表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
178/226

第177話 補助校の盾

 下位校連合リーグ三日目は、公式試合のない調整日だった。


 ただし、連盟評価には合同訓練も含まれる。


 休みではない。


 むしろ、標準化審査局にとっては試合より見やすい時間かもしれない。


 試合中は勝敗がある。


 緊急判断もある。


 でも、訓練は意図が見える。


 何を危険と見なし、何を安全と見なし、どう説明するか。


 そこを見られる。


「つまり、今日は報告書のための戦いです」


 コレットが言った。


 ロイが顔をしかめる。


「戦いって言われても、燃えにくいっす」


「燃えなくていいです。燃えると危険評価が上がります」


「厳しいっす」


 合同訓練の相手は、リンドロウ補助魔法校だった。


 廃止審査中。


 得点力不足。


 補助魔法特化。


 連盟資料にはそう書かれている。


 リンドロウの生徒たちは、全員が淡い灰色の制服を着ていた。


 目立たない。


 声も小さい。


 でも、道具の整備はとても丁寧だった。


 補助魔法校らしく、回復、緩衝、足場補強、視界補助、疲労軽減などの魔法を扱う。


 競技旗を奪う力は弱い。


 しかし、安全管理に関しては、たぶんこの場のどの学校より上だった。


「うちは、点を取れません」


 リンドロウの代表、エイダ・ノックスが言った。


 淡々としている。


 諦めに慣れた声だった。


「怪我を減らしても、勝利点にはなりません。補助は、強い学校にいる時だけ評価されます」


 アルフが彼女を見ていた。


 一方向だけの結界。


 守れる範囲が限定される自分の魔法。


 昔の彼なら、何も言わなかったかもしれない。


 でも、今のアルフは少し違う。


「守るのは、点にならない?」


 エイダは苦笑した。


「ならないことが多いです」


「でも、事故ゼロは条件になる」


 アルフの言葉に、エイダが瞬きをした。


「カルミアさんの存続条件ですか」


「うん。重大事故ゼロ」


「それは、減点されないための条件では」


「でも、満たさないと終わる」


 アルフは自分の手を見た。


「なら、守るのは勝ちに入ると思う」


 短い。


 でも、エイダには届いた。


 コレットがすぐに小型板へ書いた。


 安全運用を勝利条件の一部として扱う。


「今日の訓練は、防衛と補助の評価化です」


 コレットが言う。


「カルミア側はアルフさんを中心に、一方向結界、コレットの敗北幻視、クララの危険読解、ロイの小音合図を組み合わせます。リンドロウ側は補助魔法を得点行動の前提として可視化してください」


「得点行動の前提」


 エイダが繰り返す。


「補助を、点を取る前の準備として書くんですね」


「はい。点を取った人だけの記録にしない」


 コレットの声は力強かった。


 訓練が始まった。


 簡易旗を使った防衛練習。


 リンドロウの補助魔法は、直接旗へ届かない。


 でも、足場の摩擦を整え、視界の眩しさを減らし、走る選手の負荷を下げる。


 その結果、旗への到達速度が上がる。


 今までは、その上がった速度だけが得点者の成果になっていた。


 今日は違う。


 ノルが部誌に補助魔法の発動時刻を書く。


 クララが魔力線を読む。


 ロイが音で補助の効果が出た瞬間を知らせる。


 アルフが外からの干渉を一方向で防ぐ。


 コレットが、補助がなかった場合の敗北幻視を短く伝える。


「今の足場補助がなければ、ネルさんが半歩遅れていました」


「視界補助がなければ、ロイさんの音位置がずれました」


「疲労軽減がなければ、ミラさんの回収が三秒遅れます」


 エイダの顔が変わっていく。


 自分たちの魔法が、前提として記録される。


 点を取った後ろに隠れない。


 支えた場所が見える。


 アルフも、その変化を見ていた。


 彼は一方向結界を張り直す。


 外から来る揺れだけを止める。


 中の動きは止めない。


 それは、彼にしかできない守り方だった。


「アルフ」


 俺が呼ぶ。


「何」


「今の、すごく助かった」


 アルフは少しだけ目を丸くした。


「普通に張っただけ」


「その普通がいる」


 アルフは照れたように視線を逸らした。


「そっか」


 エイダがその様子を見て、小さく笑った。


「守る役って、言われると変な感じがします」


「変?」


 アルフが聞く。


「今までは、点を取れない役でした」


「俺も、守る方向を一つしか選べない役だった」


「今は?」


 アルフは少し考えた。


「守る方向を、選べる役」


 エイダはしばらく黙って、それから頷いた。


「いいですね、それ」


 訓練の最後に、コレットは合同報告書の草案を作った。


 リンドロウ補助魔法校との合同安全運用訓練。


 補助魔法は得点力不足ではなく、得点行動の成立条件として機能。


 カルミア一方向結界との組み合わせにより、観客側干渉および足場揺れを安全に制御。


 重大事故なし。


 参加校双方の機能記録を添付。


 エイダはその草案を見て、目を伏せた。


「こんなふうに書いてもらったこと、ありません」


「書かれなかっただけです」


 コレットが言う。


「機能がなかったわけではありません」


 エイダは静かに頭を下げた。


 その姿を、標準化審査局の職員が見ている。


 下位校同士が、互いの欠陥を機能として記録し始めている。


 それは、たぶん彼らの想定していた短期リーグではない。


 ロイの小さな音が、訓練終了の合図として鳴った。


 ぽん。


 観客席の子どもたちが真似をする。


 ぽん。


 エイダが少し笑った。


「その音、いいですね」


 ロイは照れた。


「うるさくないっすか」


「合図です」


 たったそれだけで、ロイの顔が明るくなる。


 コレットは作戦板にまた一行足した。


 守ることを、点の前に置く。


 アルフはそれを見て、少しだけ胸を張った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ