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初期機体は初心者にあらず!  作者: バショウ科バショウ属
フロントライン
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激突戦域

 酸化鉄の混じった赤い砂に覆われた大地。

 生命の息吹を感じない不毛な荒野を、生命宿さぬ機械の軍勢が前進する。

 その目的は新人類(プレイヤー)の殲滅である。


≪くそったれ!≫


 砂のカーテンを切り裂き、鋼の巨人が大地へと降り立つ。

 大地と同化する赤茶色の装甲には無数の弾痕。

 重量級ティタンでなければ、とうに行動不能となっている損傷状態――


≪どんだけ来るんだよ!≫


 それを見逃す敵ではない。

 丘陵より姿を現す6機の頭のない巨人(ノーヘッド)は、群狼の如く獲物を取り囲む。


≪弾が、弾が足りねぇ!≫


 両肩のニードルランチャーは文鎮と化し、残された武器は右腕のパイルバンカーと左腕のレーザーランスのみ。

 距離を一定に保つノーヘッドが一斉に砲火を放つ。


≪俺の!≫


 AP弾の雨が重量級ティタンを穿ち、眩い火花が装甲を照らす。

 十字砲火に晒された機は防御すら許されない。

 左腕ごと吹き飛ばされたレーザーランスが赤い大地に突き立つ。


≪作った、最高のティタンがっ≫


 パイルバンカーを振り抜かんと構えた瞬間、背部のスラスターが爆ぜる。

 四散する胸部装甲、露となるコクピット。


≪負ける訳ねぇ――≫


 瀕死の巨人、その背後で砲火が瞬く。

 対ティタン用の散弾は一撃でコクピットを粉砕し、一人の傭兵を散華させた。


≪もう無理だ、姐さん!≫

≪泣き言なんざ聞きたくないよ!≫


 レーダーに表示された青点が赤点の波に飲み込まれ、消えていく。

 絶望的な戦況に傭兵たちの士気は崩壊寸前だった。


 ここはEフィールド第3防衛線――地方都市B17に通じる坑道を守る最後の砦だ。


 不毛な荒野を越えた先には、各フィールドへ補給物資を供給する坑道がある。

 ひとたび突破を許せば、防衛線は瞬く間に崩壊するだろう。


≪クレジット稼ぎどころじゃねぇ!≫

≪当たり前っ…後ろだ!≫


 しかし、無人兵器の猛攻は苛烈を極めた。


≪うわぁぁぁ――≫


 通信越しの断末魔がノイズの波に消え、爆轟が荒野を駆け抜ける。

 ティタン・フロントラインのエネミーは、ゲームバランスなど考慮しない。


「くっ…!」


 網膜に投影される敵影に、フリーランスの傭兵は口を引き結ぶ。

 砂塵を巻き上げて迫るノーヘッドは8機。

 ターゲットマーカーが先頭の機を捉え、ガトリングの砲身が鎌首を擡げる。


≪レオ、退け!≫


 僚機からの通信と同時にロックオンが完了する。


 トリガーを絞る細い指――4門のガトリングが竜の息吹(ドラゴンブレス)を解き放つ。


 閃光と振動がコクピットを震わせ、曳光弾の輝きが視界を覆う。

 HITの表示、次いでKILLの表示。


≪もう残弾が残り少ないんだろ!?≫


 両肩のガトリングが沈黙し、空転する砲身。

 弾幕に生じた綻びを7機のノーヘッドが潜り抜ける。

 照準を絞らせない変則機動を織り交ぜて。


「こっ、ここを…保たせないとっ」


 この状況で頭数が減ることは致命的。

 そんなことはトリガーハッピーでも理解できる。


≪そんな鈍い脚じゃ、後退でき――ちぃ!≫


 遊撃に出ていた僚機を十字砲火が襲う。

 スラスターの輝きを散らし、辛うじて致命傷を躱す軽量級ティタン。

 しかし、背後まで目を配ることは困難だ。


≪やべっ!?≫


 背面より振り抜かれるレーザーブレイド。


 一閃――軽量級ティタンの上半身が宙を舞う。


 溶融した鉄の飛沫を浴び、装甲が焔を帯びる。

 そして、頭のない巨人は新たな敵を睨(・)む(・)。


「包囲、される…!」


 爆炎を背負って迫る7機のノーヘッド。

 反射的に後退を選ぶが、彼我の距離はライフルの射程。


≪機体損傷≫


 AP弾が装甲を穿ち、警告音がコクピットを反響する。

 しかし、ガトリング4門という火力の代償は文字通り重く、回避に鋭敏さはない。


≪左脚部大破、回避してください≫

「しまっ」


 一瞬の浮遊感、遅れて衝撃がコクピットを襲う。

 鳴り止まない警告、巻き上げた砂塵で赤く染まる視界。

 そこに現れるノーヘッド(首切り)が――


「……え?」


 爆散する。

 左側面から突入したミサイルによって。


「助かった…?」


 レーダーには接近中の味方が映っていた。

 その針路上に位置するノーヘッドはスラスターを噴射し、急旋回。


 ショットガンの砲口が砂塵を切り――痛烈なカウンターキックが飛ぶ。


 陥没する胸部装甲。

 眩い火花に彩られ、全高10mの鉄塊は赤い大地に没した。


≪増援だって!?≫


 驚愕と歓喜の入り混じった通信が、彼を歓迎する。


 戦場に降り立った灰色の巨人――た(・)だ(・)の(・)初期機体を。


 紅い眼光が揺らめいた刹那、曳光弾が虚無を穿つ。

 ノーヘッドの小隊へ肉薄する灰色の影。


≪間一髪だぜ!≫

≪ちっ…遅ぇんだよ≫


 光の剣が砂塵を切り裂き、サンドカラーの装甲を溶断する。

 溶融した金属が花びらの如く舞う。

 それが全て散った時、ノーヘッドの全高は半分になっていた。


≪増援は何機だ?≫

≪4、いや5機!≫


 にぎやかな通信をバックミュージックに、ライフルの重々しい砲声が響く。

 赤熱したAP弾が交錯。


 命中――ノーヘッドのライフルが爆散し、胸部に弾痕が穿たれる。


 紅い眼光は戦果など確認しない。

 大地を蹴り、全高10mの巨体が空へ押し上げられる。


≪たったの5機!?≫

≪冗談だろ!≫


 舞い上がる砂塵を越え、後退中の敵機へと降る。


 ノーヘッドが右肩のスラスターを噴射――それを予期し、追従する灰色の影。


 武骨な爪先が右肩を捉え、鋼鉄の悲鳴が大気を震わす。

 衝撃を抑え切れず、荒野へ墜落する5機目。


≪どこの連中だ!≫


 残骸と共に降り立った初期機体の背後にノーヘッドが迫る。


 両者同時に降り抜いたレーザーブレイド――打ち合わない。


 両足を切断されたノーヘッドは地を舐める。

 その胸部を踏み潰し、砂塵舞う空へと躍り出る灰色の巨人。


≪杭打ち狐がいるぞ!≫

≪ってことは…まさか!≫


 空を切る曳光弾の輝きは、彼を捉えることはない。

 最小限の回避機動、そして無造作にライフルを発砲。


≪おいおい、こいつは豪華じゃねぇか!≫

≪トップバウアーを引いたみたいね≫


 まるで吸い込まれるように、AP弾が脚部の関節を貫く。

 7機目のノーヘッドは砂を巻き上げて横転。

 そこへ灰色の影が降り立ち、無慈悲の踵落としで引導を渡す。


≪初期機体(イレギュラー)を確認!≫


 時間にして1分足らず。 

 鉄屑となって赤い大地に没する7機のノーヘッド。 

 それらを踏みつけ、灰色の巨人は悠然と佇んでいた。 


「あれが……V」


 最弱でありながら最強という矛盾した存在。 

 圧倒的絶望を退ける鋼鉄の巨人、その勇壮な後姿に目を奪われる。 

 ゲーム(娯楽)であることも忘れて。 

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