最終章 ツツジ公園 1 リサ - 1
久しぶりの更新です。やっとここに投稿できるまでになりました。
春。
新しい可能性の時。
新しい風が、気持ちいい季節を運んできた。
あちこちで芽吹く命。
桜の花が今を盛りに咲き乱れ、溢れんばかりの季節の到来。
旅立ちの時。
不安の中、新しい第一歩を踏みしめる時。
一年中で、一番、楽しみも不安も、全て含んでいる時。
それが、春。 かもしれない。
はじまりの時。
1 リサ
「ここは?」
「ここは、十年前の場所です」
男性が二人。
スーツを着こなして、静かにたたずむ姿は、この場所には不釣り合いだった。
だから余計に目立っている。
ここは、日本のある街の高台にある公園の一角。
ここからは、街が一望できた。
この公園に、所狭しと植えられた桜の花が、満開の時を迎えていた。
今は、お昼過ぎ、気持ちのいい時間。
みんなが花見を楽しんでいる。
その一角に、この二人は立っていた。
その二人は、楽しんでいるというより、ただ、その光景を見ているようだった。
ここは、利沙が公安の捜査員に連れて行かれた。
あの公園だった。
そこに、若々しい声が聞こえてきた。
「わあ、ここきれい。
最近ここに来てなかったのよね。小さい頃は良く見に来てたのに」
「俺は通学路だし、毎日通るよ。
それに、ここの桜、毎年増えてるような気がするよ。
……桜って、今だけなのに、すっげ~存在感あるのな?」
「だって、可愛いもん。
薄いピンクが、かわいいじゃない?」
そう言ってふり向いた少女に、向き合っていた少年は顔を赤らめた。
まるで、
「君の方がかわいいよ」
そうとでも言っているように。
この二人。
中学生だろう。
この近くに学校があるので、帰りの途中に寄ったのだろうか。
今日は始業式が行われていたようだから。
「待てよ、理佐。待てって……」
「どうしたの?
早く行こう、部活遅れるよ。健太?」
理佐と呼ばれた少女が、呼びかけたまま、その場に立ち尽くした健太に駆け寄った。
「うん。今、思い出したんだ。
もうずいぶん前になるな。
まだ幼稚園の頃、ここで、お姉ちゃんにあったんだ。
確か、リサって言ってた。
……今、理佐を呼んで思い出した。
今みたいに、後ろから見てたんだ。
その人を」
「どんな人だったの。
きれいな人?」
「どうだったかなあ?
そこは良く覚えてないんだけど、すごく優しかった。
それは覚えてる。
でも、もっとすごかったのは、警察官に捕まってた。
手錠かけられてたんだ。その人」
「手錠?
それって、悪い人。
……でも、優しいって、どういう?」
健太は、もう十年も前の出来事を、少しずつ思い出しながら、話して聞かせた。
公園で祖父と遊んでいたら、転がったボールを拾ってくれた人がいて、
祖父が財布を取りに帰る間、ずっと傍にいてくれた。
一緒に街を見下ろすベンチに座っていた。
すると、いつの間にか警察官に囲まれていたのに、その人は、堂々としていた。
それで、手錠をかけられて、連れて行かれた。
「……ちょうど、この小さい階段で躓いたのかな?
ここで俺と目が合ったんだ。
そしたら、こんな風に言ってた。
「大好きな人の手は、絶対離しちゃだめだ。
離したら、会えなくなるかもしれないから、
つないだ手を離すな」って。
それを、思い出した」
健太は、少し遠い目をしていた。
「ふ~ん。ここで、そんなことあったんだ。
知らなかった。
聞いたことなかったもん。
その頃、私もこの近くに住んでたのに」
「小さかったから。
それに、警察沙汰って、子どもに教えないんじゃないか?」
「そうか、そうだね。
……それより、早く行こっ!」
そう言って、ふり向いて行こうとする理佐の手を、
健太は掴んだ。
「なに? 健太」
「なあ、理佐。俺思ったんだ」
「何を?」
「ここで、思い出したってことは、今がその時なのかなって」
「何が? 健太、よく分からないよ?」
「俺、理佐が好きなんだ。ずっと前から。
だから、……これからも、一緒にいてほしい」
健太は、真面目な顔をして、理佐にこう告げた。
言われた理佐は、顔を赤く染めた。
「な、何を言うの?
いきなりなんだから、健太ッたら……もう」
「ご、ごめん。
でも、本当にそう思ってるから、それだけ言いたくて。本当にごめん」
「いいよ。健太の気持ち、ちゃんと分かったから。もういいよ。
私、健太好きよ。
だけど、今は、それでいいよね?」
「うん。それでいい。理佐、ありがとう」
「うん。それより、行こう。もう部活始まっちゃうよ」
「ああ、行こう!」
ここに、可愛らしい恋が始まる予感を覚えた。
そんな、二人の初々しい姿を、ほほえましく見ている二人の男達がいた。
さっきの男達だ。
「りさ、ですか?」
「あの男の子の言っていたリサって、利沙でしょう」
「え?
どういう意味ですか。杉原さん?」
杉原と呼ばれた男は、もう一人の男に向かい合った。
「友延さん。
利沙は、当時少年を人質に取ったと言われていましたが、
結局、偶然居合わせただけでした。
人質にしたわけではなかった。
その少年が、確か健太君、五歳。
たぶんさっきの子でしょう。
そして、彼にあんな言葉を残していた。
好きな人の手を離すな、と」
「……利沙は、ここで、何をしていたんでしょうか?
そんな言葉を少年に言う前に、家に帰ってきたら良かったのに
……そうしたら、僕が利沙の手を離さなかった。
離すもんか、絶対!
なんで、帰って来なかったんだ? そうすれば……」
「それは、出来なかったのでしょう?
でも、利沙は、自分でここに来た。
捜査員の手を掻い潜ってまで。
それほど、ここに来たがったのには、理由があります」
「理由、ですか?」
不思議そうに聞く友延に、杉原は、
「ここから、見えるんですよ。友延家が。
ちょうど右手辺りに。
……あれ、ですよね?」
杉原が、ある一角を指差して告げると、友延も、そっちの方を見た。
「ええ。見えますね。でも、……あんなに小さい」
「そうなんです。
でも、利沙は、どうしてもここから見ておきたかった。
一度捕まったら、どうなるか知っていたから。
だから、どうしても、見ておきたかったのでしょう」
「……これだけしか見えないのに、たったこれだけのために……」
友延は、熱いものが込み上げてきたらしい、言葉が詰まった。
「友延さん。
利沙は、最後まで、気にしていたんでしょう。
だから、ここに来て様子を感じようとしたのではないですか?」
読んで下さってありがとうございます。
最終章になります。
もうしばらくお付き合い下さい。よろしくお願いします。




