第二章 6
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リンに一人近づいてきた、コルテラだった。
「ワーティさん。良いですか?」
「ああ、何? 何か用ですか?」
「あの、氷、使ってもいいですか?」
「氷? 氷って、何に使うのですか?」
ワーティは、休憩時間でもないのに、コーヒーです。
なんて言うとは思わなかったが、ただ、何に使うのか、予想もつかなかった。
「いえ、ただ、リンに使いたくて。
それと、ナイロン袋とタオルも一緒に貸してください」
「リンに?
分かった。でも、ナイロン袋?」
「はい、ちょっといいですか?
たぶん俺が思うには、……リン、ちょっと見せてみろ」
そう言って、リンの袖をまくった。
すると、そこには火傷の傷があった。
新しいものではないが、十分に痛そうだった。
「リン! どうして?」
動揺するワーティに、コルテラがいつもは見せないまじめな顔で、
「心配いりません。すぐに良くなりますよ。そんなに深いわけじゃないから。
……リン、ちょっと待ってろ、すぐ冷やしてやるよ」
そう言って冷蔵庫に向かっていき、しばらくしてナイロン袋に入った三つの氷を持ってきた。
それを丁寧にタオルに包むと、リンの火傷のある右手首と、両足首に当てた。
「これで、少しはましだろ?」
その様子をワーティは静かに見ていた。
そして、こう言った。
「どうして、分かった?
しかも足までとは……」
「なんで?
そんなのハッカーだからですよ。スタッフには、想像すらできないでしょう?
リンがこの一ヶ月何をされていたのかは」
「コルテラには分かるのか?」
「……まあ、ね。それなりの経験は積んでいますよ。
それなりに、……ですけど」
「そうか?
まあいい。……ありがとう、作業に戻ってくれ」
「はい。……分かりました。後は、……お願いします」
コルテラは、すっと自分の席に戻っていった。
「コルテラ。あんなことしなくてもいいんじゃない?
自業自得でしょう。リンは……」
席に戻った途端、サーシャが声をかけた。
「うるさいな。
あれが、何か知ってて言ってるんなら、俺は許さない。
あんな思いは、……考えただけでも恐ろしい。
それともお前は、そんな思いしなかったのか?」
「……そういう訳じゃ、でも、あの火傷、どうしたの?」
「は? 何? お前……分からないって?
……へえ、幸せだよ。あはは……。知らないんだ?
へえ、知らない奴がいたのか。知らなかったなあ、そんな奴いるんだ。……」
コルテラはずっと笑いをこらえながら話している。
そこへ、
「コルテラ、作業しろと言ったはずだ!」
「すみません」
そう言うと、手元の作業にかかった。
でも、必死で笑いをこらえているのは、明らかだった。
「何よ。教えてくれてもいいじゃない。
それにコルテラも経験済みたいだし。なんなのよ」
コルテラは、何とか笑いをこらえると、
「何って、取り調べどうだったんだ?
何か機械とか使われなかったのかよ?」
「機械って、それなら部屋の隅にあったのは見たわ。それが、何?」
「……何、ね?
う~ん……、取り調べ、すごく順調に過ぎた?
何も抵抗せず、なんでも、答えまくった、って?」
「なんか、その言い方すごく軽いし。
しかも、嫌味っぽく聞こえるんですけど……」
「嫌味っぽくではなくて、そのまま、嫌味です。
でも、……幸せだな?
あれを経験しないって。でも……、全部、素直に話したのか?
自分の、その、……」
「話したわよ。なんか、その。
……機械なんて嫌だったし、それに、どっちにしても話さなきゃならないなら、
嫌な思いしたくなかったもの」
「まあ、そうなんだけど……、だったら教えてやるよ。
あれは、電気ショックみたいなもんだ。
手と足に電極付けて、あいつら(捜査官)が言うには微量の電気を流すんだよ。
ちょっとくらいなら、我慢できた。
でも、回数が増してくると、電極部分に火傷が出来る。
それより、そうなった時には、もうすでにかなりの体力はなくなってる」
そう言いながら、その時の傷だよ。
と、コルテラは自分の手首をサーシャに向けた。
「どうして分かったの?
リンがそれを、……されたって?」
「分かるさ。あの疲れ様。
それに、……リンって一回も腕を人前にさらさなかっただろ?
それどころか、暑くても袖をまくらなかったし、もしかしたらって思ってた。
だから、今回も。
……だって、取り調べで使われたなら、今回だって使うだろうって、ちょっと想像してみたんだよ。
ただ、それが当たってたってわけだ」
一気に話すと、背後に何か重たい空気を感じた。
さっきから視線を感じる。
それも非常に冷たい。
きっとワーティのものだ。
後ろを向いて確認する気も起らない。
「これ以上話してると、また何言われるか。
……今は作業しよう」
二人は、リンを気にしながら作業を続けるしかなった。
IIMCのハッカーに対する態度は、もうご理解いただいていると思いますが、これからも、こんな感じです。
よろしくお願いします。




