25話 西境の森山(下)
現れた魔物は全て倒すしかない。
場一面を埋め尽くしても尚、溢れ出す勢いで現れ続けている。
魔物は増え続ける一方だけど、こちらに来る魔物は少ない。何故なら増え続ける魔物によって互いに身動きが取れなくなって混乱している。つまり好機だ。
この状況で一番有効なのは『獄炎滅却』だ。アレは周囲の魔力すら取り込んで魔物を焼き続ける事ができる。
そして魔法の準備をしていてふと気がついた。
そう言えばこの迷宮、炎魔法厳禁だった。
仕方が無いので別の手を取ることにした。そう、独自魔法を試してみることにした。
私もこれまでの経験や知識から新しい魔法を開発している。ただ、これまで活用してきた魔法は小回りが効く魔法が多い。
例外の『厄災の豪雨』は極めて高い魔力変換効率と異次元の威力を誇り、ワルカリアの拠点を滅ぼし尽くしたけど消費魔力量があまりにも多過ぎた。
多過ぎない魔力消費量と高い魔力変換効率を両立し、大魔法と呼べるような威力を出す。
そんな魔法の研究を独自に進めていた。
理論上完成し、試すだけの魔法は幾つかある。
その開発した魔法の中から単属性の魔法の一つを試すことにした。
「さて、理論通りにいくかな?『膨雷』!」
この魔法は電撃系の殲滅魔法である『破却の雷』とは異なり、炎系の『獄炎滅却』同様の周囲の魔力を取り込む性質がある。それどころかこの魔法で感電すると体内の魔力が電撃に変換され威力が向上し、被害を拡散する効果ある。あれだけ密集し、大地に収まりきらず、積み上がってる状態なら尚更有効だ。
因みに今の状態で『破却の雷』を使っても威力は増幅しないしそもそも強い魔物も多いから殺しきれない。あまり効果は発揮しない。
悍ましいほどの爆音の悲鳴と断末魔が辺り一面に響き続けた。電撃はより高威力になり、より広範囲に影響を及ぼしているこれだけでも今現れてる分は殲滅も可能だ。
魔物の元となる湧き出る魔力も電撃に変換されているので徐々に現れる魔物も減っている。
減ったところで現れるなり感電して焼け焦げていくことには変わりはないけどね。
そして魔物の出現が減り続け、遂には誕生する魔物がいなくなった。だけどそれは予兆に過ぎなかった。
「よし!安定したわね」
背を向けてナミを呼んでこようと思った瞬間だった。黒焦げになった魔物の死体の山の下の方で魔法が効果を突如として失い、その膨大な魔力が爆発した。その結果死体の山は消し飛び、その跡地の一点に魔力が集中しだした。
そしてそこに集中し顕れ始めたその魔力の質には覚えがあった。それに邪気まで感じられる。
これは魔族だ。
まさかこんなところに魔族が現れるなんて思わなかったけど対応はできる。それに感覚的にあまり強くない気がする。これまで遭遇した魔族の中では最も力が無いのが手を取るように分かる。
しかし魔族一体に魔力が集中したことで魔物が現れなくなり、爆発の影響で残ってた魔物が吹き飛んだのは大きい。魔族と戦う際に魔物までいたら厄介極まりない。魔族は一対一に持ち込めるなら持ち込んでおきたい、と言うか持ち込んでおくべき相手だからね。
やがて収束し凝縮された魔力と邪気が実体化し始めた。魔族は産まれる瞬間を見ることになるとは思わなかった。
「うわあぁぁん」
現れた魔族は人間の子供そのもの、だけど腕が二対四本あり、歩くのも覚束なさそうな感じが見て取れた。そして制御出来ていない魔力を常に放出し続けており、それが一種の武器として機能している。
これでは子供と言うより赤ん坊だよ。
見た目こそは可愛く見えるけど、どう見ても周囲に及ぼしてる影響は可愛くない。物騒な赤ん坊なこと。
しかし近づこうにもこの暴発ぶりでは危険だ。かと言って魔法で遠距離攻撃では暴発した魔法モドキによって霧散させられるのが目に見えている。つまり危険を承知で突っ込むしかない。
マジックバッグより一振りのカンナ鋼製の太刀を取り出した。最近はこれを聖太刀と呼んでいる。
「はあぁぁぁぁあっ!」
防御用の柔軟性高強度結界魔法を張りつつ、聖太刀を手に突撃した。
幾ら高強度と言えど、凄まじい魔力の奔流によって徐々に結界は削られていく。当然目に見える術式は迎撃して致命的な被害は免れていても削られていく。
これは私が辿り着くのが先か、奴が私の結界を破るのが先かの戦い。
間に合えば手に握る太刀でこの暴走する赤ん坊を止めることができる。
間に合わなければ私は吹き飛ばされる。その場合は命があるかも怪しい。
一気に駆け抜け結界が削りきられたとき、ちょうど魔族の赤ん坊の目の前まで来ていた。そう、この位置から斬ることのできるところで防御結界が破られた。
しかし破られるほんの少し前から急激に負荷が上昇していた。原因は命の危機を感じ取った魔族の赤ん坊が最後の抵抗とばかりに限界を越えて出力を上げてきたことにある。ちょうど出し切ったところで魔法出力が大幅に低下したのだ。
「安らかに逝きなさい」
もはや抵抗は残れど大した被害はない。
魔族と言えどこの子の顔は人そのもの、しかも赤ん坊だ。流石に心が痛む。だけど殺るか殺られるかの世界では躊躇ったら駄目なのだ。
心を鬼にして首に刃を振り下ろし、その生命を絶った。
私が目の前に立った時、その子は怯えた表情をしていた。
しかし首を斬られた後、その表情は安らかなものへと変わった。まるで救済されたかのように。
中心まで近づいたことであるものに気がついた。
そこには如何にも昏き禍々しい雰囲気を漂わせる石が鎮座していた。
直感的にこれが魔族の原因だと判った。
迷うことなくその石も砕いた。
砕いたことで周囲を強い光が包み込んだ。
意識が薄れていく。
この感覚は覚えがある。
そう、神々によって神界に呼ばれる時の感覚だ。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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