1-3
熱が出たのは一日だけで、それ以降は相変わらずの怠さが残るのみとなった。
けれど、その怠さもモニカがヴィムがくれた鳥人族の食に関する資料を基に栄養たっぷりの食事を用意してくれたおかげで、日ごとに改善しつつあった。
クラリスは、夕食後、ピアノの練習に励んでいた。
すっかり動かなくなっていた指も少しずつだが勘を取り戻し始めていて、だんだんと滑らかにメロディーを奏でられるようになった。
たくさんの楽譜は、母が教えてくれたものもあれば、初めて見るものもあって、譜読みをしているだけでも楽しめた。事実、熱が下がっても二日はベッドから出してもらえなかったので、アランに持って来てもらった楽譜がクラリスの暇を楽しい時間に変えてくれた。
ロナルドは、クラリスが熱を出した日に入った討伐に出かけて、早いもので五日が経つが、なかなかに厄介な魔獣で討伐にてこずり、途中、コーディがシュティーを連れに来たほどだ。シュティーは駄々をこねたが、クラリスがお願いすると快く出かけてくれた。
シュティーはとても強い魔物らしいので、きっとロナルドの役に立ってくれているだろう。帰ってきたら目一杯、褒めてあげないといけない。
「ちゅん?」
ピアノの鍵盤の端で寝ていたシエルが起きて窓辺に飛ぶ。クラリスも聞こえて来た音に立ち上がり、窓辺に駆け寄った。
暗くてよく見えないが、アランの持つランタンが庭先を優しく照らす。
門のところに停められた馬車から降りてきたのは、ロナルドとコーディだった。
鍵を開けて窓を開け放つ。
「ロナルド様!」
「クラリス!」
こちらに気づいたロナルドが駆け寄って来たかと思えば、魔法で一気にこちらにやって来た。
「きゃっ!」
大きな体を受けときれずによろけるが、ロナルドにひょいと抱き上げられる。クラリスはそのままロナルドの首に腕を回して抱き着いた。
「おかえりなさいませ、ロナルド様」
「ただいま。クラリス、シエル」
「ちゅんちゅん!」
腕の力が緩んで顔を向ければ、自然と唇が重なる。唇が離れてもこつんと額をくっつけたままロナルドが口を開いた。
「体調はどうだ?」
「だるさが残っていますが、大分、元気になって来ました。ヴィム先生とモニカさんが、色々と調べてくれて、栄養満点のごはんを作ってくれたんです。それを食べると、元気がわいてくるんですよ」
「モニカはすごいな」
「はい」
クラリスはにこにこしながら頷き、またロナルドにぎゅうっと抱き着く。五日ぶりの恋人の帰還に顔のにこにこが止まらない。シエルもちゅんちゅんと囀りながら、ロナルドの頭の上にいる。
「にゃん!」
元気な鳴き声とともにシュティーが飛び込んできて、後ろ足で立ち上がりクラリスの頬に鼻先をくっつけてくる。前に舐めたら、クラリスの皮膚が真っ赤になってしまったのを覚えていて、べろべろはしてこないのだ。猫の舌があんなにざらざらしているのを、クラリスはあの時初めて知った。
「おかえりなさい、シュティー。きっととっても活躍したのでしょう?」
ロナルドが下ろしてくれたので、シュティーを受け止める。シュティーはゴロゴロ言いながら、クラリスに頭を擦り付けて来る。するとロナルドが「俺のだからな!」と言いながら後ろから抱き締めて来る。前と後ろで挟まれて、少々苦しいがどちらも可愛いので困ってしまう。
「ちゅんちゅん!!」
シエルまでクラリスの頭上で参戦し始めて、なかなか賑やかだ。
「ふふっ、ロナルド様もシュティーもシエルもクラリスが大好きで仕方がないですね」
「ちゃんと玄関から入りなさい!」
賑やかな声に振り返れば、モニカとアラン、そして、コーディがやって来た。ぷんぷん怒っているアランは、ワゴンを押していて、紅茶の良い香りがする。
音楽室にはソファセットがあるので、クラリスはロナルドと並んで座り、向かいの席にモニカとアランが座り、一人掛けの丸いソファにコーディが腰を落ち着けた。
「そういえば、コーディ様は今日、どうして……」
モニカが不思議そうに首を傾げた。
「ええと、師団長直々にお願いされまして、とある件を皆様にお伝えしなければならないんです」
「「「とある件……?」」」
クラリスとアラン、モニカの声が被った。
するとロナルドがいきなり立ち上がり、無言でクラリスの前に膝をつくとそのままクラリスの膝に顔を埋めて、さらに腰を抱き寄せて動かなくなった。
「ロ、ロナルド様?」
「こら、ロナルド様! うちのクラリスに何をするんですか!」
ぷんぷん怒りながらアランがロナルドのジャケットを引っ張って引っぺがそうとするが、ロナルドはびくともしなかった。
「コーディ様、どういうことでしょう……?」
モニカが戸惑いながら首を傾げる。
「実は……クラリスさんが熱で倒れた日に、フェアクロフ侯爵夫人が騎士団にいらっしゃいまして……」
「イライザ奥様が!?」
なんとかロナルドを引っぺがそうとしていたアランがその手を止める。
クラリスも実家で貴族名鑑を覚えさせられたので、フェアクロフ侯爵夫妻――ロナルドの両親――の名前だけは知っていた。
「ご存知かと思いますが、ロナルド様が師団長という立場になってからというもの、公爵夫人はこれまで一切、息子を無視していたのに、結婚の話を持ち込むようになりました。とはいえ、先日まで師団長は持病のせいで、直接会えないことは有名でしたので、手紙という形でしたが、どうやら侯爵夫人の耳にも師団長が人と会えるまでに回復した話が入ったようで……」
「それでイライザ様のことですから、意気揚々と会いに来たのでしょう」
「第三者としてお二人の会話を見ている限りだと、侯爵夫人は息子との感動の再会を想定していたようですね……」
コーディが苦笑交じりに告げた。モニカとアランは呆れたように溜息を零す。
クラリスは、膝の上でぴくりとも動かない恋人に視線を落とす。穏やかなロナルドが、母親に対してはあまり良い感情を持っていないのは、誰が見ても明らかだ。
魔力を恐れ、病気を恐れ、乳母に押し付け、モニカに押し付け、興味の一つも示さなかったのに、どうして今更その息子が母として慕ってくれると思えるのだろうか。
世間知らずだと自覚のあるクラリスにだって、ロナルドが話してくれた過去と苦悩から、母への感情は想像できるというのに。
「それで、イライザ様はなんと?」
「侯爵夫人はあの日、二週間後の午後二時から、ロナルド様にお茶会に出席するように命じたんです。年頃のご令嬢を集めた、お見合い茶会ですけど……」
アランとモニカが息を呑む音がクラリスの耳にも届いた。
コーディが気づかわしげにロナルドを見て、その視線はクラリスへと向けられた。逃げるように目を伏せる。ロナルドの肩に添えていた手に自然と力がこもった。
クラリスはロナルドを愛しているし、ロナルドもクラリスを愛してくれている。
彼の手を取る決意をして、隣にあることを許される恋人になった。だが、その先を望むだけの勇気と覚悟をクラリスはまだ持てないでいた。彼との永遠を望んでいるのは間違いないのに。
俯いていた先でロナルドが顔を上げた。紫色の瞳が丸くなり、そして、クラリスにしがみついていた大きな手がクラリスの頬へと移動する。
「駆け落ちだ」
「……はい?」
クラリスはロナルドの紡いだ言葉の意味が分からず聞き返す。
「駆け落ちしよう」
「師団長??」
コーディも意味が分からなかったようだ。良かった、クラリスだけじゃなかった。
「君にそんな顔をさせるなんて、俺はダメな男だ。大丈夫、金はあるからどこででも生きて行けるし、俺の剣の腕と魔法の腕があれば冒険者稼業で十分に食べていける。モニカとアランも連れて行くから、暖かい地方がいいな」
「ロ、ロナルド様?」
「駆け落ちだ。駆け落ちしかない!」
「あらあら」
「落ち着きなさいませ、ロナルド様」
アランがロナルドの肩をそっと叩く。
「そう言うのは人目がない時間にしないといけません!」
さすがは侯爵家で家令まで務めた人だ、冷静に諭してくれるのだろうと抱いた期待は瞬く間に去っていく。
「それにいくらかの現金も手元に多めに用意しておかないと小切手は足が付きますから。あと馬車もこの際、長距離移動をするならモニカとクラリスのために空間拡張魔法付きの快適性能抜群なものを買い直しませんと」
「あなたも落ち着いてちょうだいな」
モニカが呆れたように溜息を零した。
「ロナルド様、そのご様子だと出席の返事をなさったのでしょう? 最初から相手にする気がないのなら断るべきだったのでは?」
「俺だって断りたかったが……」
モニカの問いかけにロナルドが言葉を濁した。
何か断れない理由があったのだろうと推測できるが、ロナルドの母のことをあまり知らないクラリスには分からない。
だが、アランは何かを察したようで顔色を悪くする。
「……脅されましたか? きっと標的は私ではなく、モニカ、でしょう」
アランの言葉にクラリスは息を呑む。モニカが「わたし?」と自分を指さした。
ロナルドは、重々しく頷き、口を開く。
「クラリス……俺の血縁上の母は傲慢な貴族だ」
ロナルドが目を伏せる。
「あの人は、アランの名前は覚えていた。アランは我が家の親戚筋で男爵家の出身で、自分と同じ貴族だから。でも、商家の娘であったモニカのことは洗濯メイドと言った。名前さえ覚えていないんだ。だってあの人にとって、平民というのは自分と同じ『人間』ではないからな」
母親のことを教えてくれるその声にはやるせなさが色濃く浮かんでいた。
「自分が捨てた息子を、生後半年から今の今まで世話してくれている人間の名前すら、平民というだけで覚えていない。だが、息子がその平民を大事にしているのは分かっているから、俺が茶会に行かないと言うなら平気でモニカに危害を加えるだろう。だって、あの人にとって平民は同じ『人間』ではないから」
ロナルドは、それが逃げられぬ事実であるというように、まるで自分に言い聞かせるかのように同じ言葉を繰り返した。
「そんな……」
「俺が母に君のことを隠し通す最大の理由はこれだ。確かに君は伯爵家の出身だけれど、そのことは君の平穏のために隠すべきだ。敵は母だけじゃない……だから母は君を平民だと考えるだろう。そうすれば、何をしてくるか分かったものじゃない」
ちらりとアランを見れば、アランは深く頷いた。アランはロナルドが師団長となり、ここへ引っ越してくるまでフェアクロフ侯爵家で侯爵夫妻に仕えていたのだから、夫妻の人となりを病気でほとんど会うことのなかったロナルドより、分かっているはずだ。
「フェアクロフ侯爵家の中で、イライザ様は少々異質でございます。先代様も手を焼いておられましたが、どうしてかあのような性格にお育ちに……」
はぁ、とアランがついに耐え切れず、溜息を零した。
「イライザ様は、確かに高貴な生まれでございます。ですが、侯爵家という身分はイライザ様が築いたものではなく、ご先祖様が築き、努力をし、領民の皆が支えてくれたおかげで、成り立っているのです。先代様も先々代様もそれこそ妹のフィリス様もそれを彼女に伝え続けたのですが、ついぞ理解は得られませんでした。自分はお姫様、優遇されて当たり前、豪華な生活も当然のこと、と言った有様で……自分の思い通りにならないと手が付けられなくなる始末で……思い出すだけでいまだに頭が痛くなります」
はぁぁぁ、と先ほどより、重い溜息をアランがこぼす。
アランが若かりし頃から本当に手を焼いていたのだろうというのが伝わって来る。
「クラリス、俺は……実の母親と、正直縁を切りたいと思っている類いの人間だ。君のようにお母上を大事にするという気持ちが、持てないでいる」
それはまるで懺悔のようだった。
優しい彼は、実の母親に優しくできない自分に罪悪感を抱いているのかもしれない。
どんなに酷いことをされても、酷いことを言われても、母親は母親だ。クラリスでは想像しきることのできない複雑な感情がロナルドの中にあるのだろう。
切りたいと思っても、切ったと思っても、切れないのが血縁だ。
「そんなことはありません」
クラリスは、ロナルドの頬をそっと両手で包み込んだ。
いまだに素肌に直接触れると彼の体はわずかに強張る。誰かを傷つけてしまうことを何より恐れる優しい人。それがクラリスの愛する人なのだ。
「私が母を大切に想えるのは、母が私を愛して、慈しんで、大切にしてくれたからです」
だから「いらない」と言われたことは悲しかった。今も尚、苦しい。でも、それでもやはり母を好きだとクラリスは二人で過ごした日々を思い出すたびに、自分の心を知るのだ。
「ロナルド様を大切にしてくれたのは、慈しんでくれたのは、愛してくれたのは誰ですか?」
「モニカとアランだ」
ロナルドは迷うことなく答えた。
「ふふっ、ならお二人をこれまで通り、大切にしたら良いのではないでしょうか。血がつながっていても親と思えないのは、私も分かります。母のことは愛しているけれど、父のことは……恐ろしいだけですもの」
十年、その姿を見ていなくても、未だに恐怖が残っている。
ロナルドが慰めるようにそっと頬を撫でてくれる。
「今、何を大切にできるか、したいかというのは、きっとこれまでの人生で積み重ねられたものによって答えが出てくるのかもしれません。だから侯爵夫人へのロナルド様のお気持ちも、それはロナルド様と侯爵夫人がお互いに積み重ねてきたものの結果だと思うのです。決してどちらか一方ではないのです」
「確かに……その通りだ。あの人と俺の間で積み重なって来たのは、お互いへの無関心や嫌悪ばかりだ。それはうず高く積み上げられて、お互いの姿も、顔も見えていない。でもあの人はだからこそ、俺の感情何て関係ないんだろうな」
「自分にとって都合の良いことしか見えない人もいますから」
クラリスは、ロナルドの頬に掛かる黒髪をそっと耳に掛けた。
「……ありがとう、クラリス」
何に対してのお礼なのか分からず首を傾げるが、ロナルドは再びクラリスに抱き着いてしまい、顔が見えなくなってしまった。
「頭では……分かっているんだ。モニカや君を守るためには、今回だけは母に大人しく従うべきだと……。そのあとは、レイフに介入してもらい母を黙らせるつもりだ」
レイフは王太子の名だ。クラリスは初対面で失神するという失態を犯してしまったので、実際に会うことは叶わなかったが、それを許してくれる心の広い御方で、ロナルドにとっては、ヴィムと同じく学院時代からの親友だと聞いている。
「母にも釘を刺してはあるんだ。出席するのは今回のみ。王太子殿下に俺の婚姻関係については相談してあると言ってある。まあ、相談したのは母が来てからだが、母がそんなことを知る由はないからな」
ロナルドがクラリスの膝に顔を薄めたまま説明してくれる。
「殿下からは、協力するという返事をいただいております。殿下は声が大きすぎる以外は、非常に聡明で頼りになる方ですからご安心ください」
コーディが力強く告げる。
「それに殿下も侯爵夫人には、少々お怒りなのです。友人想いの方ですし、事情も知っていますから、あまりに身勝手ではないか、と」
確かに話でしか聞いていないとはいえ、クラリスとてロナルドの母に対しては、身勝手すぎると感じているのだ。少年時代を共に過ごした仲であれば、ロナルドの苦しみや寂しさを身近で見てきたのだから、より一層、そのように感じるのかもしれない。
「では、ロナルド様、その一回をなんとか乗り越えなさいませ」
アランが言った。
だがロナルドは返事をしない。クラリスの腰に回した腕にぎゅうと力がこもる。
「行きたくない……!! 俺にはクラリスがいるのに、どうして興味もない令嬢たちのところに行かなければいけないんだ!! いやだ!!」
「まあ、駄々をこねる姿も立派になって」
モニカが嫌味でも冗談でもなく、嬉しそうに拍手をしている。きっと、普段、我がままを言わないロナルドが駄々をこねているのを見ることができて嬉しいのだろう。
「そもそも、だ。魔力というのは感情に左右されやすいんだぞ……! 俺に限らずな!」
「そうなのですか?」
首を傾げたクラリスにコーディが応えてくれる。
「まあ、そうですね。僕ら貴族は魔力量が平均より多いんです。例えば強い悲しみ、怒り、苦しみを感じたり、酷い怪我などを負っていたりすると、案外、魔力が乱れるんですよ。といっても僕らは、精々、窓ガラスが割れたり、本棚が倒れたりするくらいですけど」
それはそれで大変ではないだろうか。
「とはいえ、そんなものは本人と周囲に防護魔法でもかけておけばいいのですが、師団長は魔力の性質が特殊ですからね」
「その通りだ。極力自制はしているが、完ぺきであるかどうかなど俺にさえ分からんのに……」
ロナルドは自分の魔力が誰かを傷つけることを一番、恐れている。もし、その茶会の会場でロナルドの魔力に異変が起これば、なんの対抗策も持っていないだろうご令嬢たちが傷つくことになる。
しかも相手は全員、貴族のご令嬢だ。ご令嬢たちに傷などつけようものなら、かなりの慰謝料を請求されることになるのは、想像に容易い。
「一応、ヴィム先生には同行して頂くんですよ……侯爵家にも許可は取ってあります。ヴィム先生なら、避難の時間くらいは稼げますから」
「それに加えて、クラリスの魔力を込めた魔石も携帯して行けばよいのでは?」
アランが言った。
「魔石は直接、肌に触れていたほうが調子がいいが、ずっと握っているわけにもいかないだろう?」
「あら、だったら、アクセサリーを仕立てたらよろしいじゃないですか。ペンダントなんていかがですか? 少しチェーンを長めにすれば、服で隠れますもの」
「それだ!」
ロナルドがようやく顔を上げた。
「ペンダント、良い案だ。自分では身に付けないので全く思いつかなかった」
「でしたら善は急げで、明日、お出かけになられては? 明日の予定は討伐がどうなるかわからず、特に急ぎのものは入れておりませんので」
コーディが手帳を開きながら言った。
「だが、俺はアクセサリーを扱っている店を良く知らないんだが……」
「私の知り合いをご紹介します。お店というよりは工房ですが、そのほうが融通が利きますから」
「茶会まで時間がないが、間に合うだろうか」
「あまり凝った意匠でなければ、おそらくは大丈夫でしょう」
せっかく帰って来てくれたロナルドだが、明日はまた出かけてしまうらしい。だが、ロナルドにとって必要なことなので、しょうがない。
「ロナルド様、今夜はおうちで過ごされますか?」
寂しさを隠しきれずに、ロナルドの服をそっと掴んだ。
「……もし、クラリスの体調に問題がなければ、明日は一緒に行かないか? 色々と君に選んでもらえたら嬉しい」
「行きます! 元気です!」
クラリスは、こくこくと頷いた。
「あらあら」
モニカがくすくすと笑う横で、アランが「本当に大丈夫なんですか!?」と心配してくれている。
「ロナルド様が一緒だから、大丈夫です」
何があってもロナルドが一緒なら心配するようなことは一つもない。
「じゃあ、クラリス、寝る前に明日のお出かけの仕度をしましょうか? どのワンピースがいいかしらねぇ」
モニカがよいしょと立ち上がった。準備とは、いくら時間があってもいいものなのだ。
「明日の服、選んできますね」
「ああ。俺はアランに工房の場所を聞いておく」
「はい」
クラリスは頷いて、モニカの後を追う。
「夏だから、薄手の素材のものがいいわねぇ」
「大分、暑くなりましたものね。モニカさん、あの、髪の毛も綺麗にしてくれますか?」
「もちろん。うんと可愛くしましょうね」
振り返ったモニカがにっこり微笑んで、クラリスも「はい」と笑顔で頷いたのだった。




