表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/22

第6話 【初バズ】魔獣の本音が字幕で出たら、コメント欄が壊れた

【過去:3日前】



配信を始めて三十分。

同接の数字は『89』になっていた。



たかが数十人。

人気配信者の数万人に比べればゴミみたいな数字だ。

でも、コメント欄の熱量は異常だった。



──────【LIVE】同接:89──────

: ガチで最下層かこれ?

: 背景の結晶、鑑定スキル持ち呼んでこい

: 合成にしては毛の質感がヤバすぎる

: ていうか、この狼デカすぎだろ。遠近法?

: 主、逃げなくていいの?

──────────────────────



半信半疑。

当然だ。人類未踏の最下層で、呑気にコーヒーを淹れている男と狼なんて、誰が信じるだろう。



俺は焚き火のそばで、グレイが淹れてくれたコーヒーを啜った。

湯気が鼻先をくすぐる。



深みのある苦味と、後味の甘さ。

完璧だ。



「……美味いな, グレイ」



俺が呟くと、画面外にいたグレイがぬっと顔を出した。

カメラの枠を埋め尽くす巨大な顔面。

銀色の毛並みが、画面越しにも伝わる解像度で迫る。



コメントが加速する。



──────【LIVE】同接:104──────

: ヒェッ

: 近い近い近いwww

: 食われる!?

: 目力が強すぎる

──────────────────────



グレイは興味深そうに、カメラのレンズを覗き込んだ。

鼻息でレンズが曇る。



そして。



俺の調整した中継器とスキルが、噛み合った。

ノイズが、すっと引く。



次の瞬間、クリアな字幕(BeastCaption)が画面に浮かんだ。



──『グレイ:……小さい』



コメントが一瞬止まり、爆発した。



──────【LIVE】同接:131──────

: !?

: 喋った!?

: いや字幕だ

: 小さいって何が?

: 俺たちが?www

: 見下されてるwww

──────────────────────



グレイはフンと鼻を鳴らし、カメラから視線を外して俺の手元のカップを見た。

空になったカップ。



──『グレイ:まだ飲むか』



──────【LIVE】同接:148──────

: え、優しい

: おかわり推奨?

: バリスタの鑑かよ

: この字幕、主が打ってるの?

: ↑タイミング完璧すぎだろ。リアルタイム翻訳か?

──────────────────────



俺は苦笑しながら答える。



「いや、もういいよ。ありがとうグレイ。それより、挨拶してくれ。お客さんだ」



俺がカメラを指差すと、グレイは面倒くさそうに片耳を倒した。

その仕草が、あまりにも人間臭い。



──『グレイ:騒がしいのは嫌いだ』



──────【LIVE】同接:162──────

: 辛辣www

: 塩対応助かる

: 嫌われたwww

: でも見る

: この狼、キャラ立ちすぎだろ

──────────────────────



その時。

足元で「きゅう」と声がした。

コハクだ。



グレイだけが注目されているのが気に入らないのか、俺の膝に乗り上げ、カメラの前に割り込んできた。



画面の下半分が、金色のふわふわで埋め尽くされる。

つぶらな瞳が、カメラをじっと見つめる。



毛が頬に触れて、さらり、と擦れる。

体温が近い。

小さな鼻息が、ふ、とレンズを曇らせた。



──『コハク:わたしも』

──『コハク:かわいい?』



──────【LIVE】同接:215──────

: ぐはっ

: かわいすぎんだろオイ!

: あざとい! だが許す!

: もふもふ天国ここかよ

: 推しが決まりました

: 【速報】同接200突破

──────────────────────



同接が『215』を超えた。

勢いは止まらない。



コメントの流速が変わったのが分かる。

誰かが誰かを呼んで、誰かが切り抜きを見て飛んできてる。



『AbyssClip』の切り抜き動画が拡散され始めたらしい。

「最下層で魔獣がコーヒー淹れてる」「字幕で本音が出る」というパワーワードが、SNSで小さな火をつけ始めていた。



俺は呆然と数字を見ていた。

怖いぐらいだ。

でも、同時に胸が熱くなる。



俺たちの居場所が、認められている。

「無能」と言われた俺と、「怪物」と恐れられる彼らが、こうして画面の向こうの誰かを笑顔にしている。



「……ふふっ」



思わず笑みが溢れた。

グレイが「何がおかしい」と言いたげに俺を見た。



──『グレイ:変な顔』



──────【LIVE】同接:232──────

: 主、いじられてるぞwww

: 仲良しかよ

: ここが楽園か

: もっと見せてくれ

: 明日もやってくれる?

──────────────────────



「ああ、やりますよ。明日も、明後日も」



俺は力強く答えた。



その時だった。



配信画面の上部に、無機質なシステム通知が割り込んだ。

コメント欄とは違う、赤色の警告枠。



====================

【システム通知:探索者協会・監査部よりメッセージが届いています】

====================



俺の心臓が、ドクリと跳ねた。



協会。

探索者を管理する、絶対的な権力。



メッセージを開く。

そこには、簡潔な事務連絡だけが記されていた。



『貴殿の配信場所および活動内容について、重大な規定違反の疑いがあります。至急、詳細を確認されたし』



……見つかった。



最下層という未踏破エリアでの無許可活動。

魔獣との接触。



そして、何より。

“存在しないはずの配信”を行っていること。



同接の数字が、急に冷たく見えた。

俺たちの楽園に、現実の足音が近づいてくる。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ