「なんて素敵な人だろう」
その日、町の名士に紹介された相手を見て、僕の心臓は早鐘をうった。
見合いが主なこの時代に、まさかの見合い相手として、とても素敵な、綺麗なお嬢さんと出会えるなんて。
給仕さんがお茶を出してくれたが、喉を通らなかった。自分の親が何を話していたかも、覚えていない。
勿論、見合いは受けた。
結婚式当日。
僕はもう、幸せの絶頂だ。
花嫁姿のあの人は、さぞ素晴らしいだろう。
これからは僕の奥さんだ。いよいよ対面する。
「あれ?」
そこにいたのは、花嫁の姉。だが、こちらが花嫁姿だ。
あちらには例の綺麗な花嫁が、なぜか振り袖姿で座っている。
目の前にいる花嫁姿の女性が、言う。
「相手は私ですよ?」
「お見合いのとき、いた?」
「いましたよ。お茶いれたでしょ?」
ああ、と僕は思った。
「いやあ、あまりにもあっちの娘が綺麗で、他の人は目に入らなかった!」
悪びれなく笑う僕に、本当の花嫁は呆れていたが、僕は最後にこう付け足した。
「まあ、誰でもいいんだけどな!」
フォローになっただろうか?
まあ、幸せだったからなんでもいいんだけどな。
実話です。
昭和10年前後かな、と思われます。
だんなのおじいちゃんのお話。
これを話してくれたのはだんな母なのですが、自分の姑、舅の悪口を一切言わない人なのです。時代もあるけど、戦中に頑張っていた祖父母大好きなだんな(天然)のルーツを感じられたお話。




