第七十九話 カイの灯名帳(一部終了時点)
――以下は、第一部の終わりの時点でカイが記している《灯名帳》から、火と技に関わるページを抜き書きしたものである。書き手はカイ本人。表記も並びも、帳面のままとする。
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一、火のこと
――火
人が死ぬ時、最後まで手放せなかったものが、その場所か、その人の持ち物へ残ったもの。青い火に見える。
――見え方
青いのに周りを照らさない。影もできない。熱くない。
――見える者
今のところ僕だけ。セラは銀の鐘の返音で位置と数を調べる。
――触れた時
その人の最後の一場面が流れ込む。生涯も名前も分からない。
――宿った時
その人が生きている時にしていたことが、技として使える。
――できないこと
話す。呼ぶ。命じる。返事は無い。
◇
二、灯皿と《一灯》
――灯皿
胸の奥にある暗い塔の真ん中に一つだけある。宿した火は壁に並ぶ。
――制限
一度に使えるのは、灯皿に乗った一つだけ。
――選び直し
一晩眠ると、次に使う火を選び直せる。
――乗っていない火
呼んでも返事をしない。
――名前の由来
父の使う灯守の言い方から取った。能力の正式な名ではない。
◇
三、《継火》
――中身
今灯している火の役目が終わった瞬間だけ、次の火へ渡せる。
――役目の終わり
盾や道の役目が終わる時は、僕には決められない。守る相手が残っていれば盾は消えず、道は三歩を踏み終えるまで続く。
――間合い
役目が終わる前に次を呼んでも、終わってから間を置いても、渡らない。
――続けて呼んだ時
働きが弱くなる。盾は面が薄くなり、青火は届く深さが浅くなり、道は左足が痛んで重くなる。
――戻し方
別の火へ一度渡して、その火の役目が終わってから戻せば、元の強さに戻る。
――名前の由来
入れ替えているのではなく、渡している。動かしているのは僕ではない。
◇
四、火の育ち方
――一
火が胸へ宿る。
――二
宿った時点で技が使える。その人のことを調べていなくてもよい。
――三
火解き。その人が最後まで気にしていたことへ、答えを返す。調べて確かめた時に起きる。
――四
覚醒。火解きが成ると、同じ火のままできることが増える。別の火にはならない。
――条件
火解きが覚醒の条件。三つとも、答えを返したその場で形が変わった。ほかに条件があるかは、まだ分からない。
――代償
覚醒しても、技を使った時の負担や制限がすべて消えるわけではない。
◇
五、宿している火(宿した順)
※
斥候の火 《三歩の道》→《連れ道》
――由来
谷を避けて山を越える脇道を見つけ、その地図を運ぶ途中で倒れた人。古戦場で宿した。
――できること
足元に、崩れない三歩が青い足跡で見える。足場と危ない物だけを示す。三つ目を踏むと消える。
――見える者
覚醒する前は僕だけ。仲間には見えなかった。
――代償
続けて呼ぶと左足に痛みが出る。泥の冷たさと、泥を掴んだ感触も来る。呼び続ければ、あとで足の力が抜ける。
――火解き
道は届いていた。脇道を通って山を越えた人がいる。母親は自分の墓の隣に、息子のための石を頼んでいた。
――覚醒後
そばにいる人の足元にも、その人に見える三歩が出る。セラが出口へ向かった時は、出口の方へ出た。ほかの場合はまだ試していない。
――覚醒後(二)
足跡を渡した相手が、見ていなくてもどこにいて、どちらへ行こうとしているかが分かる。
――分からないこと
怪我。見ている物。倒れたかどうかは、動きが止まったことでしか分からない。
――まだ分からないこと
何人まで渡せるか。試したのはセラ一人。
※
門番の火 《退かぬ盾》→《十返し(とおがえし)》
――由来
避難する人の最後尾で、十を数える間だけ門を支えた人。村の鐘楼の門石から宿した。
――できること
正面に青い盾が出る。十を数えるあいだ、格上の一撃も崩落も止まる。
――代償
出しているあいだ、足が地面へ縫い留められて動けない。守れるのは正面だけ。
――十の扱い
上限であって義務ではない。守る相手について役目が終われば、線が残っていても消える。守る相手が残っていれば、消したくても消せずに十で砕ける。
――火解き
門番が守った先に、生きていた人がいた。町の記録で確かめた。
――覚醒後
十のあいだに正面から受けた衝撃を盾へ蓄え、最後に一度だけ前へ返せる。
――返した時
肩へ来ない。
――返さなかった時
今までどおり肩へ重さが残る。多く受けているほど重い。
――返せない場面
前に仲間や逃げる人がいる時。崩れやすい足場や、壊してはいけない物がある時。
※
槍兵の火 《青火纏い(あおびまとい)》→《青火結び(あおびむすび)》
――由来
武器が折れるたびに、倒れた兵の物を拾って戦い続けた人。町の外壁跡の折れた穂先から宿した。
――できること
刃に青い火がまとわり、灰の中で止まっていた刃が核まで届く。威力が足されるのではなく、届くようになる。
――持続
四十を数えるあいだ。
――代償
同じ日に続けて呼ぶと火が細り、届く深さが浅くなる。一日に呼べる数にも限りがある。
――火解き
あの人は一人で戦っていたのではなかった。報せを運ぶ人が、倒れた兵の武器を拾って運んでいた。
――青の濃さ
自分の刃一本に集める時は、最初から濃い。仲間へ渡した直後の青は細い。谷では五つの青を重ね、核へ届かせた。
――覚醒後
自分の刃から、触れた仲間の刃へ青を渡せる。渡す本数に決まりは無い。谷では自分の手を離しても仲間の刃に青が残った。
――二つの使い方
自分の刃一本に青を集める時が《青火纏い》。仲間の刃へも渡す時が《青火結び》。
――核へ届くと
仲間の刃が核へ届くたび、四十が延びる。細り始めた青も太さを取り戻し、割り続けた仲間の刃は、渡した時より濃くなる。
――自分の青
核を割った後は、すぐに盾へ渡した。僕の青がどう変わるかは、まだ確かめていない。
――まだ分からないこと
仲間が刃を手放した時や、僕から遠くへ離れた時、青がどうなるか。
◇
六、《零れ火》
――中身
触れてから送った火の中に、技ではなく体へ残るもの。
――一つ目
力。石臼を一人で担いでいたホルクさんの火から。担いで支える時、大人が二人で運ぶ荷を一人で背負える。
――二つ目
持久。一日に四度同じ道を往復したレフさんの火から。坂を走り続けても、いつもの息苦しさが来ない。
――三つ目
身の軽さ。門付きの使者の火から。走って届ける時、踏み込みが速くなる。受けた直後、セラの前へ盾を届けに跳んだ時は、間に合わないと思った所まで体が運ばれた。
――条件
送る前に僕が触れていること。その火がそのまま送られること。どちらか欠けると来ない。
――出方
その人がしていたのと同じことをする時に、いちばん強く出る。違う使い方では体が合わない。ずっと出ているのではなく、僕が呼ぶものでもない。
――馴染み
稽古を重ねて、自分の体にも残るか確かめる。袋の数と坂の往復を、ここへ書き足していく。
――気をつけること
一度触れた火は、送られるまで僕とつながっている。送れば、その人のしていたことが何でも入ってくる。誰の火か分からないものには触らない。
――性質
灯皿を使わない。代償が無い。消えない。外から見て分かる人はいないと思う。
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七、送火のこと
――送れる者
セラ。銀の鐘を鳴らして、残った火を静める。僕は場所を指すだけで、送る力は無い。
――鐘の別の使い方
残火の位置と数を調べる。僕の胸の火にも返事がある。
――《響きの輪》
短槍を土へ刺し、石突きに巻いた銀へ魔力を通す。音は鳴らず、震えだけが土を走って、広い範囲の灰を一度に浮かせる。
――銀のこと
銀は魔力を通す。町の壁へ引く銀墨と同じ理屈だとセラは言う。
――銀の限界
灰をはがす響きまで。送ることは鐘でなければできない。
――輪の後
鐘より魔力を食う。手が痺れて、しばらく続けられない。
◇
八、決まりのこと
――冠灯院の決まり
持ち主の分かる火は、送らずに置く。
――理由
決まりの紙でも、理由の欄は空いているらしい。
――破った日
谷。負ければ、あの火は墓喰らいの手へ渡るところだった。
――守った日
村の墓地。許しをもらってから送ると決め、願いはセラが自分の名前で出した。
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九、まだ分からないこと
――一
なぜ僕にだけ火が見えるのか。なぜ宿るのか。
――二
斥候の名前。母親は最後まで言えなかった。
――三
母親が息子の名前を言えなかった理由。軍の決まりが関わったのか。
――四
院が「持ち主の分かる火は残せ」と決めた理由。
――五
石列の内側に立つ三本の杭を打った者。
――六
セラの師が、今どこにいるのか。
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――抜き書きはここまで。先のページには、歩いた道や出会った人の名前、日付の控えが続いている。




