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第二章  7

              6


 翌日、サーシャが作業のためチームにあてがわれた部屋に行くと、

 もうリンは部屋に来ていた。


「おはよう」

 サーシャが言うと、


 リンも普通に、昨日もその前もここにいた。みたいに、

「おはよう」

 と、返した。


 まるで、何もなかったかのように。


 サーシャにはちょっと抵抗があったが、スタッフも次々に入って来たため、

 無駄話ならぬ、様子うかがいが出来なかった。


「よ、おはよう。なんか機嫌悪くない? サーシャ」

「悪いわよ。それがどうかした?」


 なんとなく、荒々しい雰囲気を醸し出しているサーシャに、

「どうしたんだ? 

 それも朝から、もう、何かあったのか?」


 コルテラが、恐る恐る尋ねると、

「何もないわ! 何もないから怒ってるの!」


「ど、どうしたんだ? 俺、何かした?」


「コルテラじゃないわよ。リンよ! 

 折角心配してあげてたのに、何もないの。何か一言ありそうじゃない? 

 昨日は仕方ないにしても、今日くらい「ご心配おかけしました」の一言でも。

 なのに「おはよう」だけって。それって変じゃない?」


 最後は、拳を握って、コルテラに向かって勢いよく話していた。


「わ、わかった。言いたいことは分かった。

 ちょっと……落ち着こう。サーシャ」


 サーシャに握られた資料の用紙は、もう原型をとどめないほどグシャグシャになっていた。

 

 その日、リンはそれまで通り、淡々と作業を進め、

 休み時間になると一人で食事をしていた。


 そこに、コルテラが話しかけているのが、サーシャの視界に入った。


「もう、なんでなのよ!」


 その声にびっくりしたのは、一緒にお昼を過ごしていたロリアンだった。


「ど、どうしたんだよ、いきなり!」

 それに答えず、サーシャはロリアンの腕を掴んだ。


「なんなんだよ、今度は」

 それには、訳も分からず戸惑うロリアンがいた。


「あるんだ……」

 サーシャに掴まれた腕を引き戻し、ロリアンは続けた。


「なんなんだよ、いきなり人の手引っ張って。

 それにいきなり怒っても、俺何もしてないぜ。

 それに、……何があったんだ? 


 俺の手に何かついてたか?」


 ロリアンは、自分の手に一通り何も付いていないのを確かめてから、

 不審な顔をサーシャに向けると、サーシャは真剣に、でも焦点の合わない目で、


「付いてるのね。みんなあるのかなあ?」

 と、ボーっと呟いた。


「おいっ! サーシャ! 

 俺の声聞こえてるか?」


 サーシャの顔の前で手をヒラヒラさせてみると、サーシャの焦点があった。


「何、してるの。ロリアン?」


「……何してるの? じゃない。

 そのまま返す。その言葉。サーシャこそなんなんだよ」


 ちょっとばかり興奮気味にサーシャに迫ると、


「何よ。何かあった?」


「……だ・か・ら。……聞いてるのは、オ・レ! 

 さっきから、なんだ? 

 いきなり手は引っ張る。機嫌が悪い。何があったんだよ!」


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