表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
75/77

最終章  1-2

「あの日。

 ここに利沙がいたんですね? 


 こんなに桜は咲いていなかっただろうなあ。

 見たかったんだろうに」



「桜、ですか?」



「ええ、利沙は桜が好きでした。

 よく言ってたなあ。


 桜は、咲いている時には、希望を感じさせてくれるし、

 散ってからも、行く先をピンクの絨毯で、エールを送ってくれるって、


 だから、好きなんだって」



「希望と、エールですか?」



「そうなんです。

 ずっと応援してくれるって、そう思ってたんでしょう」



「今は、何をしてるのか。どこにいるのか。

 それも調べようがありません。もう、何もないので……」



「仕方ないです。利沙らしい。

 でも、戸籍上はともかく、私には妹がいる。


 この世界中のどこかに、必ず。

 それは確かな事実です。杉原さん」





「利沙が預けられていた施設に、俊一(しゅんいち)という男の子がいて、

 その子に随分優しく接していたらしいです。


 確か、あなたが駿一(しゅんいち)さんですよね? 


 もしかしたら、ダブらせていたのかもしれませんね? 

 お兄ちゃん子だったと伺ったような?」



「そうですね。利沙とは良く遊んでいました。

 利沙も慕ってくれていたし、それがかわいくて。


 母親の目を盗んで、本当に良く遊んでいた。



 でも、補導されてからは、なかなかそうもいかなくて。


 もしあの時、もっと利沙といられたら、もっと話を聞いてやれたのに、

 そうしたら、ここまでは、なっていなかったかも……」



「そんなに、ご自分を責めないで下さい。

 そういうの、利沙は望んでいないでしょうから。



 それに、利沙は元気でいてくれてると、思います。

 利沙はしぶといですから、


 ……あっ、私が言えることではないですね?」




「ええ、元気にしています。利沙は」 




 杉原でも駿一でもない声がした。


 いきなりの声に後ろを振り向くと、そこに女性が一人立っていた。

 ちょうど公園の入り口を背にして。



「……あの、どちら様ですか? 

 それに利沙っておっしゃいました?」



 戸惑いながら口を開いたのは、駿一だった。

 いぶかしげに。



「突然すみません。

 私は相田香波と言います。


 少し前からお二人のお話聞かせていただいてました。

 失礼を承知で」



「えっ、君は?」



「私は、利沙とは高校からの友人です。


 そして、たぶん利沙と会った最後の日本人だと思います」




 明らかな動揺を隠しもしないで、駿一は応じた。



「ど、どういう意味ですか? 

 利沙に会ったと?」



「はい、私はつい最近までIIMCにいました。

 本当は口外してはいけないのですが、やっぱりお伝えしたくて」



「えっ? IIMCって……」



「IIMC。ご存じですよね? 

 そちらの方、警察の関係者ですか?」



「ええ。でもIIMCって、君が?」



 杉原も動揺が隠せない。



 なんだか女性の雰囲気がそうさせる。


 隙がないのだ。


 香波は一時期とはいえIIMCに所属していた。

 それがIIMC独特の雰囲気を纏わりつかせていたらしい。



「はい、そこで利沙に会いました。

 いえ、利沙に会いたくて、私がIIMCに入ったんです」



「利沙がIIMCにいると知っていたんですか?」




「ええ。話は長くなります。座りませんか?」


 そう言うと、公園の一角にある東屋(あずまや)に場所を移した。



 そこに移って、香波はいきさつを簡単に二人に聞かせた。




 利沙戸の大学で再開したこと。

 IIMCに入って利沙に再会出来たことを。


 それでも、IIMCでの利沙の待遇などについては一切話さなかった。

 二人には訊かれたが、そこは答えなかった。



 利沙の名誉を守りたかったのもあるが、IIMCについては口外禁止だ。


 たとえIIMCを離れたとはいえ、やはり口にできない。

 そんな気がしている。



「……それで、利沙が元気だと?」



 今まで黙って話を聞いていた杉原が、声を出した。



「はい、そう思います」


「そうか……」



 そのまま、黙りこんだ。




「利沙が生きてるなら、それで……いい」



 いきなりそう言って、静まり返った雰囲気を脱したのは、駿一だった。

 

 明るく、テンション高く。無理にでもその重い空気を押し出すように。



 その声で、その場は一転。三人に笑顔が戻り、そこに香波が、




「ここは、利沙の好きな公園ですか? 

 こんなに花が咲き溢れてる」



 香波は公園を見渡しながら嬉しそうに話すと、



「そうです、きっと。

 ただ、利沙はここまで花が咲いているのは見てないと思います」



「……そうなんですか。

 でも、ここはいいですね。


 見晴らしも、素敵」



 東屋を出て、高台になった公園からの景色を眺めていた。




「でも、どうしてこの公園を?」


「利沙に聞いたんです。

 IIMCで初めて利沙に会った時。


 そこには殺風景な中庭があったんですが、そこで話してて、


 日本には花が溢れる公園があるから、もし(日本に)帰ったら行ってみるといいって。


 だから、是非来てみたくて」



「そうだったんですか。利沙から……」




 なんだか温かい雰囲気が流れているように、その場が明るく照らされていた。




「花が好きだった利沙だったから。


 特にこの溢れそうな桜を見せたかったんでしょうね」



 香波の言葉に、駿一は頷きながら、



「きっと、そうでしょう。


 でも、……利沙の周りに、桜はあるかな? 


 ……利沙の好きな花達が、利沙を応援してくれてると、いいんですが……」



 男二人と香波たちは、利沙の話をし、沈黙が時間を奏でている。





 その周りには、桜のカーテンがハラハラと舞っていた。


 もうすぐ、桜の季節が終わるであろう。そんな束の間。



 高台に吹き抜ける風が、一度は土に触れた花びらをも舞い上げている。





 ここは「ツツジ公園」 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ