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第92話 登録外の歓迎

 クレストフォール召喚術学院の駅は、整いすぎていた。


 まず、白い。


 壁も柱も床も、やけに白い。山岳校の石が土地の色をそのまま抱えていたのに対して、ここは汚れを許さないために白くしているように見えた。


 次に、線が多い。


 床には召喚陣を模した細い銀線が描かれ、柱には小さな輪の飾りが等間隔に並んでいる。人の流れも、その線に沿って動く。迎えの生徒たちも、列車から降りる俺たちを決まった位置で待っていた。


 最後に、小さいものがいない。


 虫もいない。


 野良の使い魔もいない。


 駅にありがちな紙くずや小石さえない。


 迷子一号を胸元の小袋に入れているリリィだけが、この場所で少しだけ規則からはみ出して見えた。


「見事ですね」


 リリィが言った。


「掃除が行き届きすぎて、床に落ちた影まで許可制みたいです」


 いつもの毒舌。


 でも、声は少しだけ乾いていた。


 ロイが小声で言う。


「本当にきれいですね」


「褒めるとつけ上がりますよ」


「床が?」


「学校が」


 リリィは笑う。


 駅の白い床に、その笑いが少し冷たく反射した。


 迎えに来た生徒は三人。


 先頭に立つ女子生徒は、淡い金色の髪をきっちり結い、制服の襟元に銀の召喚輪をつけていた。背筋がまっすぐで、表情は礼儀正しい。礼儀正しいが、温かくはない。


 彼女の後ろには、背の高い男子生徒と、小柄な眼鏡の生徒がいる。


 小柄な生徒は、俺たちよりリリィを見ていた。


 いや、リリィの胸元の小袋を見ている。


「カルミア魔法学園第七魔法競技部の皆さまですね」


 先頭の女子生徒が言った。


 声も整っている。


「クレストフォール召喚術学院、競技部副主将のセラ・ウィンフォールです。滞在中の案内を担当します」


 コレットが一歩前に出る。


「カルミア魔法学園第七魔法競技部、部長のコレット・セインです。よろしくお願いします」


 セラはきれいに礼を返した。


「こちらこそ。遠路、お疲れさまでした」


 そこまでは普通だった。


 普通すぎるくらい普通だった。


 セラの視線が、リリィへ移るまでは。


「リリィ・クロフトさん」


 名前の呼び方が、少しだけ違った。


 敬称はある。


 でも、距離はない。


 古い名簿から読み上げたような声だ。


 リリィは軽く手を上げる。


「どうも。元・迷惑物件です。現・第七部の備品扱いあたりでお願いします」


 ロイが「備品ではないです」と小声で言い、すぐに口を押さえた。


 セラの表情は動かなかった。


「お元気そうで何よりです」


「ええ。そちらも相変わらず、床の角まで元気そうで」


「学院内の清掃基準は維持されています」


「本当に答えなくていいところまで答えるの、懐かしいですね」


 空気が、薄く冷える。


 コレットがわずかに視線を動かした。


 止めるか。


 見守るか。


 俺はリリィの手を見た。


 胸元の小袋の紐を、指で軽く押さえている。


 終わりとは言っていない。


 続行とも言っていない。


 でも、今はまだ自分で立っている。


 コレットも同じ判断をしたのか、すぐには口を挟まなかった。


 セラの後ろにいた眼鏡の生徒が、小さく咳払いをした。


「滞在前確認を行います。登録外召喚物の持ち込みについて、規則説明が必要です」


 リリィの笑みが少し深くなる。


「早速ですか。再会の挨拶より先に登録外。実家のような安心感があります」


「規則です」


 眼鏡の生徒は淡々と言った。


 悪意というより、規則そのものの声だった。


「クレストフォールでは、学院敷地内における非契約召喚物、未登録使い魔、性質不明個体の持ち込みに制限があります。安全管理上、登録外の召喚物は一時預かり、あるいは封印袋への収納をお願いしています」


 視線は、リリィの小袋へ向いている。


 迷子一号。


 ただの石に見える。


 でも、リリィのランダム召喚で出てきたものだ。


 登録外召喚物。


 性質不明個体。


 言葉にすると、急に冷たくなる。


 リリィは小袋を軽く叩いた。


「この子、石ですよ」


「召喚由来であるなら、確認対象です」


「石に確認される日が来るとは、石生も波乱ですね」


「笑い事ではありません」


 眼鏡の生徒の声が少しだけ硬くなった。


 その硬さに、俺は少しだけ違和感を覚えた。


 リリィが嫌いだから言っているのではない。


 未知の召喚物が本当に怖いのだ。


 クレストフォールは、召喚術を扱う。


 何が出るかわからないものを、事故の種として見る。


 それは一方的な悪意ではない。


 ただ、その正しさがリリィを削る。


 それが厄介だった。


「確認するなら、私が立ち会います」


 コレットが言った。


 声は静かだが、はっきりしている。


「迷子一号は第七部の管理下にあります。預かりや封印が必要かどうかは、規則を確認したうえで判断させてください」


 眼鏡の生徒が眉を寄せる。


「迷子一号?」


「名称です」


 コレットは真面目に答えた。


 セラが一瞬だけ目を瞬かせた。


 たぶん、そこは予想していなかった。


 リリィが小さく笑う。


「部長さん、その顔で石の名前を正式回答するの、反則ですよ」


「名前は大事です」


「そういう真っ直ぐなところ、本当に扱いに困ります」


 リリィの声から、ほんの少し硬さが抜けた。


 ネルが前へ出る。


「石を取り上げるの?」


 言い方が直線すぎる。


 眼鏡の生徒は少し怯んだ。


「取り上げるのではありません。安全確認です」


「返す?」


「問題がなければ」


「問題って誰が決めるの」


 ネルの質問は、鋭い。


 そして、少し危ない。


 コレットが手で制した。


「ネルさん」


「聞いただけ」


「はい。必要な質問です。でも、順番を整えます」


 山で覚えた言い方だ。


 人を先に見る。


 それから負け筋に使う。


 ここでは、規則も先に見る必要がある。


 セラが一歩前へ出た。


「こちらの説明が冷たく聞こえたなら、失礼しました。ただ、クレストフォールでは過去に未登録召喚物による事故が複数あります。小型であっても、性質不明の個体を放置することはできません」


 リリィが小さく呟いた。


「小型であっても」


 その声には、笑いがなかった。


 セラは続ける。


「リリィさんの召喚に限った話ではありません」


「限った話ではなかったことが、どれくらいありましたっけ」


 リリィの返しは軽い。


 でも、棘が隠れていない。


 セラの表情が少しだけ揺れた。


 そこに、過去がある。


 この二人は、たぶん同じ教室にいた。


 同じ規則を見て、別の場所に立った。


 セラは規則を守る側に残り、リリィは規則からはみ出した。


 どちらかが完全に悪い、という話ではなさそうだった。


 だから、余計に痛い。


 ガレスが一歩前に出た。


 全員が少し驚く。


 ガレスは小袋を見て、眼鏡の生徒を見る。


「布袋で足りるか」


「はい?」


「封印袋。必要なら、こちらの袋に入れる。中身は渡さない。確認は立ち会い。開ける時は、リリィが開ける」


 言葉は少ない。


 でも、条件ははっきりしていた。


 傷を直接持たない。


 周りを持つ。


 ガレスは迷子一号を守るのではなく、確認の手順を修理している。


 セラは少し考えた。


「規則上、可能です。封印布に学院印をつけ、滞在中は開封時に申告していただく形になります」


 リリィが眉を上げる。


「石に開封申告。面白くなってきました」


「面白くはありません」


 眼鏡の生徒が言う。


 リリィは肩をすくめた。


「こちらは面白くしないと持ちませんので」


 その言葉に、眼鏡の生徒は何か言いかけ、やめた。


 少しだけ、困ったような顔になる。


 もしかしたら、彼も昔のリリィを知っているのかもしれない。


 駅での確認は、それ以上揉めなかった。


 迷子一号はリリィの小袋に入ったまま、その上からクレストフォールの封印布を巻かれることになった。


 布には銀の輪が刺繍されている。


 きれいだ。


 でも、リリィの胸元にあると、少し窮屈に見えた。


「気分は?」


 俺が小声で聞くと、リリィはにっこり笑った。


「石の囚人を連れて歩く看守です」


「本人は?」


「囚人側ですか、看守側ですか」


「リリィ側」


 リリィは一瞬、黙った。


 それから、小さく答える。


「懐かしいです」


 それは、嫌だとも、平気だとも違う言葉だった。


 懐かしい。


 過去の痛みは、時々そういう顔をする。


 学院までは駅から歩いてすぐだった。


 白い並木道。


 枝には小さな鈴が吊られている。


 風が吹くと、鈴が鳴る。


 ただし、音はかなり小さい。


 ロイが少し嬉しそうに聞いていた。


「小さい音、上手ですね」


 ハルクがいないのに、彼の声が聞こえた気がした。


 必要なら大きい。


 必要がなければ小さい。


 ロイはここでも、音を学んでいる。


 ただ、リリィは鈴を見て少し顔をしかめた。


「あの鈴、召喚獣が規定外の動きをしたら鳴ります」


「警報?」


「上品な言い方をすれば」


「下品な言い方だと?」


「密告鈴」


 ロイが「嫌な名前ですね」と小声で言う。


 リリィは笑った。


「正式名称ではありません。私がそう呼んでいただけです」


「鳴らしたのか」


 ジャックが聞く。


 リリィは爽やかに答えた。


「何度も」


「おお」


「感心しないでください。教師に怒られます」


「もう怒られないだろ」


「記憶の中では、怒られ続けます」


 軽口。


 でも、そこに少しだけ本音が混じる。


 記憶の中では、怒られ続ける。


 俺はその言葉を覚えておこうと思った。


 俺の記憶は抜ける。


 リリィの記憶は、残りすぎるのかもしれない。


 学院の正門は、三つの輪を重ねた形をしていた。


 門の上には、小さな鳥型の飾りがある。


 綿羽旗フィーニスに似せたものだろう。


 白い綿毛のような羽。


 小さな足。


 丸い目。


 かわいらしい。


 でも、ノルの夢の言葉が頭に残っていた。


 小さいもの、嫌い。


 小さい足、嫌い。


 小さい声、嫌い。


 小さいものが増えると、羽が汚れる。


 門の飾りはかわいい。


 けれど、少し潔癖に見えた。


 校内に入ると、さらに整然としていた。


 召喚陣の練習場には、同じ大きさの円が並んでいる。生徒たちはその円の中心に立ち、決められた使い魔を呼び出す訓練をしていた。


 小型の鳥。


 細い蛇。


 透明な魚。


 角の小さな獣。


 どの使い魔も、きちんと主のそばにいる。


 勝手に歩かない。


 勝手に鳴かない。


 勝手に石にならない。


 リリィの指が、小袋の上で少し動いた。


 セラが説明する。


「こちらが第一召喚庭です。滞在中、カルミアの皆さまも許可を得れば使用できます。ただし、登録外召喚は制限されます」


 また、その言葉。


 登録外。


 リリィは笑う。


「私は庭の隅で大人しくしています」


 セラがすぐに返す。


「競技部として参加される以上、必要な範囲で訓練は可能です」


「必要な範囲」


「はい」


「その必要を、誰が決めるかが問題ですね」


 セラは少しだけ目を伏せた。


「今回は、カルミア側の作戦責任者と相談します」


 リリィが意外そうな顔をした。


 俺も少し意外だった。


 セラは続ける。


「あなたが以前ここにいた時とは、立場が違います。今は他校の競技部員です。こちらの規則を守っていただく必要はありますが、こちらが一方的に訓練内容を決める立場ではありません」


 その言葉は、礼儀正しい。


 でも、少しだけ誠実だった。


 リリィはすぐには返さなかった。


 毒舌の準備が遅れたように見えた。


「……それは、改善ですね」


 やっと出た言葉は、いつもより短い。


 セラは頷いた。


「改善が十分かは、まだわかりません」


 この人も、この学校の中で何かを考えてきたのかもしれない。


 リリィが去ったあとに。


 あるいは、リリィがいた頃から。


 簡単に敵と味方に分けられない。


 そういう場所に来た。


 第一召喚庭の端を歩いていると、練習中の生徒たちの視線がこちらへ向いた。


 カルミアへ。


 第七部へ。


 そして、リリィへ。


 ざわめきは小さい。


 ここの生徒たちは、声を大きくしない訓練をされているのかもしれない。


 でも、小さい声は消えるわけではない。


「クロフト?」


「戻ってきたの?」


「カルミアにいるって」


「まだ召喚、安定してないのかな」


「登録外、持ってる?」


「あの袋」


 ロイが少し顔を上げる。


 音に敏感になった彼には、聞こえすぎているだろう。


 ネルも聞いている。


 レイナは眉を寄せている。


 ジャックはかなり不機嫌そうだ。


 でも、リリィは笑った。


 いつもの笑み。


 薄く、鋭く、綺麗な毒。


「人気者は困りますね」


「困ってるのか」


 俺が聞くと、リリィは小声で返す。


「困っていることにすると、あちらが満足しそうなので」


「じゃあ?」


「面倒です」


 少しだけ本音に近い。


 俺は頷いた。


「面倒なら、面倒でいい」


「先輩、雑な肯定の天才ですか」


「褒めてるか?」


「半分くらい」


 リリィは笑った。


 その時、第一召喚庭の奥で小さな悲鳴が上がった。


 訓練中の生徒の召喚陣から、小さな羽虫の群れが出たのだ。


 群れと言っても、十匹ほど。


 害はなさそうに見える。


 けれど、鈴が一斉に鳴った。


 チリン。


 チリン。


 チリン。


 上品な音。


 でも、リリィの肩が跳ねた。


 密告鈴。


 教師らしき人がすぐに駆け寄り、生徒に指示を出す。


「登録外小型群。陣内に戻して。羽を広げさせない」


 生徒は青ざめて、必死に羽虫を戻そうとしている。


 周りの生徒は距離を取る。


 誰も笑わない。


 笑わないからこそ、怖い。


 ここでは、乱れは笑いではなく処理の対象になる。


 リリィはその光景を見ていた。


 目が細い。


 笑っていない。


「あれ、昔の私より優秀です」


 彼女が言う。


「どうして」


「羽虫はまだ生き物なので」


 迷子一号は石。


 それを言っている。


 俺は何も返せなかった。


 教師は羽虫を小さな封印瓶に入れ、生徒に何かを記録させていた。


 厳しい。


 でも、手順は整っている。


 事故を防ぐための手順。


 それが、誰かの失敗を即座に分類して閉じ込める手順にもなる。


 クレストフォールの問題は、そこにあるのかもしれない。


 校舎へ向かう途中、セラが静かに言った。


「不快にさせたなら、すみません」


 リリィは少し驚いた顔をした。


「あなたが謝るんですか」


「案内担当なので」


「便利ですね、担当」


「便利ではありません」


 セラは前を見たまま言う。


「ただ、あなたがいた頃より、少しは見直されています。登録外召喚物の扱いも、以前より手順が明確になりました」


「私のおかげですか?」


 毒が混じる。


 セラはすぐに否定しなかった。


「一部は」


 リリィの足が、ほんの少し止まりかけた。


「あなたの召喚が事故扱いされたことも、迷惑扱いされたことも、記録には残っています。今は、その記録を安全手順の改善にも使っています」


「便利ですね」


 リリィの声が冷たい。


「迷惑物件にも利用価値がありましたか」


「そういう意味では」


 セラは言いかけて、止まった。


 そして、言い直した。


「そういう意味に聞こえたなら、私の言い方が悪かったです」


 リリィは黙る。


 毒舌が出ない。


 それは、少し危うい沈黙だった。


 コレットが静かに言った。


「記録は、本人を軽くするために使うと危険です」


 セラが振り向く。


 コレットは続ける。


「山岳校で学びました。記録は残す。でも、本人に確認する。本人の痛みや判断を、記録の材料だけにしない」


 セラは少し目を見開いた。


 それから、リリィを見た。


「……覚えておきます」


 リリィは笑わなかった。


 でも、歩き出した。


 それで、今は十分だった。


 滞在棟に案内されると、部屋割りと訓練時間の説明があった。


 カルミア用の控室は、召喚庭から少し離れた場所にある。


 窓の外には、白い羽のような木が並んでいる。


 きれいだ。


 きれいすぎて、落ち着かない。


 荷物を置いたあと、リリィは窓を開けた。


 小袋から迷子一号を出す。


 封印布は巻いたままだ。


 石は何も言わない。


 当然だ。


「久しぶりの故郷ですよ、迷子一号」


 リリィが言う。


「故郷なのか」


 俺が聞くと、彼女は肩をすくめた。


「ここで召喚したわけではありませんが、こういう場所で嫌われる才能はあります」


「嫌われる才能って言うな」


「では、注目される才能」


「少しよくなった」


「先輩の採点、甘いですね」


 リリィは迷子一号を手のひらに乗せた。


 封印布の銀の輪が、石の周りで小さく光る。


「登録外」


 彼女が呟く。


「未登録」


 もう一つ。


「性質不明」


 三つ目。


 その言葉は、たぶん彼女自身に向けられている。


 俺は窓枠にもたれた。


「第七部では、迷子一号だ」


 リリィは俺を見る。


「石に名前をつける部活、だいぶ終わってますね」


「終わってない。続行」


 山の言葉を使うと、リリィは少しだけ笑った。


「便利ですね、それ」


「便利だ」


「軽率に使うと怒られそうです」


「誰に」


「山に」


 俺たちは少し笑った。


 その笑いは、白い部屋の中で少し浮いた。


 でも、悪くない浮き方だった。


 夕方、クレストフォール側から初日の交流練習の案内が届いた。


 登録召喚の基礎確認。


 使い魔の行動範囲テスト。


 旗フィーニスの公開観察は翌日。


 リリィは案内書を見て、目を細めた。


「公開観察」


「旗を見せてくれるのはありがたいだろ」


「小さいものを嫌う旗に、登録外の石を封印布付きで見せるんです。向こうからしたら、かなり上品な嫌がらせですね」


「本当に嫌がらせか?」


「半分くらいは規則でしょう」


「残り半分は?」


「文化です」


 文化。


 便利で、厄介な言葉だ。


 山岳校にも文化があった。


 重さを知る文化。


 回収を先に置く文化。


 クレストフォールにも文化がある。


 整える文化。


 登録する文化。


 不明なものを閉じる文化。


 それがリリィを傷つけた。


 でも、その文化の中にも、セラのように言い直そうとする人間がいる。


 単純ではない。


 単純ではないから、作戦になる。


 夜、控室でコレットが初日の記録をまとめた。


「クレストフォール到着。リリィさん、元所属校の生徒から冷たい視線と規則確認を受ける。迷子一号は封印布付きで持ち込み許可。登録外召喚物への扱いは厳格だが、セラさんは一方的な制限ではなく相談の形を取ろうとしている」


 コレットはそこで一度止まった。


「追記。記録の扱いに注意。リリィさんの過去を安全手順の材料にするだけではなく、本人の確認を優先する」


 リリィが拍手した。


 小さく。


「すばらしいです、部長さん。私の面倒な過去が、きちんと面倒なまま記録されています」


「面倒なまま扱います」


「本当に困るほど真っ直ぐですね」


 リリィは笑った。


 その笑みはまだ盾だ。


 でも、盾の向こうで、少しだけ息ができているように見えた。


 俺は窓の外を見た。


 白い木々の向こうで、三つの輪の門が光っている。


 明日、俺たちは綿羽旗フィーニスを見る。


 小さいものを嫌う旗。


 小さいものを片づける学校。


 その中で、リリィのランダム召喚がどう動くのか。


 まだわからない。


 計画通りにいかない魔法。


 計画を大事にする学校。


 ぶつかるのは、たぶん避けられない。


 ただ、ぶつかり方は選べる。


 リリィは迷子一号を手のひらで転がした。


 封印布の銀の輪が、小さく鳴らない光を返す。


「明日は、旗にも嫌われに行きましょうか」


 彼女はそう言った。


 毒舌は鋭い。


 でも、今日はその奥に少しだけ、第七部にいる人間の声が混じっていた。


 登録外。


 未登録。


 性質不明。


 その言葉の横に、俺はもう一つ置いておく。


 リリィ・クロフト。


 カルミア魔法学園、第七魔法競技部。


 それは規則に載っていなくても、俺たちの記録には残る名前だった。


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