27話 戻りし者
今回は少し脇に逸れた話です。
「おぉ、ウェスティン侯爵ではありませんか。お変わりない様で」
「ご無沙汰しております。バーナランド様」
思わぬ異国の巫女の介入で役目を果たせずして帰国した私は仲の良いウェスティン侯爵と王都でばったり遭遇した。
無論、私たちの様な身分の者が街中でこのまま話し続けるわけにはいかない。一言交わしてすぐにウェスティン侯爵邸に案内され、そのサロンで続きをすることになった。
「先日、遠きイナキ王国に向かわれていらっしゃったとお伺いしたのですが……」
ため息しか出ない。
しくじってきたのだから。
「妹上の連れ戻しは失敗しました」
「妹上と申しますと、アリシア殿下に?」
「そうだ」
ウェスティン侯爵も少し考えるような仕草をした後、こう切り返してきた。
「付かぬことをお尋ねするのですが、我が愚息もその国に赴いていたのです」
「む……」
少なくとも私はウェスティン侯爵家の人間とは会っていない。
何故だ?何故ウェスティン侯爵家の令息があの国に?疑問が尽きない。
「実は前ドリビア子爵の紹介で修行の旅をしている冒険者に指導を仰ぐことになりましてね。現実を見ることで目を覚ましてくれることを期待したのですが……」
そう言えば、彼の三男のシバスは妙に自由に憧れを抱いていたな。
本来、ウェスティン侯爵家は内政に強い家だ。一族の者は文官になることが多く、武人はほとんど輩出していない。また市井に下る者も極めて少なく、極稀に商人になる者がいるくらいで、冒険者は聞かない。
故に何故冒険者なんぞに?とは思わなくもない。だが個人の気質はどうにもならないものもあるので深くは考えるつもりはないが。
ん?待てよ……。
「その冒険者が妹上でした。しかしシバス殿の姿は見ませんでしたな。ボールトネス子爵令嬢と他2名の貴族の令息令嬢と思われる者はいましたが……」
そう、ボールトネス子爵令嬢の話によればあの爺さんが紹介してたのがアリシア殿下だった。あの爺さん、気が付かなかったか?下級貴族故に面識がなかったのかもしれんが……。
「ば、馬鹿な!?」
「こ、侯爵?」
いきなり何が?
急に叫び出して……。
「前ドリビア子爵フリード卿と言えばアリシア殿下と関わりが深いはずだ。知らないわけがない、知っててやったのか……」
そうか、そうだったのか……。
確かにどちらも武人気質だ。どこかで繋がりを得てても驚きはない。
私が王宮を出て神官に道に進み、王位継承権を失ったのは10歳の時だ。6年も前のことになる。それ以降は貴族社会から距離を置いていた。故に私はあの妹があの爺さんと繋がりがあることを知らなかった。
「疑問はあるが、私にはあの爺さんが教国の内通しているとは思えませんな。確か冒険者時代から教国を激しく嫌ってたはず、それに信仰心などほぼ無いに等しい。どちらかと言えばアリシア殿下に何かあるはずだ」
それにあの爺さん、元冒険者にしては口は堅すぎる。少なくとも他国に余計な情報を流出させるタマではない。故に彼は妹に何かしらの手を貸したと見るべきだろう。
「少なくとも殿下が神使であることまでは判っている。そうでなければ説明がつかない」
神官の立場からすれば彼女の周りには違和感があった。そもそも聖人が東の地で冒険者なんてやってるわけがない。それが許されてる時点で色々とおかしい。
「神使?」
聖人の区分を知らない貴族は多い。そのことを失念してたわ。
神使とは何か、聖人の区分、これらを説明する羽目になった。
「ともあれ、殿下の居場所が知れたのは良かった。しかし我が国と国交が無いのは難点ですな。身柄引き渡しの交渉も難しい」
「それにあの国は政教一致の国だ。国交があったところで簡単にはいかんだろう。現地の宗教勢力が既に動いてる節がある」
二人でため息をついたところで侯爵家の家令が飛び込んできた。
何やら慌ててる様子だ。作法もなっておらず、らしくもない。何があったことやら。
「旦那様!シバス坊っちゃんが……」
「どうした?そんなに慌てて」
「坊っちゃんが重体で運ばれてきました!」
「は?」
え?何があった?
こちらがマトモに反応を返せないところに、さらに追加で一人入ってきた。
「侯爵閣下、ご無沙汰しております」
「む、フルケン侯爵家の者か。急に何用だ?」
「旦那様より閣下への手紙を預かっております。外交に関わりますので至急確認お願いします」
渡された手紙を読んだ侯爵の顔は真っ青だ。一体何が書かれていたのだ?
「あの愚か者めが……」
「侯爵?」
「バーナランド様、愚息を見ていないの意味を理解しました。これをお読みください」
その手紙は国交のないイナキ王国の国軍から抗議文書が届いたというものだ。抗議が来た理由は当に侯爵の三男だ。
現地で余程悪い態度を取っており、現地の冒険者や軍関係者から嫌がられていたらしい。それに片腕を失う程の大怪我までしていて、その看病までしてくれたにも関わらず態度を改めず、癇癪を起こして魔法を使用して周りに被害を出したそうだ。
これでは抗議されても仕方が無い。こちらは一切文句は言えない。
奴の身柄は抗議文書と共に港湾を持つフルケン侯爵家に引き渡され、ここまで運ばれてきたらしい。
このまま放置しておく訳にもいかないと思うのだが侯爵は動かない。
「一応、様子は確認するべきかと」
「……否定はできませんな。案内しろ」
侯爵に許可を取った上で、奴が運び込まれた部屋に案内された。家令曰く、奴の私室らしい。
その部屋はごく普通の貴族令息の部屋だった。
そのベットには一人の怪我人が寝かされていた。
その怪我人は片腕を失い、両足が動かず、日常生活すらできないほどの重傷だった。
何とか会話は可能らしく、何があったかは聞き出す事ができた。
証言と手紙にあった情報と照らし合わせて当時の状況を予想することができた。
結果的に言えば半分は自業自得だった。
「ち、父上……」
「お前には失望した。出家して神官になれ。教会なら見捨てられることも無いだろうよ」
「そんな……」
まぁこの国の貴族で「神官になれ」なんて言われたら普通は嘆くよなぁ……。
「バーナランド様、こんなのを押し付けるようで申し訳ないのですが……」
「構いません。侯爵、教会より回収する人手を手配します」
「すみません、手間をかけます」
アレ一人くらいなら引き受けることは容易だ。
ただし問題を起こしてくれなければだが……。
まったく、帰国して早々に面倒事に巻き込まれるとはな……。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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