救援要請
第1波を迎え撃ち、補給のためにシルバーピアサーズの野戦駐機場へ降り立つ。
ちょうどいい準備運動だったぜ。
荒野の駐機場から狭いコクピットへ視界が切り替り、頭上のハッチから機外へ出る。
「お疲れさん!」
相棒の足元から手を振るのは、作業服姿のナイスガイ。
整備を担当してくれるシルバーピアサーズのメカニックさんだ。
「補給お願いします!」
「おう、任された!」
最前線の補給作業ってロマンあるよね。
集積された弾薬やパーツ、忙しなく駆け回るメカニック――祭りって感じだ。
相棒の武骨な手に飛び移り、しばし鋼鉄の感触を楽しむ。
やっぱりロボットは最高だぜ。
「おい、V!」
赤茶けた大地に降り立つなり、暫定MVPの声が聞こえてきた。
つまり、眉を吊り上げたダン君だ。
「俺に2機も押しつけやがったな!?」
人聞きが悪いな。
俺はできないと思うことを任せたりしないぜ。
「ダンを信じてたからな」
「それを言ったら俺が引き下がると思ってないか?」
「うん」
「こ、こいつ…!」
まだ実力不足と思ってるらしいが、俺は微塵も思ってない。
口は素直じゃないけど、学ぶ姿勢は誰よりも素直だ。
チャンピオンとブロンズナイトに鍛え上げられたダンは強い。
スパルタ教育は伊達じゃないぜ。
「V、ダン!」
この駆け寄ってくる気配は、我らがゾエちゃん!
突進してきた影を両腕で受け止め、それでも勢いが止まらず1回転する。
「お疲れ、ゾエ」
俺を見上げて、きらきらと輝くスカイブルーの瞳に笑みを返す。
「さっきはありがとな」
「はい!」
元気で大変よろしい。
今日も魔弾の射手は絶好調だぜ。
「――お嬢ちゃんはとんでもないものを使うんだな」
聞き慣れないハスキーボイス。
ゾエを抱えたまま振り向けば、立派な髭を貯えた翁が!
油汚れの染みついた作業服からは熟練の貫禄が滲み出てる。
「とんでもないもの?」
「クローバーラインだよ」
揃って首を傾げる俺とゾエの前で、メカニックの翁は背後を指し示す。
親指が指す先には、駐機姿勢のフランベ。
長期修理に出されたHEKIUNに代わって4連装タジマキャノン、クローバーラインが天を睨んでいる。
「発掘品の中でも特にピーキーでな。見るのも久々さ」
「クローバーラインって発掘品だったのか……」
発掘品ってことは、ティタノマキアと同類ってわけか。
「実はティタン用の兵装じゃない、なんて話も聞くぜ」
「へぇ……」
「初耳です!」
道理で使い勝手が悪いわけだ。
威力が絶大でも、あの制約の多さはロマンで相殺できないところがある。
しかし、ティタン用の兵装じゃないとすれば、宇宙戦艦の主砲だったり?
「班長!」
「おう、今行く!」
メカニックの翁は力強いサムズアップを残して作業へ戻っていった。
その頼もしい背中を、俺とゾエは手を振って見送る。
「お疲れ様っす、Vさん」
「あ、お疲れ様です」
入れ代わるように現れたのは、人懐っこい笑みを浮かべる褐色美人のグッドイヤーさん。
その後ろには腕を組んだヘイズ、師匠、アルが続く。
3人の渋そうな雰囲気を見るに、問題が起きたらしい。
「何かあったんですか、グッドイヤーさん」
目を瞬かせるゾエをアルに預け、空中強襲旅団シルバーピアサーズの長と相対する。
「ええっと……実は、ご近所のEフィールド第3防衛線から救援要請が来まして」
そう言って申し訳なさそうに頬を掻くグッドイヤーさん。
戦闘中、絶え間なく救援要請が飛び交ってたのは知ってる。
楽しそう――じゃなかった、実に大変そうだった。
しかし、俺も持ち場があるので応じることはできなかった。
「大変申し訳ないんですが……皆さんにはEフィールドの救援に向かってほしいっす」
え、飛び入り参加していいの!?
いや、待て。
落ち着け、俺。
「こっちは大丈夫なんですか?」
飛び入り参加は嬉しいが、ここの防衛が疎かになるのは見過ごせない。
余裕があるのは今だけかもしれない。
AP弾を急ピッチで詰め込まれるライフルを見遣り、それからグッドイヤーさんに視線を戻す。
「狂信者どもの出鼻は挫けたので、ひとまず助っ人だけで大丈夫っす」
俺たち以外にも声をかけてたのか。
さすが旅団長だ、抜かりないぜ。
「……個人的には発射を見届けてほしかったけど、残念っす」
胸躍る発進シーンを見逃すのは、たしかに惜しいが――
「防衛線が崩壊したら発射どころじゃないだろ」
嘆息するグッドイヤーさんの隣にカレン氏が立つ。
深緑のフライトスーツを着込み、ヘルメットを担ぐように持っている。
今日のカレン氏はアリーナ3位じゃない。
「V」
シルバーピアサーズの筆頭エースが俺の名前を呼ぶ。
「第二次攻撃までに戻ってこい」
お遣いのついでに頼むような軽い調子だった。
簡単に言ってくれるぜ。
これから突っ込む場所は、お互い激戦区だっていうのに。
「戻ってこられたら?」
「打ち上げを特等席で見せてやる」
不敵な笑みを浮かべ、拳を突き出すカレン氏。
そいつは素敵だ。
「楽しみにしてますよ、カレンさん」
突き出された拳に、拳を返す。
特等席を用意してもらえる以上、遅刻できねぇな。
ヘイズと師匠に目配せし、それからグッドイヤーさんと向き直る。
「グッドイヤーさん、救援は任せてください」
「助かるっす。これでEフィールドが持ち直せば、他のフィールドへの負担も――」
話を途中で切り、グッドイヤーさんが耳掛け式インカムに手を当てる。
会話を妨げないよう口を閉じた瞬間、頭上を8機の輸送ヘリコプターがフライパス。
赤茶けた砂が舞い上がり、エンジンの爆音が耳を叩く。
「…今からそっちへ向かうっす。通信は切らずに、報告を」
ちらりと俺を見遣り、申し訳なさそうに頭を下げるグッドイヤーさん。
グッドイヤーさんとカレン氏は、この忙しい時に現場を離れていい人じゃない。
見よう見まねの敬礼で応じ、砂煙の中へ駆けていく2人を見送った。
「さて、パーティ会場に飛び入り参加だ!」
「おお!」
ゾエちゃんと一緒に拳で天を衝く。
目指すは、砲火飛び交うフロントライン。
待ってろよ、白熱のロボットバトル!
「で、Eフィールドってどこ?」
「はぁ……」
我が友よ、溜息をつくと幸せが逃げるぞ?




