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初期機体は初心者にあらず!  作者: バショウ科バショウ属
アウトポスト
72/75

売られた喧嘩は買え!

 戦場で会ったが最後、心の臓に杭を打ち込むまで追ってくる白き狐。

 逆叉座のルーツ、始まりの5人に名を連ねていた()()()

 杭打ち狐の渾名で恐れられているプレイヤーは、短期間だけアリーナに在籍していた。

 公式記録上、彼女のパイルバンカーを躱した対戦者は存在しない。


≪その程度なのか≫


 太陽光を遮るガス雲の下、赤茶けた砂塵が吹き荒れる。

 紅蓮の光を纏った2体の巨人が躍り、砲声が大地を震わす。


≪杭打ち狐≫


 荒野を無為に穿つ散弾の雨、視界の端にはMISSの表示。

 ショットガンの至近距離射撃を回避した敵機は、砂に埋もれる通信タワーへ着地する。


 その巨人──軽量級ティタンは、異様な形態をしていた。


 例えるなら、白兎。

 軽量級でありながら重量級に匹敵する逆脚を持ち、白を基調とした装甲を身に纏う。

 そして、()()()()()()()()()()


「……ティタン神拳だったか?」


 通信タワーのフレームが剛健な脚に押し曲げられ、悲鳴を上げる。

 しかし、驚異的な力加減とバランス感覚で倒壊しない。


「腕慣らしにはちょうどいいな」


 棺桶を思わせる狭いコクピットの中、ヘイズは獰猛な笑みを浮かべる。

 ロックオンマーカーの中心に捉えた()()は活きが良い。

 己の四肢のみで敵を打倒するなどナンセンス、そう切り捨てるには惜しい技量だ。


≪なんだと…?≫


 己の脚に自信と矜持を持つ相手は、静かに闘志を燃え上がらせる。

 白兎が跳躍の予備動作に入り、通信タワーが傾く。


「来い、遊んでやる」


 対する杭打ち狐は得物を悠然と構え、狩りの再開を宣告する。


≪…後悔させてやろうっ≫


 両者は同時にペダルを蹴り、スラスターに点火。

 純白の影が荒野を疾駆し、砂塵を巻き上げる。


 距離は一定、そして進む方角も同じ──同航戦だ。


 ショットガンの砲口が焔を吐き、鉄の雨を横から叩き付ける。

 白兎は逆噴射と同時にスラスターをカット。

 眼前を散弾が擦過し、巨人の降り立った大地が震撼する。


≪無駄だ≫


 すかさず荒野を蹴り抜き、追撃の散弾を飛び越えて上空に占位。

 ヘイズは想定内と言わんばかりにスティックのトリガーを押し込む。


≪右肩部ユニット、左肩部ユニット、残弾0≫


 両肩のコンテナが最後の輝きを放ち、8発のミサイルが砂塵を切り裂く。


 眼下より迫るミサイル──白兎は加速し、渦中へ突撃する。


 スラスターの放つ紅蓮の光を纏い、死の間隙を縫う。

 時間差攻撃も無意味、全ては白兎の背後で空しく爆ぜた。

 無手ゆえに回避へ心血を注ぐティタン神拳は、生半可な射撃では倒れない。


≪無駄だと言った≫


 質量と重力加速度を加えた蹴撃が頭上より迫る。

 それを迎撃せず、荒野に降り立つ杭打ち狐。

 ヘイズの愛機もまた逆脚、跳躍性能では後れを取らない。


 舞い上がる砂塵を置き去りに後方へ跳ぶ──同時に爆ぜる大地。


 ロックオンマーカーが捉えた敵機は、既に跳躍の予備動作に入っている。

 緑の眼光が砂塵の中で揺らぐ。


≪左肩部ユニット、パージ≫


 爆発ボルトによって左肩のコンテナが両者の間に弾き飛ばされる。

 白兎は進路上の障害を蹴り上げ、粉砕。

 続く一撃が純白の装甲に迫る──


≪む…≫


 自慢の逆脚が繰り出した蹴撃は砂塵を切り裂く。


 杭打ち狐は何処へ──獲物の影を塗り替える白い影。


 肉食動物を思わせる、低姿勢の疾駆。

 ヘイズは蹴り上げによって生じた隙間を潜り抜けたのだ。


≪逃がす、ものかっ≫


 白兎は着地と同時に赤茶けた砂を蹴り抜き、後方へ全力で跳躍。

 空中で機体を捻り、右脚のスラスターに点火。

 両脚を前方へ構える。


≪もらった…!≫


 慣性に従って流れる世界。

 杭打ち狐の背面へ渾身のドロップキックを叩き込む──


「遅い」


 赤き砂塵が舞う。

 重量級の逆脚は、またしても虚空を穿った。

 微かに装甲の表層を焼くは、スラスターの噴射炎。


≪誘われた…!?≫


 虚空を穿った白兎の背後で、紅い眼光が尾を引く。

 スラスターを用いた瞬間的な加速が、彼女の愛機を()()()()()のだ。


 しかし、交錯は一瞬、追撃は困難──否、鉄杭は届く。


 軽やかに回る愛機の左腕を正確に導き、トリガーを押し込む。

 パイルバンカーの機構が動作、火薬が爆ぜる。


≪ばか、な──≫


 眩い火花が舞い、胸部装甲が弾け飛ぶ。

 射出された鉄杭は狙い違わずコクピットを貫いた。

 制御を失った軽量級ティタンは荒野に激突し、3度跳ね回ってから完全に沈黙する。


「こんなものか」


 ヘイズはスティックを軽く握り直し、鼻を鳴らす。

 兎狩りを終えた純白の巨人は、勝者として砂塵舞う戦場に悠然と佇む。

 斯くして彼女は準備運動を終えた。



 軽快な勝利のファンファーレが鳴り響き、パイルバンカーを装備した白いティタンを祝福する。

 準備運動と称した殴り合いは、激闘の末にヘイズが勝利を手にした。

 準備運動とは?


「やりました! ヘイズの勝ちです!」


 ヘイズの愛機を映した大型スクリーンを前に歓声を上げるゾエ。

 髪を後ろで結い、両手にムカデっぽい節足動物の串焼きを装備した観戦モードだ。


「腕は鈍ってないらしいな」

「ふむ、ティタン神拳といえど彼女の相手には力不足か……」


 当然のように俺の隣で観戦するカレン氏とジョンさん。

 もはや何も言うまい。

 それよりも2人の会話で時折聞こえる単語が気になって仕方ないぜ。


「ダン、今更だけどティタン神拳って何…?」


 後ろへ振り返り、解説のダン君へ声をかける。


「知らずにヘイズさん送り出したのか、お前…!?」

「うん」


 一度やると言ったことに口出すほど俺は野暮じゃない。

 快く送り出してやるのが友だろ!

 だから、そのかわいそうなものを見る目はやめるんだ。


「はぁ……ティタン神拳ってのはクランだよ。射撃武器を一切使わず、格闘オンリーで戦う──」

「変態じゃん…!」

「お前が言うか、それ!?」

「ゑ?」


 相棒はライフルとミサイルを装備してるが?

 それにライバル直伝のサッカーボールキックだけが俺の必殺技じゃないぜ。


「あそこは実用的な護身術や格闘技講座を開いているんよ」


 視界の端で揺れる兎耳。

 ムリヤさんの女子力が高いのは、そういう講座を受講しているからか。

 俺も受けてみようかな。


「私も受けたことがあります」


 その隣でピースサインを見せるトリガーハッピー赤字モンスター!

 無表情なようで、少し自信ありげに見える。

 受講料を払えたのか──


「今、失礼なことを考えましたね、V様」

「ソンナコトナイヨ」


 詰め寄ってきたアルから注がれる抗議の視線を右から左へ受け流す。


「次はVですか、それともダンですか?」


 ぴょこぴょこと結った黒髪を跳ねさせ、俺とダンを交互に見るゾエ。

 眩しい笑顔だぜ。


「いや、まだ登録もしてないからな!?」

「まだ、ということは」

「やってくれるのですね!」


 スカイブルーの瞳を輝かせるゾエと一緒になってダンの顔を覗き込む。

 闘争が俺たちを呼んでいるぞ!


「カノープス・タイプ2の出番で──」

「粗製が」


 ずいぶんと大きな独り言が聞こえた。


 アリーナの出張所に漂う空気が──微かに暴力の気配を帯びる。


 人心の荒廃したティタン・フロントラインならではの空気だぜ。

 声のした方向には、腕を組む気難しそうな兄さん。

 痩せ型で長身、出張所の壁際から鋭い眼光を放っている。


「ふん…お前も粗製どもと同類か」


 息を吐くように貶めるスタイル!

 どうやら素行不良な方々の同類らしい。

 周囲のプレイヤーから彼に注がれる視線も大変険しかった。


「V、知り合いですか?」

「いや、全然」


 まだ見ぬ強敵との邂逅に目を輝かせるゾエには悪いが、開口一番に他人を粗製呼ばわりする野郎とお友達になった覚えはない。

 アリーナにいる知り合いはカレン氏とジョンさんだけだ。


「彼の名はアマイ。アリーナ27位の──」

「説明は不要だ、ジョン」


 ジョンさんの紹介を鬱陶しそうに遮り、壁際から離れる27位様。

 俺を一瞥してから目を閉じ、わざとらしく鼻を鳴らす。


「とんだ期待外れだった」


 勝手に期待されても困るんだが?


「ジョン、それにカレン。粗製と群れていると腕が腐るぞ」


 アリーナは血気盛んなプレイヤーが鎬を削る場所だ。

 挨拶みたいなもの、目くじらを立てるほどの事じゃないんだろう。


 この程度、無視すれば──冗談じゃない。


 俺だけなら笑って流してやるが、ゾエやダン、師匠やアルを粗製呼ばわりは聞き捨てならなねぇな。

 お前は何様だ?


「言葉を選べよ、アマイ」

「カレン、ちょっと待つっす」


 剣呑な表情を浮かべて詰め寄ろうとするカレン氏をグッドイヤーさんが手で制する。

 それから俺を見遣り、ゆっくりと引き下がる。


 軽く頭を下げ、一歩踏み出す──27位様が喧嘩を売ったのは、俺だ。


 その喧嘩を買うのは、俺じゃないといけない。


「さっきの言葉」


 立ち去ろうとする27位様の肩を強めに掴み、足を止めさせる。

 肩越しに向けられる迷惑そうな視線。


「取り消してくれます?」


 それに対し、ヘルメットの内から笑みで返す。


「事実を言ったまでだが?」


 初めから交渉の余地はない。

 知ってたとも。

 なら、俺は──


「その喧嘩、買った」


 この瞬間だけチャンピオンの前で切った啖呵を覆す。


「…なに?」


 怪訝な表情を浮かべる27位様。

 その前で親指を立て、アリーナの大型スクリーンを指す。


「相手をしてやるって言ったんだ、三流」


 粗製かどうか教えてやろうじゃないか。

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