第二章 5
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香波が、無理に仕事に戻された後、リンは捜査官二人に連行されて行った。
それは、他のハッカーが見届ける事態になり、一体何が起こったのかと、話題になった。
しかし、その後はリンの姿を見られなかった。
チームリーダーには伝えられていたが、その他の誰も、
リンのその後について知らされていなかった。
それが、一ヶ月くらいたった頃、
いきなりチームが作業しているその部屋に、捜査官に連行されてきた。
もうすっかり、暑い陽射しが窓辺を照らしていた。
ラベンダー畑にかわいい紫の花の香りが充満していそうな、そんな季節だった。
捜査官がリンを連れてきたのは、午後。
ちょうどお昼の休憩を終えて、午後の作業を始めた頃だった。
「リン! だ、大丈夫か?」
抱えられて部屋に入って来たリンは、捜査官に乱暴に置いて行かれた。
「もう、手を煩わせるな。
……ワーティさん、これまで以上に、監視をよろしく」
それだけ言うと、捜査官は部屋を後にした。
残されたリンは、部屋の床に体を預けていた。
顔色は、ひどく悪い。
「リン、大丈夫か。少し休もう。いいか?」
「…………」
ワーティはリンの体を、部屋の隅にあるソファーに移した。
「リン、今日は休んでいなさい。
構わないから、何も……気にしなくていいから」
ワーティは、リンに優しく話しかけ、水を一杯飲ませた。
「ありがとうございます。でも、……いいんですか?」
「構わない。気にしなくていい。とにかく今は体を戻す方が先だよ」
ワーティは、男性のわりに気が利く。
周りとの調整も上手い。
どんなに厄介事でも、問題なく解決してしまう。
その手際は、どんな人も納得させてしまう。
どこがすごいって、誰にも文句を言わせるような隙がない。
また、仕事に於いても抜かりない。
ドジな所は、会議の時間を間違えたり、書類を忘れるといったくらいで、それも容認されてしまう。
それ程、優しい人柄が認められていた。
リーダーに抜擢されたのは、人を育てるのが非常に上手い。
そのためだった。
そんなワーティのチームに、リンが合流したのは三か月前。
それからは、特に問題を起こさず、チームの一員として暗号解読などの作業に従事していた。
ただ、以前のようにチームの人間と特に親しくしようとか、
そんなことは一切なく、ただ、与えられたものだけを、淡々と行うだけだった。
スタッフのみならず、同じハッカーでさえ、
あいさつと作業内容に関する以外は、話さなかった。
ワーティは、リンを以前から知っていた。
同じ立場のフランから。
フランは、リンの以前のチームリーダーだった。
そのフランから、リンについて詳しく聞いていた。
性格は秘めた感じだが、これと思ったら、決して引かない。
技術レベルは誰よりも高く、困った時は、必ず力になってくれると。
ただし、敵を作りやすいが、味方につければこんなに頼りになる者はいないだろうと。
様々聞いていたが、問題を起こす可能性があるとするなら、
真っ先にリンだろうということさえも、教えられていた。
最初に会った時の印象は、大人しそう。
だが、リンの実力を見せつけられるたびに、
「こいつは、やっかいだ」
と。
何よりリンの技術力は、ここにいる誰よりも上をいっていた。
懸念材料にはもってこいだ。
そんなリンが捜査官に連行されたと聞いた時、何があったのか分からなかった。
立ち入り禁止区域への侵入と英語以外の言語の使用。
が、理由だと聞いた時には、納得がいかなった。
なぜなら、ここに来て何年にもなるリンが、
そんな基本的な罪を犯すはずがないと考えたからだ。
ここに来て間がないなら分かるが、そうではない。
今頃「つい、うっかり」なんてあるはずもなく、
事を構えようとしているとしか思えない。
だとしたら、この上ない問題であるが、
今回の場合同行していた人物がいて、それも新人とはいえスタッフだった。
そのため、一ヶ月のペナルティだけですんだ。
しかし、それがリンの場合はただで済むはずもなく、一ヶ月もの間隔離されるだけではない。
それなりに制裁が科された。
今回は尋問ではなく、いうなれば罪と罰。
そんな一ヶ月。
帰って来たリンが普段通りであるはずがなく、体には相当のダメージを受けている。
だからこそ、ワーティはリンに今日は休むように言った。
帰ってきたばかりのリンには、何も出来ないだろうとの判断からだ。
今、ソファーで横になっているリンには、疲労感がにじみ出ていた。




