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初期機体は初心者にあらず!  作者: バショウ科バショウ属
フロントライン
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疾風怒濤

 無数の炎が大地を焦がす。

 ガス雲に覆われた空を細切れにするミサイルの白い航跡。

 放棄都市を構成する摩天楼が倒れ、重々しい爆発音が大気を震わす。

 その狭間でタジマ粒子と曳光弾の輝きが交差し、鋼の巨人が疾駆する――


≪シムラの実働9課は戦力の30%を消耗!≫

≪馬鹿な、早すぎる……一度言ってみたかったんだよね≫

≪言ってる場合か! 第4波来るぞ!≫


 チャットはアルジェント(銀の)・メディウム(巫女)と相対するプレイヤーたちの悲鳴で満ちていた。


≪敵が七分に、陸が三分! 敵が七分に、陸が三分だ!≫

≪撃て! 撃ちまくれ!≫


 プレイヤーが目にするレーダーは赤点に覆い尽くされている。

 ストーリーイベント開始から13時間が経過しても、無人兵器の波状攻撃が止む気配はない。


≪こちらBフィールド第2防衛線、3機目のマッド・ドッグだ!≫

≪誰だよ、初期機体でも勝てるとか抜かした馬鹿は!?≫

≪そいつは人間じゃないから除外しろ!≫

≪狂犬め! 奥の手を見せてやるよ!≫


 投入されたフラグシップは無人兵器と連携し、プレイヤーたちを着実に追い詰めてくる。

 1機や2機撃破されたところで怯みもしない。


≪こちらSフィールド第4排水路、多脚戦車の侵入を確認!≫

≪このままだと突破される! 増援はまだかよ!≫

≪スーアガズの第6部隊が急行中だってよ!≫

≪おい、あの多脚戦車っ変形しやが――≫


 アルジェント・メディウムの指揮下にある無人兵器の軍勢は、各地の防衛線を突破しつつあった。

 あらゆる侵攻ルートから人口密集地であるB17を目指す。


≪Eフィールド第3防衛線現着! 状況は!≫

≪俺と西条の旦那を残して全滅!≫

≪あの酔いどれを残して…!?≫

≪6000クレジットが群れてやがるぜぇ!≫

≪稼ぎ時だ……踊るぞ!≫


 そんな状況下で火消しに奔走するのはフリーランスの傭兵だった。

 彼らは目の前に並べられた報酬のため、戦場を駆けずり回る。

 嬉々として。


≪誰か弾を、弾をくれ!≫

≪孤立した奴から食われるぞ!≫

≪く、くるなぁぁぁ!≫

≪馬鹿、落ち着け!≫


 初めてのイベントに参加したニュービーたちは、苛烈な洗礼を前に悲鳴を上げる。

 鉄火の吹き荒れる戦場で身を寄せ合い、1秒でも長く生き残るため懸命に戦う。


≪軽量級のノーヘッドが侵入してきてるぞ!≫

≪護衛は何してやがった!?≫

≪この死地、我らが引き受けた≫

≪参ろうか、富岳殿≫

≪K.E.Cの匠と辻斬り爺!?≫

≪この際、誰でもいい! 弾薬が到着するまで何としても死守しろ!≫


 ティタン・フロントラインに接続しているプレイヤーの6割近くが集結し、ストーリーイベントは総力戦の様相を呈している。

 地方都市B17の防衛戦で、各々はゲーム(娯楽)を全力で楽しんでいた。


≪右翼は押されている。中央は崩れかけている。撤退は不可能……状況は最高!≫

≪行くぞ、くそったれども!≫

≪おう!≫


 プレイヤーたちは征く。

 現実では決して味わうことのできない闘争を求めて。


◆


≪ミッション内容を確認します≫


 鼠色の輸送ヘリコプターは荒野を這うように飛ぶ。

 メインローターが赤茶けた砂塵を切り裂き、後方で大きく渦を巻く。


≪目標は、我らが銀蓮に害為す者どもの駆逐です≫


 感情を排した冷静沈着なオペレーターの声がコクピットに響く。

 視線を横へ走らせれば、数字の13を機体側面に描いた輸送ヘリコプターが7機。

 その機体下部には、完全武装のティタンが吊り下げられている。


≪B17近郊に展開中の空中強襲旅団シルバーピアサーズを強襲し、これを撃滅してください≫


 低空侵入を試みる彼らは、招かれざる者。

 地方都市B17の防衛戦に参加しないどころか、妨害せんと動く敵対勢力だ。


≪障(・)害(・)への対処は自己判断で行ってください。それでは――≫


 ロックが解除され、機より投下されたティタンを重力が捕まえる。

 急速に迫る赤い大地。

 砂塵が視界を覆う中、一斉にスラスターが紅蓮の焔を吐く。


≪世に銀蓮の祝福と安寧を≫

≪世に銀蓮の祝福と安寧を≫

≪世に銀蓮の祝福と安寧を≫


 禍々しき祝詞を授けられた鋼の巨人たちが加速する。

 これはロールプレイの一種、いわば遊戯。

 しかし、手は抜かない。


≪護衛のティタンを捕捉した。数は2機≫


 狂信者たちの前に立ち塞がるのは、トリコロールのカラーリングを施した中量級ティタン。


 そして、現代戦車を彷彿とさせる面白味のないデザイン――初期機体だ。


 赤い大地を疾駆する2機のティタンが、狂信者たちを阻む障害。

 最大にして最強の障壁だ。


「……超越者(イレギュラー)か」


 それと相対し、フリーランスの傭兵はスティックを握り締める。

 己は狂信者の一派ではないが、受けた依頼は果たす。

 そういう流儀だ。


≪情報通りだ≫

≪まずは僚機から墜と――≫


 地平線で光が瞬く。

 刹那、一筋の光芒が赤い大地を切り分け、僚機の重量級ティタンを両断する。


≪なにっ!?≫


 荒れ狂う砂塵の中、閃光が走り、紅蓮の焔が渦を巻く。


「クローバーラインだ!」


 圧縮したタジマ粒子の奔流を放射するタジマキャノン。

 その中でも最初期の欠陥モデルによる狙撃。


 イレギュラーはも(・)う(・)1(・)機(・)――魔弾の射手だ。


 ガス雲に覆われた空まで砂塵が舞い、世界は薄闇に包まれる。


≪狼狽えるな!≫


 僚機を失おうと6機のティタンは前進を止めない。

 クローバーラインに二射目がない以上、警戒すべきは眼前の2機だ。


≪3機で1機を――≫


 僚機の通信が途絶え、ノイズの走るレーダーに赤点が現れる。

 距離は至近、鳴り響くロックオン警報。


「っ!?」


 傭兵は反射的にスティックを倒し、ペダルを蹴る。

 同時に、両肩の補助スラスターを作動。


 ホーネットの名を冠する愛機が加速――その背面を擦過する影。


 スラスターの光を迸らせ、灰色の巨人が鋼鉄の脚を振り抜く。

 その爪先は、僚機のコクピットを一撃で粉砕する。


「こいつ…!」


 初めから狙いは、並走していた僚機。

 高濃度のタジマ粒子と巻き上がる砂塵によって視界など皆無。

 しかし、イレギュラーの駆る初期機体は上方へ逃れたホーネットを即座に見た。


「噂通りの化け物かっ」


 愛機を急旋回させ、左腕のレーザーショットガンを撃ち込む。


 高熱量の光線が雨となって注ぐ――視界に躍るMISSの表示。


 雨の間隙へ歩行だけで滑り込んだ初期機体は、無造作にライフルを発砲。

 傭兵は本能的に危険を察し、回避機動に移る――


≪右腕武器にダメージ、使用不能です≫

「くっ!」


 左へ急加速する愛機の右腕をAP弾が貫く。

 信じ難い精度だった。


≪ベスパ、援護する!≫


 足を止めた初期機体の背面より僚機の中量級ティタンが迫る。

 その右腕より伸びる光の長槍は、一撃必殺の高機動戦用レーザーランス。


「よせ、来るな!」


 僚機への警告は間に合わなかった。


 光の槍が砂塵を穿つ――灰色の影はない。


 ステップを踊るように回転し、軽やかに突撃を躱す初期機体。

 交錯の一瞬、赤い眼光が尾を引く。


≪はやっ――≫


 離脱せんと加速する僚機の背面を光の刃が捉えた。


 閃光――装甲が弾け、砂塵ごと溶断される。


 僚機のコクピットを破壊した初期機体は勢いを殺さず、半回転して跳躍。

 レーザーショットガンの一撃を回避し、砂塵の中へと消える。

 まるで隙がない。


≪世に銀蓮の祝福と安寧を!≫

≪ぐぁぁぁぁ!≫


 祝詞あるいは断末魔の後に途絶える通信。

 イレギュラーが引き連れた相方は、初心者に毛が生えた程度の腕前という評価だった。

 しかし、ノイズの走るレーダーには、未だに2つの赤点が煌々と輝く。


「狩られているのは、こちらか……」


 大地に降り立った愛機の眼前、砂塵の中で揺らめく灰色の影。

 初期機体が放つ威圧感ではない。

 そこにいるのは、チュートリアルの王そのもの。


「だがっ」


 ペダルを踏み込み、襲撃部隊を半壊させたイレギュラーへ吶喊する。

 傭兵には逃走という選択肢があった。

 しかし、愛機を駆る男は傭兵である前に戦士だ。


 肉薄するホーネット――初期機体は後退を選ぶ。


 砂塵を巻き上げて跳躍し、ライフルを連射する。


「これなら――」


 両肩のスラスターに再点火、直撃の寸前でAP弾を躱す。

 リミッターを解除したレーザーショットガンへエネルギーを供給。

 彼我の距離が瞬く間に縮まる。


「どうだっ!」


 必殺の間合にてトリガーを押し込む。


 眩い閃光に包まれる世界――限界出力の広域制圧射撃だ。


 一度しか使用できない奥の手が、砂塵舞う空を焼き焦がす。

 しかし――


「な、に…?」


 MISSの表示に口元が引き攣る。 

 砂塵を巻き上げ、赤き大地より飛び出す灰色の巨人。 


 掩体などないはず――否、削孔されたばかりの溝(・)がある。 


 それはタジマキャノンの一撃が大地に刻んだ裂傷。 


≪エネルギー残0%≫


 渾身の一撃を放ったホーネットは、地に落ちる。 

 挑戦者を祝福するようにロックオン警報が鳴り響く。 


「…完敗だ」


 傭兵が最期に見たのは、ミサイルの無機質な弾頭だった。 

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― 新着の感想 ―
1年ぶりに更新キターと思ったら他サイトはもう先行ってるのかよこれ先に言ってくれよ、てかマルチ投稿でなんで進行度が違うんだクソ、読み直しじゃないか
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