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初期機体は初心者にあらず!  作者: バショウ科バショウ属
アウトポスト
74/75

祭りは終わらない!

 新しい対戦が開始され、大型スクリーンの中で鋼の巨人が激突する。

 タジマの輝きが降り注ぐ出張所で、俺と27位様は相対していた。


「俺の完敗だ」


 憎まれ口の一つでも叩くのかと思ったけど、すっきりとした顔だった。

 まるで別人だぜ。


「粗製と言ったこと、謝罪しよう」


 そう言って肩を竦める27位様。

 素直でよろしい、と言いたいところだが謝ってほしいのは俺じゃない。

 後ろで待っているゾエたちに対してだ。


「謝るなら俺じゃなくあっちに」

「いや、勝ったのはお前()()だろう」


 なるほど、そう来たか。

 見たところ悪気はなさそうだけど、そうじゃないんだよな。

 どうしたものか──


「…まぁ、いい。今日は楽しめたから良しとする」


 杞憂だったらしい。

 27位様もといアマイは俺の横からゾエたちに軽く頭を下げる。


「悪かったな」

「はい! ゾエは許しました!」


 謝罪にしてはおざなりだけど、ゾエが許すなら許そう。

 だから、ヘイズは得物を抜かないでくれ、頼むから。


「ふん……」


 そんなヘイズを横目に鼻を鳴らすアマイ。

 やめよう!


「超越者、いや…V」


 一人はらはらする俺の前に右手が差し出される。


「次は負けん。必ず上がって来いよ」


 一見、不機嫌そうな表情だが、アマイの瞳は生き生きと輝いていた。

 次が待ちきれないと闘争の炎が燃えている。

 誤解されやすいだけで、この人もジョンさんやカレン氏と同じアリーナの住人なんだな。


「ああ、待ってろよ」


 握手を交わし、再戦を誓う。

 次に会う時は、より強くなってるに違いない。

 また楽しみが一つ増えたぜ。

 颯爽と去っていくアマイの背中を見送り、俺はアリーナという出会いの場に感謝する。


「やりましたね、V! やはり、闘争は全てを解決します!」


 駆け寄ってきたゾエとハイタッチを交わす。

 バトルドレスの補正が付いているため、ちょっと威力が高い。


「うむ、拳を交えることで分かり合えることもあるだろう」

「いやな解決手段だな……」


 力強く頷いてくれる師匠とげんなりした表情のダン君。

 ティタン・フロントラインにしては穏便な解決だったと思うよ。

 本当に。


「見事だった、V君!」


 サイボーグゆえに表情は分からないけど爽やかに祝福してくれるジョンさん。

 でも、俺の第6感が囁くんだ。

 次は私とやろう、みたいな言葉が今に飛び出すと──


「アマイが大人しく引き下がるなんて珍しいこともあるものだ」


 それを阻止するかのようにカレン氏が並び立ち、アマイの去った方向を見遣る。

 助かったぜ。

 カレン氏に感謝していると、視界の端で黒いロングコートが靡く。


「楽しそうだったな、V」

「うっす」


 俺は即座に土下座へ移れるよう身構える。

 我が友、まずは話を聞いてほしい。


「どうした?」


 仮面の下から聞こえてくる声は、普段通りの調子だった。

 あれ?


「いや、勝手に対戦したの怒ってるかなぁって」

「お前は私をなんだと思っているんだ?」

「マ──いえ、なんでもないです」


 まだ何も言っていないぜ、ヘイズ。

 だから、義手でヘッドロックはやめない?

 ヘルメットを被ってても首は護れないから。


「さすがっすね、Vさん」


 ヘッドロックを決められる俺を苦笑しながら称賛するのは、シルバーピアサーズを率いるグッドイヤーさんだ。

 隣のムリヤさんから注がれる生温かい視線が痛い。


「恐縮です」


 人と話す体勢ではないが、空気の読める男は決して助けを求めたりしない。

 あくまで平静に応じてみせる。


「ここまで強いと激戦区に呼ばれてるんじゃないっすか?」


 腕の拘束が緩み、ヘイズと顔を見合わせる。

 今、激戦区と呼ばれる場所があるとすれば、それはストーリーイベントのフロントライン(最前線)だろう。


「いえ、フリーです」


 何も予定を立てていなかった。

 イベントの方からやってくる日々だから仕方ないね。


「マジかよ」

「え、今ってチャンス?」

「杭打ち狐の子飼いじゃなかったのか…!?」

「二月傘でもないってことだな……」


 一瞬でアリーナの出張所に漂う空気が変わる。


 視線が集まり出す──不意にヘイズは俺を解放した。


 それからメカメカしい狐の面を押さえ、首を横に振る。

 これは、やらかした?


「それは良い事を聞いたっす」


 褐色美人の口が三日月を描き、隣のムリヤさんが何かを察した表情になる。


「依頼だけならノーカウントだよな?」

「やるか…!」

「おう」

「やらいでか…!」


 居合わせたプレイヤーたちが腰近くへ手を伸ばし、睨み合う。

 緊迫した空気の満ちた出張所で俺は天を仰いだ。

 はい、ゲームジャンル変更のお知らせです。


「動くな、ハイエナども」


 一触即発の場に投じられるハスキーボイス。

 獰猛な笑みを浮かべたグッドイヤーさんが俺の隣に立ち、ハイエナの皆さんを威圧する。

 口調が変わってるっす!


「ここにいるはヴォーパルバニー」


 ヴォーパルバニー(殺人兎)だって?

 マシンピストルのセーフティを外す音が響く。


()()()はご法度だぞ?」


 そして、音もなくムリヤさんが俺の前に立ち、長い兎耳を揺らす。


「嘘つけ!」

「はったりだ!」

「ヴォーパルバニーは筋肉モリモリマッチョマンの変態って聞いたぞ!」

「いや、待て!」


 ムリヤさんを前に騒めく一同を制止するのは、ブックメーカーの1人。


「杭打ち狐と殴り屋を止めたのは、あの兎耳幼女だったぞ……」

「ま、まさか…本物!?」

「ただの借金漬け兎耳幼女じゃなかったのか…!」


 それだけでも属性過多だよ。

 しかし、ムリヤさんってヘイズに負けず劣らずの武闘派だったのか。


 意外──でもないな。


 ムリヤさんは出会った時から女子力が高かったわ。


「あんまり副業を喧伝しないでほしいんよ」

「まぁまぁ、そう言わずにっす」


 半眼で睨むムリヤさんと宥めるグッドイヤーさん。

 勝機が薄いと見たハイエナの皆さんは、渋々引き下がっていった。

 ヘイズといい、チャンピオンといい、有名人って危険人物しかいないのか?


「さて、ハイエナも散ったところで……」


 くるりと振り返ったグッドイヤーさんは人懐っこい笑みを浮かべていた。

 やだ、怖い。


「腕利きのVさんにウチから依頼したいことがあるっす」

「い、依頼ですか?」


 競合相手を暴力で黙らせ、目的を達成する。

 どこへ出しても恥ずかしくないティタン・フロントラインの住人だ。

 おっかねぇ。


「ウチは空中強襲旅団の名が示すように、空中からアルジェント・メディウムを強襲することを目的としたクランっす。通常は旗艦ワスプのカタパルトを使って限界高度まで一気に上昇してるっす」


 くるくると指を回し、褐色美人は流れるように話す。


「でも、今回はワスプが展開できないから地上発射場が必要になるっす」


 おおよそ依頼内容が見えてきた。

 第8艦隊の遊弋するエリア27と異なり、シルバーピアサーズは発射場を防衛する戦力を一から調達しなければならない。


「つまり、そこの防衛を依頼したい?」

「話が早いっすね! そういうことっす!」


 激戦区へ飛び込むのも良いが、こっちはこっちで面白そうだ。

 ぶっちゃけ空中強襲旅団の発進シーンが見たい。

 限界高度まで一気に上昇するとか絶対かっこいいもん。

 ただ、疑問が一つ残る。


「防衛って言っても後方なんでは?」


 最前線に発射場を展開するのは自殺行為。

 だが、後方に展開するなら味方しかいないはず。


「ウチは狂信者どもに目をつけられているので、確実に妨害してくるっす」

「えぇ……」


 間違いなく額に13の数字を書いてる連中だよな。

 もうエネミーだよ、それ。

 楽しみ方は人それぞれだけど、ロマンの邪魔はいただけないな。


「安心してほしいっす。ちゃんと僚機は──」

「そっちは俺が呼んでもいいですか?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔になるグッドイヤーさん。

 言ってから思い至ったけど、もう手配済だった可能性が?


「構わないっすよ!」


 快諾してもらえた。

 やったぜ。

 後は皆に予定がないか、確認しておかないとな。


「放っておくと一緒に飛んでいきかねん……お前という奴はな」

「あ、分かる?」


 振り向いた俺が口を開くより先に、ヘイズが肩を軽く小突いてくる。

 付き合ってくれるか、我が友よ。


「ゾエの力が必要ですか?」


 俺とヘイズの間からひょっこりと頭を出すゾエ。

 スカイブルーの瞳を輝かせ、今か今かと言葉を待っている。


「ああ、必要だ」

「ふふふっ…任せてください!」


 いてくれないと困るぜ。

 HEKIUNこそ修理中だが、我らがゾエちゃんの武器はそれだけではない。

 傍らへ目を向け、腕を組んで佇む師匠を見遣る。


「師匠」

「愚問だぞ、少年……私も行こう」


 皆まで言わずとも応えてくれる。

 さすが師匠だぜ。


「鉄壁の弾幕をお見せしましょう、V様」

「頼りにしてるよ」

「弾薬のある限り」

「だと思ったよ……」


 アルの表情筋は相変わらず動かないが、自信に満ちていることは分かる。

 腕利きの傭兵であることは証明済み。

 あとは弾薬費が下りることを祈るだけ!

 さて、残るは──


「何言っても連れて行く気だろ」

「うん」

「否定しろよ!」


 当然、ダンだ。

 嫌そうな顔をしているが、その理由は予想がついている。


「毎度思ってるけど、俺いらないよな…?」

「俺を倒したのに何言ってんだ」

「それはシミュレーターの話だろ」


 ダンは自己評価が低い。

 フラグシップや逆叉座残党との戦いを経ても、まだ足りないとは欲張りさんめ。


「頼むぜ、戦友」


 戦友の肩に手を置き、真正面から見据える。

 横から見上げるゾエが瞳を輝かせ、師匠が力強く頷く。

 そして、ダンは天を仰ぐ。


「……ああ、もう分かったよ!」


 その言葉を待ってたぜ。

 これで全員揃った。

 グッドイヤーさんに振り返り、サムズアップ──


「杭打ち狐に、砲火魔、魔弾の射手……」


 不意に、沈黙していたカレン氏が、それぞれの渾名を口にしていく。

 まるでファミレスのメニューを選ぶかのように。

 ナイフのように鋭い視線は師匠を通り越し、ダン君で留まる。


「おい、お前」

「うぇっ!? 俺ですか!?」


 硬直するダンの前へ無造作に近づき、じっと顔を覗き込むカレン氏。

 頭上の尖った犬耳が倒れてないから怒ってはいない、はず。


「Vが認めた男……どれほどの腕か、試させてもらう」


 そう一方的に宣言し、ダンの右肩を掴むカレン氏。

 一体、何が彼の闘争心に火を点けたのか。

 さっぱり分からないぜ!


「いや、俺はお──」

「待ちたまえ、カレン君。抜け駆けとは感心しないな」

「防衛戦力を確認しているだけだが?」


 カレン氏と反対側にジョンさんが現れ、ダンの左肩を持つ。

 もう助からないぞ。


「助けてくれ、V!」

「胸を借りて来い、ダン」


 俺は力強くサムズアップして、2人に連行されていくダン君を見送った。


「…詳細については、また改めて説明するっす」

「あ、お願いします」


 カレン氏の後ろ姿を見送り、苦笑を浮かべるグッドイヤーさん。

 仕方ないね。


「さて……」

「ヘイズ?」


 一歩下がったヘイズが黒いロングコートを翻し、出張所の売店を睨む。

 そこには、亜人少女へポストアポカリプス飯を手渡す筋骨隆々の全身サイボーグ。

 右肩には描かれている盾のエンブレムは、セントラル・ガードの証だ。


「行くのか」

「当然だ」


 パイルバンカーとナックルの対決は、これからだった。


「準備運動は終わったか、壁殴り屋」

「とっくに終わっている」


 ヘイズとブライアン隊長と相対し、拳を打ち付ける。

 やっぱり仲良いでしょ、2人とも?


「ヘイズ、頑張ってください!」

「ああ」


 ゾエの真っすぐな声援に、ヘイズは軽く手を振って応える。

 今日も決まってるぜ。


「次の対戦カードは?」

「ようやく、杭打ち狐と殴り屋らしい」

「稼がせてくれよ…全額を突っ込んだんだ…!」

「ふむ……途中参加は可能ですか?」

「ああ、まだ大丈夫だぜ…って砲火魔!?」

「げぇ!」


 しれっとブックメーカーに加わるアルに、周囲のプレイヤーが顔を引き攣らせる。

 どうしたんだろ?


「くそっヘッドハンティングの続きだ!」

「第8艦隊め、他の有望株は渡しませんよ…!」

「久々に腕試しに行くか」

「クラッシャージョンとブロンズナイトが連れていった奴って誰?」

「杭打ち狐と殴り屋が再戦するらしいわ!」

「そいつは見逃せねぇな」


 忙しなく行き交う人影、絶えることのない喧噪。

 アリーナの出張所に集ったプレイヤーが生み出す熱量は、前夜祭を思わせるものだった。


「V、J・B! ヘイズたちを見に行きましょう!」

「うむ、まずは2人を見届けるとしよう」 


 元気一杯のゾエに手を引かれ、俺と師匠は大型スクリーンの前まで駆ける。 

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