里の話が出てくんの? そもそも何の話をしようとしてるのかちゃんと説明してもらっていい?」


 思い切って訊ねると、二人は顔を見合わせた。そして視線だけで何かを伝えあった後、母が静かに口を開いた。


「……凛音はショックを受けると思うけど。実はね、ずっと凛音に隠してたことがあるの」


 咄嗟に耳を塞いでしまいたい衝動に駆られながらも、なんとかそれを堪える。


「凛音は戸籍上ではお父さんの実子ということになっているけれど、お父さんとの間に血の繋がりはないの」


 ある程度予想はしていたものの、事実を突き付けられるのは想像以上につらい。

 思わず父のほうへ視線を向けると、父は悲壮感が漂う表情で俺をじっとみつめていた。


「あなたの遺伝子上の父親の名前は、藤島樹弥(たつや)。──藤島君の叔父さんにあたる人よ」


 素性を聞いて、海里の不可解な言動が腑に落ちた。

 アイツは何らかの理由で俺の出生の秘密を知っていたものと思われる。


(でも何で?)


 その疑問は新たな情報によって、すぐに頭の片隅へ追いやられた。


「……その人は、俺のこと知ってるの?」

「いいえ。彼は、私が妊娠したことも、自分の子供が誕生したことも知らないまま、数年前、事故でこの世を去ったわ」


 最早何に驚けばいいのかわからず、俺は母の顔をまじまじと見つめた。



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