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臆病な恋の結末  作者: みなみ ゆうき


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第39話 秘密の発覚(7)

 戸籍は、俺が思っていたよりも随分とあっさり手に入った。

 コンビニのマルチコピー機から出てきた紙をその場で見る勇気がなく、すぐにバッグに押し込むと、逃げるようにコンビニを後にした。


 その足でむかったのは、住宅街の隙間にひっそりと佇む小さな神社だった。

 父の入院で何度か病院に通ううちに見つけた場所で、いつ通りかかっても誰もいないことから、ぼんやりとするのにうってつけな場所として目を付けていたのだ。


 境内に座り、深呼吸する。

 少し気持ちを落ち着けてから、紙を取り出そうと思ったものの、そこから身体が固まってしまったかのように動けなくなった。


 じっとしていると、早鐘を打つ心臓の音がうるさくて仕方ない。

 まるで早くしろと催促されているように感じ、雑に押し込んだせいで少ししわがついてしまった紙をのろのろと取り出した。


 意を決して書かれている内容に目を通す。


「え、ほんとに?」


 思わずそんな声が漏れ出たのと同時に、強張りきっていた身体から一気に力が抜けた。


  父と母の欄には両親の名前。そして俺の名前の欄には長男の文字が。俺と関係がありそうな他の人物の名前や、養子の文字はどこにもない。

 二人の実子として届け出がされていたことに安堵し、血液型のことは自分の勘違いかもしれないと思うことにした。

 しかしこんな時に限って余計なことを思い出してしまい、今日に限ってはそれが見過ごしてはいけないことのように感じてしまう。


 ──最近俺は母に対して、何度か違和感のようなものを覚えたことがある。

 それはほんの小さな揺らぎのようなもので、その時は『あれ?』と思っても、すぐに気にする必要がなくなるようなものだった気がする。

 こうして後から思い返してみても、今回のことに関係があるとは思えないのに、妙にそれが引っかかった。 


 飛躍しすぎかもしれないし、単なる偶然かもしれない。

 漠然とした勘に過ぎないことだけど。


 ──もしかしたら母が父を裏切った可能性があるんじゃないか。


 突如、そんな考えが頭を過る。


 安堵から一転、急転直下の勢いでとてつもない不安にかられたものの、いつまでもここにいるわけにもいかず、重い足取りで家路についた。


 

 ◇



「お父さんから連絡あったわよ。あなた、持ち帰るはずの洗濯物、病室に置いてきちゃったんですって?」


 家に入るなり、俺が帰ってくるのを待ち構えていたらしい母からそう言われ、そこで初めて、自分が本来の目的を果たしていなかったことに気が付いた。


「……ごめん。なんか今日バタバタしてて、すっかり忘れてた」


 父のところに着替えを交換するために行ったはずなのに、思いも寄らない事態が起きたせいで、自分のバッグ以外持っていないことにも気づいていなかった。

 むしろあの状況で、バッグを無くさなかったことが奇跡のように思える。


「ちょうどお仕事の連絡がきたり、回診だったりで、せっかく凛音が来たのに全然話せなかったって、お父さん残念がってたわよ。どうする? 明日もう一度行くことにする?」

「え、明日はちょっと……。悪いけど母さん行ってきて。荷物多くなって申し訳ないけど」


 まだ母が父を裏切ったと決まったわけじゃないし、父と血が繋がっていないことが確定したわけでもないのに、父にも母にも一方的に気まずさを感じてしまう。

 様子がおかしいと思われないように、なるべく今までどおりの態度を心掛けてみたものの、これまでずっと信じていたものが崩れ去ろうとしているかもしれない状態で、何事もなかったかのように振る舞えるほど、俺は器用じゃなかった。


 母は俺がこんな心情に陥っていることを知ってか知らずか。特に気にした様子もなく、明日の段取りを口にしている。

 俺はそれを聞きながら、もし俺が母にこのことを問い質したらどう答えるんだろう、なんて、できもしないことを考えていた。


 


 自室に籠もり、普段はほったらかしにしているスマホを手に、何と調べたら俺の納得のいく結果を得られるかを考える。

 母に聞くのが一番の近道だとわかってるけど、それは色んな手を尽くした後の最終手段のほうがいい。


 俺が覚えている家族の血液型が合ってるとして、『B型』の父と『O型』の母から『A型』の子供が生まれる可能性はあるのか。

 一縷の望みをかけて、血液型と親子関係について検索する。

 すると、極稀に、実の親子でも一般的には遺伝しないと言われている組み合わせの血液型になることもある、という説明を見つけ少しほっとした。


「……やっぱり俺の考えすぎってこと?」


 そう口に出してみたものの、もしそんな特殊なケースなら、俺の血液型が判明した時点で、親から何らかの説明があってもおかしくない。

 うちの両親なら、そういう説明を丁寧にしてくれると思うし、こんな風に俺が疑問を感じて不安になったりしないように、ちゃんと話す機会を作ってくれるだろう。


(もしかして、今回父さんは手術することになって初めて血液型が判明しただけで、今まで知らなかったから、そういうところまで気にしてなかったとか?)


 説明を忘れてるというよりは、そっちのほうが可能性が高そうだ。


「はあ……」


 思わず大きなため息が漏れる。


 結局こうしてあれこれ調べたところで結論が出るわけじゃなく、不安を解消しようとして、また別の憶測を生み、不安な気持ちになることの繰り返し。

 自分が当たり前だと思ってきたことの根幹を揺るがす問題だけに、一度生まれた疑念と不安は簡単には消えてくれず。


 俺はまた自分の中に重いものを抱えながら過ごすことになるんだな、と思ったら泣きたくなった。





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