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第179話 下位校の拍手

 最終日の午後、下位校連合リーグの全試合が終わった。


 カルミアは二戦二勝。


 ミラージュは一勝一敗。


 ハーヴェストは二敗だが、旗経路誘導で安全運用点を大きく伸ばした。


 グレイベルは重力補助の短時間固定を使い、初めて施設損傷なしで試合を終えた。


 シェルポートは潮流魔法の境界を音で区切る方法を試し、減点を半分にした。


 リンドロウは補助魔法の効果記録で、合同訓練評価を得た。


 順位表だけを見れば、ただの下位校リーグだ。


 でも、練習場の空気は初日と違っていた。


 諦めの湿気が、少し薄い。


 代わりに、書き残したいものが増えている。


 赤い失敗印。


 青い反射酔い印。


 緑の畝。


 重力固定の支え板。


 潮流境界の音譜。


 補助魔法の効果時刻。


 全部が、下位校の記録として残り始めていた。


「これ、カルミアが持って帰っていいんですか」


 ミラージュのセナが聞いた。


 手には、反射酔い位置の写しがある。


 コレットは首を振った。


「正本はミラージュに残してください。カルミアは写しをいただきます」


「残す」


 セナはその言葉を繰り返した。


「はい。あなた方の記録です」


 その言葉に、セナは少し背筋を伸ばした。


 ハーヴェストのマリカは、リリィに木べらを返そうとしていた。


「これ、召喚物ですよね。返した方が」


「まだ消えていないので、あなたが使いなさい」


 リリィが言う。


「いいんですか」


「畝整備具です」


 木べらは無言だ。


 ただの木べらだからだ。


 グレイが少し惜しそうに鳴いた。


「あなたには別の役割があります」


 リリィが言うと、グレイは納得したようだった。


 ダンはミラとガレスに、重力固定の支え方をもう一度聞いていた。


 エイダはアルフに、結界の向きを質問している。


 ロイはシェルポートの生徒に、潮流の端を知らせる音の作り方を教えていた。


「大きく鳴らせばいいってもんじゃないっす」


「ロイがそれを言うの、感慨深いですわ」


 レイナが横から刺す。


「成長したんすよ」


「はい。少し」


「そこは大きく褒めてほしいっす」


 笑いが起きる。


 その笑いを、標準化審査局の職員が遠くから見ていた。


 彼らの表情は明るくない。


 下位校が互いに記録を持ち寄り始めた。


 カルミアを中心に。


 それは、標準化審査局にとって想定外だろう。


 下位校をまとめて評価し、必要な支援と廃止を選別する場だったはずだ。


 なのに、下位校同士が互いの機能を証明し始めている。


 選別される側が、選別の言葉を書き換え始めている。


 閉会式は簡素だった。


 連盟職員が結果を読み上げる。


 勝利点。


 安全運用点。


 観客評価。


 報告書点は、最終審査待ち。


 標準化審査局の腕章をつけた職員が前へ出た。


「カルミア魔法学園の非標準魔法運用については、複数の確認事項があります」


 空気が少し冷える。


「特に、他校魔法への介入、観客合図の自然発生、補助魔法評価の拡張について、標準化審査局で追加確認を行います」


 自然発生。


 ロイの音が応援になったことまで、確認対象になるらしい。


 ロイが口を引き結ぶ。


 俺は少し腹が立った。


 あの音は、誰かを操ったものではない。


 自然に広がった応援だ。


 でも、自然に広がるものほど、管理する側は嫌がるのかもしれない。


 職員は続ける。


「ただし、現時点で重大事故は確認されていません。各校からの連名報告も受理しました」


 受理。


 その言葉に、下位校の生徒たちがざわめく。


 受理された。


 消されていない。


「暫定評価として、カルミア魔法学園には後半リーグ存続条件に対する相当評価点を付与します」


 コレットの手が、わずかに震えた。


 相当評価点。


 三勝ではない。


 でも、三勝に相当する評価点へ近づく。


「最終判定は、後日通知します」


 職員はそう締めた。


 拍手は、最初なかった。


 みんな、拍手していいのかわからなかったのだと思う。


 正式な勝利発表ではない。


 審査中の項目もある。


 標準化審査局の顔も硬い。


 でも、観客席の端から、ぽん、という声がした。


 子どもの声。


 それに、別の子どもが続く。


 ぽん。


 ぽん。


 ロイが驚いた顔をする。


 ミラージュの生徒が手を叩く。


 ハーヴェストの家族が拍手する。


 リンドロウの生徒が控えめに、でも確かに手を叩く。


 グレイベルのダンが大きな手で一度、強く叩いた。


 そこから拍手が広がった。


 下位校の拍手。


 強豪校の華やかな歓声とは違う。


 でも、重かった。


 自分たちの失敗も、機能になるかもしれない。


 そう思った人たちの拍手だった。


 レイナは少し泣きそうな顔をしていた。


 本人は絶対に認めないだろう。


 ネルは静かに拍手を聞いている。


 コレットは深く頭を下げた。


 ロイは、しばらく音を鳴らせなかった。


 そして、最後に小さく鳴らした。


 ぽん。


 水面に波紋が広がる。


 拍手がそれに重なった。


 俺は、その音を聞きながら思った。


 カルミアは、まだ残ると決まったわけではない。


 連盟の審査は続く。


 ローエン・ミルツは、こちらを例外として閉じようとしている。


 でも、今日は少なくとも、カルミアだけではなかった。


 閉じられた道の前に、他の学校の手もかかった。


 その事実は、たぶん消えにくい。



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