唸れレーザーブレイド!
アリーナの出張所に設けられた大型スクリーンの1基にプレイヤーが集まっている。
ストーリーイベントの開始まで時間を潰しに来た者だけでない。
上位クランやアリーナの強豪、名の売れた傭兵、様々なプレイヤーが次の一戦に注目していた。
「どうして止めた、旅団長?」
観戦者の1人であるカレンは、怪訝な視線を所属クランの長へ向ける。
アリーナ3位の実力者である彼にとって偏屈な27位の暴言は看過できるものではなかった。
「落ち着くっすよ、カレン」
空中強襲旅団シルバーピアサーズの旅団長、グッドイヤーは人懐っこい笑みを返す。
だが、その目は笑っていない。
「Vさんの実力は皆も知るところっす」
人差し指を立て、カレンの前で円を描く。
グッドイヤーはVについて知らないように振舞っていた。
しかし、古参クランを束ねる長が情報収集を怠るなどあり得ない。
「でも──」
空と海に魅入られた狂人の瞳が大型スクリーンを見上げる。
「いつも邪魔が入って彼の本気は誰も見たことがないっす」
オープニングを打倒したVは常に騒動の中心にあり、万全の状態で対戦できたカードは驚くほど少ない。
同じく大型スクリーンを見上げる幾人かが頷き、トトカルチョを広げる者が苦笑を漏らす。
カレンもまた沈黙で肯定を示し、グッドイヤーは笑みを深める。
「だからこそ、見極めたい」
言葉を引き継ぐのは、アリーナの頂点たるジョン。
漲る闘争心を抑え込むように腕を組み、大型スクリーンを睨む。
底が知れない──万全の彼は、どれだけのイレギュラーなのか。
ジョンの言葉は、その場に集った者たちの代弁だった。
アリーナ27位、アマイとの対戦は予期せぬカードだったが、願ってもない好機。
ゆえに介入しなかった。
「始まるっすよ」
大型スクリーンに映し出された鋼鉄の巨人が、廃墟に足跡を刻む。
本来、初心者の代名詞たる初期機体が戦場に立つ。
◆
勝手に始めちゃったけど、これってヘイズに怒られるパターンでは?
そんな心配をしている間にもハッチが閉じられ、各種モニターに光が灯る。
≪戦闘モード起動≫
シムラで利用したシミュレーターと同型のコクピットから見慣れた廃墟へ視界が移り変わる。
高層ビルの残骸が横たわり、ガス雲に覆われた鉛色の空が果てなく続く。
全高10mの巨人から見える景色、相棒が見ている世界だ。
うん、腹を括って今を楽しもう!
≪お次の対戦は……な、なな、なんとっ…超越者vs白き流星だぁぁぁ!≫
にぎやかな実況が通信から聞こえてくる。
超越者って渾名、なんとかなりません?
もっと地に足のついた──
≪もはや説明不要、知らぬ者なし! チュートリアルの王、オープニングを倒した最強ルーキーがアリーナに緊急参戦だヨ!≫
うん、渾名は諦めよう。
そんなことより戦場の景色を目に焼き付け、相棒の駆ける姿を思い描く。
≪対するアマイはアリーナ27位、ミッション成功率97.8%! 初期機体をベースとしたリュウセイを駆り、数多の強敵を打倒してきた実力者です!≫
27位様は大口を叩くだけの実力はあるらしい。
だが、他人を粗製呼ばわりする口は封印させてもらうぜ。
≪これは目の離せない一戦になりそうですネ!≫
スティックを軽く握り、ペダルに足を置く。
このアリーナの戦場に邪魔者は存在しない。
奴との戦いでさえ、戦車と攻撃ヘリコプターという前座があった。
今から始まるのは、純粋な1対1だ。
≪さぁ、ショータイムです!≫
開始のゴングが鳴り響く。
真っ先に倒壊した高層ビルの影へ相棒を滑り込ませ、遮蔽を確保。
それからレーダーを確認し、相手の出方を窺う。
「来たな」
一直線に俺へ向かってくる赤点は一つ。
恐ろしく速い、接敵まで2秒。
初期機体をベースにしているらしいが、速度はまるで別物だ。
アスファルトを蹴り抜いて、高層ビルの影から飛び出す。
ロックオン警報──反射的にペダルを蹴る。
スラスターが紅蓮の光を放ち、右へ流れる灰色の世界。
遅れて相棒の過去を光線が穿つ。
≪エネルギー残60%≫
無人のストリートに着地し、アスファルトを削りながら滑走。
視界の右端、ストリートに面したビル手前にライフルを撃ち込む。
≪──ちっ≫
ビルの影から飛び出した27位様は被弾する寸前で、肩部の補助スラスターに点火。
AP弾の輝きが鉛色の空に吸い込まれ、鋼の巨人は再びビルの影へ。
アスファルトを砕きながら、着地点に向かって走る。
「初期機体をベースに、か」
一瞬しか見えなかったが、27位様の駆る白いティタンは相棒そっくりだった。
相違点は肩部の補助スラスター、そして2丁のレーザーライフル。
見るからに機動性に振った機体だが、レーダーの赤点は着地点から動かない。
妙だ──
「あぶねっ」
スラスターを逆噴射した瞬間、眼前のビルから青い光線が噴き出す。
タジマ粒子の輝きは今日も眩しい。
危うく蒸発するところだったぜ。
≪…今のを避けるか≫
鉄筋コンクリートのビルに穿たれた大穴。
その奥には右腕のレーザーライフルに陽炎を纏わせる白いティタン。
なるほど、ナガサワさんの親戚か。
スラスターをカット、交差点に着地──対する27位様はスラスターに点火。
一瞬で頭上に達した白いティタンが左腕のレーザーライフルを構える。
俺がペダルを蹴れば、相棒も地を蹴る。
≪よく動くものだ≫
アスファルトの破片が舞う交差点を光線が焦がす。
跳躍中だが、とりあえずライフルを牽制で連射。
27位様の右肩をAP弾が掠め、火花が散る。
なぜ回避しなかった──いや、できなかった?
案外、エネルギー容量は少ないままなのかもしれない。
相棒の脚が接地し、コクピットに振動が走る。
≪だが…≫
白いティタンが瞬間的な加速で頭上に現れる。
レーザーライフルの砲口が光るより早く、高架橋の下へと潜り込む。
そして、溶融するコンクリートの下から即座に脱出。
≪逃げてばかりでは勝てんぞ≫
高層ビルの壁面を蹴り、なおも頭上からタジマ粒子の輝きを浴びせてくる27位様。
死角からの射撃は正確無比だが、逆にタイミングが読める。
俺は相棒を遮蔽に滑り込ませ、射線を切るだけでいい。
「そうだな」
だが、避けてばかりはつまらない。
「そろそろ攻守交代しようぜ」
高層ビルの立ち並ぶ一帯は、俺の独壇場だ。
回避と旋回を同時に行い、青い光に照らされた巨人と相対する。
焼かれた路面から立ち上る蒸気を吹き散らし、相棒を鉛色の空へ飛ばす。
≪接近戦なら──≫
真正面から迫る27位様は回避機動に移らない。
レーザーライフルの砲身が可変し、眩い光の剣が伸びる。
上等!
≪勝てると思ったか!≫
「おう!」
左腕にエネルギーを集中。
レーザーブレイドを威力の高い短刀で形成。
真正面からの刺突、回避は不可能──だから、どうした?
迫る光の剣を目で追い、スティックを操る。
レーザーブレイドの短刀は這わせるだけ。
≪なにっ…!≫
生じたエネルギーの反発が光の剣をあらぬ方向へ導く。
そのまま短刀を前へ押し出し、出力を上げて長刀へ。
一太刀で切り捨てる──
≪ちぃ!≫
はずだったが、27位様は寸前で機体を逸らした。
右肩を溶断、頭部の白い装甲を焦がす。
ライバル直伝の歪曲斬──たった今、命名した──を躱すか!
≪やるな、超越者!≫
溶融した装甲から火花を散らし、急加速で遠ざかる白い影。
だが、エネルギーの残量が離脱を許さない。
接近戦で決着を狙ったのが運の尽きだ。
「ルーキーだよっ」
レーザーブレイドを振り抜いた慣性に任せて相棒を回し、スラスターをカット。
逃げる背中にAP弾を撃ち込み、回避を強制する。
そして、着地と同時にスラスターを再点火。
≪エネルギー残60%≫
灰色の粉塵を巻き上げ、一気に彼我の距離を縮める。
補助スラスターも用いて機敏に旋回した白いティタンをロックオン。
同時にレーザーライフルの砲口と相対する。
スティックのトリガーを押し込む──右肩のランチャーが火を噴く。
4発のミサイルを前に、紅い眼光が揺れる。
回避が不可能なら迎撃しかない。
そうだろ?
≪お前のようなルーキーがいるか!≫
正確無比な射撃がミサイルを貫き、相棒の右肩を掠める。
黒煙が渦を巻き、視界を覆う。
それでもレーザーライフルの砲口から迸る光が、正確な位置を教えてくれる。
「行くぜ、相棒!」
右手のスティックを倒し、相棒は右腕を水平に振るう。
そこには遠心力が生まれる。
≪右腕武器、パージ≫
ライフルを放り投げ、眼前に広がる黒煙を貫く。
その結果は見ずとも分かる。
≪ぐっ!?≫
確かな手応えを肌身で感じ、ペダルを踏み込む。
相棒が弾かれたように前方へ打ち出される。
≪エネルギー残30%≫
急加速で視界が歪む。
黒煙を突き破った先には、相棒そっくりの中量級ティタン。
頭部を吹き飛ばされ、衝撃で上体が仰け反っている。
スラスターをカットし、左腕にエネルギーを供給。
≪まだだ!≫
目を失おうと諦めない、その意気やよし!
レーザーライフルの砲身からタジマ粒子の輝きが迸り、光の剣を形成する。
慣性で進む相棒を一刀両断──
「いいや」
させない。
軌道上に右腕を割り込ませ、レーザーライフルを握る左腕を下方から打つ。
そして、滑らせる。
≪なっ!?≫
鋼と鋼が擦れ合い、眩い火花を散らす。
視界の端には、虚空を切り裂く光の剣。
間合へ一歩踏み込み、がら空きになった27位様の胴体を狙う!
「終わり、だ!」
スティックを一気に押し込み、左腕をコクピットへ押し当てる。
最大出力──タジマ粒子の輝きが世界を焦がす。
コクピットを貫通したレーザーブレイドが、背面で煌々と輝いていた。
鋼の巨人が動くことは二度とない。
≪き、決まったぁぁぁ!≫
≪勝者は超越者、最強ルーキーのVだヨ!≫
勝利を祝福する軽快なファンファーレが鳴る。
邪魔の一切入らない闘争は、清々した気分で終えられる。
最高だぜ。




