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第178話 報告書点

 下位校連合リーグで一番疲れたのは、試合ではなく報告書だった。


 少なくとも、コレットとクララはそうだったと思う。


 試合後四十八時間以内。


 非標準魔法運用報告。


 安全管理。


 観客影響。


 旗反応。


 相手校機能との相互作用。


 重大事故の有無。


 次回運用条件。


 全部書く。


 しかも、標準化審査局に言葉を奪われないように書く。


 部室ではない湖畔の研修館の一室で、コレットは三つ目の報告書を書いていた。


 クララは術式部分。


 ノルは部誌から時刻と発言を抜き出す。


 俺は主観記録。


 ネルは俺が曖昧に書いたところを刺す。


「ここ」


 ネルが紙を指す。


「『少し危なかった』って何」


「少し危なかった」


「報告書に出す言葉じゃない」


「主観記録だから」


「主観でも具体的に」


 厳しい。


 でも正しい。


 俺は書き直す。


 ハーヴェスト戦中盤、過成長した根がカルミア側足場へ三十センチ侵入。転倒危険あり。リリィの召喚物、ガレスの支え、アルフの一方向結界、ミラの短時間固定により通路端へ移動。事故なし。


 ネルが頷く。


「それならいい」


「先生みたいだな」


「あんたが生徒みたいな書き方するから」


 反論できない。


 ロイは自分の音譜を書いている。


 本人いわく、五つの小音をどう鳴らしたかの記録らしい。


「ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、じゃだめっすかね」


「だめです」


 クララが即答した。


「音程、反響位置、目的を書いてください」


「難しいっす」


「あなたの音を守るためです」


「最近それ言われると反論できないっす」


 ロイは頭を抱えながら書く。


 レイナは赤い失敗印の図を清書している。


 驚くほど綺麗だ。


 失敗の図なのに、高貴に見える。


「美しく失敗を配置することは可能ですわ」


「名言っぽいっす」


「事実です」


 リリィは木べらを机に置いていた。


 召喚された木べらは、まだ消えていない。


「これは報告書上、どう分類しますか」


 クララが聞く。


「畝整備具です」


 リリィが答える。


「召喚逸脱物では」


「畝整備具です」


 クララは少し迷ってから、両方書いた。


 召喚逸脱物、畝整備具として一時採用。


 リリィは満足した。


 問題は、標準化審査局からの差し戻しだった。


 第一報告書、ミラージュ戦。


 観客視線反射遮断について、競技外干渉の疑い。


 第二報告書、ハーヴェスト戦。


 相手校魔法への介入について、公平性確認。


 第三草案、リンドロウ訓練。


 補助魔法評価について、勝利点との関連性不明。


「全部突いてきますね」


 コレットが言った。


 疲れている。


 でも、目は冷えている。


「突けるところを探しているのでしょう」


 クララも言う。


「返しますか」


「返します」


 コレットは即答した。


 ミラージュ戦については、セナが署名した。


 観客視線反射遮断により、ミラージュ側旗ミラーシュの自己誤認が軽減され、競技継続性が向上した。


 つまり、カルミアの干渉は相手を妨害していない。


 むしろ、旗と選手の安全を守った。


 ハーヴェスト戦については、マリカが署名した。


 カルミア側の過成長部整流により、ハーヴェスト側魔法は事故化せず、旗経路誘導として継続可能となった。


 公平性を害していない。


 相手の機能を残した。


 リンドロウ訓練については、エイダが署名した。


 補助魔法は得点行動の成立条件として明確に機能し、カルミア一方向結界との併用により安全運用点の評価対象となるべきである。


 下位校の生徒たちが、カルミアの報告書に自分たちの言葉を足していく。


 これは、ただの応援ではない。


 証言だ。


「連名報告になります」


 コレットが言った。


「カルミア単独の主張ではなく、参加校双方の機能記録」


 標準化審査局の職員は、提出された連名報告を見て明らかに顔を曇らせた。


 拒否しにくい。


 下位校の記録だから軽く見たい。


 でも、複数校の署名がある。


 しかも、重大事故は起きていない。


 観客反応も良い。


 旗反応も安定している。


 減点する理由は探せる。


 でも、全面否定は難しい。


「報告書点、出ますかね」


 ロイが小声で聞く。


「出させます」


 コレットが答えた。


 言い方が強い。


「点はもらうものではありません。記録で取りに行きます」


 レイナが扇子を開いた。


「よろしいですわ」


 ノルが部誌に書く。


 報告書も試合。


 ロイがそれを見て、真顔で頷いた。


「確かに、戦ってるっす」


 夕方、暫定評価が掲示された。


 カルミア魔法学園。


 勝利点、二勝。


 安全運用点、高。


 観客評価点、高。


 報告書点、審査中。


 審査中。


 それでも、以前なら空欄にされていたかもしれない点が、項目として掲示されている。


 下位校の生徒たちが掲示板の前に集まった。


 ミラージュのセナが言う。


「審査中なら、消えてません」


 ハーヴェストのマリカが頷く。


「畝、書かれてます」


 リンドロウのエイダも、静かに言った。


「補助も」


 自分たちの魔法が、掲示板に残っている。


 小さなことかもしれない。


 でも、彼女たちには大きい。


 俺は掲示板を見た。


 カルミアの名前。


 その横に並ぶ評価項目。


 まだ確定ではない。


 でも、閉じた道に爪をかけた感じがした。


 その夜、コレットは最後の追記を書いた。


 下位校連合リーグにおける非標準機能運用は、カルミア単独の例外ではなく、複数校の競技継続性を高める共通手法として観測された。


 例外ではなく、機能。


 その言葉が、報告書の中で少しずつ形を持ち始めていた。



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