74・根源の大樹とツミキの心
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その昔、錬金術師が莠コ蟾・逕溷多菴薙�繝�繝ウ繧ッ繝ォ繧ケ繧堤函謌舌☆繧�と言う禁断の魔道具を開発したせいで、彼らは百年弱の迫害に晒された。
しかし、錬金術師への迫害は突然始まったわけではない。
何か時代を変えるような魔道具を開発するたび、彼等はいつも国に捕らえられ、女神プルートの権威を揺るがす悪魔だと不当に裁かれてきたのだ。
そして、その処刑方法は『決闘裁判』と言うものであった。
なんでも、女神プルートの名の元に行われるこの裁判は、原告と被告が殺し合って勝った方が女神に選ばれし正しい人となるらしい。
その結果、原告の王国騎士が勝つ事もあれば、魔法攻撃を極めた錬金術師が勝つ事もあったという。
決闘とは話を持ちかけられた相手が好きに武器を決めて良い。だから、錬金術師は一番得意な魔法を選んだのだ。
私も魔法科学者である以上、女神プルートの権威を揺るがし決闘裁判に出廷を命じられる可能性はある。
ならば、雷魔法を応用した電磁波で、何か身を護る術を思い付かなければ。
文責、ドクトル・繝輔ぃ繧ヲ繧ケ繝�
◇◇◇
「モクレン様、レンゲ様! サラサ先輩! 今朝の新聞をご覧ください!! 私達がとんでもなくべた褒めされております!!」
ついにレンゲ様が雷魔法を制御した、その翌日。
私は朝刊を手に、食堂へ走った。
まだ地下の自室で寝ているレンゲ様を引きずりながら食卓に着くと、既にお目覚めのモクレン様とサラサ様に見せるよう新聞を広げる。
すると、モクレン様が
「おお〜! 『死神令嬢ツミキと社交の鬼才モクレンと天才魔法科学者レンゲとハイエルフの歌姫サラサの四名が、魔獣問題を次々解決! 特に、四名が開発した魔法兵器マグノリア・サイクロンは各地でも大活躍! それに伴い、モクレンを次期教皇王に推す声も多々あり⋯⋯』だって! すごいじゃん!!」
と笑顔で手の平を私とサラサ先輩へ差し出す。
私は嬉しい状態になりながらモクレン様とハイタッチをし、サラサ先輩も笑顔で続いた。
一方、レンゲ様はまだ眠っておられるので、取り敢えず放置だ。
「それに、レンゲ様がカルミア様のキュアピュアヒールを丸パクリしたことで雷魔法の制御も可能となりました。そして、レンゲ様がその技術をマグノリア騎士団だけでなく、各地の騎士団にも共有したため、雷だけでなく炎や水魔法を操る方々の技術向上に繋がったでしょう」
私の言葉に、モクレン様が
「そだね。魔法兵器マグノリア・サイクロンも量産したのを各地へばら撒いたし、レンゲくんのお蔭で魔法の精度も上がったわけで。⋯⋯だから、あの機械魔獣以外はもう俺達の脅威じゃないってことだ」
と晴れやかな顔で紅茶を飲んだ。
サラサ先輩も紅茶とビスケットを食べながら
「まさか人の子がここまでやるとはのう⋯⋯。新時代の魔獣に、人の子の魔法科学が勝ったか⋯⋯」
と、うんうん頷きながら威厳たっぷりに言う。
そんなサラサ先輩の向かいに座り、私は紅茶を飲みながら新聞記事を指で撫でた。
「私の名が新聞に載り、称賛される未来が来るなんて。⋯⋯生きていると、色んなことがあるのですね」
「そうだよツミキちゃん。元々、君はずっと魔獣からこの国を護るために闘い続けてきたんだ。⋯⋯もっと称賛されるべき人なんだよ、君は」
モクレン様がそう言って優しく微笑む。
称賛されるべき人と言われてもピンと来ないが、モクレン様が微笑んでいると私も嬉しい状態になった。
すると、さっきまで床転んで寝ていたレンゲ様がゆらりと起き上がる。
「ごめん、おはよ。⋯⋯まあでも、油断は禁物だと思われ? ボクが解読してるドクトルさんの日記でも、時代を変える魔道具を開発した錬金術師が決闘裁判に引っ張り出されて処されたー⋯⋯みたいなことがあったわけだし」
レンゲ様は欠伸をしながら私の隣に座ると、ドクトル殿の寝盗られ日記から解読した内容を聞かせてくれた。
「禁断の魔道具に、決闘裁判⋯⋯ですか。そんな無茶苦茶な事が行われていたなんて」
私の言葉に、サラサ先輩が
「殺し合いで正義を決める裁判か⋯⋯そんならツミキは最強じゃの」
と歯を見せて笑う。
「それにしても、人の子は同胞を救いたいのか殺したいのか分からんのう」
ハイエルフらしい達観したことを言うサラサ先輩に、レンゲ様が「だよねー」と紅茶を飲んでから続いた。
「だから、ドクトルさんも雷魔法の電磁波を応用した何かで身を守らなきゃ⋯⋯って考えてたみたい。いやー昔の人は大変だ」
レンゲ様の言葉に、私達三人はそれぞれ相槌をうちながら紅茶を飲んだ。
◇◇◇
夜。
私は入浴を終え、片手持ち温風魔道具――ドライヤーで髪を乾かした後、食堂へ向かった。
もしかしたらモクレン様がいるかもしれない。
モクレン様がいたら、雑談がしたい。
ようやく体調が復活したモクレン様と、雑談が出来るなら。
そう思って彼の姿を探すと、モクレン様は先程晩御飯で食べたシチューの残りを小鍋に移している最中だった。
「モクレン様。私にも何か、手伝えることはありますか?」
「ああ、ツミキちゃん。ありがとね。⋯⋯そうだなあ。そんじゃ、かまどに火ィ焚いてお湯沸かしてくれる? ⋯⋯紅茶でも飲もうか」
モクレン様はいたずらっぽく笑うと
「雑談しに来たんでしょ?」
と私の考えを見抜いていた。
「さすがですモクレン様。⋯⋯あの、せっかくなので⋯⋯」
晩御飯のシチュー美味しさを思い出しながら聞いてみると、モクレン様は
「やっぱり? 良いよ良いよ。食べちゃおっか」
と笑ってくれた。
◇◇◇
「牛乳の甘みとバターのコクと塩気が蕩け合うシチューは身体に染みます⋯⋯! そこに加わるトウモロコシのつぶつぶした食感が楽しいですね! そしてシチューが絡んだ人参やじゃが芋の旨味を味わいながら、歯ごたえのある鶏肉を味わうこの贅沢⋯⋯やはり、モクレン様がお作りになるシチューは天上の極みと言えるでしょう!」
「ありがとねえツミキちゃ〜ん! なんか、初めて一緒に飯食った時を思い出すね」
モクレン様と向かい合うよう食卓の席に着き、二人きりで食事をすると、確かに最初の頃を思い出す。
私はあの時初めて美味しいと言う感覚を知ったのだ。
「モクレン様がお作りになったシチューは、私にとって衝撃でした。それまで、食事とは飢え死しないための生命維持活動でしかありませんでしたが、モクレン様の料理のお蔭で食事が楽しい事に変わったのです」
「だよね。食事ってのは楽しくないと!」
モクレン様は楽しそうに笑って、自身の皿から鶏肉を取り出し
「ほらほら、お食べ」
と、鶏肉を私の皿に分けてくれる。
確か、最初にシチューを食べた夜も、彼は同じことをしてくれた。
私も何か返せないかと考え、じゃがいもをお分けした。
すると何だか、心が暖かくなり嬉しい状態になる。
分け合うと嬉しくなるとは、初めて知った。
「それにしても。ツミキちゃんは最初の頃と比べて、随分変わったね。勿論、良い方向に」
「ありがとうございます。⋯⋯私は、モクレン様と出会って『楽しい』と『嬉しい』を覚え、『怒り』を学びました。そして、私という船を操作する自我――船長もここ最近活躍の場を増やすようになったのです」
「うんうん。喜怒哀楽のうち三つを覚えて、自我も発達する。それでこそ、人ってもんよ」
「人⋯⋯ですか。確かに、私は人ですね」
モクレン様はずっと、私に『君は人だ。ものじゃない』と言い続けて来た。
最初の頃は意味が分からなかったが、今になってようやく理解する。
「私は、モクレン様からたくさんのことを学び、人としての自覚を持ちました。⋯⋯ユーフォルビア一族である前に、私は人である。⋯⋯そして、貴方と同じ」
「そうだね。俺とツミキちゃんは、同じ人だ」
モクレン様はそう答えて笑う。
「同じ人だからこそ、ユーフォルビア一族ってことに縛られる必要は無いんだよ」
「一族に、縛られる⋯⋯ですか?」
「⋯⋯うん。まあ、まだ機械魔獣の対策は済んでないから君無しだと詰みなんだけど、でも」
シチューを食べ終えて紅茶を飲むモクレン様は、優しい眼差しを私に向ける。
「いずれ俺が⋯⋯ツミキちゃんだけにこの国の歪みを押し付ける理不尽な歴史を終わらせてみせるから。⋯⋯だから、その日が来るまで、もう少し待っててくれるかな」
モクレン様はつまり、自分が教皇王になって全ての問題を解決すると仰っているのだろう。
モクレン様が教皇王になったら、私との婚姻関係はどうなるのだろうか?
いくら全てが解決した後といえ、大罪人の子孫であるユーフォルビア一族が教皇王妃と言うのは考えられない。
だが、それでも。
例えモクレン様との婚姻関係が終わっても、護衛として傍に居られたら、それはとても嬉しいことだ。
私の中で目覚めた自我は、どうしてもモクレン様の隣りにいたいと叫び続けている。
ここまで何かを強く望んだことは、今まで無かった。
「モクレン様。⋯⋯やはり私は⋯⋯貴方を肯定的に判断しております。⋯⋯好いていると言えるでしょう。⋯⋯それに、えっと」
「⋯⋯ツミキちゃん」
モクレン様は真剣な顔で私の言葉の続きを待ってくれる。
だが、自我の叫びを言葉に置き換えると、どうしても『肯定的に判断している』『好いている』としか言い表せない。
これは、語彙の問題では無いだろう。
⋯⋯やはり、心の有無が問題だ。
私に、心があれば。
「⋯⋯根源の大樹には、私の――いえ、私達ユーフォルビア一族の心があるのでしょうか? かつて、狂戦士ユーフォルビアが穢れた心を捧げたせいで大樹が枯れたと言うなら、その中には⋯⋯私達の心があるのかもしれません」
「根源の大樹⋯⋯か。⋯⋯そだね。俺達に残された最後の課題が『根源の大樹を復活する』ことだし⋯⋯。根源の大樹を調べてみたら、もしかしたら⋯⋯ツミキちゃんに、心が戻るのかな」
モクレン様は、少し黙ってから真剣な顔をして、私をじっと見つめた。
夜明けを告げる空を映したような紫の瞳が、私を捉えている。
「もし、さ。ツミキちゃんに心が戻って、そんで、色んな経験をしてさ、⋯⋯それでも俺を肯定的に判断してくれるなら、俺も⋯⋯君に伝えたいことがある」
「? それは、今では駄目なのですか?」
「うん。まだ駄目。⋯⋯俺は高嶺の花の美青年だらかね〜♡ ⋯⋯安いことはしない主義なの。だから」
おどけたように笑ったあと、モクレン様は真摯な表情を浮かべた。
「根源の大樹問題を解決して、君の心を一緒に取り戻そう」
◇◇◇
「ロスベール公爵。このままでは貴方様の支持が低下し、あの白い悪魔に教皇王の座を奪われてしまいます。でも、今国民に大人気の七号さえ取り戻せば、全て元通りになるでしょう」
私――ロスベールに、ポーラリス公爵家と親しい貴族達がそう言って毎日押し寄せる。
今夜も、公爵家の屋敷に集団でやって来ては、
「白い悪魔をその神剣で打ち倒してください」
と懇願して来――――
「白い悪魔を、神剣で打ち倒す? ⋯⋯そうか。そうだった。最初から、そうすれば良かったのだ」
何故、今まで気が付かなかったのだろう。
愚弟は今まで詐欺師的才能で私を出し抜いて来た。
だが、愚弟が私に絶対勝てないことが、一つだけあるじゃないか。
「奴は、私より弱い。弱い雄は強い雄に雌を奪われる。それが自然の摂理」
そして、国民から人気を集める七号を取り戻し、私は再び勝ち組に戻る。
⋯⋯そうなったら母上もきっと、喜んでお戻りになるだろう。




