第二章 7
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翌日、サーシャが作業のためチームにあてがわれた部屋に行くと、
もうリンは部屋に来ていた。
「おはよう」
サーシャが言うと、
リンも普通に、昨日もその前もここにいた。みたいに、
「おはよう」
と、返した。
まるで、何もなかったかのように。
サーシャにはちょっと抵抗があったが、スタッフも次々に入って来たため、
無駄話ならぬ、様子うかがいが出来なかった。
「よ、おはよう。なんか機嫌悪くない? サーシャ」
「悪いわよ。それがどうかした?」
なんとなく、荒々しい雰囲気を醸し出しているサーシャに、
「どうしたんだ?
それも朝から、もう、何かあったのか?」
コルテラが、恐る恐る尋ねると、
「何もないわ! 何もないから怒ってるの!」
「ど、どうしたんだ? 俺、何かした?」
「コルテラじゃないわよ。リンよ!
折角心配してあげてたのに、何もないの。何か一言ありそうじゃない?
昨日は仕方ないにしても、今日くらい「ご心配おかけしました」の一言でも。
なのに「おはよう」だけって。それって変じゃない?」
最後は、拳を握って、コルテラに向かって勢いよく話していた。
「わ、わかった。言いたいことは分かった。
ちょっと……落ち着こう。サーシャ」
サーシャに握られた資料の用紙は、もう原型をとどめないほどグシャグシャになっていた。
その日、リンはそれまで通り、淡々と作業を進め、
休み時間になると一人で食事をしていた。
そこに、コルテラが話しかけているのが、サーシャの視界に入った。
「もう、なんでなのよ!」
その声にびっくりしたのは、一緒にお昼を過ごしていたロリアンだった。
「ど、どうしたんだよ、いきなり!」
それに答えず、サーシャはロリアンの腕を掴んだ。
「なんなんだよ、今度は」
それには、訳も分からず戸惑うロリアンがいた。
「あるんだ……」
サーシャに掴まれた腕を引き戻し、ロリアンは続けた。
「なんなんだよ、いきなり人の手引っ張って。
それにいきなり怒っても、俺何もしてないぜ。
それに、……何があったんだ?
俺の手に何かついてたか?」
ロリアンは、自分の手に一通り何も付いていないのを確かめてから、
不審な顔をサーシャに向けると、サーシャは真剣に、でも焦点の合わない目で、
「付いてるのね。みんなあるのかなあ?」
と、ボーっと呟いた。
「おいっ! サーシャ!
俺の声聞こえてるか?」
サーシャの顔の前で手をヒラヒラさせてみると、サーシャの焦点があった。
「何、してるの。ロリアン?」
「……何してるの? じゃない。
そのまま返す。その言葉。サーシャこそなんなんだよ」
ちょっとばかり興奮気味にサーシャに迫ると、
「何よ。何かあった?」
「……だ・か・ら。……聞いてるのは、オ・レ!
さっきから、なんだ?
いきなり手は引っ張る。機嫌が悪い。何があったんだよ!」




